第二十六話 それぞれの想い
ロールライトについた馬車は、俺を乗せたまま真っ直ぐセルビアの家に到着した。
俺の姿を見たセルビアは、手を握りしめながら、
「ルークちゃん、無事に帰って来て良かったですわ……」
と泣き出しそうなのを賢明に堪えながら、気丈に振舞っていた。
“無事ではないけど、セルビアに生きて会えたからそれでいいや”
と思ってしまう。
俺は部屋に運ばれ、そのままベットに寝かせられた。
ぺリアは俺の置かれている状況を全てを知った上で、セルビアの家で部屋で待機していてくれた。
そして、すぐに俺の身体を黙って看るのであった。
なぜセルビアの家にいたのかと言うとペリアは、『水の街ヴァル』には戻らずルドベキアに文句を言われながらも、俺は必ず戻ってくると信じて待っていてくれた。
三食昼寝付きの条件でセルビアの家に居候しながら俺が戻ってくるまで、ロールライトに滞在していると言ってきたらしい、
俺の身体を一通り見終わったペリアは、
「はぁ〜本当にヴァルに戻らなくて良かったわ……
【白のアーツ】というのは大変素晴らしいですわね…………」
「どう言う事ですか?」
「怪我はなに一つ回復させていないのに、生きて『メシュガロス』からロールライトまで帰還させるなんて……普通は考えられませんわ」
もったいぶっているペリアに、ギレット爺さんはちょっとイライラ君に聞いて来たのである。
「それで、ルークの状態はどうなんだ?
ここに帰ってくる途中マーシャルの【月光のアーツ】で回復を試みたのだが、どうにもならなかったのだが………」
「そうですわね、確かに【月光のアーツ】、【回復のアーツ】共に回復の範囲を大きく越えていますわね……」
「【天使のアーツ】ならどうなんじゃ……?」
「私一人の力なら成功率は五割と言った所かしら……
でも、あなた方も力を貸していただけるのでしたら、大丈夫ですわ」
ペリアはギレット爺さんの質問に答えた後、また俺の方へ振り返って来たのである。
「後、ルーク君?
あなたは、あの痛みをもう一度味わう事になります。その覚悟はありますか?」
「…………」
その言葉を聞いたセルビアは俺が返答する前に、
「ちょっと待って下さい。
ペリアさん今のままではダメなのですか?」
「確かに今は、意識はあります、これは【白のアーツ】のおかげです。
看てわかるように根本的な完治はしておりません」
確かにそうだ、俺の身体は骨と言う骨は全て砕かれ、全身傷だらけの状態だ。
それでも尚、今こうしてロールライトに帰還出来たのは、マーシャルが封印を解いてくれて発動した【白のアーツ】のおかげだろう。
「ペリア、儂にはさっぱりわからん、もっとわかりやすく説明しろ」
「わかりました……確信はないので、あくまでも私の予想とお考え下さい………」
【白のアーツ】は自分自身を回復する事は出来ない……
これは、絶対覆る事はない事実である。
では死にかけていた俺がなぜ死なずに、今も生きているのか………
それは、ギレット爺さんを回復させる為に【白のアーツ】を発動した際、死にかけていた俺にも【白のアーツ】回復はしなかったものの、死へのカウントダウンを止めたしまった。
とペリアは仮説を立てたのである。
「うむ、儂には余計わからなくなったぞ」
「よーするにですね…………
【白のアーツ】は宿主であるルーク君の避けられない死への誘い自体を停止させたのです」
「ほぉ〜なるほど!!」
「ですが、そろそろ【白のアーツ】の発動も限界が近いみたいですわね」
「という事はつまり…………?」
「はい、このままでは死にますわ…………」
「!!!」
ペリアの宣告に、俺も皆も驚きをは隠せなかった。
ペリアは、俺の胸のみぞおち辺りを触りながら、
「それでは、最後……にもう一度お聞きします……
間も無く時は動き出す事でしょう。
そうなれば、あなたはもう一度【白のアーツ】が発動する前の激痛が、一気に襲いかかります。
そして、最悪の場合二度と目を覚ます事が、出来なくなる可能性もあります。
もしそれが嫌なのでしたら、今ここで私が苦しまないよう楽にさせて差し上げますが、どうしますか?」
ペリアの話を聞いていると本当にもう後がないんだな…
と思ってしまう。
セルビアは感覚もない、動きもしない俺の手をずっと握っていてくれている。
「…いっ……生きたいです……」
力を降り縛るかのように、そう言うとペリアも覚悟を決めたのか。
