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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー最後の教えー
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第九十五話 嵌められた罠

 貧民街に着くと、アーツバスターたちは見つかった!! 応戦しろ。

 と言わんばかりに、交戦を開始してくるのであった。


「……確かに怪しいですわね」


 言葉を漏らし、セルビアは戦況を後方で観察しながら作戦を練り始める。

 アーツを使えない戦闘は、剣と剣のぶつかり合い事が殆どである。

 斬られては倒れ、斬っては進み……

 地獄絵図とも思える場所でセルビアは、目を逸らさずに戦況だけを読み取る。

 一刻も戦闘を早く終わらせる為に……


 そんな時、ふと違和感をセルビアは覚えた。

 一箇所だけ、アーツバスターたちの出入りが激しい場所を見つけたのである。


「あそこに攻撃を集中させて下さい」

 迷う暇はなかった。

 迷えば、余計に戦闘を長引かせてしまう。

 これ以上長引かせる事は愚策。

 セルビアはそう感じていたのである。


 確かに一か八かではあった。

 だが、そこにアーツバスターたちを指揮している者がいるのではないか? セルビアはそう答えを導きだしたのであった。




 そして、セルビアの判断は結果的に正しかった。

「支部長当たりのようです」

「……と言いますと?」

「屋敷に突入と同時に、正気が抜けたかのように干からび突入部隊は次々と倒れて行っております」

「……」

 正気が抜けたかのように倒れている。

 そう報告を聞いたセルビアは、厄介ですわね。と誰にも聞こえないぐらい小さな声で呟き、セルビア自らも屋敷に突入する事を決意したのであった。

 だが、報告してきたアーツハンターはそれを制止してきたのである。

「危険ですよ!!」

「ここは戦場と化していますわ。どこにいようと危険なのは変わりありません」

「ですが……」

 話しを続けるアーツハンターの言葉を、無視し屋敷に足を踏み入れた瞬間。

 正気のアーツはセルビアを襲う。

 だが、それと同時に見覚えのある気配にセルビアは後ろへと後退。

 正気のアーツに触れる事はなかった。

「この感覚……まさか!?」

 セルビアの言葉と同時に、雷電のアーツが大きな音を立て屋敷に直撃。

 一瞬にして瓦礫の山へと化していくのであった。


「……」

 だが、セルビアの前に雷電のアーツを発動させた者は現れる事はなかった。

 そもそもセルビアの前に現れたらどうなるか。

 彼はわかっていたから……

(わたくし)は、あなたに会いたいのかしら? ベイウルフ……」

 胸の奥底に眠る想いを、静かに感じ取りながらセルビアは跡形も失くなった建物を、ただ黙って見つめていた。


 アーツハンター協会屋根の上にてーー

 ベイウルフの手の掌はプスプスと煙を上げていた。

 遠巻きではあるが、ベイウルフはギレッドの指示通りに貧民街に置いて一番大きく怪しいと思った所を、雷電のアーツで雷を落としたのであった。

 微かに感じるセルビアの感覚にベイウルフは、会いたい気持ちと会いたくない気持ちに挟まれていた。

 だがそれも束の間だった。

 ローラの気配が急速に失っていくのを感じていたのであった。

「オイオイ……マジかよ……」



 ーーーーー



 一方屋敷にいたミステリアと言えば、間一髪ゲートを通りガーゼベルトから脱出を図っていたのである。

 これは、貧民街にアーツハンターが視認する事が出来た時点で、何が何でもガルガゴス帝国に撤退しろ。

 とドランゴは指示を出していたのであ。

 ミステリアスは、ただその指示に基づいての行動しただけであった。

 その結果ミステリアは、雷電のアーツで死ぬ事はなかったとも言える。


 だが、ミステリアもただ逃げ帰るつもりはなかった。

 一瞬だけ己の力を最大限にまで高めた正気のアーツを発動。

 突入して来たアーツハンターを、一網打尽にする事が出来たのである。

 焰のアーツ使いが屋敷の中に入って来た時、正気を吸い取ってから脱出しようと思っていたのたが、触れる事なく突然後退してしまった為、ミステリアも深く追及せずに撤退をしたのであった。

