第二十五話 ルーク奪還作戦
ギレット爺さんとマーシャルは既に『メシュガゴロス』に近くまで到着していた。
馬車の中で『ルーク救出』の作戦を考えていたのだが、どれも危険を伴う作戦ばかりで今ひとつ両案とは言えなかった。
「やはり先に儂が『メシュガゴロス』に侵入し、奴らを引きつけながら大暴れしようかの。
そしてその間にマーシャルお主は、ルークの居場所を捜し出し救出しろ」
「わかりましたわ……確かに、それしか方法はなさそうですわね…………」
と一度決まりかけたのだが、ローリンアウェイは反対意見をだしたのである。
「ちょ…ちょっと待って下さい。
旦那それはあまりにも無謀すぎます」
「そうじゃろか?
儂は若造共にまだまだ負ける気はせんぞ!」
「いや、そうじゃなくて……『メシュガゴロス』はですね…………」
ローリンアウェイは『メシュガゴロス』について説明しだしだ……
まず、『メシュガゴロス』の入口は一つしかなく門兵もいない。
「なら、尚更侵入はしやすいじゃろ?なにが問題なんだ?」
「旦那……頼みますから、話は最後まで聞いてください…………」
ギレット爺さんの突っ込みを、ローリンアウェイは苦笑いしながら話をつづける。
確かに門兵は立ってはいないが、アーツハンター専用の探知機を街中全体に張り巡らし、いつ如何なる場合でも、アーツハンターが潜入すれば、たちまちに警報は鳴り響き即座にアーツバスターは集まり、無残にも取り囲まれて捕まるのである。
まずこの探知機を、どうにかしなければならない……
そして、ギレット爺さんにしろ、マーシャルが捕まるという事は、アーツハンターがアーツバスターに先制攻撃をしたとみなされ、それは新たな戦争への火種となってしまうのである。
「旦那達は、戦争をしにきたのでも、『メシュガゴロス』を奪還しに来たわけでもないのですよね?」
「そうだ、儂らはルークを取り戻しに来ただけだ」
「ならば旦那。ここはまず、慎重に行きましょう……
強硬手段はまだ早いです」
「そうか…………」
「それで、慎重にといいますが、ローリンアウェイ殿なにか手立てでもあるのですか?」
「旦那達は……あっしを最後まで信じてくれますか?」
「もし、万が一お前が裏切り、ルークが死んでしまった場合、儂はお前をルークと同じ目にあわせるまでだな……」
「ん〜そうですわね、私はセルビアに頼んで盛大な火あぶりの系にしてあげますわ」
「どちらも、ご勘弁を……肝に命じておきます……
取り敢えず『メシュガゴロス』にはあっしだけ一人で行きます。
旦那達はここで待機していて下さい」
そう言って、ローリンアウェイは馬車から降り『メシュガゴロス』の街へと入って行くのであった。
ローリンアウェイの後姿を見ながらマーシャルは、
「ギレット殿、あのローリンアウェイという男……一体何者なのですか?」
「マーシャル………セルビアには絶対言うなよ……」
その質問にマーシャルは頷き、ギレット爺さんは口を開く……
「あいつは、元奴隷商人だ。
そしてルークを『ラッセル』に連れて行った人間だ」
「!!!」
その言葉にマーシャルは驚きを隠せなかった。
「なぜ、そのような人間を今まで捕まえずにいるのですか!?
