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ジークの左鎖骨下には白バラが咲き誇っている。
花が枯れていないということは、カヤは生きてはいる。
だが、ジークが他の女性を選び、国外追放されたことは、カヤにとっては「本当」のことであり、国王がどんなに国内外に事情を周知して捜しても、本人が名乗り出ないどころか、情報すらほとんどなく、現れるのは偽者ばかりだった。
婚姻の誓約をした者同士は、お互いの魔力が混じり合い、異変なども察知することが出来、名を呼べば居場所すら分かるという。
ジークはずっとカヤを呼んでいる。
カヤはたったの一度も、ジークを呼んだことはなかった。
そんな中一度だけ、ジークはカヤの異変を感じ取ったことがある。
カヤが行方不明になって一年も経たない頃だった。
ごっそりと生命力が抜かれるような感覚だった。
白バラは枯れてはいなかったが、ジークは生きた心地がしなかった。
今は婚姻して領地に下がっているビルケという王宮侍女がいた。
ジークと共にカヤの世話を担っていた侍女である。
ビルケには直感とも言える天恵があり、その天恵に従えば良い結果が、従わなければ悪い結果となることがあった。
カヤが行方不明となった時、国を飛び出して捜索しようとしたジークに対して、ビルケは死の宣告とも言うべき一言を放った。
「今追いかければ永遠にカヤ様を失う」
ビルケの天恵を確かなものと知るジークは、血反吐を吐く思いで踏み留まった。
この世界に寄る辺のないカヤが頼るとしたら、ビルケしかいない。
ジークはビルケに、カヤから感じた異変について心当たりがないか、藁にも縋る思いで聞きに行った。
そこで目にしたのは、膨らんだ腹を愛おしそうに撫でるビルケの姿。
そしてビルケは、カヤからの連絡は無いとジークを追い返す際、一言だけ呟いた。
「この子は同い年なの」と。
今もジークは妻を捜している。
他の女性を選び、道を違えたとして、只の一度もジークの名を呼ばない妻と、無事生まれただろう我が子を、泣き叫びながらずっと捜している。
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