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9話 騎士様と少女 僕とギルドマスター




 本当のガンズに戻って三日後。今日は母さんからのお使いでリーゼさんと二人で市場に来ている。


「いらっしゃい!いらっしゃい!今日の野菜は、ワンドラからの直通便だよ!サクサクした食感が楽しめるサクレーもオススメさぁ!」

「ふむ。サクレーとはなんだ?グロース」

「サクレー?サクレーはね、サクサクレズンっていう木の実に擬態している植物型の魔物が落とす、木の実なんだ」

「サクサクレズン本体ではないのか」

「ですね。サクサクレズン本体は倒されるとその場で枯れてしまうらしいです。で、その枯れた亡骸を漁るとその木の実があるんです。別名、サクレズンエッグ。最初にこれを食べた人は凄いですよね」

『へー!』

「ほぉー」


 じーっとサクレーを見つめるリーゼさんとファイ。


「良かったら買っていきますか?」

「良いのか?」

『僕も食べたーい!』

「ええ。おばちゃん!サクレー三個ください!」

「あいよー!グロース坊。サクレー三個だねー。はいよ。ワンドラから来た野菜もちょっと入れとくから、皆で食べな!」

「わぁ!ありがとうございます!また来ますね!」

「感謝する。御婦人」

『ありがとー!』

「あいよ!今度は罠なんか踏まないようにね!」

「はーい!」


 おばちゃんが袋に入れてくれたのは、サクレー二つとニジンとカベツ。あとはギーネだ。ファイは待ち切れないのか、尻尾をブンブン振っている。


「ちょっと待ってろよ、ファイ」


 こんな人の多い場所でファイがサクレーを食べ始めたら、何もいない場所でサクレーだけが齧られてなくなっていく、怪奇現象と化してしまう。


「グロース坊!」


 ホクホク顔で歩いていると、細工屋さんの方から声を掛けられた。振り向くと、細工屋のおじさんが何かを持って手を振っている。


「なんだろ?リーゼさん、遅くなるといけないので、母さんの買い物先に済ませてもらえますか?」

「了解した。任せてくれ」

「ファイもリーゼさんについて行って」

『あい!』


 リーゼさんは頷いて、目的の物がある区画へ向かって行き、ファイはその頭上をグルグル飛びながら追随していく。

 そして、僕は細工屋さんの所まで行く。


「こんにちは!どうしたんですか?」


 おじさんは歩いて行ったリーゼさんの事を一瞬確認した後、小さな水晶がハマった耳輪を取り出した。


「いやな?あのグロース坊が、行方不明になったと思ったら、えらいべっぴんさんを連れてきたって話題になってよ。一昨日直に見たらほんっとに美人なもんでびっくりしてな。こうしちゃいらんねぇと思って作ったんよ」


 取り出された耳輪の水晶は、淡く綺麗な紫色をしていて、リーゼさんにとても似合いそうだった。


「くれるんですか……?」

「おうとも。嬢ちゃんさ、なんか記憶喪失らしいじゃないか。またなんかの拍子でなくなっちまったら、坊主も悲しいだろ?」

「ええ……」

「だからよ?ちょっと知り合いの付与術師達に頼んで、記憶を保存する魔法を付与してもらったんだ」

「そんな魔法、一陣や、二陣にはないはずですよ?!これ……すごく高いんじゃないですか?」

「まーな。だがよ。俺はおまいさんの親父さんに命を救われてんだ。それに比べりゃ安いもんだ。俺は終ぞ救われた命の借りを返せてねぇからよ。せめて、息子のおまいさんに何かできたらなって思ってたところにこれよ!!」


 おじさんはニカっと笑いながらその耳輪を僕に押し付けた。


「貰っといてくれ。嬢ちゃんには、自分で買ったって言って渡してやれよ」

「そ、そんな」

「用事はこんだけだ。感謝してくれるなら、またなんか買いに来てくれよ」

「……ありがとうございます!」

「おう」


 僕は店の中に戻っていくおじさんに深く頭を下げて、リーゼさんの歩いて行った方角へ進む。


「––––––––!!」


 そうしたら、遠くの方からリーゼさんの怒鳴り声が聞こえたので、人垣を掻き分けながら走っていき、見えたのは青い髪を後ろで結って、ポニーテールにしている女の子が、リーゼさんが持っていた筈の袋を持って逃げようとしている所だった。


「貴様、人の物を奪おうとするとは、何事だ!!」

『そうだそうだー!僕のサクレーを返せ〜!』


 リーゼさんが怒声をあげているのに驚いてしまったが、それは当然だし良いとして、ファイ、お前の声はその子に聞こえないだろう。


「うるせぇ!俺が持ってるんだから俺の物だァ!」

「なっ!?貴様、戯言を!!」

「ま、まぁまぁリーゼさん」


 リーゼさん結構怒りっぽいのか!?普段は冷静なのに。ともかく、彼女らの間に入って、リーゼさんを諫める。


「グロース!?何故止めるのだ。奴は私から母君から頼まれた食材を奪って行ったのだぞ!?」

「気持ちはわかるけど、落ち着いて!怒って喧嘩になったらいけないよ。君も、馬鹿な事言ってないでその荷物を返し……」


 と、言いかけた時にはずっと遠くの方に盗っ人少女の姿があった。


「嘘!?」

「待て!!」

『待てー!僕のサクレー!!』


 僕は走り出そうとしてその場でずっこけ、彼女達は目にも止まらぬ速度で追いだした。


「お、置いてかないでー!?」




 僕は置いてかれた。盗っ人少女どころか、リーゼさんもファイも見付けられず。変に地面のえぐれた裏路地に辿り着き、あ、これもう追いつけないやつだと思い、近くの段差に座り、項垂れる。


