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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー奴隷ー
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第二十四話 帰りたい場所

 アルディスはなに一つ覚えていなかった。

 自分の名前も、ルークの事もセルビアの事もすべて忘れていた……


 詰め寄るセルビアの質問にアルディスは頭を押さえながら、一生懸命考えていた。

「……わからない……」


 セルビアは、その現実を受け入れたくはなかった。

「アルディスちゃん!あなたは(わたくし)を好きと言ってくれたのよ!

 あなたは好きになった人も忘れたと言うのですか!!!」

「ごっごめんなさい……」


 記憶を失ったアルディスの姿も、それを受け入れたくないセルビアの姿もギレット爺さんは痛々しく見ていられなかった。

 しかし、二人を止められるのはギレット爺さんしかいないのである。

「やめろ……セルビア……」

 そう言って止めたギレット爺さんをセルビアは、初めて睨みつけたかもしれない……

「お前………」


 音楽が流れてきた……

 ペリアが【天使のアーツ】の一つ、『天使の歌声』を発動したのである。

『天使の歌声』は回復効果は全くないが、その音色を聴いた者の気分を落ち着かせる為に非常に有効なものであった。


 その音楽は興奮しているセルビアを次第に落ち着かせ、アルディスはいつの間にか寝ていたのである。

「師匠……申し訳ありません……少し気が動転していたようですわ……

 でも、もう大丈夫です……」

 ギレット爺さんに謝罪したセルビアは、ペリアにも頭を下げていた。

「ペリアさんありがとうございます……」




 その後三人は、支部長室に集まりアルディスについて、詳しく話をする事にしたのである。

「ペリアさん、アルディスちゃんはやはり……………」

「はい……記憶喪失だと私は思います………」

「……いつかは記憶……戻りますわよね?」

「はっきり申し上げますと、なんともいえません………

 次第に戻ってくるといいのですが……でも一番いいのは………」

「いいのは?」

 セルビアの質問にペリアは言葉を紡ぎ、中々答えてはくれなかった。


「ルークか?」

 ギレット爺さんはペリアの言いたいとしている事を、腕組みしながら聞いてきたのである。

「はい………」

 そう返答があった時、ギレット爺さんの予想は可能性へと変化していった。

「あくまでも儂の勘だが、アルディスとルークの旅の中でなにがあったのだとは思う。

 だがそれは、はっきり言って当事者が言わん限り誰にもわからん。

 そして、アルディスは最後の最後までルークの側にいたと儂は思う…

 となれば………ルークとアルディスが離されたきっかけを再現するか………

 もしくはルークと会う事が出来れば思い出す可能性は高い……」

「離されたきっかけは(わたくし)たちには、わかりませんしね……」

「そうだ…そしてもう一つの手がかりである、ルークも今はどうなっているのかすら、わからん状態だ………」

「それも問題ですわよね………なんとか助け出してあげたいですが………」



「儂が本部に行って、幹部の馬鹿共を脅すしかないだろうな……」

 セルビアはギレット爺さんの顔を見ながら、ある事を決意したのである。

「師匠…(わたくし)も行きますわ………本部に行って、許可をとってきます……」

「セルビア……お前……」

 そう言ってきたセルビアの目には迷いは一切なかった。


「わかった……しかし無理だけはするな……いいな?」

「はい………」

 こうしてセルビアとギレット爺さんはローリンアウェイの馬車を使い、アーツハンター協会本部があるガーゼベルトへと向かったのである。


 ペリアは、暫くの間アルディスをみていると申し出てくれ、渋々ルドベキアもそれに付き合っていた。

「おい……ペリア…長期滞在なんて、一言も聞いていないぞ?」

「仕方がないでしょ……今のこの状況では……」

「ちっ……うまくやっているかなぁ……あいつら……」

「そろそろ裏の顔は廃業して、まっーとに生きたらルドベキア?」

「ふぁはははは、それは無理だな」

 セルビアとギレット爺さんを見送りながら二人はそんな会話をしていた。





 ロールライトを出発してから馬車で揺られる事、八日目……

 ようやくガーゼベルトを見渡せる丘の上へと馬車は進みここで一度休憩をとる事になった。

 この丘を越えれば、すぐにガーゼベルトに到着する。

 セルビアにとって帰りたくない場所へと、着実に近づいているのであった。


 セルビアは石の上に座りガーゼベルトを見ながら休憩していた。

「いい風だな…」

 ギレット爺さんも、セルビアの近くにきて座り込む。

