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09

「苺、今日は用事があるから先に帰るわよ」

「あ、うん、気をつけてね!」

「うん、じゃあね」


 自分は自分で係の仕事がまだ残っているためちゃちゃっと終わらせないといけない。


「よし、終わりっと……って、いつの間にか雨が降ってるっ」


 窓のに張り付いてみても普通に降っている。今日は晴れていたから傘を持ってきていなかったというのに……タイミングが悪い。

 兎にも角にもまとめたものを月二先生に渡してから昇降口へ。すると先程よりも更に酷くなった雨が降る様子がよく見えた。


「どうしよ~……」

「河辺さん」

「ひゃぁ!? ……あ、あなたは……」

「傘ないの? いれてあげよっか? ほら、朝倉くん関連のことでお世話になったわけだし、そのお礼ってことでさ」

「え、本当に!? ありがとー、助かるよ凄く!」


 ――もし過去に干渉することができたのならここで絶対に自分を止めてた。


「え、苺……?」

「あれ、香子ちゃん? 用事があったんじゃなかったの?」


 問題が起きたのは彼女と遭遇してしまったことだ。


「あたしはあんたが傘を持ってきていないことを思い出して戻ってきた――だけど必要なかったみたいね」

「うん、この子が傘にいれてくれたから」


 そういうつもりは一切なかった。私がまだアホみたいに事実を伝えてなければまだマシだったのかもしれない。


「そう、それじゃあね」

「え、一緒に帰ろうよ」

「別にいいじゃない、その子がいれば十分でしょ?」

「え、なに言ってるの?」


 ここで私に俊くんくらいに察し力があれば。


「帰るわ。用事があるのは本当だったし、じゃあ」

「あ、香子ちゃん待ってっ、」

「ちょ、河辺さん!?」


 普段は彼女と競えるくらいには使える足も今日は駄目だった。つんのめって路面にダイブ。私の背面を水滴が攻撃。


「あぁ……風邪引いたぁ……」


 そして翌日に熱が出るという最悪な流れだ。結局香子ちゃんを追うことはできず、学校に言って弁明することも叶わずとなってしまった。こういうのは時間が経ったら駄目――だから私はっ、


「(無理して学校に来たけど香子ちゃんが全然教室に残ってくれない!)」


 私と違って彼女にとっては沢山の友達がいる。つまり私はその中のひとりでしかないというわけで、そういう細かいことを考えていたら余計に調子が悪くなってどうにかなりそうだった。


「河辺さん、大丈夫だった?」

「う、うん……昨日はごめんね、お礼も言えないで」

「いやー……あれって私のせいだよね? だから今日は全然喋れてないんでしょ?」


 いや、誰が悪いとかではないと思う。もしここで仮に犯人を決めるとしたらそれは私だ。傘を忘れたこと、係の仕事をのんびりやってしまったこと、察することができなかったこと、要所でポンコツすぎて濡れた路面にダイブ、それから風邪を引いてしまったこと、うんまあ完全に私が悪い。