ギレット殿、大問題ですよ!!!」
「わかっておる…………」
「儂だって最初はあやつを、100回殺しても殺しきれん程の怒りが、込み上がってきていたわい……」
「ならばなぜ?」
「ルークの奴隷の焼印を押し付けた者を殴り飛ばした時に、気づいたんだ……」
「ルークに復讐では、なにも生み出せないと偉そうに言いながら、儂自らが怒り任せに、復讐の虜になってしまったのでは、師匠として示しがつかんだろ?」
「だからと言って…………」
「あぁ、あいつが今までやってきた事はいつか償わなければならない………
と儂も思っている…………この件は儂に任せてくれないか?」
マーシャルは頷き、それ以上なにも言わなかったのであった。
ローリンアウェイは『メシュガゴロス』に入って行く……
“ここは相変わらず、殺風景で冷たい印象の街ですな……”
等と考えながら中央にある四角い建物の中へと入って行く。
辺りを見わたすが誰もいなく、ドランゴのいる五階へと歩いていく。
ドランゴの部屋の前で、男に呼び止められるのであった。
「止まれ、何のようだ?」
「ドランゴ司令官に、お会いしたいのだが……」
「あんたは?」」
「ローリンアウェイが来たと、言えばすぐにわかるはずだ」
そこで待てと言われ、十分後、ローリンアウェイは司令官室に案内され、ドランゴと対面したのである。
ドランゴは後ろに手を回しながら窓の方に立ち、外を見ていた。
「ローリンアウェイか……久しいな」
「はい、最近ドランゴ司令官から追加奴隷の催促がなかったので、ちょいとばかし顔を見せに来ました」
「ふっ……相変わらず悪どいな……」
ドランゴの目線は、下を見下ろしていた。
「そうだな……現役のアーツハンターの奴隷を五人用意してもらいたい……」
「現役のアーツハンターですか?」
「あぁ…………」
「骨のある若くいい素材の奴隷がいたのだが……もう長くなくてな………」
ルークを見ながらドランゴは寂しそうにそう言い、ドランゴとは長い間取引相手として付き合ってきたが、寂しそうにしている顔はあまり見た事がなかった。
不思議に思ったローリンアウェイもドランゴの側にいき、窓の下の方を見下ろす。
「骨のあるって、あそこで動かないまま倒れている、子供?……ですかい?」
「あぁ、結構しぶとく生きていた方だがな」
「へぇ……」
「して……ローリンアウェイ、納期はいつ頃になりそうだ?」
そうドランゴに質問された瞬間ローリンアウェイの頭の中で『裏切』と二文字が浮かび上がっていた。
“ギレットとマーシャルの事をドランゴに教えて半殺しにしてもらう……
あっしは自ら奴隷の焼印を押し奴隷にする……
そしてドランゴに売りつければ……
イヒヒヒヒッ……
彼らは二人でも十分に、五人分以上の価値があるはずだ……”
そんな誘惑が駆け巡る……
しかしローリンアウェイはギレット爺さんの言葉が頭の中を駆け巡った。
『お前にはもっと、面白い物を儂が見せてやる……だからお前奴隷商人なんて辞めろ」』
“あっ危ない……思わず誘惑に負けてしまいそうだった……
旦那のいう面白い物……これをまずあっしは見てみたい………”
そう考え出した、ローリンアウェイは…
「現役ともなると、すぐには無理です……
まず奴らを捕まえて奴隷の烙印を押さないと……」
「ふむ、そうか……」
「ドランゴ司令官、力不足で申し訳ない……」
「いや、いい。無理を言って済まなかったな……
また、しぶとそうな奴隷を見つけたら、連れて来い」
「はい……」
これ以上話をしていると自ら墓穴を掘りそうだと思ったローリンアウェイは、早急にドランゴの部屋から出て来たのである。
ふぅ〜と深いため息をつき、気持ちを落ち着かせながらローリンアウェイは、
“確かにあれは、あの時の小僧だった………”
こうしてローリンアウェイは『メシュガゴロス』から出て、ギレット爺さん達が待っている馬車へと戻って行ったのである。
「旦那……遠目でしたが、まだ確かに生きていましたよ」
「なに!それは本当か!?」
「はい」
喜ぶギレット爺さんとは対象的にマーシャルはローリンアウェイに問い詰めて来る。
「まだ……?