「はぁ……」

「どうしたよ坊主。フラれたのか?」

「まだ告白もした事ない……って誰!?」


 見上げた先には、ギルド役員に髪を整えられ、髭も剃られ、服装も役員然とした状態にされてしまった、冴えないおっさん。もとい、ギルドマスターのジグさんが立っていた。


「なんで!?」

「ん?あぁー。ちょっとな」


 指をコの字にして、片方の手に持っているのは酒瓶。


「またサボってるんですか?首になっちゃいますよ?」

「サボってねぇよ。休憩だ、休憩」


 ドスンっと音を立てて僕の隣にジグさんは座った。


「え、なんですか」

「別に良いだろ。前回はそんなにお前さんと話さなかったからな。ちょっと駄弁ろうかなぁってよ」

「暇つぶしなら他でやってくださいよ。僕本当はちょっと忙しいんですから」


 疲れて休んでたけど。


「つれねえな。これでもお前のいるギルドの最高責任者だぞ俺ァ」

「最高責任者がこんな路地で暇してていいんですかぁ」

「良くねぇけどな!!」


 やっぱり。


「細けぇこたぁ、気にすんな。まぁちょっとだけ真面目な話。お前、本当に遺跡を周るつもりか?」

「ええ。そのつもりですけど、いけませんか?」

「いけねぇって訳じゃねぇけどよぉ。お前、他の都市が管理してる遺跡とか行った事ねぇだろうから、しらねぇだろうけど、普通の遺跡は魔物とかバンバン出っからな?」

「普通の遺跡って。僕だって二年とちょっと、この都市の周りの遺跡は見て回ってますけど、魔物なんて全然出てこなかったですよ?こないだは襲われましたけど」


 ジグさんはせっかく整えられた髪型をぐしゃぐしゃと掻いて、嘆息する。


「あのな。この都市の周りの遺跡は俺が制御しているから、魔物がでないんだわ」

「??」

「正確に言えば、本来、遺跡の奥には魔核と呼ばれる物が存在し、そこから魔物が生み出されているわけなんだが、俺がそれを精霊に頼んで極力生まれないように制御してもらってる訳だ」

「なんでそんな事を?」

「なんでって馬鹿野郎かお前は。この都市の周りには六つの遺跡があるだろう?そこから魔物が溢れ出て来たら、この都市はどうなる?」


 そりゃあ危険だと思うけど。


「危険なんてもんじゃねぇからな。数日経たずに滅ぶだろうよ」

「そんな!ギルドのメンバーだって、衛兵だっているのに」

「そんなの、無限に溢れる魔物に勝てる訳ねぇだろ。だから、一つ一つお前の親父さんと、俺と、姐さんとで、攻略し、制御下に置いたんだ」

「で、でも。元からそんなのがあったなら、ここに都市なんて作れませんよ」

「あぁん?ちげぇよ。都市が出来た後から、遺跡が発生したんだよ」


 どういう事?遺跡って昔からあるから遺跡なんじゃないの?


「ぼけっとした顔してんなよ。察しわりぃな。別に良いけどよ。俺も見た時はびっくりしたからな」

「見た時?」

「あぁ。何もない森に突如としてボコボコっと土が盛り上がったと思ったら、瞬く間に遺跡が出来上がっていったんだ。驚愕したさ。そして、それまでに見た事のなかった魔物が溢れ出した。それを俺達は六回は繰り返し、六回とも無事に攻略したんだ。そして、遺跡を制御するという、偉大な功績を残した事から、俺はギルドマスターへと就任する事となったわけだ」


 ……。


「本当はジグさんって凄かったんですね」

「本当はってなんだてめぇ!!」

「ヒィッ!?」

「うっそだよ。んなビビるなよ」


 手をひらひら振ってジグさんは立ち上がる。


「あ、そうだ。もう一つ聞かにゃならんことがあるわ」

「なんですか?」

「お前がハマった罠のある遺跡はどこにある?」

「えーっと……偶然見付けただけなんですけど、ガンズから北西に二時間くらいかな。それくらい進んだ先にありました」

「うっし。じゃあ俺はそこ攻略してくるわ。じゃあなー」

「じゃあなって、ええっ!?」


 ジグさんはローブをはためかせ、空に浮いていく。


「あ、そういや、領主の野郎から使者が来てたから、ギルドに行ってくんね」

「先に言ってくださいよ!?」

「忘れてたわ。ま、じゃなー」


 最後まで雑なジグさんは飛び去り、再び一人になった僕はゆっくりと立ち上がり、とりあえず家に帰る事にした。





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