「先ずはドランゴに会わないとね……」

 ミステリアは、検討がついているかの如く歩き始めたのである。



 屋敷が堕ちたのと同時に、アーツバスターたちの指揮は忽然と失ったかのように散り散りと散って行き、ゲートを使ってガーゼベルトから撤退を開始し始めたのである。

 これもドランゴの指示通りであった。

 アーツハンターの被害は甚大に……

 こちらの被害は少なく……


 中には、頭に血が上った一部のアーツハンターたちは叫ぶ。

「俺はこのゲートに入る」

「おいっやめろって!!」

「そうだ、無茶だ!!」

「このまま黙って見ていられるかよ!!」

 一人のアーツハンターは勇敢? 無謀とも思える程の行動を取ろうとしていた。

 男は、やりたい放題やって逃げ帰るアーツバスターたちが許せなかったのだろう。

 自らも敵地に乗り込み、反撃したい。

 仲間のアーツハンターたちに話しを持ちかけたのだが、無謀だと言われていたのである。

「俺だけでも行くっ!!」

 男は、仲間の制止を振り切りゲートの中に入って行ってしまったのであった。

 ……当然、ゲートに入った男は無事戻って来る事はなかったのである。



 これは、ローラからの明確な命令が彼らに伝わらなかった事が、原因と考えられていた。

 ローラは、戦況が変わるとすぐに的確な指示を伝達してくるのだが、この時だけ指示が入らなかったのである。

 らしくない指示系統に、アーツハンター協会の前で戦闘を行っていたギレッドは、ローラの異変をいち早く感じとる事が出来たのであった。


「……暫しここを頼む」

 返事も聞かずにギレッドは、アーツハンター協会内部に入って行くのである……





 協会の内部は、不気味な程静かだった。

 ここには、ローラと幹部数名を残し全てのアーツハンターたちは出払っている。

 確かに静かなのは当然。

 だが、逆にギレッドの長年の勘は冴え渡っていた。


 ローラが危険と……


 ドアをぶち壊す程の勢いでギレッドは、ローラがいると思われる元へと駆け抜けて行く。

 自分の自身の杞憂であってほしいと願いながら……


 しかし、ギレッドの願いは無残にも崩れ去って行くのであった。

 ローラの部屋を開けた時、心臓に剣が突き刺さり血まみれになっているローラ。

 そして、不敵な笑みを浮かべながらローラに剣を突き刺している死神が、立っていたのであった。


「きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ギレッドは叫ぶ。

 だが、死神は変わらずクスクスと笑いギレッドの到着を待っていたようにも見えた。

「残念……でしたぁ〜」

 死神は面白半分に、まるでギレッドをからかうようにあざ笑っている。

 ローラは虚ろな目で、一度だけ最後の力を振り絞るかのようにギレッドを見つめ、口を動かす。

 そして、その動きを静かに停止させたのであった。


「ローラに何をしたっっ死神ぃぃぃぃ!!」

「随分と野暮な事を聞くんだね? ご覧の通り、暗殺成功だよ」

「くっそぉぉぉぉぉぉ」

 ギレッドの拳は、死神には当たらない。

 残像を殴っているような感覚を、ギレッドは感じてしまうのであった。


 死神はそっとローラを床に置き、慈しむかのようにその見開いた瞳を閉じていくのであった。


「永遠におやすみ」

 突き刺さった剣をローラから引き抜いた剣を、死神はギレッドへと向ける。

 ローラの血をつけたまま……


「所でさっルーク少年は今どこ? 僕が感じ取れない場所に連れて行ったでしょ?」

「答える気はないっ!!」

 死神とギレッドの間に沈黙が流れる。

 この時、死神は何を考えていたのかギレッドにはわからない。

 だが、ギレッドは後悔しても後悔し切れない程の後悔に、押しつぶされそうになっていた。


 あの時……

 メシュガロスで無理矢理でも、死神を倒しておくべきだったと。


 すまぬ、ローラ!!


