生徒を教材に
魔法陣の解説をメインのテーマとした講義は終わりの時間が近づいてきた。
「な、別に魔術師の見果てぬ夢なんかじゃなかったろ?」
魔法陣に書かれている事は当たり前のことだ。
魔術を構築する為に必要な事を考えていけば、必ずたどり着く。
「見果てぬ夢を見果てぬ夢にしていたのは、考えないからだよ。みんなは、ついこの間まで魔法陣を使わずに魔術を使う事は出来ないと思ってただろ?」
「はい。思ってました」
皆を代表するように、ファイヤーボール男子が言う。
「じゃ、最初に魔法陣作った人はどうやって魔術を使ったのかな、って疑問におもわなかったのかい?」
「あ」
「な、確実にその人は魔法陣無しで魔術を使えたはずなんだ。だから、魔法陣無しで魔術を使う方法は必ずあるんだと思わなきゃおかしい」
どうして気づけなかったのかと言うような悔しそうな顔をした少年。
納得の表情を見せる少女。
多分皆気づいただろう。
「色々な幅広い知識を蓄えて、色々考えて、悩んで少しずつ前進しましょう。魔術は難しくないです。でも、頭を使わないと何も出来ないのが魔術です。今日はこれで終わりです。次回からいよいよ魔力を操る練習をします」
僕は、ざっと生徒を鑑定した。
モニカ殿下ほどではないが、ファイヤーボールの男子生徒もなかなかの魔力量だ。
おそらく彼も自力では魔力循環は難しいだろう。
「ポール君、君には話がある。この後、私の研究室に来てくれ」
終業のベルが鳴った。
どうやら時間配分もうまく出来たようだ。
◇
各クラスの講師の皆には、生徒の鑑定をお願いしていた。
魔力の量が多い生徒に対しては、個別に対策をしなくてはならない。
結果、ポールを含め4人の生徒が集められた。
彼らはおそらく自力で魔力循環をさせる事は難しい。
だから講師が手助けをしないといけないが、僕以外の4人はその経験が無いのだ。
言ってみれば、これから講師の4人に講義をするのだ。
講師の4人とはその辺りのことは打ち合わせ済みだ。
だから生徒の4人に説明をする。
「次回の講義で、どのクラスも魔力の扱い方を教える事になっている。多くの生徒は実際に魔力の流れを見ながら、自力で魔力を身体に循環させる事が出来るようになる。ところが、おそらくその方法で出来ないだろうと思われる人もいる」
「それは才能の問題でしょうか?」
「いや、むしろ魔力循環を自力で出来ない方が将来性はあるくらいだ。魔力を循環させるのには体力も必要だ。魔力に比べて体力が著しく低い人、逆に言えば体力に比べて魔力が著しく高い人は、自力で魔力を循環するのは難しいのだ」
「ここに居る4人がそうと言うわけですね?」
「ポール、君は話が早くて助かるよ。で、なぜ君達が来たかと言うと、これから君達の魔力を強制的に循環させる。一度循環させてしまえば、あとは自力で循環出来るだろう」
「と、言うと今から、もう魔術を使えるようになるのですか?」
「次回の講義までは、魔術を使おうとしたらダメだよ。魔術は危険でもあるからね。既存のおもちゃみたいな魔術とは違うからね」
4人が真剣な顔で頷く。
「実はね、今からするのは君達に対する講義じゃないんだ。講師の先生方に対する講義なんだ。君達はその講義の教材だから、あまり緊張しないでね」
「でも、終わったら魔力を扱えるようになるんですね?」
「その一歩目だぞ、まだ。泳ぎを覚える事に例えたら、顔を水につけられるようになっただけだ。小さな一歩だけど、その一歩目が無ければ泳げるようにはならないだろ?」




