闇ギルドを潰す
メルブレイン子爵の私兵が五百人。商人が雇った傭兵が百人。冒険者ギルドからは同じく百人の冒険者達が集った。
そして、私はエドウィーナから預かった私兵が五百人である。
夜の王都で、私達は静かに準備を終えた。
私が言った通り、子爵達は渋々自ら現場に来て兵や部下達に指示を出している。
「我々は裏手に回りましょう。皆様は正面から」
「ぬ、わ、分かりました」
私が声を掛けると、子爵は緊張した面持ちで頷いた。他の者達も心なしか顔色が悪い。
さて、どうなるか。
裏手側に回り込んだ私は、兵達に守られるように立って建物を見上げた。
木で出来た古そうな見た目の地味な建物だ。場所は王都の外れにあり建物内の抜け道が城壁の外へと続いているが、抜け道の向こう側は既に大量の土砂で埋め立てている。
と、建物の反対側から激しい喧騒と金属が打ち合うような音が聞こえてきた。
「さて、こちらは逃げてきた者達を相手取りますよ」
「相手が抵抗した場合は?」
「出来たら生かして、無理なら殺しても仕方がありません」
「はっ!」
近くに立つ司令官の兵とそんなやり取りをしていると、もう建物の裏口や窓から男達が飛び出してきた。
「随分と根性が無いですね。まぁ、仕方がないと言えば仕方ありませんか」
私がそんなことを言っている内に、建物から溢れ出た男達が我々の下へ殺到する。
「退きやがれ!」
「全て止めろ! 一人たりとも逃すな!」
強行突破しようとする男達と、それを阻む兵士達。迫り来る男達の鬼気迫る様子は迫力があるが、一糸乱れぬ動きで隊列を組む兵士達の方が遥かに重みがある。
夜の闇の中で激しい衝突と斬撃による音が響き渡り、鮮血が舞った。
「奴らは鎧を着ていないが、その分動きが軽い! 素早く手足を斬り落とせ!」
「はっ!」
「ぐっ! なんだ、この練度は!?」
「くそ! 馬鹿みてぇに強ぇぞ!」
どうやら、こちらは全く問題はなさそうだ。兵達に被害は殆ど無く、建物から出てきた男達は見る見る間にその数を減らしていく。
これほどの強さを持つ兵達とは思わなかった。私としては大変嬉しい誤算だ。
結果、建物の裏手側で包囲していた我々は最小限の被害で終わり、子爵達は二割の兵や部下を喪い、一部の者達を取り逃がしてしまった。
このことで、子爵は私に泣きついてくる。
「た、頼む! 取り逃がした者達を徹底的に潰すのを手伝って欲しい! 隠れ家にはもう目星をつけてある!」
大いに取り乱した子爵にそう請われ、私は深く頷いた。
「確かに、このままでは閣下が狙われてしまいますからね。私で良ければ最大限の助力を致しましょう」
私がそう言うと、子爵はホッとしたように息を吐いた。どうやら、エドウィーナの私兵を使って何とかしようと考えているようだ。
だが、そう簡単にはいかない。私は眉根を寄せ、顎を引いて子爵を見る。
「……ただ、私はエドウィーナ王女殿下に願い出た際、一度兵を借りることが出来たら、闇ギルドは壊滅させることが出来ると大口を叩いてしまいました」
私がそう口にすると、子爵はウッと声を詰まらせて顔を引いた。
これは子爵が私に言ったことだ。そこを指摘し、責めたら自分の首を絞めることになる。
私は子爵の様子を窺いながら、静かに口を開く。
「ですので、兵達を動かす為の費用と時間をください。大丈夫です。あの殿下の兵達の強さを見たでしょう? 絶対に後悔はさせませんよ」
私がそう言うと、子爵は渋い表情で頷いた。自ら王女の私兵を使わせてくれと進言しておいて、金が掛かるなら嫌だとは言えないだろう。
子爵が払えるギリギリの額を請求してやろう。
私は密かにほくそ笑み、子爵に慰めの言葉を掛けた。
【一週間後】
王女の私兵が来る前に意趣返しをしようとしたのか、闇ギルドからの暗殺やテロ行為を受け、子爵は大いに憔悴していた。子爵からも反撃をしようと兵を動かしたらしいのだが、どうにも結果に結びつかなかったようだ。