という事は時間がないという事ではないのですか?」
「……」
その質問にローリンアウェイは答える事が出来なかった。
「どうなんですか?ローリンアウェイ殿」
「直接会った訳ではないので、なんとも言えません。
ですがドランゴ曰く『もう長くはないだろう』と言っていました……」
「!!!」
その言葉を聞いたギレット爺さんは何も言わず、馬車から飛び降り『メシュガゴロス』に飛んでいきそうな勢いだった所を、マーシャルが静止したのであった。
「どけっ!マーシャル!」
「落ち着いて下さい!ギレット殿!!」
「これが落ち着いていられるか!すぐそこで!ルークがいるんだ!
儂たちが迎えに来ると信じて今までずっと、頑張って生き延びて来たんだぞ!!
今助けないでいつ助け出すんだ!?」
「助けますわ!助けますが、ちゃんと作戦を立てて救出しなければなりませんわ!
失敗すれば、ルーク坊やに待っているのは死だけです!!
それは今まで我々を信じて生き延びてきた行為を、無駄にする事になりますわ!」
「!!」
「確かにそうじゃの……ふぅ〜……」
ギレット爺さんは、深いため息をつき気持ちを落ち着かせる。
「すまなかった、マーシャル。
で、ローリンアウェイなにかいい作戦でもあるか?」
「まず、現地の住人を雇います……」
「なに!!」
「ギレット殿!」
ローリンアウェイの言う事にいちいち反応する、ギレット爺さんをマーシャルは静止するのであった。
「理由は二つあります。
まず、あっしがこれ以上『メシュガゴロス』の街をウロウロするのも怪しまれます。
もう一つは、あっしが捕まった場合拷問は嫌いなので、あっさりと白状してしまいます」
“おいっ!!”
とギレット爺さんはまたツッコミをいれたくなってしまった。
その姿に一瞬ローリンアウェイは言葉に詰まってしまうが、マーシャルはギレット爺さんのを顔を見ながら、
「続けて下さい」
「……なので闇商人と取引をします。
彼らは、金を払えばなんでもしてくれます。
なので彼らに、探知機の……」
ローリンアウェイが最後まで言い終える前にギレット爺さんは口を挟んで来た。
「もういい、ローリンアウェイ。
儂はお前を信じる、だからルークを早く助け出してやろう……」
「わかりました。旦那、明日もう一度『メシュガゴロス』に行って交渉してきます」
「あぁ頼む」
次の日ローリンアウェイは再び『メシュガゴロス』に行き闇商人と取引をしてきた。
戻ってきたローリンアウェイはギレット爺さん達に伝える。
「旦那、マーシャル殿……決行は今夜です」
その言葉にギレット爺さんとマーシャルに緊張が走る。
その日は朝から雪が降り続き、夜も雪が降り続くとの事だった……
雪のお陰で、視界も悪く見つかり難い事、ルークがいつどうなるかわからない為、チャンスは今夜と結論をだしたのだった。
ローリンアウェイは地図を開きながら、まず先にマーシャルに説明をした。
「いいですか、マーシャル殿……まず北側にある壁を越えて下さい。
北側は発見されても、すぐに奴らはきません……
そして侵入と同時に探知機は作動しますが、警報は鳴り響きません。
ですので彼らはマーシャル殿の居場所はわからず、探索に出ると思います」
「わかりましたわ、私は隠れたり、逃げ回っていればいいですわね」
その返答にローリンアウェイは頷く。
そして、中央にある四角い建物を指差しながら、ギレット爺さんに説明をはじめた。
「いいですか、旦那。この四角い壁の外周に一箇所だけ目印があります。
まずそれを見つけて下さい」
「わかった」
「そして、その目印の壁の向こう側にいます」
ギレット爺さんは、ローリンアウェイの話を頷いたのである。
「ルーク坊やのしぶとさを今は信じましょう」
「あぁ……」
