第八十四話 新たなる力
「一ヶ月後、我々はメシュガロスに向かいます……」
司令官室に呼ばれた俺は、マーシャルの口からそうはっきりと聞いたのであった。
メシュガロス……
ラッセル以上に嫌な思い出のある場所……
これまた、行きたくない場所No.1かもしれない。
「でも、今回に限ってルーク坊ゃに選択してもらって構わないと私は判断しています」
「えっ!?」
「ラッセルだって本当は、来たくなかったのでは?」
「……」
確かにマーシャルの言う通り来たくはなかった。
でも、それは俺が判断して決めた事。
だから後悔はしてはいなかった。
「このまま、ここに居てもいいし。ロールライトに帰還しアーツハンターとして依頼しながら、地道にランクを上げる日を過ごす。と言う道もあるわ」
「……」
「どちらの道を選んだとしても私は、幹部の誰にもルーク坊ゃを責めさせる事はさせないわ……」
「……」
「だから自分の意志で決めて。メシュガロスに行くか行かないか……それとも……」
「俺の意志で……」
そう言われても……困る。
「幸いまだ時間があるから、ゆっくりと考えて見て」
「はい……」
その場で即答出来なかった。
メシュガロスに行けば必ずドランゴがいる……
俺はまだ、ドランゴに勝てる程の力を持ち合わせてはいない。
それに実際……
ドランゴには会ったら、今度こそ無理矢理アーツバスターにさせられそうで怖い……
と言うのが本音だったと思う。
「で、儂は何をすれば良いのじゃ?」
「ギレッド殿には、アーツハンターたちの戦闘訓練をみっちりとお願いしたいですわ」
「ふむ、みっちりとでいいんだな?」
「はい♪」
マーシャルとギレッドのやりとりは、妙に含みがあって逆に怖かった。
そもそもギレッドは、なぜここにいるのだろうか?
「あの……ギレッド先生は今まで何をしていたのですか? 行方不明と教えられていたのですが……」
「聞きたいか?」
その質問にギレッドは、ドヤ顔で話し始めた。
俺をメシュガロスから救い出したのちギレッドは、幹部たちの不甲斐なさに憤慨し旅に出た。
あの時点でもかなり強かったと言うのに、更なる武者修行の旅に出たそうだ。
それも、ヴィンランド領ではなくガルガゴス帝国領を……
俺にはそれだけで、ギレッドの旅していた軌跡は雲の上の話しのように聞こえた。
「ガルガゴス帝国領は、ここよりも遥かに貧困だった。奴隷の扱いも酷いもんだ……」
そうギレッドは、遠くを見るように呟いていた。
そんな時……
ラッセル完成の話しを聞きつけたのである。
幾ら見切りのつけた幹部たちとはいえ、ラッセルを放置しておく馬鹿な愚行はしないだろう。と考え、ヴィンランド領へ帰還する事を決意。
情報を正確手に入れる為、ギレッドはアーツハンター会長ローラと再会をするのであった。
ローラからもたらされた情報に納得したギレッドは自らも動こうとした。
そんな時、破壊力抜群の前衛の登場にローラの悩みは一気に払拭されて行った。
ローラの中で、メシュガロスを取り戻そしたいと言う願いはずっと秘めていた。
メシュガロスがアーツバスターの手に陥落してからと言うもの、ヴィンランド領へのアーツバスターの侵攻が激しく、戦力は減る一方であった。
ラッセル解放はローラにとってついでとしか言えなかった。
ローラのド本命は、メシュガロスなのだ……
だから、ローラはマーシャルが出発する際、さりげなく次の作戦について伝えていた。
だが、それでもメシュガロスにはドランゴと言う最強のアーツバスターがいる。
彼を倒さぬ限り取り戻す事は、不可能であった。
俺にドランゴと対峙させる……
とも考えた事がある。
運良く倒す事が出来たとして、無傷で生還出来るとはとても想像は出来なかった。
最悪の場合、相討ちを果たしてしまえば……
将来アーツバスターを倒すであろう力を永遠に失ってしまう。
と感じローラは、ラッセル解放作戦は成功したと言う報告を手にしたが、次なる作戦を決断するのをためらいマーシャルに命令書を送れずにいた。
そんな時に、ギレッドの帰還は実に頼もしかった。
現役最高峰と言われるまでの男……
更に強さに磨きをかけ舞い戻って来たギレッドを見てローラは決断した。
メシュガロス奪還作戦を……
作戦を一ヶ月後と設定しておけば、ギレッドは勝手にアーツハンターたちを強化してくれる。
そして、自ら進んでドランゴと対峙してくれる。
手のひらで踊らされているような気もしたが、ギレッドはローラから発動された命令書を持ちマーシャルのいるラッセルへと赴いたのであった。
「ドランゴとは儂が戦う。あやつには色々と貸しがあるしの……」
ギレッドは今か今かと待ちわびているかのように、その瞳は静かに燃えていた。
“ギレッド先生とドランゴの一騎打ちか……見てみたい気もするな”
◆◇◆◇◆
「次、かかってこい!!」
「うぉりゃぁぁぁぁぁ!!」
「まだまだぁぁ!!」
闘技場では、ギレッドによる激しい訓練が行わられていた。
俺は観客席の椅子に座り、それを眺めながら考え事をしていた。
“どうするべきか……”
本心を言えば、メシュガロスにドランゴがいる以上行きたくはない。
だが、ギレッドとドランゴの戦いを見たいと言うのも、本心だった。
セルビアに相談した所で、答えがでる訳でもなく……
ただひたすら溜息しか出なかったのであった。
「何をそんなに悩んでいるんだ?」
声のする方に振り返るとそこにはブリュットがいた。
「ブリュット……」
ブリュットは俺の横に座り、俺と同様に闘技場での戦いを観戦し始めた。
「あのギレッドって人強いなぁ〜」
「昔っから強いのに、更に破壊力抜群になっているよ……」
「あの人もメシュガロスに赴くんだろ?」
「うん」
ブリュットは知っていた。
これから先の方針を……
多分、マーシャルが話ししたんだと思う。
ブリュットはこれから先、どうするんだろう?