恐らく、あちらの闇ギルドの協力者である貴族達が動いたのだろう。
そして闇ギルドも王女の私兵を害したらマズいと意識しているのか、王女の私兵が来る前に決着をつけたいといった動きが透けて見える。逆に、子爵はどうにかして自分の背後に王家がいると見せたい筈だ。
「れ、レイジ殿……なんとかなりませんか」
「安心なさってください。明日に兵達を連れて参ります」
「お、おぉ! 助かった!」
私の言葉に子爵は一も二もなく飛びついた。私は笑顔で頷き、子爵と固い握手を交わす。
次の日になり、エドウィーナの私兵を連れた私は子爵とその仲間達の家を同時に捜索した。
理由は『闇ギルドのメンバーを取り逃がしたのは、子爵達の下に闇ギルドの協力者がいる可能性がある』という理由である。
調査を拒否すれば疑われ、調査を受ければ別の闇ギルドとの繋がりが露呈する。
追い詰められた子爵の取った行動は、自らが協力する闇ギルドに助けを求める、であった。
私の計画では闇ギルド同士を潰し合い状態にし、闇ギルドに協力している貴族や商人を軒並みリストアップする予定だったのだが、自らそれよりも悪い方向へと走り出した形となるだろう。
なにせ、私の計画通りなら利用され、組織が痩せ細っていくだけの未来だったのだが、子爵が闇ギルドと繋がっていると露呈した上で闇ギルドに助けを求めたのだ。
エドウィーナの私兵を動かして闇ギルドを討伐しようとしていた私が、敢えて闇ギルドを潰さずにいては余計な噂を呼んでしまうだろう。
だから、私はルシールにこう切り出した。
「子爵の裏切りにより、エドウィーナに被害が出る可能性が高い。徹底的に二つの闇ギルドを潰すぞ」
「……私に協力しろ、ということですか」
「今までは私に目が集まっていただろうが、今回のことで間違いなく私が率いたのが王女の私兵であると闇ギルドに知れた」
「……協力しましょう。こちらで子爵達の逃げた先も把握しております」
「やるなら徹底的に、だ。今回のことで半端にやると、王女様を殺害したら良いなどという強硬派が出るだろう。反抗する気も失うくらい徹底的にせねばならない」
「……二大闇ギルドの拠点は全て押さえました。明日にも叩き潰させていただきます」
私の思惑に乗るのが余程嫌なのか、ルシールは思い切り顔を顰めてそう返事をした。
それに頷き、私は口の端を上げる。
「結局、今回は子爵や一部の商人、冒険者だけで終わってしまったが、それでも相当な量の私財を没収出来るだろう」
私がそう口にすると、ルシールは疑惑の籠もった目で私を見上げた。
「没収した私財の一部をご所望ですか?」
「いいや、子爵達の中の誰かの家と敷地が欲しい。大きければ大きいほど良いから、出来るならば子爵の邸宅が欲しいが、それは無理だろう?」
「……邸宅を? 確かに、貴族の邸宅は確かな身元の者にしか与えることは出来ません。子爵と足並みを揃える大物の商人がおりましたので、その邸宅ならば可能ですが……」
「では、その邸宅をもらい、学園としよう」
私が答えると、ルシールは目を丸くして私を見た。私は肩を竦めてルシールに目を向ける。
「まだまだ学校は足りない。勉強をしたい子供達は沢山いるはずだ」
「……そんなことの為に、闇ギルドと敵対を……?」
ルシールの疑いの眼差しと言葉に、私は優しく微笑んだ。
そんなわけが無い。これは、王都以外の街にも私の教えを広める為の布石である。
本当ならば、闇ギルドに与した貴族を利用してザハウィー教団の内部に楔を打ちたかったが、それに関しては難しくなったかもしれない。
私はルシールに微笑みを向けたまま、静かに次の手を考える。
予定から少し道を変えるしかない、か。




