第三十話 反省
ペリアは俺に何も話す事なく、部屋から出て行くのであった。
一部始終の話を聞いていたルドベキアは、ペリアの顔を見ながら聞いてきたのである。
「でっ……これからどうするつもりなんだ?」
「どうするって、勿論反省させるわよ!!」
「反省って………どうやって?」
「なによ!?ルドベキアは反対なの?」
「いや、別に反対ではないが………
あまりあいつを、追い詰めない方がいいぞ……」
「ふぅ〜ん、でも私は反省の色が見えるまで、絶対に許さないわ………
なんの為にセルビアは……」
とブツブツいいながらペリアは、アジトから去って行くのであった。
そんな後ろ姿を見ながらルドベキアは、
「女はコエェーな………」
と呟き、ドアの隙間から腕組みをしながら、俺の姿を眺めていたのである。
ペリアは言っていた事を俺は、理解出来なかった。
いや、正確には理解したくなかったのだ。
上半身だけ起こし上げ、長座位になり膝を曲げてみようとした。
だが俺の両足は、重い物がのしかかっているかのような感覚と共にピクリとも動く事はなかった………
「うっ嘘だよね………?」
俺は膝に手を置きながら、上下に動かしながら何度も何度膝を曲げようとしたが、やはり動くことはなかった……
「動けよ………動けよ……うっ……うぅ……」
今、起きている現実を受け止める事はできず………
只々膝を触りながら、泣き崩れる事しか俺には出来なかった。
泣きつかれたのか俺はいつの間にか、横になり寝てしまったようだ。
ドアを叩く音に俺は目を覚ました。
寝たら足は動くし、ペリアの言っていた事は夢だ!
と思い早速両足を動かそうと試したのだが………
やはり俺の足はビクともせず、足の指しか動かないのであった……
現実はやはりそう甘くはなかった。
ドアを開けてきた男は、体格はがっしりとし、やや乱れた無造作で逆立った髪をしていた。
そして、鋭い眼光で俺を見下ろしながら中に入ってきたのである。
ルドベキア・フォン・ガーファンクルと名乗ったその男は、俺自身は初対面の人間だった。
しかし、ルドベキア自身は俺の事を知っていた。
俺の烙印事件の際に、セルビアはペリアに救援要請をだしルドベキアも護衛としてペリアと共に、ロールライトに赴いてくれた。
アルディスが瀕死の状態を【天使のアーツ】で回復した後も、帰らずに俺の帰還を待っていてくれたらしい。
直接話したのは、今回が初めてだがルドベキアも俺の背中の烙印の事は知っていたようだ。
だが、ルドベキアはあえてその話を触れてくる事はなかったのである。
ルドベキアは泣き腫らした俺の顔を見ながら、膝は伸び切ったまま、上半身だけ起こしあげてくれた。
目をすぐに逸らしたルドベキアは、何も言わずに食事を乗せたお盆を感覚ない俺の膝の上に置き、そそくさと出て行くのであった。
俺の膝はお盆を乗せられているという感覚は全くなかった。
昨日から感じられる重い物が、のしかかっている感覚だけ嫌らしく残っていた。
お盆ごと食事を壁の方へとぶん投げ、割れる音が響き渡るが、そんなのは俺には関係なかった。
自分の足を触りながら、何も考えられなかった。
食事も摂らず只々永遠に泣きくずれていた俺は、次第に現実を受け入れ始めてきた。
そして、生きる気力そのものも、なくなり始めていた。
ルドベキアは毎回俺の様子を見ながら食事を持って来てくれ、一言二言話しかけてくれる。
「自分で招いた種だろう…最後まで自分で積みとれ……」
とだけある日そんな話しを、してくれたのである。
ルドベキアのおかげで、一度は諦め掛けていた心は、やはり諦め切れなかった。
最後の最後まで迷惑をかけつづける訳には行かないと思うと、自然と前向きになる事が出来た。
手を膝に置き、何度も何度動かそうとするがやはり足全体は動く事はなかった。
現時点では動かないという現実を受け止めた。
受け止めたと同時に、足の指だけが動く事に気がつく事が出来たのである……
“足の指が動くという事は、まだ完全に諦めるのは早いのでは?”