「あっしは怖いので、ここで待機しています!!ご武運を!」
こうして『メシュガゴロス奪還作戦その壱』は開始された。
雪がしゃんしゃんと降り続ける中、マーシャルは素生がばれないように、ローブとマントに身を包み侵入したのである。
作戦通り探知機は作動し、アーツバスターたちは侵入者であるマーシャルを追いかけ回している間に、ギレット爺さんは楽々と『メシュガゴロス』侵入に成功したのであった。
「待っていろ、ルーク今助け出してやる……」
◆◇◆◇◆
ギイィィィィ……
ドアが開く音がした。
落ちかけていた俺はその音に反応し、重たい瞼を懸命に開けていた。
ドランゴが俺を見下ろしながら、
「一年………お前はこの場所で耐え続けてきた……
正直言ってもう俺には、お前を見ていられない」
横になって微動だにしない俺を見ながら、ドランゴはそう話しかけてくる。
“トドメでも刺しに来たのかな………”
「最後通告だ…」
力強く俺の方を向いてドランゴは、
「バスターになれ!」
その言葉を聞い俺は最後の力を、振り絞るかのように口を動かす。
「ロー……ラ……ト……に、帰り……い………」
「!!」
その返答に対してドランゴはなにも言わず剣を俺に向け、ゆっくりと剣を振り下ろしてきた。
「ドランゴさん!!!」
急に後ろからドランゴを呼ぶ声が響き渡る。
振り下ろされた剣は寸止めで、止まっていた。
ドランゴは報告してきた、アーツバスターを睨みつけながら、
「なんだ……?」
「アーツハンターが侵入したかも?という報告が……」
「かもだと?随分曖昧な報告だな…………」
「『メシュガゴロス』門の前で一度だけアーツハンターの侵入を探知機は捉えたのですが、警報音がしないのです」
「ふむ……」
ドランゴは俺にトドメを刺さぬまま、垂直に飛び上がり部屋の真上にある五階の部屋の窓を開け入って行くのであった。
ドランゴが入った部屋は司令官室になっており、アーツバスターから報告を聞いていたのである。
「侵入されたと、聞いたが人数は?」
「それが……わからないのです…」
「わからないって……反応はしたんだろ?」
「確かにSS級のアーツハンターを捉えたのですが、捉えた瞬間探知機が………」
破壊された、探知機をドランゴは見ながらブツブツと言いながら考え出す。
「ふむ、状況がいまいちわからんな……
ひとまず俺はここで待機して、街全体を観察している。
お前たちは街中の探索を開始し、なにかあればすぐに報告しろ。
後、怪しい奴は片っ端から皆捕まえて、尋問しとけ」
「了解しました!」
ドランゴは司令官室で、動かないルークを見ながら、
「帰りたい場所か………………」
とだけ呟いていた。
気配を消しながら、ギレット爺さんは四角い建物を目指し誰にも見つからないよう、慎重にかつ、迅速に走り抜けていた。
そしてローリンアウェイが、話ししていたように外周を歩き回ると目印を発見!
「ここか……」
上を見上げながら【衝のアーツ】を発動し衝撃波を足元に作り出し、その衝撃を利用しながら高く飛び上がり、五階もある壁を軽々と乗り越え、ルークのいる部屋へと着地したのである。
俺の動かない身体は熱を持ち、残っている体力をすり減らしていく……
ピタッピタッ
冷たい感覚がしてきた……
そっと目を開くと空から白い物がふってきている。
“あぁ……雪だ……”
熱を持った俺の身体は、雪のおかげで少しずつ冷やされていく感覚がした。
“気持ちいいな……感覚すらもう残ってはいないと思っていたのに……
まだ死ぬなって事なのかな……?”
空を見上げていると、音もなく空から天使が俺の前に舞い降りた。
ストーーーン!
「ルーク生きているか!?」
舞い降りたのは、天使ではなくギレット爺さんだった。
“助けにきてくれた!
