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Arts hunter   作者: kiruhi
青年編 ー逃げ場のない戦闘への誘い
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第七十六話 作戦開始

 闘技場(コロッセウム)ラッセルでルークが、決勝進出を決めた一方……


 ラッセル侵攻作戦に合わせて先に到着していた先発隊は、アーツバスターたちに気づかれないように気配を消し静かに仮説テントで待機しマーシャルの到着を待っていた。




 そもそも事の発端は、ルークが奴隷時代まで遡る必要がある。

 行方知れずになったルークを探すべく、ギレットが立ち寄ったのは建設中のラッセルであった。

 そこにはルークはいなかったが、ラッセルの現状と完成した暁に起こるであろう事を予見したギレットはその時、いずれ破壊せねばならないと感じ取りアーツハンター協会会長ローラに進言したのである。

 ローラは、ギレットからその話を受け作戦実行に移すべく幹部を招集しようとしたのだが、アーツバスターによる各地同時襲撃。

 主だったアーツハンターたちの殆どは全滅し、今のアーツハンター協会の現状ははっきり言って人不足である。

 一段落したかと思えば、黒と白のアーツを持つ者の奴隷疑惑。

 これによりギレットの要請は、頓挫してしまったのが現状であった。


 ギレットは中々決断しない幹部たちを怒鳴り散らし、なだめるマーシャルを振り切り何処かへと行ってしまったのである。

 そして、ギレットの行方は今も分からないのであった。


 だが、ローラはギレットの申し出は無視出来ない物だと受け止めて水面下で密かに動いていたのである。

 ローラは、幹部たちにわからないよう独自に指示を出し、ラッセル内部にアーツハンター数名を侵入させていたのであった。


 そして、もたらされた報告が『ラッセル完成。式典最終日に総帥現る!』だった。




「皆様も目を通したと思いますが、ラッセルが完成したとの報告がつい先日あがりました」

 ローラは幹部たちを集め、今後の方針を考える事にしたのである。

「ローラ会長なぜ、このような独断専行をなさったのですか?」

 真っ先に口を開いたのは、アーツハンター専門裁判長ヒルヤンであった。

 彼が言いたいのは、人員不足の現状でなぜラッセルに人員を回したのか? ただ、それだけであった。

「ヒルヤン殿の話しも理解出来ますが、それは今更言ってもしょうがない事では?」

「確かに今はラッセルについて、今後どう動くべきか。早急に決めるべきかと(わたくし)も思いますわ」

「ですがっ!!」

 アーツハンター協会副会長シドニーと戦闘隊総司令官マーシャルの話しにヒルヤンは、納得出来ないようだった。


「確かに私の独断ではありますが、ギレット殿の懸念……どうしても無視出来ませんでしたわ」

「しかし、ローラ会長を守るべく者たちを潜入させたのは頂けません」

 そう言葉にしたのは、ヒルヤンだ。

「皆、手が空いていなかったのです。仕方がない事でしてよ?」

「ですが……あなたにもしもの事があれば」

「幹部の中から新たな会長を選出するだけなのでは?」


 ニコリと笑うローラに、マーシャルを含む幹部たちは寒気を催していたのである。

 そう、ローラが派遣したアーツハンターたちは、普通のアーツハンターではないのだ。

 常に影でローラだけを守る為の精鋭部隊が存在する。

 彼らは普段は表には出ず、ローラの身に危険が迫った時に守るべく特殊任務を持つ者たちである。

 なのに……

 ローラを守るべくアーツハンターたちを人手が足りない。と言う理由だけで、精鋭部隊をラッセルに偵察に回してしまったのである。

 ヒルヤンの懸念しているのは、仮にこの間にローラに暗殺の魔の手が伸びた時……

 守り切る事は出来たのだろうか?

