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洗脳学校を作ったということは

 学校の許可が降り、私はさっそく子供達に教育を施した。


 とはいえ、孤児院を手に入れてから徐々に教育をしていたので、読み書きと足し引きくらいの計算は皆それなりに出来てきていた。


 元メイドの女が意外にも教育者に向いており、根気良く読み書きを教えている為、想定より多くの子供達に教育を受けさせることが出来た。


 一部は教育者に憧れ始めたので、人への教え方を学ばせ、実験的に十歳以下の子らの教育を任せてみる。


 残った子らは専門技術の教育を受けて、これから何になりたいかを聞いて進路を決めて行った。


 子供達の進路となる就職先は、以前作った相談所にて相談に来ていた顧客の店や職場である。


 ルシールに不審に思われないように黙っていたが、既に孤児院……いや、私には多くの協力者がいる。


 あの玩具を売る商人の男を筆頭に、大工や農民、狩人、娼婦、中には一部の騎士や貴族関係の者も深い付き合いとなっているのだ。


 働く先などに悩む必要は無い。


 このままいけば孤児院や学校の方は私の予定通り大きく成長し、私が何もせずとも私の教えを信じる者達が増えていくだろう。


 ならば、計画は更に次の段階へと移すことが出来る。


 権力者へと手を伸ばすことだ。


 私はその足掛かりとして人脈づくりに最高の人材であるエドウィーナと話をした。


 貴族のような階級がはっきりとしている世界で、下から話を進めていくのは愚の骨頂だろう。王族であるエドウィーナを使い、エドウィーナの頼みを無下に出来ない程度の貴族から堕とすべきだ。


 私はソファーに座って教育の状況を聞いていたエドウィーナを眺め、口を開いた。


「エドウィーナ王女の御助力もあり、今のところ孤児院も教育も上手くいっております。既に何人かは働き口も見つけ、他の孤児院でも教育は始まっています」


「私の力など、大したことはしておりませんから……それにしても本当に素晴らしいですわ。これでまた新たな孤児達がレイジ様の孤児院に入ることが出来るのですね」


 私の言葉にエドウィーナは照れつつも花が咲いたような晴れやかな微笑みを浮かべ、孤児達の未来を喜んだ。


 それに頷き、私は話を進める。


「つきましては、一般の民の中で教育を受けられないでいる者にも教育を受けさせてあげたいと思います」


 私がそう切り出すと、ルシールが待ったをかける。


「お待ちください。既に問題無く生活している民にまで教育を受けさせる必要はあるのでしょうか。教育とは特別なものと考えている貴族の方もおります。余計な火種を抱えることになりませんか?」


 ルシールにそう聞かれ、私は首を軽く左右に振った。


「先ほども言ったが、教育受けることと受けないとでは選べる選択肢の数が大きく変わる。教育を受けたいのに受けられないという者がいるのならば、私はその者を無視することは出来ない」


 私がそう言うと、ルシールは反論出来ずに口を噤んだ。一方、エドウィーナは嬉しそうな表情で頷いている。


 ルシールの頭にあるのは、変化への不安。エドウィーナの頭にあるのは、変化することへの期待。


 同じ変化でも、受け取り方で大いに違いが出た。


 だが、これがこのメルヴィンク王国という国の在り方に焦点を当てるのならば、ルシールの不安の方が正しいと言える。


 この国はある意味で中世らしい封建制度を敷いている。その王族、各領地を治める貴族、領民、奴隷といった関係性は、特権階級が全てを手にしているからこそ成り立つものでもあるのだ。


 そんな中で私が実行しようとしていることは、領民以下の搾取され続ける予定だった者達に力を与えることでもある。


 何の力か。


 特権階級を上回る可能性のある知識と、自由に未来を選択する意思である。


 知識と意思というものは例え特権階級の者であろうとも奪うことは出来ないのだ。


 そう遠くない未来。教育を受けた最下層の者達から徐々に搾取されることへの疑問が生まれ出し、変化を求める声が大きくなっていく。


 その時、誰が彼らを纏めるのか。


 教育を施した私である。


 国が無視できないだけの力を集めた時、私はまた一つ計画を前に進めることが出来るのだ。


 私は来たる未来に密かに口の端を上げ、エドウィーナに頭を下げた。


「お願いします、エドウィーナ王女。費用はこちらで負担します。誰でも受けることが出来る学校を認めてください。そして、孤児院で誰もが教育を受けることが出来るようになったと、宣伝をしてもらいたいのです」


 私がそう言うと、エドウィーナはあっさりと頷いて胸の前で拳を握った。


「はい、さっそく父上に話をして参りますわ! 皆がやりたい事を出来るようになれば、きっと王都に活気が戻りますもの!」


「ええ。孤児達がどんどん自立していけば税収も増えるでしょうし、消費も確実に増えます。誰もが充足感を持って働けたなら、絶対に王都の景気は上向くでしょう」


「はい!」


 私とエドウィーナがそんなやり取りをしていると、ルシールが静かに頷き、口を開いた。


「……成る程。確かに働く人が増えたなら物が動き、金銭も動きますね。しかし、孤児達以外にも教育をすると仰るのならば、教育の内容を調べる為に誰かが派遣されてくるかもしれませんね」


 ルシールがそう呟くと、エドウィーナは面白そうにルシールを見る。


「まぁ! レイジ様が教育をなさるのにそんな心配なんて必要ありませんわ! むしろ、貴族の嫡子にもレイジ様の教育を受けたいなんて話が出てもおかしくありません。ルシールは心配性ですね?」


 エドウィーナはそう言って、困った妹を見るような目でルシールを見て笑った。


 私はルシールに顔を向けると、柔らかく微笑む。


「是非こちらからもお願いしたいくらいだ。私の教育を貴族の方々にも聞いてもらえるのなら有難いことだし、それが切っ掛けになって貴族の間でも孤児の存在を肌で感じる人が現れるかもしれないからね。勿論、良かったらルシールも私の教育を受けてくれて構わないよ?」


 私がそう言って笑うと、ルシールはムッとした顔で顎を引いた。


「残念ですが、勉強する時間がありませんのでお断り致します」


 ルシールがそう言うと、同じく学校でゆっくり授業など受ける暇の無いエドウィーナが嘆きの声を上げた。





 後日、メルヴィンク王国初の誰でも教育を受けることが出来る学校が誕生した。


 エドウィーナの宣伝の効果もあり、私の作った学校はあっという間に知れ渡っていき、連日新たな生徒が私の下へ現れることとなった。




次回、レイジに敵が現れる…!?


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