「というか顔赤くない? 大丈夫?」

「うん、全然平気だよ。風邪を引いてたらそもそも来てないからね」

「あ、そうだよね、さすがに子どもみたいに敢えて無理して風邪なのに来る子とかいないよね、高校生なんだから」


 うぅ、グサグサと突き刺さる。その敢えて、を選択している人が目の前にいるんだよ……。


「あー……私のせいだし池本さんを呼ぼうか? いまは教室にいないけど、昼休みに残ってもらうように言うのはできるけど」

「大丈夫、自分で話しかけるよ」


 もしかしたらもう無理かもしれない。そうすると来た意味がなくなってしまうけど、それならそれで体調を治してから挑むというのも有りだ。


「そっか……ごめんね」

「ううん」

「また困ったら言ってね」

「うん、ありがとう」


 いまのところは動けないので机に突っ伏す。


「苺、なんか喧嘩でもしたの?」

「あ、俊くん……ううん、今日は他の子を優先しているだけだよ」


 そっか、1番近くにいた彼だったら分かるか。彼だけではなくこの教室なら私=香子ちゃんといるみたいな形になっている可能性はある。


「そうかな? その割には全く苺の方を見てないんだけどなあ」

「え?」

「や、池本さんはいつも君のことをちらちら見ているんだ。一緒にいられない時は特にね。多分心配してるんだと思う、色々な意味で」

「そうなんだ、初めて知ったけど」


 長年一緒にいすぎて当たり前のこととして片付けていたのかもしれない。だけどどうなんだろう、その見ている意味っていうのは。


「あと、苺は嘘をついたねいま」

「喧嘩はしてないよ?」

「そこじゃないよ。苺はさ、いま熱が出てるんでしょ?」


 ちょっと驚き。顔は隠せていたとしても耳は周りに見えているわけだからそこで分かったのだろうか。


「どうしてそう思うの?」

「だって普段の君は突っ伏したりしないからだよ」

「え、怖い……俊くんも私のこと観察しすぎじゃない? 香子ちゃんが観察野郎って言った気持ちが分かるかも」


 月二先生もこの前私のことを分かりすぎていたし、意外と男の子というのはちょっとした異変を察知するのが得意なのかもしれない。


「分かるよ、だっていつも一緒にいるんだから。なによりも、誰よりも近くでふたりを見てきたんだよ?」

「うん……なら言うけど、熱が出てるんだ、8度かな」


 意外と8度くらいの方が楽だったりする。だからこうして来ていいところで話がしたいと思っていたのにこれだ、昨日からタイミングが悪すぎて笑いしか出てこない。

 香子ちゃんは恐らく誤解をしている。でも、恐らくなにかを言ったところで届かないということも分かっているんだ。なのにこうしてのこのこやって来て敗北して早退、なんて流れにはしたくない。


「それなら保健室に行かないと」

「今日じゃなきゃ駄目なの……そうしないと香子ちゃんと……」

「やっぱりなにかがあったんでしょ? 僕で良ければ聞くよ?」


 もうバレバレなので俊くんに説明。


「そうだったんだ……僕が苺といてもずっと疑ってたもんね、同性だったのが余計に悪かったのかも。それか単純に基本的に絡まない子だったからかな……どららにしても好きな人が他の人といたくないって考えてるのは女の子らしいけどね」


 うん、とにかく彼女が風邪を引く、なんてことにならなくて良かった。そうしたらマイナスな考えの方に傾いて致命的になっていたところだったから……まあいまの状況もあんまり変わらないんだけど。