「はい、その覚悟確かに受け取りました。
私も精一杯やらせていただきますわ」
そう言ってペリアは、触っていた俺のみぞおちを軽く押して来た。
それがスイッチだったのか、既に限界だったのかはわからないが、急にぐわんっぐわんっと視界は周りだし、ガタガタと痙攣を起こしたかのように、俺の身体は上下に動き出す。
止まっていた時間は再びは動きだし、激痛が一気に押し寄せてきた。
「!!!!」
側で俺の手を握っていてくれたセルビアの姿を見る事なく、あっという間に白眼を向き俺の意識はなくなっていった。
ペリアはすかさず【天使のアーツ】を発動し、次第に右手は光り輝きだしていた。
そして俺の頭の方からゆっくりと足の方へと動かしていくと至る所に無数の五芒星を作り出していった、
「見ていただけますか?これが、ルーク君の致命傷ですわね」
「こんなにですか!?」
「まずは、これを治します。
セルビアさん、ギレット殿、マーシャルさん、協力して下さいますわね?」
ペリアに呼ばれた三人は頷き、ペリアの右手に手を乗せ、
「いいですわよ、あなた方のアーツを発動して下さい」
との言葉を聞いた三人はアーツを同時に発動し、ペリアの右手にそれぞれの力が集約されていくのであった。
「大天使の息吹発動、この者の致命傷を回復させたまえ………」
無数の五芒星はペリアの声に反応し、俺の身体の中へと回りながら吸い込まれるように消えていき、身体の中に入った五芒星は光り輝きながら、折れていた骨は全て元通りし、そして傷口を塞いで行った。
その場で息切れしながら倒れこむ三人に対して、ペリアは【天使のアーツ】が発動をやめ、俺の首元に手を触れながら頚動脈を確認するのであった。
ドクン……ドクン……
「もう大丈夫ですわ、致命傷だった傷は全て回復いたしました。
後は毎日少しずつ体力と筋肉の回復を行って下さい。
そして、リハビリをしていけば時期に元の生活に戻れると思いますわ」
「ほっ本当ですか?」
「えぇ」
ペリアは、マーシャルの方を向きながら、
「マーシャル、私はいい加減『水の街』に帰りますわ。
後は、あなたの【月光のアーツ】で少しずつ回復をさせてあげて下さい」
「わかりましたわ」
「えっ?ペリアさん、お帰りになられるのですか?」
「はい、これ以上ここにとどまっていると、ルドベキアにいい加減怒られてしまいますので………」
「そうですか………
ありがとうございます、ペリアさん……」
そう言ってペリアは俺の顔をもう一度確認し、ルドベキアにブツブツと文句を言われながら『水の街』へと帰って行ったのである。
次の日から、マーシャルは毎日俺の所に来て【月光のアーツ】を発動してくれている。
少しずつ力の感覚を取り戻してきていたが、起き上がる事は何とか出来るようになったが、立ち上がりはまだ出来ず、まだまだ時間がかかりそうだった。
そんなある日、セルビアはアルディスを連れて来たのである。
コンコン……
「ルークちゃん、入りますわよ」
セルビアのすぐ側にはアルディスが立っており、周りをキョロキョロ見回していた。
「アッ……アルディス………さん?」
「わかりますか?ルークちゃんよ………」
セルビアはそっとアルディスの背中を触りながら、話しかけていた。
勧められるがまま黙ったまま俺の姿をずっとみていた。
「ルーク…………?」
アルディスはセルビアの方を向きながらそう聞いていた。
そしてセルビアも黙って頷いていたのである。
「はぁはぁ………ルーク…………?」
その場で頭を抱えしゃがみ込みながら、アルディスは震え出す……
「はぁはぁ…………」
アルディスの頭の中ではプレイバックしているかのように、今までの事がスローモーションの様に再現されて行き、そして全て思い出して行った。
「はぁはぁ…………あんにゃろぅ…………」
アルディスは、立ち上がり突然叫びだしたのである。
「ルーク!お前ーー!!」
起き上がっていた俺にアルデイスは飛びかかり、そのままベッドに押し倒して来た。
「いって………」
アルディスは俺の上に四つん這いになったまま、睨みつけていた。
「なんて無茶をするんだ!お前は!!!!」
「お互いに、いっ……生きてて良かったです。アルディスさん」
「ちっ………」
と舌打ちをしながら俺の前を離れベットから、降りたアルディスはセルビアと目が合う。
「アルディスちゃん?
