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8話 騎士様と僕と本の魔物と……なんか色々?




「ここ……ガンズなのか?」


 ゼミスに連れられてきたのは、城塞都市ガンズの門前。だが、僕が知っているよりもなぜか綺麗だ。


「開けてくれるかい」


 ゼミスが声をかけると、巨大な鉄の門がスッと開かれる。

 門を潜り、中央の通りを真っ直ぐ進んで広場を右に。僕の頭の上を、火の精霊がクルクルと回る。


「回るの好きなの?」

『すきぃー。クルクルー』

「おっし。僕も回ってみよう!」


 くるくるくるーと進みながら回ると、火の精霊も一緒になってくるくると回る。


「『クルクルー』」

「楽しそうだな」

「クルク……っとと。誰もいないガンズを歩いて、見た事のなかった精霊と遊ぶのは、夢の世界みたいで楽しいですね」

「そうか」


 リーゼさんもどこか楽しそうに、おそらくその隣にいるのであろう精霊と話し始めた。


「ゼミス。人間って言ってたけど、どこにいるんだ?」

「ギルドさ。多分今はまだ寝てるよ」

「もうそろそろお昼なんだけど?」

「ここにいる間は咎めてくる人もいないからね。長くいるとそんな感じになるんだ」

「へー」


 どんな奴なんだ?まぁここにいるってことは、少なくとも五陣を使えて、尚且つ精霊にも好かれてるってことだから、


「きっと良い人だよね」




 と、思っていた頃もありました。どうもグロースです。

 本来なら、ギルド役員が集まって会議をしているであろう、大きな会議室の長机に、ローブを脱ぎ散らかして酒瓶と寝ているぼさぼさ髪のおっさんがいた。


「泥酔してるねー」

「僕この人見た事ある気がするんだけど」

「そりゃそうさ。この都市のギルドマスターなんだから」

「だよなぁ……って違う!!なんでギルドマスターがこんなとこで寝てんだよ!?」

「んー。現実逃避かなぁ」

「サボってるだけじゃんか!!」

「るっせぇなぁ……なんだぁ?」


 だらしがない姿で寝ているギルドマスターは、騒ぐ声に気付いたのか、むくりと起き上がる。


「ん……?あぁ、ゼミスか。そっちのは……グロースっつったか。ゼクスの小倅だなぁ?ちょっとこっちこい」

「えっなんで?!」


 手招きされたと思ったら身体が自然とギルドマスターの方へと歩き出してしまう。


「おぉ〜久しぶりに見たら、デカくなった気がすんなぁ。覚えてっかぁ?」


 強引に頭を撫でられ、酒臭さに顔をしかめるも、ギルドマスターは気にしない。


「辛うじて覚えてはいますが、ギルドマスターはどうしてこんなところに?」

「あぁ〜ん?どうしてだぁ?んなもん。めんどくせぇからだ。ガハハハッ」


 ギルドマスターは手を叩いて大笑いする。


「面倒くさいって、仕事放ったらかしで許されるんですか!?」

「ハッ。小僧がナマイキ言うんじゃねぇよ!俺が何もしてないとでも思ったかぁ!?」


 そうか。流石にギルドマスターだもんな。何か理由はあるよな。

 ギルドマスターは一瞬真面目な表情を浮かべ、次の瞬間、


「まぁ何もしてないんだがなぁ!」


 と、再び笑い始めた。ダメだこの人。早くなんとかしないと。


「んでよぉ。ゼミスが連れてきたってことはよーぉ。どっちかに素質があるって事だな」

「その通り。彼女、リーゼに精霊使いとしての素質がある。大体僕の四倍は好かれてるからね。君ってどれくらいだったんだっけ?」

「俺はお前の二倍ぐらいじゃなかったか?」

「そうだっけ。したら君の二倍は早く上達するかもね」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。よっぽどコイツらのワガママを聞いてられるようじゃなきゃ、精霊使いにゃなれんよ」

「その辺は問題なさそうなんだけどね」


 大人二人で勝手に話が進んでいく。リーゼさんは飽きたのか、風の精霊と遊んでいるようだ。


『キャッキャッ』


 火の精霊はギルドマスターの髪を引っ張って遊んでいる……あれ、今この場で僕ぼっち?


「で、どうだい?リーゼに似合いの精霊はここにいるかい?」

「ちょっと待て。嬢ちゃんこっちこい」

「あぁ」


 ギルドマスターはジィッとリーゼさんを見、次いで周りにいるであろう精霊達を見ている。というか何種類見えてるんだこの人。


「……ここにはいねぇな。なんだこの嬢ちゃん。変な感じだ。確かに精霊に好かれそうな存在感はしてるんだが」

「そっかー。残念だなぁ」

「そんなに変な感じなのか?私は」


 うぅむ。と悩むギルドマスター。


「なんつーか、空っぽというか。中身が無いのかね。見た目の割に」

「……確かに、中身はないのかもな」

「ん?なんか変な事言ったか?」


 リーゼさんはなんとなく落ち込んだように見える。


「ジグ。リーゼは記憶を無くしていてね。それを戻す為に、遺跡を周る予定なんだ。でもグロースもリーゼも持ってる技能が少ないから、何か増やせないかなと思って来たんだ」


 ちゃんと考えてくれての強行だったのかと思うと、ちょっと嬉しい。いや、強行しないでちゃんと説明して欲しかったけど。

 というかギルドマスター、ジグって名前だったっけ?


