第八十三話 懐かしの師
突如、現れた紅炎に身を包まれているのにも関わらず、俺の意識ははっきりとしていた。
骨の髄まで焼かれるような感覚だったのが、今はなく。
むしろ、力が溢れ出てきているように感じた。
今なら俺の意志で、紅炎を操る事が出来るのではないか?
そんな気がしてならなかった。
左手の掌に意識を集中させて行くと、小さな炎は出現しゆっくりと回転し始める。
クルクルと回転している所に、更に反対方向に炎を展開させドンドン回転を加えて行く。
幾度も回転を繰り返して行くと、乱回転した炎の塊が出来上がって行き更にそこからギュッと圧縮するかのように力を込めると、小さな小さな炎の塊が出来上がっていった。
俺には、破壊力抜群に思えた。
“すっげぇ〜”
出来上がった炎の球を見つめていると、試し撃ちがしたくなる衝動に駆られた。
目の前にはラグナスが居て、目が合うと何か一生懸命俺に話しかけているように口を動かしてはいたが、何を言っているのか理解する事は出来なかった。
今の俺には、ラグナスの言葉は何一つ届いてはいない。
出来上がった炎の塊を、ラグナスに向けて行く。
そして……
“焼き尽くせ!!”
と俺は念じた。
キュィィィィィィィィンッ!!
と音を立て炎の塊は、ラグナスに向かって放たれて行く。
「!?」
地面に衝突した音と、炎が溶けて蒸発して行く音……
ラグナスには回避されてしまったが、直撃した地面には小さなクレーターが出来上がっていたのだ。
更に炎の塊は、ラグナスの身体の一部を少しだけかすって行ったみたいだ。
右肩の甲冑は溶け、煙を上げながら肌を露出させていた。
「中々いい攻撃だが、お前その状況少しヤバくないか?」
ラグナスの冷静な分析だった。
“何がヤバイのだろうか? 俺は今一番高揚し、とても気分は良いのに……”
先程までは全く周りの声は聞こえていなかったのだが、突然聞こえるようになっていた。
多分、先程炎を放出した事で俺の中にある紅炎が、少し減ったのかもしれない。
“……なんか黒のアーツ以外の攻撃って嬉しいな。もっと色んなのを試したい”
ラグナスの顔を見ながら、今度はもっと大きな炎を形成し始めようとすると、聞き覚えのある声が俺を制止させた。
「ルーク坊ゃ!?」
「おいっ、ルーク! もう辞めろ!!」
ブリュットとマーシャルの声だった。
どうやら、マーシャルとの話は終わりこの騒ぎを嗅ぎつけたみたいだ。
しかし……
“なぜ、辞めるの? 折角素晴らしい力を手に入れたのに?”
「そのままじゃ、お前!!」
「!?」
マーシャルはブリュットを問い詰めていた。
「ブリュット坊、ルーク坊ゃの身に何が起きているのかわかるのね!? 説明して!!」
「うっ……」
「手遅れになる前に……!!」
「……」
ブリュットはマーシャルの質問に、気まずそうに答えたのである。
「俺はこうなるのではないかって、薄々気がついていたのです」
「どう言う事ですの?」
「……決勝戦で俺が放った不死鳥は、まだあいつの中にいるんです」
「!?」
ブリュットは俺が連日、苦しんでいた理由について実は心当たりがあった。
己の出した命令を最後まで遂行しようと不死鳥は、紅炎を纏い今も尚、俺を焼き尽くそうとしている。と……
ジワジワと嬲り殺すかのように不死鳥は駆け巡る。
その度に俺は、熱さに苦しみ耐え続けていた……
「要するに紅炎の残り火って言った所かしら?」
「……はい」
マーシャルのブリュットを責めなかった。
ブリュットを攻めた所でどうにかなるとは思えなかったのだ。
ならばどうすれば救う事が出来るのか?
ただ、それだけだった。
「それで、ブリュット坊、どうすればルーク坊ゃを救えるのかしら?」
「……」
マーシャルの問いにブリュットは、黙って首を横に振り始めた。
そう、ブリュットは原因を知っていたが、解決方法は知らなかったのだ。
「こんな事は初めてで、どうすればいいのか……」
ブリュットは全く検討が、つかなかったのである。
「わからないのね……」
「はい……すみません。でもこのままじゃあいつ死んでしまいます!」
「どう言う事ですの?」
一見、紅炎は落ち着いているように見えるが、実はそうではなくただの沈黙状態……
再び紅炎は、目覚める。
その時、不死鳥は激しく燃え俺の存在自体影も形も残さず消滅させてしまうらしい……
マーシャルは、考えた。
どうすればこの状況を打破する事が出来るのか?
そして、導き出された答えはブリュットを危険に晒す物であった。
でも、マーシャルは迷わなかった。
影も形も残さずに消え去ってしまえば、マーシャルの持つ月光のアーツの力を持ってしても回復は不可能である。
だが……
消え去らなければ、命だけは繋ぎ止める事は出来ると考えたのだ。
マーシャルは一度顔を落とし、目を瞑る。
再び目が開いた時、マーシャルは決意した。
「ブリュット坊……危険を承知で言ってもいいかしら?」
「はい……?」
マーシャルの提案は、ブリュットを困らせた。
不死鳥はブリュットの意志に寄って生み出された物。
ならば、再びブリュットの意志が不死鳥に伝わればいいのではないか?