「分かった。それで苺はどこまで頑張れる?」

「正直に言ってだいぶ厳しいです……」


 吐き気とかはないけど頭痛がやばい。後は倦怠感。喋るのはなんとか頑張っているだけで、できればこのまま張り付いていたい。しかしここで無慈悲にも予鈴が鳴ってしまう。


「授業始めるぞー」


 運が良かったのは次の時間は月二先生の担当、ということだろうか。


「河辺ー」

「月二先生」

「ん? どうした朝倉」

「河辺さんは体調が悪いみたいなんです」

「ん? そうなのか?」


 おぉ、これが月二先生の言っていたことか。他にも友達がいればこういう時に助かるよと伝えたかったんだ。


「河辺、ちょっと顔を上げてみろ」

「はい……」

「……確かに熱いな、よし、それなら俺が運んで――」

「それはあたしがやるので、先生は授業をしていてください」

「いいのか? それならよろしく頼むぞ池本」


 私の腕を掴んで彼女が引っ張る。ちょ、ちょっと乱暴だけど大人しく立って彼女に付いていくことにした。というかそれしかできないと言うのが正しいか。


「あんた、なんで来たの? 今日は休ませるって美紀から聞いたけど」

「平気かなって思って」

「ふぅん、それで誰かを頼っていたらただの迷惑な存在じゃない」

「……そうだね、なにやってるんだろう、あはは……」


 微妙な気分になりながら保健室に行くと先生がいなかった。どうしたものかと固まっていると無理やり寝かせられる。


「じゃ、戻るから」

「え……うん、ありがとう」

「ふん」


 香子ちゃんが出ていってからすぐに先生が戻ってきた。


「おや? 体調が悪いのかい?」

「はい……多分8度くらい出てて」

「え? それってもしかして無理して学校に来たのかい?」

「はい、そんな感じです……」

「泣かないでおくれ、ほら、飴をあげるから」


 いつもだったら凄く心配してくれて、教室に戻ってって言っても彼女は聞かなかっただろう。だけど今日はあっさり帰っちゃったし、迷惑な存在とか言ってくるし、確かにそうなんだけどもうちょっと言葉を選んでほしかったというか……風邪の時はやっぱりマイナス思考をしてしまうというか。

 先生が渡してくれた体温計で温度を測るとやはりというか予想通りで、枕を抱いて目をつむる。綺麗な枕を汚すのは申し訳ないけど涙が止まらなかった。


「もしかしてさっきの子かい?」

「え……? あ、いや……そういうわけではないです。昨日、ついつい傘を忘れてしまって……それで濡れて馬鹿みたいに風邪引いて……」

「ふふ、風邪のことではないよ。君が泣いてる原因さ」

「……分かっちゃいますか?」


 全く関係ない、知らない人にもバレているのは恥ずかしい。そりゃ意味深に泣いたりしたら「あ、そういうこと」となってしまうのかもしれないけども。


「まあこれでも長年教諭をやっているからね、相談にも乗ったりするから大体は分かるかな。ふむ、あの子の様子と君の様子を見て判断すると、お互いに相手のことが大切なんだろう?」

「はい、小学生からの仲ですから」

「そして今回は、恋に関することかな?」

「どうなんでしょう……」


 流れだけで見れば、そんなつもりはないにしても内緒でこそこそと他の子と行動した私に怒ったようにも見える。でも結局いくら考えたところで、いくら泣いたところで彼女の気持ちは分かるようにはならないし、届くわけでもない。


「君はどう思っているんだい? 性別とか関係なく彼女のことを好きだと思っているのかい?」

「私は……とにかく彼女といたいんです」


 昨日のことを先生にも説明する。こうなったら大人に頼るしかない。


「なるほどね、誰も悪くないと言うのがもやもやするところだね」

「はい……そこで怒ったということは私のことを大切に思ってくれているということじゃないですか。そもそも体調が悪かったのもあるんですけど、結局なにも言えなくて……戻るって言われた時もここまで連れてきてくれたお礼しかできませんでした」

「……よし、君はとりあえず寝ようか、いまは体調を治すことに専念してね」

「はい、ありがとうございます。おやすみなさい」


 ホイホイと誰かに話すのは気がひけるけど、誰かに聞いてもらえるとこんなに楽になるのかと驚いた。

 それでも先生の言うようにいまは体調を治すのが優先事項だ。すやすや寝て、元気になろう。




「あー、池本香子ちゃんはいるかい?」

「あ、自分が池本ですけど」


 帰ろうとしたら見計らったかのように変な人が現れた。いや、これが保険室の番人だということは知っているが、どうして名指しなのかが分からない――ということもなく、苺関連のことだとはすぐに分かった。