そう結論をだした俺は、うつ伏せになり腕の力のみで地を這いずりながら壁付近に置いてある、木の箱の所まで移動する。
「はぁはぁ………」
やっとの思いで木の箱の所まで、たどり着く事が出来た。
“もし木箱を掴み、それを利用しながら立ち上がる事が出来きたのなら………
諦めるのは、まだ早い……”
と俺に教えてくれる。
そんな希望を持ちながら、木箱を両手で掴み、力を入れながらまずは上半身を起こし上げる。
「はぁはぁ……ふぅ………」
呼吸を整え、腕の力のみで腰を上げグッグッと身体を起こしあげていく。
木箱を掴んでいないとすぐに座り込みそうだった。
だが、足の指先を地面に力を込めながら、なんとか立ち上がる事が出来たのである。
「……はぁはぁ……やった……」
安心した途端力が抜けペタンと座り込んでしまった。
でも、すごく嬉しく小さくガッツポーズをしてしまう。
そして目が熱くなるのと同時に、涙がほろりと流れ落ちていくのがわかる。
可能性がゼロではないとわかった俺は、時間を見つけては木箱を利用しながら立ち上がる動作を、何回も何回も行っていた。
ペリアが来た時に【天使のアーツ】発動してもらう。
その時に少しでも成功確率を高くし、再び歩けるように……と。
そう決心したのだが、一週間経ってもペリアは俺の前に現れる事はなかった。
痺れを切らした俺は、食事を持って来てくれたルドベキアに聞く事にしたのである。
「なぜ、ペリアさんはあれから一度も来ないのですか?」
「あぁ……すまないな……ペリアも気にはしてくれているんだが、診療所の方が忙しいみたいでな…」
「そう……ですか……」
「あの……ルドベキアさんにお願いがあるのです………」
ルドベキアは俺のお願いを、すぐに叶えてくれた。
木箱の隣に5m程の二本の手すり、歩行バーを作ってくれたのである。
「作ったのはいいが、これ一体何に使うんだ?」
「ペリアさんが来た時の為に、少しでも負担を減らそうと思いました」
そういい俺は、食事はそっちのけでいつも通り木箱まで地面這って移動し、木箱に辿り着くと、木箱を掴みながらゆっくりと立ち上がり、歩行バーへと少しずつ移動を始めたのである。
両サイドの歩行バーを掴みながら、ゆっくりと歩き始めようとした。
だが、足は棒のように重く、俺の意志とは裏腹に全く動く事はなかったのである。
それでも諦めなかった……
片手で歩行バーを掴み、もう片方の手で自分の足の服を掴み、前へ引っ張りながらなんとか5m歩き切ったのである。
疲れてその場に両足に伸ばしながら、座り込んでしまった俺の姿をルドベキアは口を半開きにしながら、唖然として見ていたのであった。
「おっお前………」
「はぁはぁ………ルドベキアさん………もう一つお願いがあるのです……
ペリアさんに、はぁはぁ……
もう一度だけ【天使のアーツ】の発動を、お願いしたいです。
夜中でもいいので、近いうちに来ていただけるよう話ししてもらえませんか?」
「なぜ、そこまでお前は頑張るんだ?」
「はぁはぁ……
俺はこの背中にある烙印がいつか必ず災いを起こすと思って、ロールライトから出てきました。
でも、それでも勝手に出て行った俺を、許してもらえるのなら………
いつか必ずロールライトに帰って、笑顔でセルビアさんと再開したいです……
だから無理だろうがなんだろうが、絶対に治したい自分の足で立って、歩いて再開します……」
再び歩き始めたルドベキアは、黙って俺のその姿をみていたのであった。
その日の夕方頃、ペリアは約一週間ぶりにアジトへと顔をだしたのである。
「ルドベキア、ルークが坊やはどんな感じかしら?」
「………」
その質問にルドベキアは答えることなく、何か言いたそうな顔をしながら黙ってペリアを見つめていた。
「なっなによ………?」
「あいつからの伝言だ『忙しくてもいい近いうちに来て、【天使のアーツ】を発動して欲しい』だとさっ」
「はぁ………なんであいつ、あんなに前向きなんだ?
…俺には到底理解できん……」
「えっ?」
ルドベキアの言っている事を理解度出来なかったペリアは早速、俺に見つからないようにドアの隙間から覗き込んできたのである。
「!!!」
ペリアは、歩行バーを使い休み休み足の服を掴み引っ張りながらも、立って歩いている俺の姿をみて驚き、すぐさまドアを閉めルドベキアに問い詰めて来たのである。
「ちょ……ちょっとルドベキアこれは一体どういう事よ!?
