第八十二話 残り火
熱い……
熱い、熱い!!
身体が燃えるように熱い!!
……喉も乾く。
渇きの原因は、きっと身体中が熱を帯びているせいだ。
立ち昇る赤い紅炎が渦を巻きながら、内側から俺を苦しめじっくりと焼き尽くそうとしている。
熱い……熱すぎるっ!!
誰か、助けて……
ガバッ!!
「はぁはぁ……」
“また、この感覚か……”
闘技場でブリュットと激しい戦いを終え、あれからもう五日……経っていた。
怪我も大分良くなり、力が戻って来るのを実感し始めたのと同時に、紅炎が今だに燻っているのか身体中が熱く火照る事が起こっている。
水を一気に飲み干すと身体の火照りは消え失せるのだが、体調が回復するのに連れその感覚は次第に短くなってきていた。
“……一体どうなっているんだ?”
「おい!? またか?」
「……はぁはぁ」
ブリュットは、相変わらず俺の隣のベットで安静中だ。
「大丈夫か?」
夜中に目覚める事が多く、その度にブリュットは毎回のように声をかけ心配してくれている。
優しい奴だ。
と言う事が、最近わかった。
「……ふぅ、もう大丈夫。落ち着いたみたい」
「そうか……?」
ブリュットは、俺の異変に一早く気がついてくれた。
そして、この事をマーシャルに伝えた方がいいとも言ってくれた。
確かにそうなのかもしれない。
だが、マーシャルは今……ものすごぉぉぉぉぉく忙しそうなのだ。
俺の所には、毎日一度は必ず顔を見せには来てくれるのだが……
チラ見だけで手をヒラヒラ〜と振り話しかけて来ないで、すぐに何処かへ行ってしまうのだ。
だから、話す暇がない。
と言った方がいいと思う……
感覚は短くなっては来ているが、それに水を飲めば落ち着く。
そのうち無くなるだろうと俺は思っていた。
「また、起こしてしまったな。ごめん……」
「別に俺は構わないが……本当に大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫。ブリュット、おやすみ」
ニコリと笑い大丈夫な事を伝える。
そして、ブリュットに心配かけないように寝たふりをする。
“おっおかしい……いつもならこんな短い感覚でこないのにっ!!”
治まったかと思った感覚が再び、俺に襲いかかって来る。
熱い……
骨の髄まで溶かされて行く感じだ……
「くっ……」
「おいっ? 本当に大丈夫か?」
“ブリュット、勘良すぎ……”
「だっ……大丈夫」
でも、気づかれちゃ駄目だ。
ブリュットに、これ以上迷惑かけるわけには……
苦しみに悶えながらも、一言も言葉を漏らさず……
俺は震える身体を抑えながらひたすら、耐え続けていた。
それから更に耐え続る日々が過ぎると、常にぼぉ〜とし上の空になる事が多くなってきた。
「ーーーって聞いてる、ルーク坊ゃ!?」
「えっあっ……ごめんなさい」
今日は久しぶりに時間が出来たとの事でマーシャルが、俺の怪我の程度を見る為に赴いてきてくれた。
マーシャルの話し曰く、俺の身体は表面上殆ど完治しもう自由に動いても大丈夫との事だ。
「……身体もなんか、何時もより熱い感じがしますわよ……?」
マーシャルは俺の額に手を置きながら、心配そうに聞いてきたのであった。
「いっ……いつも通りですよ」
「そう……?」
ここで誤魔化さずに体調の事を、伝えれば良かったんだと思う。
でも、俺は言えなかった。
これ以上、マーシャルに心配かけるのは返って悪い気がした。
だから、当てられた額をスゥッ……と逃げるかのように逸らし、それ以上勘付かれるのを阻止したのであった。
マーシャルは、納得してはくれなかった。
だが、それ以上の追求をして来る事はなかったのである。
「あっそれでね、ルーク坊ゃ。私これから、少しだけブリュット坊とお話ししたい事があるのよね」
「話したい事ですか?」
「えぇ……だから、それまでの間ルーク坊ゃには、少し席を外して欲しいのよね」
「と言われましても……それまでの間、俺はどこに行っていれば……?」
「実は今……闘技場で模擬戦闘が行わられているわ」
「はぁ……?」
マーシャルの返答は、いまいちピンとこなかった。
“それで……?”
