第七十五話 対戦相手
二日目……
今日は明日の決勝戦に出るべく、35名からたったの2名を決める為の試合が行わられる。
形式はトーナメント方式で、4回勝ち抜かないとならなかった。
地下の控え室に張り出されている、トーナメント表を見上げながら自分の順番を静かに待っていた。
死ぬかもしれない戦いになぜ好き好んで挑もうとするのだろうか??
なぜ好き好んでアーツバスターになりたいと思うのか、それすら理解不能だった。
仮にここでアーツバスターになる事が出来なくとも、将来アーツバスターになる可能性だってある。
でも、それでも俺は黒のアーツで対戦相手を消し去りたくなかった。
甘いとアルディスに怒られそうだが、今はいない。
相談したいけと、相談に乗ってくれるセルビアもいない。
ならば……
自分で答えを導き出すしかないのだ。
暗黒湿原では自分で答えを導き出した結果、アルディスにメッチャ怒られたけど……
マーシャルの指令は『闘技場参加権利を確保』だからそれさえ守っていれば大丈夫の筈だ。
なぜ、殺したっ!?
とアルディスに怒られる事はないだろ?
多分……
怒られるのだとしたら、もう俺は何をやったらいいのか分からなくなるしな。
取り敢えず俺としては、決勝戦に進出する事。
これは大前提だが、結局の所俺としてはアーツバスターになろうと思っている人間を今はまだ殺したくない。
だが、やはりどう考えても黒のアーツは、消し去る事しか出来ない。
昨晩ずっと考えていた。
どうすればいいか……
そして導き出した答えが、対戦相手の武器だけをまず先に消し去る。
それでも、戦意を失わなかった者には服を消し去る。
更にそれでも負けを認めなかったら、最後通告として黒のアーツで消し去る事を告げる。
昨日俺の試合を見て居た者は、はったりではなく本当に消し去る事が出来る事を知っている。
だから、素直に負けを認めてくれたのだ。
お陰で3回とも黒のアーツで消し去る事なく、簡単に勝ち進む事が出来た。
観客からは、大ブーイングだったけどな。
しかし、4回戦……
これに勝つ事が出来れば、明日の決勝戦進出を決めるのだが……
対戦相手が、昨日の酒場で絡んできた【剛腕のアーツ】を使う男だった。
剛腕のアーツは確かに破壊力は抜群だった。
だが、ギレット爺さん並みの速さはなく余裕で避けきる事が出来た。
結局一発も、俺は男の攻撃を受けずにいた。
そして、剛腕の男は体力の限界以上アーツを発動し続けた結果……
その場で倒れこみ直ちに俺の勝利は告げられた。
またしても大ブーイングだった。
男は意識混濁のまま医療テントに、運ばれてしまったのであった。
少しだけ後味は悪かったが、別に俺のせいじゃないし。
負けを素直に認めなかったあの男が悪いと思い、控え室から出ようとすると甲冑を着た男が俺の目の前に現れたのであった。
甲冑の男のすぐ後ろには、赤色の髪の毛をした釣り目の碧眼の男がいた。
「……なっ何か?」
思わず、後ずさりしながら質問すると、甲冑の男は明日の決勝戦について別室で説明するのでついて来いとの事だった。
案内されるがままたどり着いた場所は、汚れ一つない綺麗な部屋の中だった。
ゾワゾワっ!! と背筋が凍りつき始める。
それもそのはず、俺はこの部屋に来た事があるし、目の前に立っているの男も知っている。
忘れたくても忘れられない男……
ジルベッタ・トレントが、俺の目の前に立っていた……
ジルベッタの悪趣味なのは、相変わらず健在だった。
奴隷を四つん這いにさせ、ジルベッタは足を組みながら座っていた。
仮にジルベッタの思いどおりにならなかったら、水の塊を作り出し窒息死させるんだろうな……
相変わらず嫌な『ラッセル』の最高責任者だ。
「二人ともおめでとう」
ジルベッタは、腰掛けたまま俺と赤毛の男に話しかけてきた。
「いや、おめでとう。と言うのはまだ早いな。明日、君たちのどちらか一人だけ……
即ち勝ち残った者のみ、アーツバスターになる事が出来る」
“俺は別になりたくないけど……?”
「明日は、総帥が決勝戦をご覧になられる。君たちの死闘覆いに期待しているよ」
「……」
俺も隣に立っている赤毛の青年も、何一つ口を開かなかった。
「では、決勝戦の説明をしよう」
「決勝戦は、君たちのどちらか死ぬまで戦ってもらう」
「っ!!」
更にジルベッタは、俺を指差し告げてきた。
「君のようなやり方をした勝者を、我々はアーツバスターとして認めない」
「……わかった」
ここで問題を起こす訳にも行かず、拳を握り締めながらも取り敢えず了承しておいた。
“くそっ!!”