ルーク坊やの両足に【重力のアーツ】を発動してと、私はお願いしたわよね!?」
「あぁ、今も【重力のアーツ】は発動中だ」
「ならなぜ、あんな事をしているの!!」
「あいつの片足ずつに5t程の負荷をかけている……普通は動けない。
動けないがあいつは諦めちゃいないんだ………」
「なにを……?」
「5tの重さを克服し、立って歩く事を………」
ルドベキアは自由自在に重さを操る事が出来る【重力のアーツ】の持ち主である。
その気になれば、ルークの足を完全に押しつぶす事も可能なのだが、ルドベキアは調整しルークの両足が押し潰れないギリギリまで負荷をかけていたのである。
「克服って………」」
「あいつが言ったんだ、絶対克服したいから協力しろって………」
「だからって素直に協力することないじゃないのよ!」
「なぁペリア……もう、許してやれよ」
「絶対に嫌ですわ!!」
そう言いペリアは、ルークに会う事なく帰ってしまうのであった。
「お前まで一緒にガキになるなよ……ペリア………」
ペリアは慌てて帰りながら、自らの誤算を整理していた。
第一段階として、とりあえずペリアは、もう二度と歩けないと言う嘘の事実をルークに叩きつけたかった。
第一段階は成功したが、なぜか第二段階からペリアの思惑とは違う方向に進んでいる。
どん底の底までに叩き落とし己の行動を反省させ、セルビアの想いや他の皆の想いを少しはわかって貰いたかった。
所が、反省するどころか、自ら克服しようとしていたルークの行動はペリアにとって大きな誤算であった。
反省するわけでもなく、わかろうとするわけでもない行動にペリアは益々許す事が出来なくなったのである。
その日の以降、再三ルドベキアはルークの事を報告していた。
だが、ペリアも意固地になってしまい、ペリアはルークの前に現れる事はなく、半月の月日が流れてしまったのである。
ルドベキアにペリアに会いたいと、頼んでから半月程経った頃だろうか。
毎日体力の続く限り、歩行バーを使って無理矢理立って歩いていた。
しかし、俺の足は相変わらず膝も曲がらず、棒のまま全く動く気配はなかった。
回復しているとは、到底思えなかったのである。
“やはり無理なのか……”
という諦めが脳裏によぎり始めてしまう……
そして、一度よぎってしまうと後は絶望感へと変化していく。
動かない足を触りながら、未来の希望のなさに打ちのめされ……
セルビアとの再開も絶望の淵へと、叩き落とされ、次第に生きる気力を、失うキッカケになっていったのである。
もう何日も食事も摂らず、寝る事もせず只動かない両足を見つめているだけの日々が、過ぎて行くのであった。
そんな俺の姿を、ルドベキアはもう見てはいられなかった。
ある日、ルドベキアはアジトにあれ以来、来なくなったペリアに会う為、診療所へと足を運んだのであった。
「おい、ペリア………」
診察中なのを御構い無しに、ルドベキアはペリアに話しかけてくる。
「いつまでルークを放置して置くつもりだ?」
「………」
返事もしないし、ルドベキアの方へ振り向きもしないペリアだったが、診察を受けていたシャンマリンが反応したのである。
「えっルーク君?」
ペリアは【天使のアーツ】を発動し、両目の治療をしていた時にシャンマリンは、ルークの名を聞いた途端、声のするルドベキアの方へと振り向いてしまうのであった。
「シャンマリンちゃん……まだ治療中ですわ………」
「あっ……はい、ごめんなさい。ペリア先生………」
素っ気ないペリアの態度は、ルドベキアの我慢の限界を超えていた。
「ルドベキア……話なら後にしてくれます?
今治療中ですのよ………」
「あぁ、そいつは悪かったな、俺はもう帰る!
だが、ペリアこれだけは言っとく、以前俺は言ったよな?
『あまりあいつを追い詰めるな……』と」
「えぇ言いましたわね………」
ルドベキアの顔を見る事なくペリアは素っ気なく答え、ルドベキアは話を続け、
「あいつ、このままじゃ今日にでも現実に起きている事に耐えられず、自ら命を断つぞ………」
それ以上ルドベキアは何も語らず、診療所を後にしアジトへと戻って行くのであった。
「ペリア先生、ルーク君が死ぬってどう言う事!?」
「シャンマリンちゃんには、関係ない事よ、ちゃんと治療に専念しましょうね」
「いやっ!
だってあの時、ルーク君すっごく痛そうだったけど、ペリア先生は『任せなさい』と言ったのよ!?
