第二十七話 決断……
次の日、俺はマーシャルの回復を受けながら考え事をしていた。
ここから出て行くのはいいとして、まずベットから立ち上がるとセルビアがすぐに駆けつけてしまう、これをなんとかしなければどうしょうもないよな………
と考えているうちに本日の回復時間は終わってしまった。
「今日はこれで、終わりよ」
「ありがとうございます、マーシャルさん」
「順調に回復していますわ……もう家の中でしたら自由に動き回ってもいいですわよ」
「…………」
黙っている俺に、マーシャルは少し笑いながら、
「あら?喜ぶと思ったのですが、あんまり嬉しそうではありませんね……
どうかしまして?」
「あの………マーシャルさん、まだ外に出たらダメですか?」
「あぁ、なるほど
そうねぇ〜松葉杖を使うのでしたら、外に出てもいいですわよ」
「えっ!?」
ニコッと笑いながらマーシャルは頷いてくれた。
「セルビアには、私の方から言っておくわ」
そう言ってマーシャルは部屋から出て行ったのである。
早速というわけではないが、ゆっくりとリハビリを兼ねて俺は部屋の中を動き回る事にした。
まだ、少しふらつく事があってセルビアがハラハラしながら俺の姿を見ていた。
「ルークちゃん、無理しちゃダメよ。
もうベットに戻りなさい…………」
そう言われて、ベットに反強制的に戻されてしまった……
しかし、懲りずにリハビリを続け、更に一ヶ月ぐらい過ぎたある日の事だった。
ベットで本を読んでいると、庭の方から何やら聞き覚えのある話し声と激しい戦いの音が聞こえて来た。
窓の側へと歩いて行くと、案の定ギレット爺さんとセルビアは戦っていた。
戦っていたと言うより、いつも通りセルビアは防戦一坊だったけど……
ベットに戻ると激しい戦いの音は消え、ドア叩く音がしたのである。
俺はのろりくらりとドアまで歩きドアを開けると、そこにはギレット爺さんが立っていたのである。
「おっ松葉杖なくても歩けるようになったのか!?」
先程、庭でセルビアと激しく動き回っていたのに、息一つ切らしていない姿は流石に感心してしまう。
「はい……」
「そうか、そうか、それはいい事だ……
今日はお前に会わせたい奴がいるんだが、いいか?」
「はい……」
ドアから一人の男の人が俺の前に現れたのであった。
「!!!!!」
ギレット爺さんの隣には、ローリンアウェイが立っていたのである。
ローリンアウェイは、俺を競売で競り落とし『ラッセル』に連れて行った張本人だ……
“なぜこいつが………ここに………もしかして俺を連れ戻しに………?”
「ギッギレット先生…………?」
「あぁこいつはな、今回の一件で奴隷商人を廃業したんだ。
そして儂と共に前向きに生きて行く事を、決め再出発する事になった。
しかし、その前にどうしてもルークに会いたいと言ってきてな……連れてきた……
儂はルークがこいつをどうしても許せなくて、殺したい程憎んでいるんなら今ここで儂が殺すがどうする?」
「どっ……どうするって……言われましても‥………」
ローリンアウェイは何も言わず、俺を見ているだけだった。
「あの、ギレット先生、この人と二人っきりにしてもらえませんか?」
「あぁ構わんぞ」
そう言ってギレット爺さんは、部屋から出て行ったのである。
二人っきりになったのはいいのだが、怖くて眼が合わせる事が出来なかった……
「あっあの…………」
「謝る気はない……あの時は俺も商売だったからな…………」
「しかし、こうなった以上きちんとけじめをつけて、旦那の元で働きたいと思っている……
詫びと言うわけではないが、俺にできる事があるなら何でも言ってくれ…………」
「あの、お願いがあるんです!」
「ほぉ、死ぬ!以外なら叶えようではないか」
「実はですね…………」
俺はローリンアウェイにここから出て行きたい事を話し、出る手段を考えて欲しい事を伝えたのであった。
最初はローリンアウェイも賢明に説得をしてくれたのだが、俺はこの背中の烙印がある限りここにいられない事を話し考えは変わらない事を話す。
すると、その覚悟を受け取ってくれたのかローリンアウェイは承諾してくれたのであった。
ローリンアウェイは承諾したら、こんなに順調に事が進んでいいのか?