「ほーん。残念だが、俺から言えるこたぁ大してないな。ところでこいつなんで一人で嬉しそうな顔とぼけっとした顔を行き来してんだ?」

「さぁね。あ、わかった」


 なんで毎回コイツは何も言ってないのにわかるんだ?


「エッチな事考えてるなぁ?君」

「違うわ!!」


 わかってない!カケラほどもわかってないんだけどコイツ!!


「んなの気にすんなよ坊主。男なら仕方ねぇさ」

「違うから!!そんなこと考えてないから!!」

「おっまえ、こんな美人隣にいてなにも思わねぇとか、まさか……こっちか?」


 と、手の甲を頰に当て、体を捩るギルドマスター。長く伸びた前髪から覗く目がキモい。


「そんな事ありませんけど……」

「そ、そうなのか」

「あぁ違う!違いますリーゼさん!」

「違うのか。そうか」


 あれ??どっちにしてもしょんぼりするのは何故!?


「ともかく。この辺にコイツと特に合う精霊はおらんよ。さっさと帰りな」

「あー。それなんだけどさ、ジグ」

「んだよ?」

「この本をリーゼに貸し出すから、君も外に出て欲しいんだ」

「は?」


 ギルドマスターは愕然としながら、持っていた酒瓶を落とし、固まった。


「いや、だって私個人は本がなくても来れるけどさ、リーゼは本がないと来れないし、精霊と会話するのにも必要だろうから」


 ネ!!!ってすっごい笑顔で言い放つゼミス。今日一の笑顔だぞコイツ!!


「…………このまま」

「駄目だよ。君出入りは本がないとできないじゃないか。このまま残ってたら、いつ帰れるかわからないよ?」

「………………わかった」

「よろしい。それじゃ、さっと帰ろうか」

「えー?」

『えー?』

「君達も中々仲良くなったじゃないか。彼はどうだい?ジグ」

「コイツは多分、この火の精霊とは良さそうだな。このまま契約しちまえば良くね?」


 雑ッ!扱い雑ッ!でも、契約か。契約出来るのは嬉しいな。そしたら僕も精霊使いになれるし。


「あーお前、なんか期待してるみたいだが、素質はそんなにねぇから、大して変わらねえ筈だぞ?精々魔法が使いやすくなるくらいだ」

「それでも充分なくらいです。契約したらいつでも話せたりするんですよね?」

「んだな。何ならうるせぇくらいだと思うぞ」


 僕とギルドマスターの間で未だクルクルと回る火の精霊を見ると、


『グロース、好きだよー』

「あぁありがと。契約してくれるかな?」

『うん!』

「どうしたら良いんですか?」

『なまえを付けて!』


 火の精霊は小さな手を僕に向け、笑みを浮かべる。

 僕はその手を握り、悩む。


「すぐ決めろよ。ったく」

「君って性別とかあるの?」

『ないよー』

「そっか」


 じゃあその辺は悩まなくてもいいんだね。回る事好きだし……。


「ファイタンとかどう?普段はファイって呼ぶ感じで」

『ファイタン!うん。僕ファイタン!』


 火の精霊は机の上でくるりと回って、輝きながら姿を変えていく。


「え?なに?なになになに?!」

「精霊は名を貰い、契約を完了すると、契約主が最も記憶に強くある姿に変貌する。さぁ、グロースの精霊はどんな姿になる?」


 姿の変貌は緩やかに終わり、明確になる。揺れる長い尻尾にしなやかな手足。そして、背中と首の間くらいから生える小さな翼が特徴的な…………猫だ。


「……あれ?」


 姿形はあの僕を殺そうとした化け物にそっくりだが、顔は愛らしく、毛並みは炎の様に揺れ動いている。尻尾は上の方にピンと伸びたり、揺れたりしている。


「また、随分と変なのになったな」

「可愛らしいじゃないか」

「ちょっと複雑なんだけど、僕」

「私には見えないのだが、どんな感じなんだ?」


 リーゼさんに説明すると、キョトンとした顔になり、ファイがいる辺りに手を出した。


『触りたいの??』

「みたいだ」

『撫でて撫でてー!』


 リーゼさんの差し出した手に、ファイが頭をコツンとぶつけると、リーゼさんはおっかなびっくりしながら、撫で始めた。


「ふふ……暖かいな」

『もっともっとー!』

「あ、コラ、やめっ!……あはっ仕方ない奴め!」


 ファイはリーゼさんの目の前くらいに飛び、リーゼさんの頬を舐め始め、リーゼさんはリーゼさんで見えないながらもファイを撫で回す。


「…………」

「微笑ましいねぇ」

「なんだろう、早速契約者を取られてるんだけど」


 ちょっと悔しいけど、目の前の光景が絶景なので、それはそれでよし。


「では、今度こそ。帰ろうか」

「あぁ愛しの避難場所よ、サヨナラ」

「またな、お前達」

「行こうか、ファイタン」

『うん!グロース!』


 そうして僕達はそれぞれ挨拶を交わして、世界から抜けたのであった。


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