更にマーシャルは続けた……
ブリュット自身が俺に側に行き、アーツを発動させ紅炎を鎮火させろと……
「……」
「上手く行く確率はわかりません。ですがこのままではルーク坊ゃは確実に死んでしまうのですよね?」
「はい……」
「ならば一か八か、やって見て頂けるかしら?」
むしろ行け!! と言わんばかりの迫力を漂わせマーシャルに対し、ブリュットもまた決断を迫られていたのであった。
。
ブリュットは激しく燃え上がる紅炎を見て、自殺行為だな。
と思い生唾を、飲んでいた。
だが、それも悩んでいる暇はなかった。
「あはっあははははははっ!!」
“なにこれ……すごく気持ち良くなってきたぞ!”
俺の意識は既に、紅炎の熱さに快感を感じ気が可笑しくなっていた。
このまま、身を委ねて快楽の絶頂に浸っていたい……
そうな気分だった。
「ルーク……」
そんな俺の姿を見てブリュットは決意した。
「……一か八か……やって見ます」
ブリュットは、震える手を握りしめながらマーシャルに言うと俺めがけてゆっくりと、近づいて来るのであった……
「……ルークごめんよ。俺は知っていた」
「……」
“な……にを……?”
言葉には出来ず、辛うじて残っていた意識で受け答えていたかもしれない。
「お前の身に何が起こっているのか……俺は知っていた」
「……」
「不死鳥は、あの時から消えずにお前の中でずっと暴れていたんだよな……」
「……」
「こうなる前に……」
ブリュットの声が、聞こえなくなる。
一瞬、不死鳥が見えた……
綺麗で美しい不死鳥は、優しく俺を包み込む。
何も考えなくていい……
ゆっくりとおやすみ……
と不死鳥が囁いていたような気がした。
“もう、考えるの億劫になってきたなぁ〜”
不死鳥の囁きに身を委ねそうになっていると、うっすらと見えたのは赤く光輝く紅炎。……を纏ったブリュットの手刀。
手刀は真っ直ぐ俺の胸を目掛けていた。
だが、危険を感じた紅炎は、激しくブリュットを拒絶。
手刀は弾かれ、ブリュットの身体は後退して行くのであった。
「くそっ! 何度でもやってやる!!」
諦めずに再びブリュットの手刀が俺に迫って来た時……
「ふむ…… 随分と、面白い事になっておるのぉ〜」
マーシャルの知る老人が、ひょっこりと現れたのである。
「あの炎の中心にいる人物は、ルーク坊ゃみたいですわ」
「ふぉぉっふぉふぉぉぉ!! それは、愉快じゃの」
どこが!? とマーシャルは思ったが、口には出さなかった。
この老人の手にかかれば、どんな事も赤子を捻るかのように簡単にやり遂げてしまう。
その事をマーシャルは知っていたから……
「どれ、マーシャル殿。ここは一つ儂に任せろ。あの目の前にはいる小童、邪魔じゃぞ?」
「っ……はい」
老人は腰を落とし、力を込め始める。
そこから放たれる直線上に、ブリュットはいた。
マーシャルは叫んだ。
「ブリュット坊!! ふせてっ!!」
「!?」
マーシャルの叫び声に、ブリュットは咄嗟にしゃがみ込む。
その直後、老人から放たれる衝撃波が俺を襲った。
「ぐおっ!?」
一瞬にして俺の身動きを奪い去る。
息も出来ない程の衝撃波は、懐かしささえ感じる事が出来る衝撃波……
「もういっちょ!!」
更に老人は二発目の衝撃波を繰り出して行く。
正に容赦なかった。
二発目の衝撃波により、紅炎は消し飛んで行く……
「くっ……はぁっ!」
突然息が出来るようになったのと同時に、俺の意識も戻った。
「はぁはぁ……」
腰が抜けたかのように、その場に座り込んでしまう。
「何今の……?」
ブリュットはと言えば、振り上げられた手刀をどうしたらいいのかわからず、立ち尽くし呟く事しか出来なかった。
「ブリュット坊、気にしなくてもいいわ」
「えっ!?」
「あんな無茶苦茶な力技……あの方しか出来なくてよ?」
「まぁ……確かに」
「はぁはぁ……」
“ こんな力技を好む人物、俺の中では一人しかいない”
そんな事を考えていると、老人は俺に話しかけてきた。
「相変わらず、派手好きじゃのぉ〜」
懐かしく、聞き覚えのある声だった。
衝撃波を受けた時に、誰なのかわかっていた。
だが、その人物は今行方不明と俺は聞いていた。
ここにいる筈がないのだ……
でもそれは、顔をゆっくりとあげ確認した事で疑惑から確信へと変わって行く。
「はぁはぁ……おっ……お久しぶりです。ギレッド先生……」
「フっハッハッハッ!! 相変わらず、面倒毎に巻き込まれておるわい」
「好きで巻き込まれているわけじゃないです」
「その減らず口も変わらずじゃ!!」
“セルビアさんにギレッド先生に出会った、と言ったらひぃぃぃっと言って裸足で逃げ出すんだろうな……”
そして、ギレッドは相変わらず元気なんだな。と言う事が良くわかった。