あっでもこれ、夢かな??”
「今までよく耐えていたな…………」
「………」
言葉に出したく、口を動かすが声を出す事ができなかった。
「もういい、ルークなにも言うな、すぐにここから出よう」
ギレット爺さんは俺をそっと抱きかかえ、先程と同じように高く飛び上がる。
その時、五階にいたドランゴと目を合わせながらギレット爺さんは俺を『メシュガゴロス』から連れ出してくれた。
司令官室で全てを、見ていたドランゴは、
「ふっははははははっ!!してやられたわ!!!」
ドランゴはギレット爺さんと目と目が会いながら、高笑いをしていた。
スノッサはドランゴに進言していた。
「何故です!なぜ追撃しないのですか!!アーツハンターが侵入したのですよ!!」
「ふっスノッサよ、目先のみの判断に囚われてはダメだぞ」
「といいますと?」
「奴らの目的がなにかは知らんが、アーツハンター共は先に我々に先制布告をしてきた………
これで奴らを全滅させる大義名文が出来た………
そうは思わんか?」
「!!!」
「軽率な言動をしました!書類を準備してきます!」
そういいスノッサは司令官室から出て行くのであった。
ドランゴはマーシャルとギレット爺さんの動きを全て把握していたが、敢えて追撃する事はせず、只々その姿をみながら、
「帰りたい場所に帰るか………」
その日の報告書には……
『一、アーツハンター侵入
二、奴隷一人死亡』
とのみ記載されていた。
◆◇◆◇◆
ローリンアウェイが待つ馬車に運ばれ、暫くすると囮となってアーツバスター達を引きつけていてくれた、マーシャルも合流し、見つからないうちに早々と馬車は走り出す。
マーシャルは俺の姿を見て青ざめていた……
「こっこんな状態で良く…………」
「マーシャル、話は後だ【月光のアーツ】を頼む」
頷いたマーシャル、今も尚俺が死にかけている俺に【月光のアーツ】を発動してくれた。
しかし、その回復は返って逆効果であった。
「あっ……うがっ……!!」
白目を向いて、全身をガタガタを震わせながら、まるで痙攣を起こしているかのように俺は全身を激しく揺らし始める。
ギレット爺さんとマーシャルは、俺の身体を押さえつけながら、
「これはどういう事だ!マーシャル!?」
「傷が深すぎるのですわ!!私の回復では手の施しようがないのですわ!」
それもそのはず、俺の身体は両脚は全て逆方向を向き折れ曲がり両腕も同様。
更に肋骨は粉々、というか骨という骨は全て折れ、全身傷だらけの血だらけだった。
「というか!なぜこんな状況で、ルーク坊やはまだ生きているのですか?」
ギレット爺さんは俺の【白のアーツ】を見ながら、
「これのお陰としか考えられんだろうな……」
「【白のアーツ】ですか!?でもちゃんと封印されていますよ!」
「封印は確かにされているが、体内では動いておるんじゃろうな…」
「そんな事が……?ありえないですわ!」
「ありえない事を起こすから【神アーツ】の中でも、【黒と白のアーツ】は特別なんだろ?」
「ハァハァ……ぐあっ!!」
俺の苦しむ姿を見ながら、ギレット爺さんはある決断を降した。
「……マーシャル封印を解け………」
「えっ?」
「【白のアーツ】を発動させよう……」
「しかし【白のアーツ】は自分自身の回復をさせる為には、発動しませんわ!?」
「俺に考えがある、マーシャル………
アーツハンター協会幹部として決めろ、今ここでルークを殺すか、殺さないか!」
「……………」
「………っ!!」
その会話をしている中でも俺は身体はずっと痙攣を起こしていた。
次第に言葉は出なく、息を吸うのも厳しくなってきた。
“折角来てくれたのにもうダメかも………
せめて一目でいいから、セルビアさんに会いたかったな………”
そう感じながら俺の目を閉じ、意識が宙へ浮いていく感覚がしてきた……
「マーシャル!!時間がないぞ!」
ギレット爺さんの言葉に、マーシャルは決意した。
「わかりましたわ………」
俺の両腕にある『アーツブレイカー改』を握りしめ、