 ギレッドは心の底からローラに、詫びを入れていたのであった。


「そっか……ならば、本人の意思で出て来てもらう事にするかな」

「なんじゃと?」

「やり方は幾らでもあるしねぇ」

 死神は、クスクスと笑いその姿を消して行くのであった。


「貴様どこまで、人をあざ向けば気がすむんだっ!!」

「……それが僕の与えられた仕事だしねぇ〜」


「あっそうそう僕からの最後の忠告。せいぜい頑張ってね♪」

 意味深い言葉を残し、死神は何処かへと行ってしまうのであった。

「死神ぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 ギレッドは死神を追えなかった。

 気配がないのだ。

 追えるはずもない。


 行き場のない怒りをギレッドは、拳に込め八つ当たりとも言える程の破壊力で壁を殴りつけ天井諸共壊していくのであった。

 瓦礫が降り注ぐ中、ギレッドは自らが壊し出来上がった空を見上げ拳を力一杯握りしめながら呟く。

「許さん!!」

 とーーーー



 歯がゆさの中、いつまでも悔しがっている場合ではなかった。

「ふぅぅぅぅぅ」

 抑えきれない怒りを溜息をつく事で吐き出し、ギレッドはローラの元へと歩み寄るのであった。


「……ローラ?」

 ギレッドの声に、ローラは動く事はなかった。

 まだ肌は暖かく、ギレッドの名を顔くしゃくしゃにして喜びながら呼んでくれそうな。

 そんな顔をしていたのであった。

「ローラ、儂じゃ。返事を……」

「……」

「ローラァァァァァァァァァァ!!」


 ギレッドの声はアーツハンター協会内に響き渡る程、声を張り上げていたのであった。

 その姿はもしかしたら、泣いていたのかもしれない。



 コツン……


 瓦礫を誰かが踏んだ音に、ギレッドはその方向へと振り返る。

「誰じゃっ!!」

 そこには、茫然と立ち尽くすアーツハンター協会副会長シドニー・ラーニアと、警備兵連隊長 ユンム・ラブウムの姿であった。

 ユンムはギレッドと目があった瞬間叫び出す。

「ギレッド・フォン・ゼーケ!! ローラ会長から今すぐ離れなさい!!」

 ユンムはギレッドに心臓のアーツを発動させながら、そう命令してきたのであった。

「なぜ、貴様如き青二才が儂に命令をするのじゃ?」

 ギレッドの一睨みに、ユンムは蹴落とされて行く。

 腰を抜かし座り込まなかっただけ、流石は幹部の一人。と言った所だろうか?


 ユンムの姿を見ながら、シドニーは動じる事なくあくまでも冷静にギレッドを諭すかのように語りだすのであった。

「ギレッド殿、あなたにはローラ会長殺しの容疑者として連行したします」

「おいおい、冷静に考えてみるのじゃ? 儂がローラを殺す訳もないし理由もないじゃろが?」

「言い訳は、後で聞きます。取り敢えず大人しくして頂けますか?」

「……言い訳じゃと? なぜ儂が言い訳をせねばならん。ローラを殺ったのは別な人物じゃぞ?」

「では、その人物はどこにいるのですか?」

「……」


 殺した者は儂の目の前で消えた。


 ギレッドは素直にそう応えたかった。

 いや応えても良かった。

 だが、普通に考えて他の者に、そんな話しをした所で納得する事が出来るだろうか?

