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危険思想の男、異世界へ  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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13/25

レイジの絶対的な敵?

 少々派手に動き過ぎたか。


 孤児院を実質的に手中に収め、学校の話をエドウィーナが宣伝したことにより、私にとっては目障りな相手が動き始めた。


 一般の農民などの子らも交えた生徒八十人の午前の授業を終え、院長室で私がゆっくりとお茶を飲んでいると来客が院長室を訪れた。


 うちで働く女に連れられて現れたのは、黒いローブを着た五人の男と灰色のローブを着た一人の黒髪の女だった。


 院長室に全員が入ると、灰色のローブを着た女が口を開く。


「初めまして。わたくし、ザハウィー教団の司祭をしております。スティリースと申します。レイジ様でよろしいでしょうか?」


「ええ、レイジです。ザハウィー教団の司祭の方ですか……初めまして」


 私はスティリースと名乗る女に不思議そうに首を傾げながら挨拶を返した。


 内心では、この国最大の宗教であるザハウィー教団がいずれ調査に来ると予測していた為、大した混乱はしていない。


 むしろ、調べた限りザハウィー教団の司祭が女ばかりだったのが気になっていたので、何となくスティリースの顔をマジマジと見てしまったくらいだ。


 だが、スティリースは整った顔を少し歪めて笑みの形を作ると、目を細めて私を見た。


「ご安心ください。我々がこちらへ来たのは、レイジ様のお教えしているという教育内容を知りたいと思いまして訪ねさせていただきました」


「教育内容ですか。もちろん、誰でも私の学校で授業を受けることが出来ます。今日はこちらの皆様で見学をされるという形を希望ですか?」


 スティリースの念を押すような言い方に、私は笑いながらそう返事をした。スティリースは私の態度を意外に思ったのか眉根を寄せ、そして笑みを顔に貼り付ける。


「そうですか。それでは、宜しくお願い致します」


 そうして、急遽私の授業に六人の新しい生徒が増えたのだった。


 午後の授業になり、私は孤児院の中で一番大きな広間に移動した。なかなか広い広間ではあるが、八十人の子供達が並ぶと少々狭い。


 その為、ザハウィー教団の六人は奥の壁に立って並んでもらった。


 その扱いに、スティリースのお供らしき男の一人が私に食って掛かりそうになったが、スティリース本人に止められた為渋々大人しくなった。


 今は静かに六人並んでこちらを見ている。


「それでは昨日の復習といこう。分かる者は手を挙げるように」


 私はそう言って、四桁の足し算と引き算の問題を出した。すると、子供達は一斉に自分用の石版に木炭で計算式を書き始める。


 その様子をザハウィー教団の者達は唖然とした顔で眺めていた。


「はい!」


 一人の少年が元気良く声を出して手を挙げると、それに続くように次々と手を挙げる子供達が出てくる。計算の仕方は教えているので、解く時間に個人差はあれど、皆が計算をすることが出来るだろう。


 計算が得意なその少年は見事正解していた。


「うん、正解だ。凄いぞ」


 私がそう褒めると、歓声を上げたり悔しがったりなど、様々な反応を子供達が示す。


 そして、他の問題を出すと今度は別の子も正解を出して喜んでいた。


 その授業が終わって小休止を入れると、スティリースが固い表情でこちらへ歩いてくる。


「……まさか、今の授業は商人の子供達の為の授業ですか?」


 スティリースのその質問に、私は軽く首を振る。


「いえ、今の授業に商人の子供は十人ほどしかおりませんよ。一番答えるのが早かった子は孤児の子ですし、他にも農民の子にも中々計算の早い子がおりますね」


 私がそう言うと、スティリースは目を見張った。


「……それらを孤児や農民が学ぶ意味はありますか? 子供達に無駄な知識を与えているだけでは?」


 スティリースのその言葉に、私は微笑みを浮かべて頷く。


「彼らの中には、この学校で教育者になりたい者や商人になりたい子も現れるでしょう。その時、この学校を出たのなら大丈夫だろうと言われる学校にする必要があります。それが、ゆくゆくは孤児達の働き口を増やすことに繋がりますから」


 私は敢えて、ルシールにした説明と少し違う内容を語った。


 この国が中世から近世初期ほどの学術レベルであるならば、数学者の者達は恐らく二次方程式や微分積分、三角法を使った測量まで理解して使っている可能性が高い。


 しかし、その知識の波及は極一部の者達までで止まってしまっているのだ。


 地球ならば、中世や近世であっても教会などで教育を行なっている筈だが、調べた限りザハウィー教団の場合は違うらしい。


 教育を受けるのは教団の幹部やその子供のみである。


 故に、教団の教えを信じ切っている信者は、私のやっている学校というシステムを理解出来ないのかもしれない。


 私はスティリースの質問を流し、次の授業の準備をして子供達に対して口を開いた。


「さぁ、それでは専門技術の教育を行う。大工技能と狩りの技能を学びたい者は外へ、数学を学びたい者はこの場に残るように」


 私がそう言うと、子供達は元気良く返事をして別れた。残ったのは二十人。やはり、外で身体を動かすような授業の方が人気がある。


 私は苦笑しながら顔を上げると、口を開いた。


「それでは、掛け算と割り算、平面三角法による実際の測量をやってみようか」


 私がそう言うと、子供達は元気の良い返事をして木炭を手にする。


 スティリース達はその様子に今度こそ絶句してしまったのだった。


 授業を終えて分かったことだが、何とスティリース以外は足し算と引き算までしか計算は出来なかったらしい。


 子供達の授業を見て驚く筈である。


 問題が起きたのは最後の道徳の授業の時だった。


 私が神の教えとして、毎回少しずつ教えていることでもあるのだが、ザハウィー教団の信者であるスティリース達には看過できない部分だったらしい。


「神は、他人に優しくし、心から良い事を行えと教えている。殺生、暴力、嘘を禁じ、もし自分が恵まれていると思うのならば、そばにいる恵まれない者へ自分の物を分け与えるように。そして、それと同じだけ、神への献身を忘れないように、と」


 私がそう教えていると、スティリースが片手を上げた。


「おや、どうかされましたか?」


 私がそう尋ねると、スティリースは幾分困惑の混じった険しい表情で私を見た。


「……その教えは、ザハウィー教団の教えではありませんね?」


 スティリースの確かめるような発言に、私は素直に頷く。


「私には記憶がありません。つまり、ザハウィー教団の教えも知らないのです。だから、ザハウィー教団の教えとは少し違うのかもしれませんね」


 私がそう言うと、スティリースは目を鋭く細めた。


「記憶が無い? では、今の教えはどういうことでしょうか? まるで神の言葉を代弁しているような物言いは、明らかに神への冒涜ではありませんか?」


 矢継ぎ早なスティリースの疑問に、私は苦笑しながら頷いた。


「私の頭の中で言葉が響くのです。その言葉の主は私に様々な知識と教えを口にしています。ああ、そうだ。ザハウィー教団の信奉なさる神は、男神でしょうか? それとも女神でしょうか?」


 私がそう尋ねると、スティリースは信じられない者を見るような目で私を見据え、口を開いた。


「……まさか、狂人……?」



さて、ついに現地の宗教が出張ってしまいました!

ようやく、レイジの異能の力が本領を発揮するのか?

それとも、レイジは火あぶりの刑でこんがり焼けるのか?

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