「我、アーツハンター協会幹部、戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライムの名において命じる。
この者の封印を解きたまえ…………」
『アーツブレイカー改』はマーシャルの声に反応し光り始める……
ギレット爺さんはマーシャルの顔を見ながら、
「いいか……マーシャル、封印を解除したら、時間との勝負だ…後は任せたぞ……」
「えっ?」
と言った時には、『アーツブレイカー改』は粉々に砕け散り、【黒と白のアーツ】を覆っていた【封】の文字が消え去り封印は解けたのである。
ふうっと一息をついたマーシャルの目の前に、何故か血が流れ出てきていた。
ギレット爺さんは【衝のアーツ】を発動し自分で自分の胸を貫いていたのである。
「なっ………!!」
なにも言わずギレット爺さんは、その場で前のめりに倒れこむ。
ギレット爺さんの一撃は、自ら命を断てる程の一撃だった、
「そういう事ですか…………」
マーシャルは全てを察したのか、俺の耳元で囁き始めたのである……
「ルーク坊や聞こえますか?
このままでは、ギレット殿は死んでしまいます……
助ける為にも【白のアーツ】発動して下さい」
しかしその声は俺には届いていなかった……
マーシャルはそっと俺の心臓に耳を当て、鼓動を確認する。
「!!!」
俺の心臓はもうすでに止まっていた………
「そっそんな………」
俺の意識はフワッフワッと宙に浮いているような感覚がしてきた。
身体は不思議とどこも痛くなかったのだが、何故か透けて見えていた。
そして、下を見下ろすと俺の身体は、馬車の中で横になって倒れこんでおり四方ありえない方向両手足は折れ曲がっていた。
そしてすぐ側では、マーシャルが俺の【白のアーツ】の封印を解除し、ギレット爺さんは自分で自分の胸を貫こうとしていた。
必死にギレット爺さんを止めようと飛び込むが……
スウッ〜
とすり抜けてしまった。
“あれ……?”
とも思ったが、その時はじめて実感したのである。
“あぁ……俺は死んだんだな”
と……
しかし、マーシャルは最大限に【月光のアーツ】を発動し、俺の心臓を再び動き出させようと必死に発動させてくれていた。
だが、それも次第にマーシャルの体力低下と共に発動が弱まっていっていた。
マーシャルは泣きながら動かない俺と、血溜まりの中に倒れこんでいるギレット爺さんを見て悔しがっていた。
「うっ……うっ………私は……無力ですわ………」
“そんな事ないです、マーシャルさん助けに来てくれてありがとうございます。
俺はもういいので、ギレッド先生を助けてあげて下さい……”
と聞こえないのはわかっていたが、話しかけてしまっていた。
「………セルビアになんと言えば………………」
“セルビアさん…………?
あぁそうだな……俺が死んだと聞いたらあの人は、また自分で自分の事を攻め続けるんだろうな………
うん………俺はまだ死ねない………”
と思った時には、宙に浮いている感覚はなくなっていた。
ドクン…………
「えっ?」
泣きいていた、マーシャルは驚いていた。
確かに一瞬俺の身体は上下に動き、再び心臓は鼓動を開始していた。
小さく誰にも聞こえないぐらいの声の大きさで……
「……【白のアーツ】……発動!」
その瞬間、【白のアーツ】の波動は馬車全体を包み込みながら、ギレット爺さんの傷口を塞ぎ、マーシャルの体力も回復させ、更には俺も白の波動の余波のお陰で死の危険性は回避され、すうすうと寝息をたてて寝ていた。
「すっすごい…………ですわ………
これが…………【白のアーツ】の力……」
「ぐはっ〜!!」
ギレット爺さんは気がつき、飛び起きる。
「死ぬかと思ったわい…………」
「全く……無茶しすぎですわ……」
マーシャルは、少し呆れ君にギレット爺さんを見ていた。
「して?ルークは?」
「ギレット殿の期待通りの結果ですわ…………」
「おぉ!!そうか!!」
マーシャルはまだ意識を取り戻さない、俺の額を撫でながら、
「そうかではありませんわ……全く!!
