第七十三話 ラッセル闘技場
目の前には見上げる程、大きな巨大な建物がそびえ建っていた。
全体的に丸い形をしており、岩を何個も積み上げて出来たと思われるアーチ状の形が綺麗に並び幾つも積み重なっていた。
『闘技場ラッセル』
“ついに着いてしまった……”
やはり、気分はいいものではなかった。
ここまで立派な建物を完成させる為に、幾人の奴隷が犠牲になったのだろう?
そう思うと、無性に腹が立ってきた。
“おっといかんいかん。マーシャルさんの指示通りに動かなくては……”
マーシャルの指示は『最終日の日、闘技場参加権利を確保しておく事』だった。
業者にお礼を言い、馬車から飛び降りる。
「ちょっと待て」
振り返ると御者は何やら一枚のチケットを渡してきた。
「これは?」
「宿屋受付にこれを渡せ」
「はぁ?」
御者はそれ以上何も言わず、さっさと戻ってしまったのである。
踵を返しラッセルの方へと歩いて行く。
入り口は幾つもあるように見えたが、一箇所だけ通行可能にして他は全て、立入禁止の看板が掲げられていた。
そして、入り口には大量の人がごった返していた。
人混みの流れに乗りながら入り口から中へ入る。
すると、斜め上方向に示している矢印と観客席と書かれた文字が見えた。
他にも道がなく、取り敢えず階段を登る。
次第に、歓声が聞こえてきた……
太陽の日差しに手を掲げ眼を半分閉じながら観客席に辿り着くと、大観衆の歓喜の叫び声にびっくりにし思わず耳を塞いでしまった。
眼下には、円形の形をした闘技場で男同士がアーツを発動し互いに、戦いあっていた。
決着がついた時、勝者は敗者の命を容赦無く絶っていた。
「……」
生き残る為とは言え、気分のいいものではない。
更にムカつくのが、ここにいる大観衆だ。
人が殺されていると言うのに、喜ぶってどうかしている……
“あっ!? 前にもこんな事あったな……”
そうあれは『水の街ヴァル』で……
……
………
…………
頭を横に振りながらため息をつく。
「ふぅ〜」
そして、気分を入れ替える事にした。
あやゆく本来の目的を忘れる所だった。
今この場でわかる事は、ラッセルは取り敢えず大きい!
メインとも言える円形闘技場は、ロールライトの半分は余裕で入ってしまう程の大きさだった。
円形というだけあって同じ階層なら一周出来る作りをしていた。
更に下と上に観客席がある事から、俺の今立っている場所は多分二階だと思う。
下の観客席は、立見席。
俺の今いる観客席は椅子席。
上の観客席も椅子席だが、立派な服を着ている所から貴族階級の人たちだと思う。
下と俺のいる場所の違いはわからないが、まぁ俺には取り敢えず関係ないから考えない事にした。
「まずは、受付だな……」
独り言とのように、呟き更に周りを見渡すと内部の下に降りる階段を発見した。
再び人混みに混じりながらも、なんとか下に降りる事が出来た。
「ふぅ〜」
内部も円形状の形をしており、一周出来そうだった。
まぁ、全体的に円形状の形をしているのだから当然か……
武器屋、防具屋、道具屋、雑貨屋、酒場、宿屋等と様々な露店が並んでいた。
「本日で締め切りだ〜参加者はいないかぁ!?」
そんな声が聞こえてきた。
声のする方へと向かって行くとデカデカと、参加者求む! と書かれており、すぐに受付だと言う事がわかった。
「おっ? 兄ちゃん参加するかい?」
「……」
話かけて来た男は、ハゲ頭で筋肉質な厳つい格好をしていた。
ハゲ頭男は頼んでもいないのに、親切丁寧に説明をしてくれたのだ。
話をまとめると……
どうやら本日が、最終ブロックの受付との事だ。
ブロックは、A〜Gまであり7ブロックある。
50人を一ブロックとし、その中で勝ち残った5人が準決勝に進む事が出来る。
各ブロック勝ち残った5名。
合計35名が明日戦い、更に2名絞られるとの事だ。
勝ち残った2名は、明後日の決勝戦へと進む。
そして、優勝した者はアーツバスター総帥自らが任命式を行うらしい。
「ーーと言うわけだ。兄ちゃん参加するか?」
「あぁ、参加します」
迷う事なく返答した俺にハゲ頭男は、ニヤリと笑い参加登録証と書かれた紙を渡してきた。
そこには、参加者が不慮の死を遂げたとしてもラッセル闘技場責任者は責任を負わず、自己責任と書かれていた。
更に、武器、防具、アーツの使用も自由。
勝者は敗者を殺すも生かすも自由。
と書かれていた。
思わず破り捨てそうになった……
「どうした? 怖気付いたか?」
「いや、別に……」
なぜ、俺にこんな依頼をマーシャルはしてきたのだろうか?
俺でなくてももっと他に適任者がいたのでは?
そう思うと、少しだけマーシャルを恨みそうになった。
『最終日の日、闘技場参加権利を確保』と言う事は、決勝まで勝ち進まなければならない。
勝ち残れるのだろうか?
