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三十一 炎を読めるか

 意識が戻った時、俺は生きている自分を実感していた。

 爆発らしきものが起き、俺達は立っていた場所から爆風で数メートルは飛ばされたが、そのお陰か爆風の後の業火に巻き込まれずに済んだのだろう。

 気が付けば横たわる俺達の数センチ上には黒い線引きが出来ていたのだ。

 爆発のエネルギーは誘導されなければ、普通は横と上へと広がる。


「薙ぎ払われて無傷とは、俺も悪運が強いね。」


「うう。」


「あぁ、畜生!かわやなぎ、大丈夫か!」


 俺の上に重なっているかわやなぎの体を、俺の体の上からずらしながら床に降ろした。

 俺の無傷は彼の体のおかげだったのだろう。

 しかし、背中を焼けただれさせているはずの楊の背の様子を確かめると、コートの表面は溶けているが裏地がきれいに残っているのだ。


「なんだこれ。防火処理してあるコートなのか?おまけに中身はダウンでもなく防火仕様の緩衝材だったのか。」


「ぼう、か、しょり?かんしょう、ざい?」


「裏地が溶けても燃えてもいないぞ。どうしたんだ、これは?」


 呻いていたはずの楊がぴょこんと起きた。


「うそ。凄いじゃん。葉山とお友達な長柄裕也からの陣中見舞いの品だったの、かなあ。とりあえずの試作品なんだって無記名のメモ付きで家の前にあってさ。試作品の意味がわかんなかったけど、すごいじゃん。そんで、俺に怪我はない?背中がすっごく痛いんだけど、俺は大丈夫なの?」


 俺は誰のものか分からないものを着ていた楊に注意をするべきか一瞬迷い、その意味の分からないもので助かった幸運を考えて口をつぐんだ。


「お前は元気だよ。」


「元気じゃないよ。俺は終わったって、背中丸焦げって、人生を儚んでいたんだからね。」


「人生を儚むのはまだ早いよ。」


「そうだね。俺たちゃ悪運が強いようだ。」


「いや、これからじっくり儚む予定だからさ。」


 俺は楊に天井を指さして現状を知らせた。

 天井は炎によって覆われており、俺達はどこぞの水道管の破裂した水に浸っていたからか、体中の打撲の痛み以外に火傷も見当たらないが、この先は火炎地獄のフルコースを堪能できるのだ。


「あちゃあ。こりゃあ大変だ。従兄のいさおちゃん。あのオレンジ隊長がさ、火には意識があるってね、飲むと語るのよ。炎は必死に酸素と言う命の糧を求めて動くってさ。お前には炎の意思とやらが読めるか?どうしてここまでの火災が起きたのか、でもいい。」


「お前って奴は。多分あれだろ、支配人室を一酸化炭素で充満させた火災現場にしておいて、バックドラフト現象とフラッシュバックを引き起こす仕掛け、それもプロパンガスをそこかしこに仕掛けて置いて一斉に爆発させたんだよ。この燃え方じゃあ、燃焼促進剤に近い素材でホテルを装飾していた可能性もある。それらに次々と火が燃え移っての、フラッシュオーバーで一気に全階を火災に巻き込んだ、かな。」


「つまり、本気で逃げ場がない。」


「上に逃げればね。」


「下には逃げ場があるか?」


「地下駐車場には警察車両が止まっているんだろ。建物が崩れる前に脱出だ。死ぬ気で地下二階に降りるぞ。」


「あ、そっか、いっこ下に行きゃ駐車場じゃん。」

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