ルーク坊やの心臓は確かに止まりました。
しかし、なんとか再び心臓は動きだし【白のアーツ】を発動。
私の体力は全回復、ギレット殿がご自分でお開けになられた傷も、傷口はなく綺麗に塞がっていますわ。
そして、ルーク坊やは完治までとはいいませんが、ロールライトまでは身体は保ちますわ」
「そうか!」
ギレット爺さんは満面の笑みを浮かべ満足していた。
「わかりません……
もし【白のアーツ】が発動しなかったら、ギレット殿は死んでいたのですよ!?
その事をわかった上で、ご自身の胸を貫いたのですか!?」
「あぁ、ルークは必ず助けにきてくれると信じて今まで生き抜いていたよいに、儂も必ず【白のアーツ】は発動すると信じていた…………」
「!!!」
マーシャルは一言首を横に振りながら、
「はぁ〜信じられませんわ!」
とだけ言っていた。
「それに……セルビアの前にルークがもう二度と動かない状態で対面させる事になったとしたら、儂は死んで詫びるつもりだった…………」
「!!」
マーシャルは、その一言でギレット爺さんとセルビアの信頼関係、ルークとギレット爺さんの中での深い師弟関係が羨ましいと思ってしまった。
◆◇◆◇◆
『メシュガゴロス』からロールライトまでの道のりは馬車で十日程かかる。
その中で俺は意識を取り戻していた。
起き上がる事はまだ出来なかったが横になりながら、ゆっくりと途切れ途切れの会話だったが、ギレット爺さんとマーシャルに、今まであった事を全て話ししたのである。
話を終えた俺に、ギレット爺さんの表情は暗かった。
「ルーク、落ち着いて聞け…………」
「はい……?」
「アルデイスは、儂が見つけだし保護した。
そしてペリアのおかげで、傷は回復したが……」
そこで少しだけ間を開け、再びギレット爺さんは話しはじめた。
「アルデイスは今、何も覚えていない状態だ。
自分の名もなにもかも忘れておる……」
「えっ!!」
その話しに俺はまだ動けない身体を動かそうとし、全身に電気が走ったような感覚に襲われる。
「つぅ……!!」
マーシャルはそっと俺の背中を、支えながらゆっくりと寝かせてくれた。
「まだ動いては行けませんわ……」
「ギレット先生…どういう事ですか?」
「多分、海に落とされた時の衝撃で、記憶をなくしたんだろうな……」
「………」
「だが、ルーク気にする事はないぞ。
お前があそこでアルデイスを海に逃がさなければ、死んでいたのだろう?」
「はい……」
「ならば、お前の判断は正しかったと儂は思う」
「えぇ私もそう思いますわ」
「でも……」
「記憶を失うのは、結果論だ……生きていたんだ、お前もアルデイスも……
今はそれを喜ぼう……」
黙っている俺にギレット爺さんは、最後の一言をつけくわえてきた。
「ロールライトに戻ろう………
セルビアが首をながーーくして、お前の帰還を待ち望んでいるぞ」
「はい…………」
セルビアが待っていてくれる……
もう二度とセルビアには会えないと思っていた…
今後どうなるかはわからないが、ギレット爺さんと同様、今はそれを喜ぼうと俺は思った……
こうして、ロールライトを出発してから一年半という長くて、あっという間の年月を経て、再び俺はロールライトへと戻って来たのである。