もしかして…………記憶が戻ったのですか?」
ポリポリと頭をかきながらアルディスは、
「はい……」
と答えていた。
もっと話はしたかったがまだ無理をさせられないとの事で、セルビアはアルディスと共に部屋から出て行ったのである。
そのまま暖炉のある部屋へと移動し先にソファに座っていたギレット爺さんやマーシャルと合流したのである。
「どうだった?」
「お騒がせしました……」
「おっ無事に記憶が戻ったようですわね」
「はい」
セルビアもアルディスもソファに座り、誰もなにも話さぬまま暖炉の火がパチッパチッとだけ響き渡っていた。
ーーーーセルビアの考え事ーーーー
アルディスちゃんの記憶が戻って良かったですわ。
そして、ルークちゃんも順調に回復しているようでペリアさん、そしてマーシャルには本当に感謝しても感謝しきれませんわ。
でも、これからルークちゃんの進む道……一体どうすれば………
あの背中烙印……
きっと私はあれを見たら、気が狂いそうなくらい動揺するのでしょうね……
そして、あの烙印がある限り『ラグナロク』に行く事も、アーツハンターになる事も叶いませんわ……
ならばいっその事知らない振りをして……
でも烙印を他の者に見られた場合、ルークちゃんとはもう二度と会う事は出来ないでしょうね………
となれば、この家で一生外に出ないまま過ごす……?
そうすればルークちゃんはもう辛い思いをしなくて済みますけど、それは果たして本当にルークちゃんの為なのかしら………
う〜〜〜ん、困りましたわね………
ーーーーギレット爺さんの考え事ーーーー
うむ、まずはルークの救出とアルディスの記憶が戻った事は、結果的に良い方向に進んで良かったわい。
アルディスは、もう暫く休養をすれば、落ち着きを取り戻しいつもの生活に戻る事だろう……
しかし、問題もあるな………
『ラッセル』もあのまま放置して置くわけにもいくまい。
ならばいっその事、ローリンアウェイの馬車を使って数人の仲間と共に内部に侵入し破壊……
しかし破壊した後、中にいたルークと同じ立場の奴隷達をどうするかの……
彼らには居場所もなければ、帰る場所もない………
ふむ………おいおい考えるかの……
そしてやはり一番の問題は、ルークだろうな……
あの背中にある、消しても消せない烙印は、このまま放置して置くわけにはいかんだろ……
何とかしてやりたいが、さてさてどうするかのぉ〜
ーーーーアルディスの考え事ーーーー
あのやろ〜よくも俺を海に突き落としたな!
よくは覚えていないが、死ぬかと思ったのは覚えているぞ!
だが、ルークの咄嗟の判断がなければ、俺はあそこで死んでいたんだろうな……
俺の油断からルークを奴隷にさせてしまった……
あいつの背中の烙印何とかしてやりたいな………
ーーーーマーシャルの考え事ーーーー
困りましたわ!!!!
ほっんとに困りましたわ!!
まず『メシュガゴロス奪還作戦その壱』これの報告書どうしましょ!
絶対ギレット殿は、そんな事頭の片隅にもない事ですわ!!
