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十五 黒歴史

「大丈夫?コーラを飲んだらすっきりするかな?」


 ここは相模原東署。

 現場で気を失った僕は、意識の無いままここに連れて来られたのだという。

 葉山が言うには、新遺体発見の報告をした返しに楊の謹慎処分は解かれ、髙と共に放火事件の現場の洗い直しと、田口美樹と今田晃の自宅の再調査と彼らの身辺調査のやり直しまでも命じられた。


「田口がそこで死んだのではないならば、自宅が殺害現場かもしれないってね。かわさん達は田口の自宅を確認しに行っている。百目鬼さんは仕事だって。」


「友君は僕の面倒を押し付けられて置いて行かれたの?ごめんなさい。」


「全然。俺は田口の自宅は入りたくなかったからね。かわさんには悪いけど。」


「嫌いだった?」


「どうでもよかった、というのは薄情かもしれないけどね、彼女は俺にはただの同僚だったんだよ。挨拶するぐらいの顔見知り。だから殺されても刑事の目で遺体写真や現場を見れてもね、自宅に入ったら彼女を知ることになって同情が入ってしまう。同情したら、彼女のやった行為を追求しきれなくなるかもしれない。同僚で知っていたからこそ、彼女の存在が知人以上になってしまうかもしれないと思ったらね、心の弱い俺は行かないという卑怯な道を取りました。」


 僕は彼から手渡されていたコーラを口に運び、彼へ言葉を返す事のないようにした。


「彼女の部屋を見て、それでも何とも思わなかった時の方が怖いのでしょう。」


 なんて言ってしまってはいけないのだ。


 僕は刑事課の一角にある応接セットのソファに座っており、ソファの横に立つ葉山の背後では刑事課の人達が忙しそうに立ち動いている。

 行ったり来たりと歩き回る人達はいつしかさびれた色をした背の高い柵へと姿を変え、僕のいる場所は広大だが乱雑な粗大ごみの不法投棄現場となっていた。


 僕はプラスチックのゴミバケツの中にいて、既に動くことが出来ない。

 僕は殺されて縛られて、そのゴミバケツの中で腐りかけてもいるのである。


「畜生!俺が見逃さなければ!」


 その悲痛な叫び声は葉山のものであり、ゴミバケツの中で腐っていた僕は、いつの間にかまた刑事課の応接セットのソファに座っており、自分のノートパソコンを操作している葉山が僕の対面にいた。


「友君。何を調べているの?」


「うん?田口のブログ。どうしたら君のIPアドレスから田口に繋がるんだろうかなって。これが一番の謎でね。」


「本当にあの田口さんのブログなの?」


「え?」


「だって、自称サバサバ系を気取っている人が、あんな文章を書くかなって。彼女がやるのだったら、僕の女装写真にニセ鬱病の服装倒錯者ですってタイトルつけて不特定多数が見る掲示板に投稿するくらいかなって。投稿がバレないように僕のIPアドレスを使うのはアリでしょうけど。」


「あ、そうか。そうすると、田口から君への恨み、いや、君の外見が使えるって巻き込まれ型なのかな。あぁ、そうか、今田こそ巻き込まれたのではなく的だとも仮定してもいいのか。目立つ美少女の投稿写真とIPアドレスを使った第三者によるブログか。」


「あの、ひとつ、聞いていい?」


「何かな?」


「…………友君は、どうしてブルーローズ防衛隊を知っていたの?僕だって裕也君があそこまで馬鹿なことをしているなんて知らなかったのに。」


「俺もあのゲームショウにいたから。三日間だけの防衛隊員です。ブルーローズ様、隊員への激励の軍歌斉唱をありがとうございました。」


 彼はアメリカ海兵隊に近い敬礼ポーズを僕に捧げた。

 帝国、連合、レジスタンスとあるゲーム内勢力において、レジスタンスリーダーのブルーローズは滅んだ王国の王女様だったという設定なのだ。

 帝国や連合の腐った権力を排して、自分ルールの王国を作り上げようとする可愛いだけの性格の歪んだキャラクターが一番人気なのも解せないが、そのキャラクターそのものだと、可愛いと絶賛されまくっていい気になった自分を否定できない。


「そそそそそそそれは、僕が、あの。えと、あの。」


「かなり音痴だったけど、あれこそブルーローズだねって大受けだったよ。」


「うきゃああ。やめてぇ。ぼくの黒歴史をほじくるのはやめてぇ。」

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