と聞き返しそうなった。
「今、ルーク坊ゃにとって一番足りない物は何?」
「……」
“なんだろう……?”
「わかりません」
「経験ですわ」
「経験??」
「そう、アーツは色んな種類はあるわ。ルーク坊ゃそのアーツ全て把握していまして?」
「いえ」
“だって、アーツは何百種類以上あるし……流石に覚えきれないよ……”
「それは、今後ルーク坊ゃの障壁となって立ち塞がるわ」
「はぁ……?」
マーシャルが一体何が言いたいのか、益々わからなくなってしまった。
「模擬戦闘は、言わばアーツハンター同志で戦う事」
「つまり……どう言う事ですか?」
「要するに、模擬戦闘を行う事により様々なアーツと出会う事が出来ますわ。それは、ルーク坊ゃの経験になるのではなくて?」
「……なるほど」
漸く確かに、マーシャルの言ってくれた事が理解出来た。
アーツは確かに色々なアーツがある。
火、水、風、土を基本アーツと呼び、そこから進化を遂げて行くアーツ。
進化しないのが、セルビアやマーシャルたちが使うアーツだ。
確かに、事前にそのアーツの性能を体験して置くのと、置かないのでは戦闘の幅は大きく変わって行く事だろう。
マーシャルの提案は、確かに的を得ていると言えた。
「わかりました。では、早速行ってみますね」
「えぇ、ブリュット坊との話が終われば。私も行きますわ」
頷きながら部屋を出て行こうとすると俺を、ブリュットは呼び止めて来たのであった。
「おいっ……他にこの人に、言う事はないのか?」
「……」
ブリュットが何を言いたいのか、それはすでにわかった。
ずっと俺を苦しめている、この内なる物の事だろう……
「んっ?? 何かありまして?」
「……いぇ、何もないですよ」
俺は笑って誤魔化し、逃げる去るかのようにその場を後にした。
「ちっ……素直じゃない奴」
◆◇◆◇◆
“危なかったぁ〜、もう少しでマーシャルさんにバレる所だった。えっと、闘技場に行くには……”
部屋から出た俺はここが何処なのかを把握し、どう行けば闘技場に行けるのか検討をつけた。
これは先に何度もラッセルを歩いていたお陰だと思う……
そして、今俺がいる場所は地下ではなく地上の内部。
武器屋、防具屋、道具屋、雑貨屋、酒場、宿屋等と様々な露店が並んでるいわゆるメイン通りだ。
もっとも、今は殆どの店は閉まり静まり返っていたけどな。
闘技場を目指し歩み始めると、ふと見慣れた酒場に目が止まった。
ここで俺は、ヴェイグ・ノルンとは再会を果たした。
彼は一体どうなったんだろう……無事なのだろうか?
だが、酒場は臨時休業中と紙が貼られ、人もいないしヴェイグがいるようには見えなかった。
“ふむ……後で聞いてみよう”
再び歩きだした。
メイン通りは、とてつもなく静かだった。
つい先日までの人の多さが、まるで嘘のように思えてしまうぐらいだ。
この事について、俺はマーシャルに先ほど聞いたのだが後で話すと言われ……先にブリュットとの話を優先すると言われてしまい、何一つ話してくれる事はなかったのである。
だから、俺には何が起こっているのかわからなかった。
分かっている事は、ここにはアーツバスターがいないって事ぐらいだ。
「おっと、通り過ぎる所だった……」
闘技場に行くには、地下を通り控え室に行かなければならない。
筈だったが、実は受付をしていた所からでも闘技場に行ける事が判明したのだ。
「へぇ〜ここからでも行けるんだぁ〜」
わざわざ遠回りする必要もなく俺は、関心を示しながら闘技場に足を踏み入れたのであった。
闘技場では確かにマーシャルの言う通り、一対一での模擬戦闘が十箇所ぐらいの場所で行わられていた。
俺とブリュットが戦っていた舞台は、既に撤去されたお陰で闘技場は更なる広さを手に入れたのであった。
十箇所全ての場所には結界が施され、一他の者からの攻撃が当たらないように配慮されていた。
そして、中央には甲冑を着た男が立ち、模擬戦闘に参加していない者たちもその場に集まっていたのである。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
とブザー音がなるのと同時に、甲冑の男は叫び出す。
「終了時間だ! 次の者と交代!!」
結界は静かに消え去り、一対一で戦っていた者たちも結界から出て行く。
そして、新たに結界内に入って行き戦闘を開始していたのであった。
“ふむふむ……なる程ね”
「他に誰かいないか!?」
よく聞こえる声が響き渡る。
俺は思わず、ビクリとビクつく手を高々と上げていた。
甲冑の男は、俺に近づき見下ろして来る。
その男は、青い髪に目つきは悪い。
だが、鎧の下から見える肉体は強固に引き締まっていた。
「随分と幼いが、アーツハンターか? ランクは?」
「……Fです」
「話にならんなっ帰れっ!!」
甲冑の男はそう言い、踵を返してしまった。
“だから、言いなくなかったんだよ!!”