 現にこの場には、ギレッドしかいない。

 ローラは倒れ、すぐ側にはギレッドがいる。

 二人の目にはギレッドがローラを殺した。

 そう見えたのかもしれない。


 黙っているギレッドに対して、シドニーは追撃をかけてくる。

「答えられないですか?」

「貴様は、儂の言葉に耳を貸すかのぉ?」

「無論ですとも……」


 いけしゃぁしゃあと嘘をつきおるわい。


 ギレッドはシドニーを見つめながら、そんな事を考えていた。


 元々、シドニーはギレッドの事を嫌っていた。

 幹部だけの会議中にも関わらず、ギレッドはズケズケと会議室に乗り込み何度も批判の声を繰り返し、あまつさえその資格すらないのに意見を述べる場面も幾度もあった。


 立場をわきまえるべき。


 とシドニーとユンムは声を挙げていたのだが、ギレッドの戦歴と経験は誰も越える者はおらず、何も言えない状況に気にいらず消えてくれでばいいのに……

 とさえ思っていたのであった。


 更に、ローラの指針方針の考え方に対して幾度もシドニーは対立していた。

 シドニーはもっと積極的にアーツバスターたちと戦い、ガルガコス帝国に侵入すべきである。

 とローラに申告してきていたのであった。

 仲間の屍を越えた先の勝利など虚しいだけ、今はゆっくりと着実に進むべきと言い、ローラはシドニーの申告を却下し続けていたのである。


 シドニーにとって、この状況は邪魔者二人を一気に消し去る絶好の機会とも言えたのである。


「それにギレッド殿。あなたには、ローラ会長殺しの他にももう一人嫌疑がかけられております」

「……なんじゃ?」

「とぼけないで頂きたい。あなたが、アーツバスターをガーゼベルトに導き今回の騒動を引き起こした張本人である」

「……」

「と言う嫌疑ですよ」

「それは全くの誤解じゃな。儂は、メシュガロスでドランゴと戦っておった」

「それも作戦のうちだったのでは?」

「……」

 この状況下で最早何を言ってもシドニーはギレッドを信じないし、自由にさせるつもりもない。

 それと同時に、去り際に言っていた死神の言葉をギレッドは思い出していた。


『……まぁせいぜい頑張って』


 その言葉を聞いた時、妙に含みのある言葉だな? とは確かに思っていた。


 そして、機を狙っていたかの如くこの場に現れたシドニーとユンム。

 ローラ暗殺殺しの容疑者に、この騒動を起こした張本人。

 そして死神の言葉。

 疑問のピースを一つずつ当てはめて行くと、ギレッドの疑問は全て一瞬にして答えを導きだしくれた。


 儂は、死神に嵌められた。


 と……

 ギレッドは、そう結論を出してたのであった。


 そうなれば、考えている時間は早々残されてはいなかった。

 早急にギレッドは決断しなければならない。

 今この場で大人しく捕まるか、それとも逃走するか……

 二つに一つであった。



 儂が大人しく捕まれば、確かにシドニーは形だけでも話しは聞いてくる事だろう。

 だが、結局の所死神を捉える事は出来ぬまま……

 儂はその間ずっと牢屋に入れられたまま。

 そして、終いには儂の話しは全て嘘であった。

 という風にシドニーは無理矢理まとめ上げ、状況証拠のみを逆手に取り儂を処刑する事じゃろうて……


 ローラは、浮かばれまい……


 ならば、逃げるか?

 逃げれば儂は、シドニーの目の前に死神を連れて行かぬ限り、汚名を着せられたまま。

 最悪の場合、儂を生死を問わずで指名手配するかもしれんのぉ。


 だが……どの道残されているのは、死のみか……

 ならば、最後まで儂は儂らしく生き、未来の為に死神を刺し違えてでも倒す!!