 ローラの死は、アーツハンターたちに衝撃を与える。

 新たな後継者をローラは明確に示していない以上、幹部の中から次の会長などこの時点では考えられない事なのであった。

 ヒルヤンはローラにもう少し、自分がどれ程重要人物なのか理解してもらいたかった……


 コホン……

 と咳払いしヒルヤンは、ローラに忠告をしたのであった。

「滅多な事を言わないで頂きたいです。あなたの代わりなどいませんよ」

「ありがとう、ヒルヤン。確かに結果的に私の身に何も起きませんでした。それでこの場は納得して下さい」

「……わかりました」

 それ以降ヒルヤンは、その事に何も言わなかったのであった。


「まぁ、話しを戻しましょう……」

 マーシャルの言葉に幹部たちは、頷きローラの独断専行の件はそれ以上触れられる事はなかったのである。


「まず、政治的部門から言わせてもらえば……」

 そう話して来たのは、政治専門館長スカンディス。

 彼の言い分は、ラッセルが完成した事によりメシュガロスよりも更にヴィンランド領深くにアーツバスターの拠点が増えてしまった事。

 それにより、今後激しい侵略が再び始まるのではないかとの懸念だった。

「アーツハンター不足は、まだ解消されてはおらんしな……」

 とスカンディスは、訓練施設長シグルドに顔を向けながら付け加えてきたのである。


 ならばラッセルを侵略、または破壊するのはどうか? と言う意見に満場一致で可決されたのである。


 次に口を開いたのは、マーシャルだった。

「ラッセルに赴くとして戦闘隊の(わたくし)が出撃いたしますわ。シグルド殿、アーツハンター候補生は使えまして?」

 この質問に眉間にシワを寄せながらシグルドは首を横に振り……

「まだ、前線に出る事が可能な者はいない」

 と告げられたのである。

「……となりますと。今、(わたくし)が把握している中で戦力として前線に共に行ける者たちは、100名……」

 更にマーシャルは続ける。

 不足の事態に備える為、ガーゼベルトには選りすぐりの者10名待機した方がいいとマーシャルは考えていた。

 更に各地の依頼に出かけているアーツハンターを除けば、ラッセル侵攻に行ける人数は僅か50名しかいなかったのである。

 50名全てが攻撃に参加出来るのなら、対して問題ではない。


 だが50名の中から、更に様々な分野に振り分けられる。

 例えば、ガーゼベルト本部とマーシャル率いる部隊への連絡係り。

 更に現地まで安全な道のりを調べる為の先発隊。

 負傷者の手当てをする為の医療スタッフ。

 食事係り……

 先にラッセル内部への侵入。

 言い出したらとても50人では回せる規模ではなかった。


「とてもではないですが、キツイですわね……」

 マーシャルは素直にそう答えたのである。



 しかし、他の幹部たちは現状を知っているのにも関わらず50人でなんとかするべき。

 ラグナロクから候補生をラッセルに出すべき。

 と、様々な意見が流れる中、警備兵連隊長ユンムは虚ろな目で話し始めた。

「ロールライトにいる、黒と白のアーツを持つ少年を参加させましょう……」

「!?」

「黒のアーツがあれば……最悪の場合、ラッセルを消滅させればいいだけの事……」

「なっ!? ユンム殿、自分の言っている事を本当に理解しているのかしら!?」

「と言いますと?」

「黒のアーツで消し去る……そうなれば、関係のない人たちも消し去ると言う事ですよ!」

「だが、一番良い方法だと私は思うが? それにあくまでも最悪の場合だよ。マーシャル殿」

 ユンムの一言に、賛成と反対に真っ二つにわかれてしまったのである。

 最も反対していたのは、マーシャルだけであるが……


「そもそも、我々アーツハンターは死と隣り合わせの筈です。マーシャル殿、何故そこまであなたは反対なさるのですか?」

「そっ……それは……」

 結局、マーシャルは何も言えず多数決の結果。

 ルークはラッセルに侵攻作戦に参加する事になったのである。


 最悪の場合、黒のアーツで消し去ればいい。

 ユンムはそう言ってきたが、実際その場に直面した場合。

 判断をし決定し命令を降さなければならないのは、ユンムではなく現場を指揮する立場にあるマーシャルだ。

「はぁ……」

 深いため息と共にマーシャルは、人の気も知らないで……と呟いていた。


「マーシャル、無理を言ってすみませんがよろしくお願いしますわ」

 ローラの言葉にマーシャルは何も言わず、頭を下げその場から退出したのであった。




 行くと決まれば、準備は瞬く間に忙しくなり不眠不休の毎日をマーシャルは過ごしていた。

 ヴァルディアも参加をしたいとマーシャルに懇願してきたのだが、今は更なる力を付けるべきと言い留守番を言い渡したのである。

 そして、ルークの参加要請の正式文書を今だロールライトに回せずにいたマーシャルは、来るべく式典に合わせて部隊を進軍するように指示を出し、自らロールライトに向かったのであった。



