六 事態はそして動き出す①
コインランドリーの連続爆破事件は三月二日の未明に発生し、楊と髙は僕を生き物係りに勝手に任命すると、僕のご飯の用意もなく楊宅に置き去りにして監禁した。
そもそもなぜ僕が楊宅に居るのかは、髙の愛娘のせいである。
松野葉子宅に「なずな」を迎えに来た髙と楊が、子犬が大きくなるまでルームシェアすると宣言した途端に、葉子の「鳥と犬はケンカしない?」という余計な一言で水を差され、水を差された二人は恐慌を来たしたのだ。
「あ、そうだ!僕の乙女をなずなが狩っちゃったらどうするの?」
乙女とは楊が愛して止まない凶暴なワカケホンセイインコである。
楊が十一月に拾い、飼い主が一向に現れなかった事で、二月に「楊が保護している落し物」から「楊の愛鳥」にジョブチェンジした。
彼は落ちている生き物は漏れなく拾うという特性を持っている。
「乙女の方がなずなを襲っちゃうでしょう?」
なずなの外見は凶悪だが、髙の言い分の方が正しいと僕は思った。
「あぁ、どうしよう。困ったなぁ。と、いうことでちびが俺達の愛娘のベビーシッターだ。
さぁさぁ、今すぐに車に乗って俺の家に帰ろう。髙も今日から俺の家に泊まるし、お前目当てに山口や葉山も来るかもね。女子会ならぬ野郎会はどうだ。なぁ、いいだろ、百目鬼。」
良純和尚は何かを考えたのか、考え無しなのか、僕が面倒になったのか「いいよ。」と簡単に了承した。僕も緑丘の事をこれ以上追及されたくはなかったから渡りに船でもあるのだが、楊と坂下は親友で同僚だ。
「あの、家って、僕は泊まりの荷物もないのですけど。」
「服は俺の着てないのやるし、パンツはコンビニで買えばいいだろ。」
楊に何てことないように返答されたが、パンツには生産地と生地には拘っているのだと主張したい僕が状況もわきまえずに騒ぎだしていた。
だって、大事な所を守るはずのパンツは大事にするべきでしょう。
「僕は国産メーカーの国産のフィット系のボクサーパンツじゃないと嫌な人なんです。」
だが、僕の言葉に全く動じない二人は目線を交わし、昔は良心だとストッパーだと僕が思っていた片方が無情に言い放った。
「あぁ、近くに服屋があるからそっちに行けばいいでしょ。じゃ、行こうか。」
僕は髙と楊に引き摺られるように松野邸を辞去させられ、僕は犬と共に彼らのセダンに乗せられたが、今日は運転席には髙ではなく楊が座った。
楊は彼の運転が信用できないからと、交通部の五百旗頭に警察車両運転禁止令を出されている猛者である。
先日は楊が無謀な車線変更をしたと五百旗頭に叱り飛ばされた現場に遭遇したばかりだ。
「かわちゃんが運転していいの?また五百旗頭隊長に叱られませんか?」
「だーいじょうぶ。ここは横浜市じゃなくて相模原だもん。おまけに今日はいっちゃんは本部から動けない。それにこの間のいっちゃんは坂ちゃんと喧嘩したから俺に当たっていただけだよ。平気、平気。」
「喧嘩って、逃げたところを連れ戻されたから?五百旗頭さんて小さいんですね。」
楊はぶふっと吹き出して笑い出した。
「ひどい、ちび。いっちゃんが泣いちゃうよ。あの日はね、葉子さんが警備案を受け入れなくて坂ちゃんが困っているからってね、いっちゃんが発破をかけたんだってさ。時には強硬に出るべきだろって。そうしたらさ、坂ちゃんがね、警備部には警備部のやり方がありますからって言い返したの。それも警備部のお偉方の前でね。あいつは点数稼ぎが上手いから。」
それであの日の五百旗頭の、「坂下むかつかねぇ?」か。
伝説の人のはずの五百旗頭が小さいと感じていたら、車は楊の家の前に着いていた。
「パンツは!それに、ご飯は!僕は今朝からまともなご飯を食べていないです。こんな事なら葉子さん家に残りたかった。僕のご飯はどうしたのですか!いいですか、アフタヌーンティーには順番があるのです。タワーのお皿は下から順番に食べないとなんです。僕は一番上のスコーンどころか二段目のフルーツケーキも食べていない。良純さんの所に戻してください。良純さんの所に帰りたいです!」
助手席の髙は完全に僕の言葉を無視したかのように車を降り、そしてそのまま車のトランクに向かったようだ。彼の頭はなずなでいっぱいなのかとため息を思わずつき、すると後頭部に僕の息がかかったことが嬉しいのか、なずなは僕の顔をなめようとし始めた。
「やめて。僕は顔をなめられるのが嫌いなの。」
「玄人君も降りて。」
僕はなずなを抱いたまま髙の所にトコトコと歩いて行くと、彼はなずなを受け取った代わりに、僕に弁当の袋と下着の入ったビニール袋を手渡した。
「え?買ってあったのですか。」
髙は優しく微笑んで家の中になずなを放し、楊はというと、トランクに詰んであったなずな用品を玄関を上がってすぐの廊下に並べだしていた。
「ちび。この道具は適当にリビングに置いておけばいいから。」
「え?」
「玄人君は僕達が帰ってくるまで、絶対に外に出たり、玄関の応対もしちゃいけないからね。わかった?」
「え?」
彼らは僕に留守番を言いつけると、僕を監禁同然に置き去りにしたのである。
もちろん、夜には二人は戻ってきた。
ケージにそれぞれ入れておけば平気な生き物には見守り要員など不要だろうと、その時には僕は気が付いており、戻ってきた二人に僕をここに留めておくのは別の理由があるのかと尋ねていた。
だって、あの死体が関係している事だと思ったからだ。
けれど、二人は僕の質問には心配するなと笑うだけで何も教えてくれなかった。
僕はその夜は釈然としないまま、やはり二人によって小学生の子供のようにして寝床に追いやられた。