「だが……」
俺の元を去る筈だった甲冑の男は立ち止まり、何かを思いついたかのように不適に微笑んでいた。
「たまに初心に変えるべし……と言う教えがあったな」
「えっ!?」
「どれ、ここは一つ俺が相手になってやる」
「えっえぇぇぇぇっ!?」
甲冑の男の声と共に、俺の意は無視されあっという間に結界に包み込まれて行く。
“……って言うかこの人、多分ここにいる中で一番強い人だよな?”
「俺の名は、ラグナス。Aランク【雷光のアーツ】使いだ」
「……」
「お前は?」
「えっ!?」
“自己紹介いるんだっ!?”
「互いを知り、力量を知る。それも模擬戦闘の基本だ」
“なっなるほど”
マーシャルの言っていた言葉をもう一度思い出し、俺もラグナスと同じように自己紹介をしていく……
「ルークです。【黒と白のアーツ】使いです」
「!?」
アーツを言った途端ラグナスの表情が変わった。
「ほぉ……お前が噂の……」
ラグナスはコキコキッと肩を回しながら俺に近づいて来る。
「どうやら少しは、楽しめそうだな」
右腕にバチバチと雷を宿しながら、ラグナスは殴りかかって来た。
「うわっうわっ!!」
頭上をラグナスの拳が通り過ぎて行く。
“こっこえ〜!!”
軽く突き出したラグナスの拳は、一発で感電死してしまう程の凄まじい威力を持っていた。
空気がピリピリと摩擦しているような……そんな感じがした。
だが、見えない程の早さではなかった。
「ふむ、中々いい目をしている」
「……良く言われます」
「面白い事を言う奴だ。ならば、雷光と言われる俺の本気少しだけ見せる。上手く交わせよ」
「えっ?の」
そう言った途端、ラグナスの身体は静電気を帯びながら光輝き出す。
次の瞬間、一筋の光が俺の頬をかすめ通り過ぎて行く……
いままでいた筈のラグナスの姿は目の前になかった。
「相変わらず……加減が難しいな」
後ろの方からラグナスの声がしてきた。
“いつの間にっ!? もしかして、今の光自体がラグナス??”
「大怪我したら、すまんな……」
再び光の一部となったラグナスは、拡散し俺に襲いかかってくる。
とてもではないが、捉える事は不可能である。
「ぐあっ!!」
「くそっ……」
四つん這いになりながら、ラグナスを睨みつける。
“ったく、反則だよな……”
握り拳を握りしめながら、そう思っていると突然不死鳥が見えたような気がした。
「?」
それは、今まで俺が一生懸命押さえ込んでいた紅炎だったと思う。
限界値を越えた紅炎は、俺の体内で弾け飛ぶ……
「えっ……?」
あっと言う間に、紅炎は俺の身体に燃え広がってゆく……
「お前?」
ラグナスも流石にこれには、ビビったらしい。
呆然と立ち尽くし、見守る事しか出来なかったみたいだ。
“あはははは……ブリュット。お前の最後の一撃確かに届いていた見たいだぞ”
そう……俺を焼き尽くす為、紅炎は再び姿を現したのであった。