「強い人がいるのになにを、そこまでお前を悩ませているんだ?」
「……う〜ん」
即答出来なかった。
言ってしまえば、俺の不安が現実に起きそうな気がして……
考え過ぎなのかもしれない。
でも、何だろう。
メシュガロスに行けば、不吉な事が俺にもギレッドにも舞い込む……
そんな気がしてならなかった。
ーー考えても今すぐ結論は出なかった。
幸いまだ時間はある。だから、もう少し考えようと思い俺はブリュットに別な話しを振った。
「所で、ブリュットはこれからどうするの?」
「俺か? 俺は、アーツハンターになろうと思う」
「!!」
全く予想していなかった言葉が出てきた。
「アーツハンターに?」
「あぁ……マーシャルさんが俺に言ってくれたんだ。過去の辛い体験を糧にし、アーツハンターとなりて自らの未来を切り開けって……」
“随分、カッコいい事を言ったなマーシャルさん……”
「それに、必要な手続きとか全てマーシャルさんがやってくれるんだって」
「へっへぇぇ……」
「だから、手続きが終わり次第俺はガーゼベルトに行く」
「……そっか」
嬉しい事だけど、それはそれで少し寂しい気もした。
責めてメシュガロスに出発するまで、ブリュットも居ればいいのに……
「それでさっ……置き土産って訳じゃないんだけど……」
「んっ?」
ブリュットは気まずそうな顔をしながら、手のひらサイズの小さな不死鳥を俺に見せて来た。
「これは、ブリュットの不死鳥?」
「あぁ、そうだ」
“なぜ、このタイミングで不死鳥を??
置き土産にそいつで俺を焼き殺して行くって事か??”
「実はこいつがさっ、お前の中で生きたいと言い出したんだ……」
「はぁぁぁぁ?」
ブリュットの手のひらにいる不死鳥は、パタパタと羽を羽ばたかせ俺に『よろしく』と言っているように見えた。
「俺の中で生きたいって……いつか焼き尽くしたいって事?」
「いやいや、そうじゃなくて……ルークの力の一部になりたいんだって」
「力の一部?」
「うん。ルークの中は居心地がいいから、ずっと居たい。その変わり力を貸すってさ」
ブリュットの話しに合わせるかのように不死鳥もまた、パタパタと羽を動かしていた。
……って言うか、今まで散々俺を焼き殺そうとしていた不死鳥を、受け入れる事なんて出来る訳がない。
ここは丁重に断ろうと思った。
だが、不死鳥は断る前に勝手にブリュットの手から離れ、俺の身体の中に消えてしまったのだ。
「「あっ!!」」
「悪い……勝手に……」
「ちょ……ブリュット!?」
狙ったんじゃないのか? と言わんばかりのタイミングに思わず、ブリュットを睨みつけてしまった。
「俺、不死鳥にやっぱ殺されるのか??」
「いやいや、それは大丈夫だから。ちゃんと力を貸すって」
「……本当?」
「あぁ、ちゃんと証拠もある。左手のアーツ見てみろ」
促されるがまま、左手を見てみると。
ボロボロだった手袋は、銀と赤でカッコ良く装飾された手甲へと変化。
これだけで防御面は、かなり頑丈になった印象が受けた。
更に手甲の真ん中には、黒のアーツが力強く黒光りに光輝き。
不死鳥はその中で、嬉しそうに極々小さく羽ばたいていた。
「……黒のアーツの一部になって、力を貸してくれるって事?」
「そうだ」
「力を貸すから、その報酬に俺をいつか焼き殺すって事?」
「違うって!!」
「こんな事、初めてなんだけど……純粋にルークの力になりたいんだって」
「……」
“信じられん!!”
手袋がカッコ良くパワーアップしてくれたのは、素直に嬉しいと思う。
でも、不死鳥が俺に力を貸す?
本当か!?
隙をついて俺を焼き殺すんじゃないのか?
そんな不安になるような物、いらない……
今すぐ出て行ってほしいぐらいだ。
「ブリュット……追い出す事は?」
「どうしてもと言うのなら、引き離すけど……絶対ルークを焼き殺さないから、しばらくの間不死鳥を信じてやってくれよ」
「むぅぅ……」
ブリュットの申し訳ない顔と暫くの間だけ…と言う事で結局折れてしまった。
“頼むから本当に焼き殺さないでくれよ……”
それだけを俺は願っていた。
ブオォォォォォォンッ!!!!
突如俺とブリュットの間を衝撃波が通り、観客席を破壊。
互いに顔を見合わせる事しか出来なかった。
後数センチずれていたら、どちらかが大怪我していた所だ。
「ギレッド先生!! 危ないですよ!!」
俺が叫ぶとギレッドは高々とジャンプ、俺たちの目の前に急降下して来る。
ドシーーーーン!! と激しい音を立てながら……
そして、腕を組みふんぞりかえりながらギレッドは言い放った。
「儂が相手してやる!! 二人共本気でかかってこい!!」
もうこうなっては手遅れだ。
俺もブリュットもギレッドが満足するまで戦わなければならない。
セルビアが裸足で逃げ出す光景を、思い出しながらなぜ俺は観客席に居たのだろうか……
とひたすら後悔した。