なにか罠があるのではないか?
と思うぐらい、即実行してくれた。
その日の夜、俺はローリンアウェイからもらった眠り薬を、セルビアのお茶に混ぜる事に成功しスヤスヤと暖炉の前で寝ているセルビアにそっと毛布を掛け、黙って行く後ろめたさは確かにあった………
家を見上げながら、
「ごめんなさい……セルビアさん…………」
そして俺はローリンアウェイが待つ馬車へと向かったのであった……
ローリンアウェイは俺が乗るのを確認すると、馬車は直ちに出発したのであった。
なにも荷物は持ってこなくていいと言われたのだが、本当に良かったのだろうか?
「それでどこに行くのか決めたのか?」
「まず、『水の街ヴァル』に行って、ペリアさんにお礼を言いたいと思います」
ペリアとは今回初対面だったが、その以前にも俺はペリアには助けてもらっている事を、つい最近セルビアから聞いたのである。
だから、会ってお礼を言いたかった。
「そうか、わかった……
国境手前の検問所までは送ってやる。後は自分でなんとかしろ」
「はい」
「後、後ろにある袋を開けろ
その中に鎖帷子があるからそれを着てから、服を着ろ」
ローリンアウェイに言われるがまま、袋をあけると食料に、薬草、そして様々なお札が入っていた。
早速服を脱ぎ鎖帷子を着て、その上から服を着る。
鎖帷子は凄く軽くなにも違和感がなかった……
「ローリンアウェイさん、この鎖帷子軽くて着ている感じが全くしません」
「あぁ、特注品だ大事にしろよ…………」
「特注品ですか?」
「あぁ、その鎖帷子はな……」
本来なら鎖帷子は鉄で作るのが一般的なのだが、希少なプラチナを原料にし一つ一つ継ぎ目の無い輪と、継ぎ目のある輪を交互に使って軽量化と防御面に重点を置いた防具としてローリンアウェイは大急ぎで特注したのである。
背中の烙印部分は二重構造になっており、例え背中を切られたとしてもダメージはそれほどなく、烙印を見られる可能性は低いのであった。
防御面ではちょっとやそっとの【アーツ】の攻撃では身体にかかる衝撃はあるが、ダメージは殆ど残らないが、刺突によるダメージや鈍器による衝撃を緩和する効果はあまりない為、それだけは注意したほうがいい。
とかなりの熱弁を聞かされた後、更に、鎖帷子の定期的な手入れの仕方まで教えてくれた。
「あの……そんなにお金持っていませんよ?」
「気にするな!お前を売った金で揃えた物だ…………」
“それもなんか癪に障るな……”
と俺は思った。
国境近くにある検問所に着くまでの間、ローリンアウェイは様々な事を教えてくれた。
まず、この鎖帷子は防御はもちろんの事、本当の目的は俺の背中の烙印を上手に隠していると言う事だった。
だから必要な時、以外脱がない様にと何度も念を押されたのである。
もし、俺が烙印持ちだと知らられば、『水の街ヴァル』で水攻めに合い溺死体させられると言われた。
他にも『風の街サイクロン』では竜巻の中無理矢理連れていかれ、高く飛び上がった所を急降下で地面に叩きつけられて殺されるとか……。
更に『土の街グランディ』では、土の中に埋められ放置されたまま、動物が襲って来て殺されるとか。
怖い事ばかり教えてくれた。
「後、お前さんは一応逃亡奴隷の扱いになる」
「逃亡奴隷?ですか?」
「あぁ、見つかればその場で殺されるか『メシュガロス』に逆戻りだな……」
「逃亡奴隷ってすぐにわかるの者なんですか?」
「奴隷って言うのは、お前さんも体験してわかっているとは思うが、その区域内での強制労働を強いられ、外に出る事はない。
そして散々こき使われた挙句に待っているのは死だけだ、未来なんてあった物じゃない…………」
「だが、お前さんはこうして今も尚生き延びて自由に歩き回り生きている。
けどな、背中のその烙印がある限り一生逃亡奴隷のままだ…………」
「…………」
「だから背中は常に意識して、絶対に見られるな!
