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気が付けば

 ザハウィー教団からの調査結果の催促を受け流し続けて二週間。


 スティリースは私の院長室のテーブルで書状を書いていた。


「出来ました!」


 スティリースはそう言って輝かんばかりの笑顔で私を見上げる。


「ご苦労様です。少し拝借しますよ」


「はい!」


 私がスティリースの書いた書状を受け取ると、スティリースは期待の篭った目で私を見つつ、返事をした。


 その様子に微笑みながら、私はスティリースの書いた書状の中身を確認する。


 学校の教育の内容、孤児院での孤児達の生活。そして、私の人となりと生活態度。どれも、ザハウィー教団にとって問題が無い内容へと綺麗に改竄されている。


 私はそれ見て笑みを深めると、スティリースの頭に手のひらを置いて頷いた。


「素晴らしい出来です。これなら、ザハウィー教団からの追及も無いでしょう」


「あ、ありがとうございます!」


 私がスティリースを褒めると、スティリースは恍惚とした表情で礼を言い、私から書状を受け取った。


「さぁ、皆さん! さっそく本部へ持って行きましょう!」


 スティリースがそう言って振り返ると、黒いローブの男達が大きく頷き、口を開く。


「はい!」


「我々にお任せください、レイジ様!」


 すっかり従順になったスティリース一行は、そんな言葉を残して意気揚々と院長室を退出していった。


 私はその後ろ姿を見送り、自分用の椅子に腰掛けて足を組んだ。


 顎を指先でなぞりながら、浅く息を吐く。


「……さて、稼いだ時間は有効に使わないと……」


 私はそう独り言を呟き、窓の外を眺めた。外では白い雪が少しずつ降り始めていた。






「良いのですか? お忙しいのですから、断っても問題ありませんよ?」


 エドウィーナに心配そうにそう聞かれ、私は首を左右に振った。


「いえ、せっかくのお誘いです。是非参加させていただきましょう」


 私がそう答えると、ルシールが目を細めて私を見つめる。


「……貴族といえど今回のようなパーティーならば拒否しようとも罰せられません。それに、メルブレイン卿の思惑はレイジ様を招待することによって姫様が同行することだと思われますが」


 ルシールがそう言うと、エドウィーナが頬を膨らませてルシールを見やった。


「私を呼ぶ為にレイジ様を招待したというのなら私からの印象が悪くなることは明白です。そんな浅慮なことはなさらないでしょう」


 エドウィーナがそう言うと、ルシールは難しい表情で顎を引く。


「……確かに、姫様とレイジ様が想い合っているなどという下らない噂はあるようですが、貴族ならばむしろそんな噂話など鵜呑みにしないでしょう。王族が目を向ける相手は同じ王族か優秀な貴族であると考えるのが一般的です」


 ルシールがそう口にすると、エドウィーナは一瞬考えるように斜め上を向き、数秒して顔を真っ赤にさせた。


 耳まで赤くしたエドウィーナは私とルシールを交互に見ながら慌てふためく。


「わ、わわ、私とレイジ様が!? だ、誰ですか!? そんな噂を流したのは……!」


「さて……過去に姫様に袖にされた貴族の御子息が何名か思い浮かびますが、御命令であれば詳しく調べますが」


「そ、袖になんてしておりませんわ!」


「これは失礼しました。姫様が相手になさらなかった貴族の御子息様方と訂正させていただきます」


 二人のそんな仲睦まじいやり取りを眺めつつ、私は今回のパーティーについて考える。


 街の重鎮達を招き、栄える王都の民の声を聞いて自領の運営に役立てたいという名目で開催される、メルブレイン子爵の邸宅内でのパーティー。


 一応、晩餐会ということだが、どうにもきな臭い。


 街の重鎮達を招くというのは問題が無さそうだが、何故私を招くのかが気になる。


 エドウィーナとは違った捉え方になるが、私にくっ付いてきたエドウィーナを目当てにするには少々やり方が上手くない。


 私が静かに頭を捻っていると、エドウィーナが恐る恐るといった様子で私の顔を見た。


「あ、あの……? レイジ様もメルブレイン卿からの招待には何かあると?」


 エドウィーナにそう尋ねられ、私は微笑みながら肩を竦める。


「分かりません。ただ、もしそういったことがあったら困るのも事実。今回のご招待には私だけで向かいましょう」


 私がそう言うと、エドウィーナは眉根を寄せて眉間に小さなシワを作った。


「何かがあるかもしれないのならお断りすべきですわ。もし断りづらいようでしたら私の方からお断りの書状を出しておきます」


 エドウィーナが心配そうにそう提案してくれたが、私は首を左右に振って口を開いた。


「ご安心ください。私も信頼出来る人を何人か連れて行きましょう。そうすれば、何かの際には逃げることくらいなら……」


 私がそんなことを口にしていると、エドウィーナが勢いよく顔を上げて声を上げた。


「そうですわ! ルシールをお連れください! ルシールは実は騎士団の上級騎士とも戦える凄いメイドなのです! 必ずお役に立ちますわ!」


 エドウィーナがそう告げると、エドウィーナの後ろに立つルシールが物凄く嫌そうに顰められた。


「……本人はとても迷惑そうですが」


 私が苦笑しながらそう言うと、エドウィーナは驚いてルシールを振り返る。


 しかし、エドウィーナの顔がルシールに向く時には、ルシールの顔はいつもの無愛想な程の無表情に戻っていた。


 エドウィーナは笑いながら私に向き直り、口を開く。


「大丈夫ですわ。ルシールはいつもあまり感情を表に出しませんの。笑ってはおりませんが、内心ではレイジ様とご一緒出来ることを喜んでおります!」


 エドウィーナが勝手にルシールの心情を語ると、ルシールが半眼でエドウィーナの後頭部を見つめていた。


 そんなルシールの視線にも気が付かず、エドウィーナは困ったように笑う。


「ただ、レイジ様とルシール二人で、というのは心配です。私の私兵ですが、五人ほど腕の立つ者をお付けいたしましょう。それなら安心ですわ」


 エドウィーナがそう言って微笑を浮かべると、後ろでルシールが細い目を俺に向け、口を開いた。


「……不束者ですが、宜しくお願い致します」


 どちらかというとルシールの方が危険な気がする。


 私は顔には出さずに、そんなことを思ったのだった。



次くらいからテンポを上げて…あ、上げて…上げていきたい!(希望)

上がったら良いなぁ(希望)


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