 マーシャルはセルビアが反対してくるとわかりきっていた。

 だが、アーツハンター戦闘隊総司令官としてマーシャルが命令を降せば、セルビアもアルディス、ルークにも拒否権はないのだ。

 しかし、マーシャルはそれをしたくはなかった。


 元々、マーシャルとセルビアは友人として長年付き合っていた。

 その息子を……

 義理とは言え、セルビアは今ルークを一番大事に育て上げようとしている。

 ヴァルディアと同様ルークもまた、今が一流のアーツハンターになるべく大事な時期だと言うのもわかっていた。


 わかってはいたが、最早誰が反対したとしてもアーツハンター協会として出された決定事項を、覆る事はないのである。

 気が重い中、マーシャルは全てを承知の上でセルビアにルークをラッセルに連れて行きたい事を告げたのであった。

 そして、案の定セルビアに反対されてしまうのである……

 唯一の救いだったのはルークだった。

 ルークにラッセルに赴いて欲しい事を告げた時、迷いながらもルークは行くと言ってくれた事だ。

 これにはマーシャルは凄く感謝していたのであった。




 マーシャルはルークに最終日の日、闘技場参加権利を確保しておく事と指示を出し、その後の事を一切何も語らなかった。

 これは、ルークには戦いに専念して欲しかったからである。

 余計な詮索は心を迷わす。

 心を迷わせば、戦いにも影響を与えてしまうからであった。


 マーシャルの作戦は至って簡単なものだ。

 決勝戦の日に総帥が現れるのなら、決勝戦の最中は見回りのアーツバスターですら観戦する筈だと……

 その間にマーシャルたちは、ひっそりと見つからずにラッセルに侵入……

 先にラッセルに侵入している先遣隊と合流し、捉えられているであろう奴隷たちの解放。

 そして、本部の制圧と総帥やアーツバスターたちの討伐、もしくは捕獲である。




 ◆◇◆◇◆



 マーシャルは、本隊が到着した1時間後にラッセルの目の前にまで辿り着く事が出来たのである。

 先に到着していた先遣隊は『透明のアーツ』を発動し、アーツバスターたちに悟られる事なく仮設テントは建てられていた。

 そして、到着したマーシャルは真っ先に仮本部へと足を踏み入れたのであった。

「状況はどうですか?」

 着慣れた真紅の鎧に身を包まれた、マーシャルは仮本部へと顔を出す。

「マーシャル殿!」

 先発隊隊長よりラッセルに侵入している、先遣隊によるもたらされた報告をマーシャルに伝えたのである。


 明日未明にルークとヴェルガと言う男の間で決勝戦は行わられるらしい。

「そう、ルーク坊ゃは上手くやっているのね」

「はい」

 短く答え、更に先発隊隊長は話しを進める。

 一通りの説明を聞き終えたマーシャルは、先発隊を含めた総勢10名を集め最終説明を行ったのであった。

 出発は、決勝戦の始まりの合図。

 各々が様々な思いの中、休息を取り始める。

 次第に太陽は沈み静寂な夜が訪れる。

 マーシャルも長旅を癒すかのように身体を休め、一息つく。

 漆黒の夜は、静かに朝日と共に薄明るくなり太陽が登り始めた。

 そして、マーシャルにも聞こえる程大きな決勝戦開始の合図が、聞こえてきたのであった。


 合図と共にマーシャルたちは静かに動き出す……

 独特のアーチ部分まで進むと、先遣隊が姿を現したのである。

「マーシャル殿こちらから……」

 無言でマーシャルは頷き、先遣隊に案内されるがまま地下から侵入を果たすのであった。


 案内された地下には、マーシャルの予想通り誰一人歩いてはいなかった。

 皆、今日の決勝戦を観戦しているようだ。

「作戦通りね」

「はい」

「では、まず司令官室を占拠。奴隷の人たちを解放し作戦通りに誘導して上げてください」

「はっ!」

 マーシャルの指示にアーツハンターたちは静かに動き出す。

 檻に入れられている奴隷たちを全て解放し、外に建てた仮設テントへと避難させるのであった。


 マーシャルは、その隙に先遣隊と共に司令官室を占拠。

 全ての実権を握りしめる事に成功したのである。

 後は、アーツバスターたちや総帥を討伐。もしくは捕獲……するのみである。



 全ては作戦通りに怖いぐらい順調に進んでいたのであった。


 しかし、闘技場内で明らかに不吉な気配をマーシャルは感じ取っていたのであった。






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