だから……だから、ルーク君を助けてあげてよ!!」
シャンマリンはペリアの【天使のアーツ】の発動のお陰で少しずつ視力は回復傾向ではあるが、まだ無理はしない為にも両目には包帯を巻かれている。
巻かれているはずの、包帯の下からシャンマリンは涙を流しながら、必死に訴えて来たのである。
「シャンマリンちゃん……」
必死のシャンマリンの姿をペリアは、治療が終わった後いつまでも印象に残っていた。
そして、気がつけばルドベキアのいるアジトへと、足を運んでいたのであった。
アジトに入ってきたペリアをルドベキアは、何も語らなかった。
一言だけルドベキアはペリアに、
『ドアの隙間から一部始終見ていろ』
とだけ話し部屋の中へと入って行くのであった。
俺の手の中には既に無意識に【黒のアーツ】を発動し、左手に黒くギザギザと鋭く尖った槍を、持っていたのである。
「よう、ルーク最近元気がないようだが、今日は俺の作った歩行バーだっけ?あれ使わないのか?」
「…………」
生きる気力がない俺は、ルドベキアの顔を一度だけ見てすぐさま顔を伏せながら、
「もう、なにも考えたくありません………」
なにも考えたくないし、今すぐ楽になりたかった。
「その手に持っている黒い槍……どうするつもりだ?」
そう聞いて来たルドベキアの声に俺は、黒い槍を見つめながら取っ手を持ち直し、尖端を自分の方へと向け、勢いよく自分の胸に突き刺したのである。
しかし 背中まで深く突き刺したはずの黒い槍は痛みもなく、血が一滴も流れる事はなかった。
「!?」
一部始終見ていたルドベキアは、驚きもせず俺の胸から黒い槍を引き抜き、俺を地面に押し倒しルドベキアの右膝が俺の胃を押さえつけ、両手で首を締めて来たのである。
「覚えておけ…小僧……
アーツは、自己防衛機能というものがあってな、自分で自らの命を断つ事は出来ない仕様になっている」
ググッとゆっくりと力を込めながらルドベキアは俺の首を締めて来た。
「そんなに死にたいなら、俺が今すぐ楽にしてやるよ……」
その言葉に俺は、
“これで楽になれる……”
と受け入れ眼を閉じ、ルドベキアに全て身を委ねてしまうのであった。
受け入れてしまった俺の態度を、ルドベキアは気に入らず、
ちっ
と舌打ちをし、込み上げてくる怒りをかろうじて堪えながら俺に話しかけて来た。
「楽にしてやる前に一つ答えろ……
ロールライトに戻ってきた時お前は、ペリアに『生きたい………』と言ったよな?
あれは嘘だったのか?」
……ルドベキアの質問は、俺の記憶を呼び覚ます……
確かにあの時俺は……
絶対に避けられない死への誘いを、拒否した。
セルビアさんの泣き顔を見たくなかった……だから……
生きたいと思った……
でも今は………
質問に答えない俺にルドベキアの両手は、更にきつく首を締めつけてくる。
「あっ……あっ……………」
だんだんと息が出来なくなり、目を見開きルドベキアの服を掴みながら身体をジタバタを動かすが、ルドベキアの右膝が身体中央にのしかかっていた為、うめき声しか出せなくなって行く。
しかし頭だけは妙にはっきりとしており、ルドベキアの声が淡々と鮮明に聞こえてくる。
「体調が万全ではないお前を送り出す事しか出来ず、自責の念にさいなまわれているセルビアが、今度はお前自ら命を絶ったと知らされた時、あいつはどう感じそして、どんな結論を出すと思う……」
「あいつもお前の後を追うだろうな……
そんな結末をお前は望むのか?」
“セルビアさん………そんなの……ダ……メ……”
そう言葉にも出来ず口だけパクパク動かし、ルドベキアの服を掴んでいた手の力も次第に抜け、ダランと無造作に床に手をつき意識が遠くなり、瞼を閉じて行く。
枯れ果てたと思っていた涙が、最後の力を振り絞ったかの如く自然とにじみだし一筋の涙が、こぼれ落ちてきた。
その姿を見たルドベキアは、すぐさま首から手を離し締めるのを止め、立ち上がりながら俺の姿を見下ろしていた。
急激に酸素が肺に届き息を吹き返えした。
「げほっ……げほっ……はぁはぁ……」
締め付けられていた首を抑えながら、呼吸が整うまで苦しみ嗚咽を繰り返している俺の姿を、見ながらルドベキアは、
「ルーク、まだ死にたいか?」
「はぁはぁ………くっ……」
まだ返事をする事が出来ない俺は、首を横に降りながらルドベキアの方を向く。