「あはは、まあ知ってたんだけど。よし、いまから行こうよ、待ってるよ」

「は? 行こうよってどこにですか?」


 分かったけどなんか嫌で白々しく反応してみる。すると先生も「ふふ、行ってみれば分かるよ」とわざとらしい笑みを浮かべていた。

 こういうタイプは抵抗すれば逆に食いつくので大人しく従っておく。


「ほら、お姫様が眠っているよ」


 ベッドの脇に立つと彼女の様子がもっと分かりやすくなる。見ただけでも体調が悪いんだということが伝わってきていた。


「苺……」

「君が誤解したそうなんだってね」

「誤解って……あたしはただ事実を……」


 どうせ苺がホイホイと話したんだろう。というかあたしには言わないのに俊には馬鹿正直に体調が悪いことも話してるし……。


「ちゃんと話は聞いてあげたのかい?」

「いや……用事があったしすぐ帰ったし……」


 必要ないと思ったから家に帰った。大したことのない用事だったけどそれでもやらなければならないことはあったのだから嘘はついていない。


「起きたらしっかりと話したらどうだい?」

「でも……苺にとってはあたし、必要ない……」

「じゃあなんで連れて来てあげたの? 聞けば最初は月二先生が運ぼうとしていたって話じゃないか」

「それは……」


 あたしは苺にとって1番でいたかった。それだけではなく単純にそばにいたかった。だから傘を忘れていたことを思い出して学校方面に向かった結果があれだ。

 分かってる、単純にあの子は傘に入れてもらっていただけなんだろう。だけど楽しそうにしているのを見て落ち着かなかったんだ。

 

「ん……せんせい?」

「近くで喋ってごめんね。でも、君の王子様を連れてきたよ」

「ん……? え、なんでっ」


 ……まああの苺が驚くようなことを今日のあたしはしてたからなにも言えないけど、正直驚きすぎじゃない? とは思わなくもない。


「大丈夫かい?」

「あ、はい、寝たらかなり楽になりました、占領してしまってすみません」

「いいんだよ、君みたいな子のためにあるんだから。さて、ここでゆっくり話してもいいけど、どうする?」

「……連れて帰ります、彼女の姉から頼まれているので」

「分かった。それじゃあ気をつけて帰るんだよ」

「はい、彼女がお世話になりました、失礼します」


 鞄だって一応持ってきているしこのまま帰れる。けれど、彼女が大人しく従ってくれるだろうか。


「こ、香子ちゃん」

「ん?」

「い、っしょにでいいの?」

「当たり前でしょ、ひとりで帰らせる方がソワソワしそうだし」


 それになにかがあったら嫌だし、美紀にだって怒られてしまう。だったらこのモヤモヤを抱えつつも一緒に帰ったほうがマシだ。


「……じゃ、じゃあ、お姫様抱っこして」

「はぁ? え、あたしが?」

「だってまだ調子悪いもん……」


 そうか、そもそもこいつは別にコソコソしていたわけじゃない。恐らくあの子が優しいからいれようとしてあげたんだろう。そこで素直に厚意に甘えた苺は素直で素晴らしいし、苺に優しくしてくれたあの子にはお礼をしたいところで。


「ごめん……」

「え?」

「勝手に勘違いして、拗ねて帰って」

「……ばかっ」

「うん……」


 胸に顔を埋めてきた彼女をそのまま抱きしめる。こっちもちょっと涙が出そうになったけどそこは死ぬ気で耐えた。家に帰ってからゆっくり感情を片付ければいい。いまはただ彼女の温もりを感じながら、彼女を無事に家まで連れて行くのがあたしの仕事だ。


「鍵は?」

「あ……朝するの忘れた」

「は、はぁ?」


 インターホンを連続で鳴らしたりガチャガチャとドアノブをひねってみるが開かない。オートロック機能がついている家ではないため誰かがいることになる。


「ふふふ、ありがとう香子、馬鹿! な妹を連れてきてくれて」

「なんだ……美紀がいたのね……良かったわ」


 どうしたらいいんだと悩んでいたら家主が中から出てきた。物凄く怒っているのが分かる。さり気なくずっと胸に顔を埋めている苺はぷるぷると恐怖に体を震わせていた。


「ええ、とりあえず入ってちょうだい。馬鹿! な妹にジェルシートとか張りたいから」

「う、うん、馬鹿を強調し過ぎだけど」


 今日はこのまま泊まらせてもらってずっと苺の側にいようと決めたのだった。 

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