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二十四 ホテル駐車場①

 タクシーを使いホテルに戻ってみれば、ホテルの客室は全て灯りが灯っており、自殺事件など無かったかのような普段どおりの営業を続けていることが見て取れた。

 俺は置きっぱなしの自分のトラックへと歩きながら、孝継の語った玄人くろととの親子ごっこについて思い出していた。

 彼は善之助の子供でないからこそ、血の繋がりのない玄人を愛することで善之助の愛情を確認していたのだというのだ。


「血の繋がらないあの子がどんな姿でも愛おしいと思えるのなら、父が僕を愛しているのは本当だと思えるんだ。情けないでしょう。」


 どんな姿でもと言っても、玄人は性的にも成熟していないという一般的には不具の肉体であろうと、それを上回るほどの美しさを湛えているのだ。

 彼を愛そうと思えば誰しも簡単な事だろう。

 かわやなぎが哀れだと言う愛玩用生物、人が飼育しやすいように臭腺を取り除かれ、性的に成熟しないように去勢されて雌雄も失ってしまったフェレットと同じだろう。

 孝継はそれに気づいてはいないのだろうか。


 あるいは、血のつながりもない子供を、それも、橋場家の毒にしかならない子供が自分自身だと投影している彼であるとしたら、彼は彼と同じ橋場の血を引かない峰雄を愛するように峰雄の偽物をも愛そうとするのではないのだろうか。

 それがただの毒蛇だったとしても。


「俺は何を考えてるんだろうな。」


 緑丘に唆された子供は家を出てすぐに殺されている。

 偽物に気付いた時には、全員が全員死んでいたのだ。

 それに引き換え橋場家は、発覚までに何日も、もしかしたら何年もあったかのような口ぶりだ。


「橋場のお爺ちゃんはすごく、すごく優しくて。」


「四人も子供がいて善之助の本当の子供は一番上の孝雄と孝彦だけなんだ。」


「お前は本当に純だよ。」


 玄人の言葉にかぶさる様に孝継の言葉が思い出され、そして、俊明和尚の口癖が俺の頭で響いて、ようやく俺は真実とやらに行きついた気がした。


「子供が殺されたことを知っていて、尚且つ、殺した子供を受け入れたのか。そうだ。俺はあいつに言ったじゃないか。今の玄人には考えられないって。玄人が人殺しの少年を罠に掛けれる筈がないんだ。」


 孝継が大好きな破壊と創造。

 孝継と仲の良い計略好きの裕也。


「あいつらは死んだ峰雄の復讐をして、善之助のために新たな峰雄を用意したのか?」


 では、ホテルの部屋から飛び降りたのは誰だ?

 玄人はあれこそ峰雄だと断言していただろう?

 違う。

 玄人が言ったのは、「あれがホテルオーナーだ。」だ。


 俺の足が止まり、ちょうどそれが俺のトラックの前であったが、俺は車のドアも開けずにぐるりと方向転換をした。

 四時方向からの襲撃者を察知したからだ。

 軽く避け、その動きの流れで左足でなぎ払うように蹴りを、止めた。

 楊だった。


「何やってんの?」


「お前こそ!ちびはいいのかよ!」


「山口達に任せたから大丈夫だ。お前こそここで何をしている。」


「え、俺は刑事だよ。普通にこのホテルの警備中。だからちびへのサプライズパーティに出れなかったんじゃん。出れなかった筈の俺が出てくるサプライズが、本当に出れなくなるとはさ、誤算よ誤算。あんだけ下準備したのによ。がっかり。」


「あいつはサプライズは好きじゃないぞ。お前の誕生会が完全にぽしゃったのは自分がこん睡していたから自分の責任だって、本気で落ち込んで泣いていたんだからな。」


 楊は、はぁっと大きく息を吐くと、そのままその場にしゃがみ込んだ。


「痔になるぞ。」


「かける言葉がそれか!」

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