見られない限りお前さんは普通の十二歳の子供だ、いいな!」
「はい、よぉ〜くわかりました…………」
そして、さらにローリンアウェイはヴィンランド領全域で使えると言う通行手形も渡してきてくれた。
これさえあれば、ヴィンランド領の国境全て通行出来るようだ。
この通行手形も高そうだけど、俺を売った時のお金なのかな?
気分が悪くなるから、聞かないでおこう……
一通り話が終わると、ローリンアウェイはまだ国境に着くまで暫くかかるとの事で、それまで休んでいろ。
と言われ、俺は馬車に揺られながら眠る事にした。
陽が真上に昇る頃、馬車はロールライトライトと『水の街ヴァル』へを結ぶ国境線にある検問所へと辿り着いたのである。
「着いたぞ、ここから先は歩いていけ」
「はい、ローリンアウェイさん、我儘を聞いてくれて、ありがとうございます」
「これで貸し借りなしだからな!」
“貸し借り?なのかな???”
とも思ったけど深く考えないで置く事にした。
俺はポケットから一通の手紙を、ローリンアウェイに渡したのである。
「あの、ロールライトに戻りますよね?
戻ったら、これをセルビアさんに渡して下さい」
「わかった。確かに渡そう」
そう言って馬車は俺を置いて、ロールライトへと戻って行くのを見送ったのである。
松葉杖を両手に持ち、脇の下に挟み持ち手を持って検問所へとゆっくりと歩いて行く。
国境付近には、建物がありそこにいた受付の人に通行証を見せると、俺の顔をジロジロと見て来た。
「目的はなんですか?」
「『水の街ヴァル』には怪我によく効く物があると聞きました。
なのでそこに行きたいと思います」
松葉杖を使っていたお陰もあり、受付の人はすんなりと俺を通してくれた。
国境を超えると、いつも見ていた景色とは全く違った風景が見えてくる…
ロールライト領は、風は暖かく、緑豊かな所が多い領土だったが、ヴァル領土は海風が何処からともなく吹き、冷たく気持ちよかった。
“よし、ゆっくり行こう……”
俺は松葉杖を使いながら一歩一歩歩いて行く……
「ルークちゃん!!」
「!!!」
突然聞き覚えのある声に呼び止められた……
ゆっくりと後ろを振り返ると何故かそこには、検問所の兵士二名がかりで抑えられ息切れをしているセルビアの姿があった。
「セルビアさん……?何故ここに…………」
「ルークちゃん行っては駄目よ!?」
「…………」
“会ったら絶対に止められると思った………
だからこっそり夜中に見つからない様に出て来たのに………”
「ルークちゃん!!」
必死に叫びながら止めている俺は、セルビアの静止の声に背を向け、何も言わずボロボロと大量の涙を流しながら歩き出したのである。
俺の姿が見えなくなるまで、ずっとセルビアは俺の名を呼んでいてくれていた……
何度も何度も決心が鈍り、セルビアの胸に飛び込みたくなったが、必死に耐え俺はゆっくりと先を進むのであった…………
◆◇◆◇◆
セルビアが検問所に来たのには理由があった。
ローリンアウェイは、ルークとの対話が終わった直後にセルビアに呼び止められていた。
「よくもまぁ、ノコノコと顔を出せた物ですわね………」
セルビアの煮え切らない怒りは、『ローリンアウェイの事は決して許さない』とすぐに分かる程、殺気に満ち溢れていた。
しかし、ローリンアウェイはルークが今夜セルビアの飲み物に睡眠薬を入れ、眠らせている間にこっそりと出ていくと聞いた時には、流石のセルビアも冷静さを保つ事は出来ず【焔のアーツ】を発動しローリンアウェイを丸焦げにしてしまうほど激怒してしまうのである。
慌てたローリンアウェイは、セルビアに提案し始めたのであった。
「あっしは、あの決意に対して止められませんでした………!!」
「………」