それに俺が殺しくないと思っても、相手は死に物狂いで俺を殺そうとしてくる。
………
“帰りたい……”
もう既に後悔で一杯だった。
書き終わった参加登録証をハゲ頭男に渡すと、係人らしき甲冑を着た者が現れた。
「兄ちゃん生き残れよ」
ハゲ頭男の一言が妙に耳に残りながら、甲冑を着た者の後を歩きながら地下へと降りて行くのであった。
地下は、相変わらず冷んやりとして涼しかった。
以前無理矢理連れて来られた時と、地下はあまり変わってはいなかった。
梯子に登って、若い男達が刻んでいた模様は今になって漸くわかった。
模様は竜の形をしていた。
他に、多数の檻や控え室、医療室。
檻は今は使われてはいないようだが、ここに沢山の奴隷たちが閉じ込め過酷な労働をやらせてきたと思うと、見ているだけでムカムカしてきた。
甲冑の男は無言のまま控え室前に立ち止まり、ドアを開け俺に中に入れと合図を送ってくる。
案内されると甲冑を着た男は何処かへと言ってしまった。
控え室には、5.6人の男たちが武器を磨いたり、アーツを眺めたりと自分の番が来るのを待っていた。
俺はと言うと……
特にやる事もなく、どうやって勝ち残るべきか考えていた。
そもそも、俺のアーツは消し去るか、傷を治すか。
二つに一つだ。
参加者を黒のアーツを発動して消し去ってもいいのだろうか?
ルール的には問題はない。
だが、そこまで俺は非道になれない。
ここにいる人たちは、今はまだ俺が倒したいアーツバスターではないのだから……
そうなると、白のアーツを使うのが妥当なのだろうか?
結論の出ないまま、呼ばれてしまった……
長い通路を歩くと、わぁぁぁぁぁぁっ!! と言う歓声が聞こえてきた。
周りを見渡せば観客が俺と相手に釘付けになっていた。
上から見ていただけでも広いなと思っていたが、実際来てみると更に広く見えた。
俺の対戦相手は上半身裸で片手剣を握りしめ俺を睨みつけている。
肌は黒褐色で所々擦り傷がある。
目は緑色で髪の毛は短髪で茶髪……
本当に殺し合いをしないと行けないのか……!?
今更ながらも怖気付いてしまった。
アナウンサーの容赦ない開始の声が響き渡る。
「レディ……ファイトッ!!」
男は、剣を振りかぶり思いっきり振り下ろしてくる。
それを身体を横に捻る事で、避け握り拳で反撃。
ズズズザーンッと男は仰け反る。
苦痛の表情を滲ませながら俺を睨みつける。
そして、すぐにわかった事がある。
“この人、弱い……”
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
地面に剣を走らせながら、振り上げられる片手剣を軽々と受け止め黒のアーツで消し去る。
「なっ……!!」
恐怖に男は2.3歩後退し始めた。
「殺せッ!!」
「殺せ〜!!」
「コ・ロ・セッ!!」
殺せコールに会場内が湧き上がる。
「……」
人の命をなんだと思っているんだ!!
と叫びたくなる。
でも、俺は知っている……
殺せと叫んでいる人たちに、何を言った所で理解する事はないと。
だが、目の前にいる男に勝たない限り俺も殺される。
消さずに負けを認めさせる……
“どうすればいい……”
これが、アーツバスターなら俺は容赦なく消し去るのだが……
黒のアーツを発動させ左腕に黒の波動をまとわりつかせる。
それだけで、目の前にいる男は俺には勝てないと悟ったのだろう。
既に戦意を失っていた。
呆然と立ち尽くして死を受け入れようとしていた。
“くそっ!!”
睨みつける俺に、男は口パクで囁いていた。
「ありがとう……これで俺も解放される」
と……
「……」
「うおりゃぁぁぁぁっ!!」
男は玉砕覚悟で素手で俺に飛びかかってくる。
「くそおっ!!」
腰を落とし左拳を男に放つ。
静かに男は黒の波動に飲み込まれ、消えて行った。
すっごく後味の悪い勝利に、何も嬉しいと感じる事は出来なかった。
観客の拍手喝采に、この場にいる全ての人間を消し去ってしまいたくなった。
それは、マーシャルの作戦を無視してしまうのかも知れない。
ムカつく怒りを抑え込みながらその後も、5回程黒のアーツで消し去り俺は明日の準決勝進出を決めた。
◆◇◆◇◆
「よぉ、兄ちゃん見事な勝利だったな」
「……」
地下から戻った俺に話かけて来たのは、受付のハゲ頭男だった。
「そう睨むなよ」
「別に……」
「まぁ、今日は余裕だろうが明日の戦いは大変だろうから気をつけろよ」
「どう言う事だ?」
予選とも言える今日の対戦相手は、基本奴隷たちが多いらしい。
使い道のなくなった奴隷たちに生き残る術として、最後の機会を与えているらしい。
聞いているだけで、この男も消し去りたくなってきた。
「死んでいった者たちは大半だが、生き残った奴もいるんだぞ!?」
「ふぅ〜ん……」
「所で、宿屋に行きたいんだけど、どこにある?」
「あぁ」
ハゲ頭男は、右方向を指し道なりに行けばすぐに分かる事を教えてくれた。
一応、例を言いながらもハゲ頭男の元から俺は移動した。
闘技場では相変わらず戦闘が行わられているのだろう。
観客の歓声と拍手が聞こえてくる。
“なにが、そんなに楽しいのやら……”
マーシャルたち本体が到着するまで、後2日………
それまでの間、俺の精神は持つのだろうか?
ただそれだけが心配だった……