「後、勝者が決まり次第、総帥は舞台の上に立ち優勝式典が行わられる。
そこでアーツバスターとして初めて認められる事が出来る」
「……」
「そんな所かな……」
話を言い終えたジルベッタは、再び俺の方を見てくる。
「見覚えがある面なのだが、君とは何処か会った事あるだろうか?」
「……初対面ですよ」
冷や汗をかきながら誤魔化した。
「そうか、それは失礼した。では、明日の決勝戦期待している」
ジルベッタの言葉を聞き終え、俺は早々と退出しようとした。
しかし、赤毛の男が俺に手を伸ばしてきたのだ。
「!?」
「全力で来てくれ……」
「……あっあぁ」
互いに握手を交わしたのちに、先に部屋を出て行ったのは赤毛の男だった。
“本当に消し去らないと行けないのだろうか……?
アーツバスターではなく、アーツハンターになればいいのに……”
赤毛の男に差し出した方の手だけが、無性に熱く火照っていた。
多分炎系のアーツ使いなのだろう……
それもかなり強い……
「彼は、ブリュット。元奴隷だが、強いぞ」
「元奴隷……?」
「あぁ、あいつは幼い時からここで働いていたのだが、ブリュットの力は即戦力になる。だからアーツバスターになる道を示したまでだ」
“ようは、それしか生き残る道がなかったのか。最低だな……”
「なぜ、それを俺に話すのですか?」
「興味があるように見えた。では理由にならんか?」
「……別に」
素っ気なく答えこれ以上、ここにいて墓穴を掘る前に退出しようと部屋から出る時、何かぶつかった衝撃が顔に加わった。
「うわっぷっ!!」
堪らず尻餅をついてしまい、顔を横に振り回す。
“いってぇ〜”
「すまなかった、大丈夫か?」
差し伸べられた手に顔を上げる。
ドランゴよりも若干年上の中年男性。
その両目の瞳には、赤黒く禍々しい光を放ち……
独特の威圧感をヒシヒシと感じた。
目が合っただけで殺されそうな恐怖心は、ドランゴ以上に感じた。
一言で言うのなら……
“今すぐこの場から逃げ出したい……”
ただ、それだけだった。
「?」
中年の男性は差し伸べた手を俺がすぐに受け取る事は出来なかった。
だから、俺を中年の男性は不思議そうな顔をしながら見下ろしていたのだ。
心を落ち着きさせながら、冷静に……
あくまでも冷静に平然を装うように中年の男性の手を取り立ち上がる。
「あっありがとうございます……」
「いやいや、こちらこそ不注意だった。申し訳ない」
「おっ俺はこれで失礼させて頂きます」
ジルベッタと中年の男性に告げ、逃げ去るかのようにその場から立ち去ったのであった。
ドアを締めた途端走り出す。
“こっ殺されるかと思った!!”
走りながら高鳴る心音を、抑える事は暫く出来なかった。
◆◇◆◇◆
中年の男性はゆっくりとジルベッタに歩み寄って行く。
「お速い到着、お出迎えを行かず申し訳ございませんでした!」
ジルベッタは立ち上がり敬礼すると共に、言葉を発していた。
「いや、よい。誰に分からずゆっくりと見て回る事が出来た」
「はぁ?」
「中々、良い感じで盛り上がっておるではないか?」
「ありがたきお言葉……」
中年の男性を、壁にかけてある闘技場ラッセルの見取り図を眺めながら、再び口を開く。
「所で、先ほどの少年は?」
「明日行わられる、決勝戦の選手でございます」
「ほぉ〜」
それ以上中年の男性は、何も語る事はなかった。
「長旅お疲れでございましょう。心休まる場所にご案内致します」
「……うむ」
ジルベッタの後を中年の男性はゆっくりと歩いて行く。
そして、誰にも気付かれる事なく指示を出し始めた。
(……死神)
中年の男性の言葉に反応するかのように、死神と呼ばれた者が気配を消し現れる。
(僕も、暇じゃないんだから簡単に呼びつけるなよな。なんだい?)
(あの少年を殺せ)
(君にぶつかって来た少年かい?)
(あぁそうだ)
(契約に基づき、僕は君の言う通り行動を移すけど、あの少年ドランゴのお気に入りだけと本当にいいのか?)
(ほぉ……あの少年がそうなのか……)
(どうするんだい?)
(構わん。ドランゴの為にもあの少年には消えてもらうべきだ)
(相変わらずだな……)
(……)
(今すぐ実行は不可能だ。君に頼まれている依頼は多すぎるからね)
(わかった。手が空いた時にでも殺ってくれ)
死神と呼ばれた男は再び、気配を消したのであった。
「悪く思うな、ドランゴ……」
小声で呟く声に、ジルベッタは振り返る。
「何かおっしゃいましたか?」
「いや何でもない」
アーツバスター総帥は、闘技場ラッセルに現地入りしたのであった……