 ギレッドはこの時、開き直る事が出来たのかもしれない。


 そう……

 選んだ選択肢は、逃亡だった。



「では、ギレッド殿よろしいですね?」

 シドニーはギレッドを捕まえようと近づいてくる。

 だが、ギレッドは衝撃波を展開させシドニーを近ずく事を拒んだのであった。


「ギレッド殿!!」

「シドニーよ。儂は大人しく牢屋に閉じ込め生を終える気は毛頭ない」

「逃げると言うのですか? それはローラ会長を、殺したと自ら認める事ですぞっ!!」

「……シドニーよ。儂はお前たちがここに来た。それすら怪しいと思うぞ?」

「なっ何を馬鹿なっ」

「お前たちは儂を嫌い、ローラを会長の座から降ろしたかったからのぉ〜」


「変な言いがかりはつけないで頂きたい!!」

 ユンムの叫び声に、ギレッドはギロリと睨みつける。

 こいつこそ一番素性が知れず怪しい。

 とさえギレッドは感じていたが、今は問い詰めている場合ではなかった。

 流石のギレッドもこれ以上幹部の人間が集まってしまえば、逃げ切る事は至難の技となってしまうからである。

 腐ってもアーツハンター協会を束ねる幹部。

 それなりの攻撃力はもっているのである。

 だからギレッドは、幹部たちが集まる前に逃走する。

 と結論をだしたのである。


「儂は無実じゃ、どこに行こうが儂の勝手じゃ」

 そう言ってギレッドは、両足に衝撃波を発動させ空高く逃げ出して行くのであった。

 ベイウルフと目と目が合ったギレッドは、有無を言わさずその襟首を掴み取りその姿を消したのであった。



「あっ!!」

 ユンムの悔しそうな顔を見ながらシドニーはほくそ笑む。

 計画通りと言わんばかりに、速攻アーツハンターたちに告知を発令したのであった。


『長き数日間に渡ったアーツバスターによる、ガーゼベルト襲撃事件は終息した。

 協会本部は陥落せず、またアッシュ王が住む場所も持ち堪える事が出来た事を、誇りに思う。

 だが、嬉しいことばかりではない、悲しい知らせもしなければならない。

 今回の実行犯を我々は把握している。

 その名は、ギレッド・フォン・ゼーケ。

 可の者はローラ・フォン・ミステリアを殺害し現在逃亡中である。

 アーツハンター協会会長代理(・・)シドニー・ラーニアは、ギレッド・フォン・ゼーケに対しSSアーツハンターランクを剥奪。

 彼をアーツバスターと認識、生死を問わず指名手配とする』


 その告知は、瞬く間に全地域を駆け巡ったのである。



 メシュガロスで、状況把握が出来ない状態ではあったマーシャルだったが、信じる事はなかった。

 ロールライトで、セルビアの代わりに動き回っているアルディスも、幹部は何を馬鹿な事を言っているんだ。と言い信じる事はなかった。


 ギレッドの弟子だった者、ギレッドを知る者。

 全ての人間は誰一人として、シドニーの告知に信じる事はしなかった。


 ギレッドに直接あって真実を確かめたい。

 力に慣れるのなら、恩返しがしたい。


 皆の思いはただ、それだけだった。




 そして、ガルガゴス帝国では……

 死神はクスクスと笑っている。

「邪魔者はこれで一人消えるでしょぉ〜その前に現れるかなぁ〜」

 ドランゴは、療養中の場所でミステリアと合流し事の出来事を聞かされていた。

「……そうか」

 とだけドランゴは言葉を発していた。




 セルビアもガーゼベルトで直接シドニーからその話を聞かされ、討伐、もしくは捕縛せよと命令されたのであった。

 命令されでば、セルビアに拒否権はないのである。

「シドニー会長代理(・・)……(わたくし)にもまだやるべき事は残っておりますわ」

「では、拒否すると言う事か?」

 本心を言えばセルビアは拒否したかった。

 だが、何を言ってもシドニーはギレッドの無実を認めない。

 ならば、形だけでも受けようと思った。

「そうではありません。師匠を探す前にどうしても会いたい人がいます。(わたくし)はその人と共に一緒に赴きたい。ただそれだけですわ……」

「わかった。だが、いつまでも野放しにするわけにはいかない。早急にその会いたい人と会い捕獲しろっ!!」

 シドニーは吐き捨てるかのようにセ、ルビアに言い放ったのであった。

 セルビアがギレッドの事を師匠(・・)と呼んだのが気に食わなかったらしい。

 肩を竦めながらもセルビアは、怒りながら去りゆくシドニーに後ろ姿を見ながらそう感じずにはいられなかった。






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