やはり、私が作成するしかないのかしら……
はぁ……幹部たちが納得するかしら。
それにまだありますわ…
ローリンアウェイの件ギレット殿は、任せろと言ってはいましたが、私個人としてはギレット殿に任せたいと思いますが、幹部としての立場から言わせれば黙認出来ないのよねぇ………
もう一つ、これが一番の問題ですわ。
ルーク坊やの烙印と封印解除………
奴隷になった者をアーツハンターにさせるなんて事、絶対に認めないですわ。
もし隠してアーツハンターになった場合、見つかれば即刻処刑処分ですわよね……
知っている私たちも黙認していたとして処刑されるわよね……
それに、勝手に封印解除したのも大問題ですわ。
『メシュガゴロス奪還作戦その壱』を遂行中、『メシュガロス』にて【黒と白のアーツ】保持者ルークを発見。
我々は直ちに救出し、その結果彼の背中には奴隷の焼印を押されている事が判明。
更には全身激しい傷を負い、【月光のアーツ】の回復でも手に負えない程の瀕死重症だった為、【黒と白のアーツ】の封印をアーツハンター協会幹部、戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライムの責任を持って解除、その結果無事生還する。
なんて、絶対に書けないわよ〜
私、首になるわ………
ーーーーーー
皆が皆、様々な悩みを抱えていた。
そして同時に深いため息が響き渡ったのであった。
「なんじゃ、皆も考え事をしておったのか……
ふむ、いい機会じゃの……一人ずつ話し合ってみるかの」
「そう……ですわね……」
ギレット爺さんの発案により、一人ずつ今考えている事を話し始めたのである。
一通り話が全て終わり、ギレット爺さんは腕を組みながら、
「ふむ、やはり問題はルークじゃな………」
「えぇそうですわね……」
「しかし、ルークは幸せ者じゃな、皆に心配されておる」
「特例というのはどうですか?マーシャル」
「アルディス、特例というのは?」
「あいつは、伝説の【黒と白のアーツ】の持ち主です。
奴隷になったとは言え、このままアーツハンターにさせないという事は、協会にとっても色々と問題がありますよね?」
「あぁ………そういえば、あいつも言っていたな、『アーツバスターを殲滅できる鍵を』と……」
「アルディス、貴方も知っているはずですわ。
幹部は特例を許しません、秩序の為に……
会長ならあるいは特例を許してくれるかもしれません。
ですが、幹部は絶対に認めません……
奴隷と知れ渡れば幹部たちは、ルーク坊や以外にも知っている私たちもアーツハンターの資格を剥奪し、悪ければそのまま皆仲良くあの世行きですわ、
そしてルーク坊やは、一生死ぬまで監禁されアーツバスターとの戦いにのみ駆り出される事でしょうね
それが終われば、また監禁される……
そんな生活になってしまう事でしょうね……」
「そんな事、絶対にダメですわ!!」
「だな……」
「うーん、なにかいい方法はないのだろうか………」
結局いい案は浮かばずその日は、解散という事になったのである。
そして明確な結論はでないまま、半年が過ぎていった。
マーシャルの【月光のアーツ】のお陰で体力は徐々に回復し、リハビリも少しずつ行い松葉杖を使えばトイレぐらいは行けるまで回復をしたのであった。
しかしセルビアは、トイレに行く時以外は絶対にベットから動くなと言うのである。
俺がベットから立ち上がるとセルビアは何故かすぐに察知して飛んでくる。
「あの、セルビアさん……少しだけ運動させて下さい………」
「まだ無理をしては、行けませんわ!
ルークちゃん……次勝手に起き上がるような事があれば、私は両手両足を縛り付けて動けないようにします!いいですわね!!」
と軽く脅されてしまうのであった。
「あのセルビアさん……?」
セルビアは俺の部屋のカーテンを閉めながら、話を聞いてくれていた。
「俺、これからどうなるんですか?」
「なにも心配する事はないわよ。マーシャルが言っていましたわ
『もう少し安静にしていれば、時期に動ける様になりますわ』って」
「いや、そうじゃなくて………」
セルビアも俺が何を言いたいのか察知しているのか、眼を合わせてくれなかった。
「その………俺は、アーツハンターになれるのですか?」
「それは‥………」
言葉に詰まるセルビアは悲しそうな顔しかしていなかった……
「ごめんなさい……今は身体を治す事だけ考えます……
セルビアさん、少し一人にしていただけますか?」
「……ル……」
セルビアは俺の名を呼ぼうとしていたが、途中で辞め部屋から出て行ったのであった。
ベットに寝転びながら考えていた。
ーーーールークの考え事ーーーー
セルビアさんのあの態度をみる限り、状況はかなり厳しそうだ……
そして、このままここに居てもこの背中の烙印のせいで、今まで俺の事を大切に思っていてくれた人達に、そう遠くない未来に多大なる迷惑をかけるんだろうな………
そんな事はない!
と口を揃えて言ってはくれるんだろうけど、俺はもうここにいない方がいいのかもしれない………