その姿を見ていたルドベキアはドアの方を見ながら、
「という事だペリア!!!」
「えっ!!」
ペリアは一部始終見ていたのか、ルドベキアに呼ばれ俺の前へと現れたのである。
「これは一体………」
現れたペリアは俺の姿を黙って見下ろしていた。
「ルドベキア、もういいわ…解除してあげて……ルーク坊やの反省、確かに受け止めたわ……」
その言葉を聞いたルドベキアは頷き、俺の両足に手を置きながら、
「【重力のアーツ】発動、解除」
ルドベキアが発動解除と言った途端、俺の足にのしかかっていたダルさは取れ、足が軽くなってきたような感覚がしてきた。
「!!あの……これは一体……」
「要するにだ……」
ルドベキアは少し悪びれながら……
どうやら、俺がペリアの診察室に行った時に、ペリアは【天使のアーツ】で激痛を起こしていた俺の足腰は回復してくれていたらしい。
しかし、俺の身勝手な行動にペリアは怒り、ルドベキアの持っている【重力のアーツ】で両足に重力を掛け、歩けないようにさせ、反省させようとしていたらしい……
「えっでも……両足の筋肉は完全に断裂していて、【天使のアーツ】で痛みを抑えている。
そしてもう手の施しようがないって………
それにペリアさんは、『もう俺は……立って歩けないのですか!!?』
という質問に答えては、くれなかったじゃないですか!?」
「私は否定もしなかったし、肯定もしませんでしたわ……」
「たっ確かに………」
「筋肉は確かに断裂はしていました、まぁ重い肉離れですね……」
「………という事は……?」
「えぇ、無理をしなければ、きちんと歩けるようになります。
私のリハビリはマーシャルより厳しいですが、逃げ出さずについてこれる事が出来るのなら、元の身体にきちんと戻りますわよ………」
「!!!!!」
「それで、万全になったらお前はどうすんるんだ?ロールライトに帰るのか?」
そう聞いて来たのは、ルドベキアだった。
「ロールライトには帰りません……
俺があの家に戻って今まで通りの生活を続けていたとしても、この背中の烙印がある限りいつかセルビアさんに、迷惑をかけるのではないか……?
セルビアさんだけではなくマーシャルさん、アルディスさんそして、ギレット先生……
俺に関わってくれた全ての人たちに、償い切れない負担をかけるのではないか!?
そう考えると俺は、まだ帰れません」
俺は今まで思っていた事を、一気に爆発するかのようにルドベキアとペリアに話をしたのである。
その話をペリアは黙ったまま最後まで聞き、話し終わると俺の両肩を掴みながら、
「その背中の烙印があろうが、なかろうが残された者たちは今でもあなたの事を、心配していますわ」
「でも……でも………
もしかしらセルビアさんは、俺のせいで支部長の任を解かれてしまう……
マーシャルさんも幹部の席にいられなくなってしまった………
と考えたら俺は………俺は………
どうやって償ったらいいのかわからないのです!!」
煮え切らない俺の態度に、ルドベキアは、
「はぁ……あのよ……
背中に烙印がある?だからどうした!?
お前には、お前を大切にしてくれる奴が沢山いるだろうが!!
それをなんだ?
迷惑をかけるから離れる………ふざけんな!!
お前はなにもをかっちゃいない……
なぜ、セルビアがお前の帰りを信じて待っていたか!?
ギレット殿とマーシャルが、なぜ危険な橋を渡ってまでお前を救出に行ったのか!?
将来の事なんかあいつらは、考えちゃいねぇよ!
ただ単にお前の幸せを、あいつらは願っているんだよ!!
だから、気にせずロールライトに帰れや………」
「うっ……うっ………」
両目から涙がこぼれ出し、止まらなくなってきた……
「グズッ……ごめんなさい……ごめんなさい…」
下を向きながら俺は、もう泣く事しか出来なかったのである。
セルビアに届くはずがないのに、俺は懸命にセルビアに謝っていた。
何度も何度俺は、ペリアにお礼をいい、ふとルドベキアは思い出したかのように意外な事を、言ってきたのである。
「というかよ……セルビアは【焔のアーツ】の使い手だろ?
セルビアに背中の焼印焼き直してもらえば、奴隷の証拠なんて消えるんじゃないのか?」
「!!!!」
ルドベキアの提案は以外過ぎて、驚くしか出来なかった……
確かにそうかも………




