急転直下
指環はそのままサイズ調整されることはなく、ただただゆる過ぎるまま僕の左手の中指に収まっていた。
さて、こういうパターンは想定していなかった。僕の目論見では、僕が装着して実は機能していないけどメルガルド達はそれに気づかない、となる予定だった。
ここで向こうから「ではレミファさんかシドさんに」と言われてしまったら困る。
最悪中の最悪の場合には、柑奈さんは僕に隷属してもらおう。男として責任は取らせてもらう。
「……こちらの指環を持ち込んだ商人は、覚えてらっしゃいますか?」
「いや、まさか……。彼は先代からの出入り商人で……」
メルガルド、商人を疑いはじめたぞ。
「紛い物を掴まされた、とは思いたくはないでしょうけど……。この通りサイズもそのままですし、ステータスも変わりありませんよ」
もともとステータス上昇の効果なんぞ無いことは知ってるがな、お互い。
「いや……まさか……」
カレーラスもこの反応ってことは、二人とも精神耐性が高ければこの指環の効果が出ないことは知らなかったようだな。
「仮に阿漕な商売をしていたとしても、まさか陛下を謀るわけは無いでしょう。まして、今までの実績もお二人は信用していたのでしょう?」
「勿論だとも」
カレーラスも頷く。
「とりあえず、これはお返しします。つけてみたらわかりますけど、これは紛い物であることは間違いありません。商人も騙されていて、おそらくは紛い物だと知らなかったんでしょうね……」
僕は指環を抜き取ってメルガルドに返した。
全く疑うことなく彼はその指環を自分の左手の中指に嵌めた。
人を騙す人間って、意外と思考を誘導されやすいのかな。
今後、自分も肝に命じておかないと明日は我が身かもしれない。
指環はしっかりサイズが調整され、メルガルドの指に収まった。
「な、これは…まさか」
「どういうことか」
「あれ、僕には合わなかっただけなんですかね?まあ、陛下のステータスが上がったんなら良かったじゃないですか。残念ですけど僕たちは努力して強くなりますよ」
精一杯爽やかな笑顔で言ってやったぞ。
向こうもこれ以上何も言えないだろ。
騙してたのは向こうなんだからな。
不意に背後から笑い事が聞こえた。
「いや、最高じゃないか。自分で用意した隷属の指環で捉えられた人間がいるなんて。前代未聞の間抜けだな」
部屋のドアが開くこともなく、いきなり現れたイケメン。
長身の金髪。
身長は源太より少し低いくらいか。
体格はスリムであるものの、日々鍛えているだろうことが想像できるようなしっかりとした体つきだ。
あ、これが時空魔法か。
「いや、すまない。君たちにまず自己紹介しなくてはいけないよな。私がこの国の第二王子アントニオ・ロイ・エルカディアだ。彼らに言わせれば、魔王の側近らしいがな」
そしてその横には女性がいた。
髪は肩に掛かるか掛からないか程度の長さの黒髪。
これまた長身で顔は整っている。
「積もる話もあるんだけどさ、まずこのクズどもをとっ捕まえないとね」
鋭い目で口元だけわずかに歪める。
名乗らなくとも彼女のことはよく知っている。
並波美南。
僕の姉だ。