セルビアは【焔のアーツ】を構えながら、ローリンアウェイの話を黙って聞いていた。
「だから………えっと………」
「あっしはゆっくりと進みます。
ですので、見つからない様に着いて来て、後から説得して下さい………」
「何を勝手な事を………
元はと言えば、あなた達があんな事をするのがいけなかったんでしょ!」
セルビアの怒りの熱気は、ローリンアウェイの側に置いてあった観葉植物をたちまち灰にさせ、散り一つ残さず消え去ってしまった。
「ひぃぃ!!」
「やはり、私はあなたと言う人間を許す事は出来ませんわ………」
セルビアは焔を纏った拳をローリンアウェイの胸目掛けて解き放っていく……
しかし、その拳は直前にギレット爺さんに止められてしまうのであった。
「………師匠………なぜ止めるのですか?」
「こいつは殺すな……例え一生許せないとしても、恨むな………」
「それは無理な話ですわ……師匠………」
「一番恨みを持っているはずのルークは、こいつにお願いごとをしたんだぞ」
「でも………」
「セルビア、ローリンアウェイの言うとおり、後を付けて説得しろ。
今、ルークを止めた所でいつかきっと出ていくぞ………」
「納得出来ませんわ…………」
そう言ってセルビアは部屋の方へと入って行くのである。
ギレット爺さんは頭をポリポリとかきながら、
「ったく……いつまでもガキだな、あいつも………」
その日の夜ルークが黙って出て行った後、嫌がるセルビアをギレット爺さんは無理矢理連れ出し、アルディスと共に、ルークの後を追い検問所付近で呼び止めたのであった。
ルークの姿が見えなくなり、泣き崩れているセルビアを検問所の兵士二名は、ロールライトの方へと連れ戻したのである。
「支部長殿………」
「ごめんなさい……お手数をおかけしましたわ………」
覇気のない返事をしてセルビアはそこから立ち去り、ギレット爺さんたちと合流する。
「セルビアこっちに来い」
ギレット爺さんはセルビアを手招きして呼んでいた。
アルディスとギレット爺さんはルークの姿を、国境線ギリギリの丘の上から眺めていた。
「おぉ、頑張って歩いておるわい」
その目線の先はゆっくりと松葉杖を使いながら歩いているルークに向けられていた。
たまに、転びそうになる事やフラつきながらも休んでは歩き、休んでは歩きを繰り返していた。
「やっぱり、不安ですわ!」
「お前は、どこまで過保護なんじゃ………」
少し呆れ済みに言うギレット爺さんの話をアルディスは、提案をしてきた。
「セルビア、俺の副支部長の任期を解いてくれないか?」
「えっ!?」
意外な提案にセルビアは驚きを隠せなかった。
「俺がルークの旅を見守りながら、支えるよ………」
「!!」
「アルディスお前……ずっと悩んでいただろう?」
アルディスは静かに頷くのである。
ルークの明るい未来を自分の油断から招き、決して消えない烙印を押されてしまった事を……
そして、自分の無力さにアルディスは常に落ち込んでいた。
決して消える事はないが、それでもルークに対してなにかしてやりたいと……
アルディスはずっと考えていたのである。
「頼むよ、セルビア行かせてくれ」
「どうせ、ルークの事じゃ、ペリアにも会いに行ったんじゃろて……」
「セルビア………」
セルビアは黙ったままなにも言えなかった、そして諦めたのか。
「わかりましたわ、でもこれだけは約束して……
『絶対無事に二人揃って帰ってくる』と」
「わかった……」
「はぁ〜ペリアさんに手紙書いて置きますわ…………」
こうして、アルディスはルークの後を見つからない様に、後をつけて行くのであった。
目指すは、『水の街ヴァル』そこには一体なにが待ち受けているのか、それはまだ誰にもわからなかった………