「そうですわね……」

「ガーゼベルトに行くのは何年ぶりだ……?」

(わたくし)がアーツハンターに任命されて以来、全く来ていませんわ……」

「そうか………」


  セルビアの父、アッシュ・フォン・タルトが住む城は、外壁はなだらかな斜面をしており、敵襲があった場合も一目で見渡せるような造りになっている。

 そして、多方面に突き出した部分を作り出し星型の形をし死角をなくしていた。

 見晴らし台はその中央に建っており、四方何処からでも敵襲に対処出来るようになっている、星形要塞である。

 そして斜面の下には河が流れ、一本の橋は城とガーゼベルトの都市を繋げていた。

 円形状の形をしているガーゼベルトの周りは高い城壁で囲まれ、城門前には門兵がたっていた。

「止まれ!何ようだ?」

「アーツハンター、ロールライト支部長セルビアと申します、協会本部に行きたいのですが……」

「通っていいぞ」

 すんなりと門兵はセルビア達を通してくれたのである。


 城門を越えると馬車が往復できる程の広い道なりが続き、職人街が周りに軒並み建っており、その道を更に進むと、中央広場に辿り着く。

 中央広場は定期的に市場も開かれ、その時は普段買えない物が買えるようで大変賑わいに満ちている。

 その他にも、大聖堂や、修道院、商館、宿屋、酒場などが建ち並び、アーツハンター協会本部も中央広場に建っていた。


 馬車は協会本部前で止まり、ギレット爺さんが先に降りたのだがセルビアは何故か降りては来なかった。

「セルビアどうした?」

 セルビアは馬車の端の方で口を両手で押さえ、顔は真っ青になっていた。

 すぐさまギレット爺さんはセルビアに駆け寄り、話しかける。

「儂、一人で行ってくるからローリンアウェイと一緒に先程の丘の上で待っているか?」

 その質問にセルビアは半泣きしながら、首を横に何度も何度もふり続けていた。

 ギレット爺さんはセルビアをギュッと抱きしめ背中をさすりながら、

「大丈夫だ。セルビア……儂がおる……」

 と言いながらセルビアが落ち着くのを待ってくれていた。



 暫く時間を置くとセルビアは落ち着きを取り戻つた。

「師匠……もう大丈夫ですわ……行けます」

「うむ」

 馬車から降りた、セルビアはアーツハンター協会本部よりさらに向こうにある父の住む城を眺めていた。

 もう二度と父に合う事はないと決心していたセルビアだが、やはり目と鼻の先にいると分かれば、見つかって城に連れ戻されるのではないか?

 というその不安から具合が悪くなったのだが、セルビアと一番付き合いの長いギレット爺さんは落ち着かせ方もよくわかっていた。


 ローリンアウェイは、ギレット爺さんの方をみながら、

「旦那、あっしは中には入れませんので、丘の上で待機しています」

「あぁ頼む」

 ローリンアウェイを見送った後、ギレット爺さんはセルビアの肩を叩き、本部の中に入って行くのであった。




 本部の中は椅子と机が所々に置いてあり、その中央には受付の人が座りっており、その隣にボードみたいな物が建ち多数の紙が無造作に貼られている。

 因みに、その紙の中から選んだ依頼を受付に渡せば、受理される。


 “懐かしいわね……”


 と思いながらもセルビアは中央の受付と話し、奥にある幹部小会議室に行くようと言われたのである。


 受付から更に奥に進むと小部屋の部屋が幾つもあり、横目で見てみると声は聞こえないが何やら数人集まって打ち合わせをしている者たちが多数のいた。

 そこを更に通り過ぎると、『幹部の許可ない者立ち入り禁止』と書かれたドアを開け奥へと進んで行く。


 この通路は幹部達が行き来する通路で、各部屋の前には幹部の名前が記載されている。

 各部屋を通り過ぎると、中央には会長の部屋があり、両隣りには『幹部小会議室』と『幹部大会議室』の二つが存在する。


 幹部小会議室のドアを開け中に入ると、一人の女性が中央の椅子に座ってた。


 アーツハンター協会の会長ローラ・フォン・ミステリア

 “何故会長がここに!!”

 とセルビアはツッコミをいれたくなったが、先に口を開いたのはギレット爺さんの方だった。

「ローラか??全然変わっていないなお前!久しぶりだな!!」

「ギレット師匠も相変わらずお元気そうでなによりです」

「お二人はお知り合いなのですか?」

「あぁ、ローラも儂の教え子だ……」

「そっ……そうだったのですね………」


 “どんだけ弟子がいるのだろう?”

 と更にセルビアはギレット爺さんの顔をみながら、そう思った。


「まぁ懐かしい話は後にして、今日のご用件は何用ですか?

【黒と白のアーツ】の少年がガーゼベルトに現れない事となにか関わりがあるのですか?」

「流石に勘が冴えておるわい」


 ギレット爺さんは、ルークが奴隷になった事は伏せて、今まであった事を全て話をしたのである。


「なるほど……『メシュガゴロス』ですか………」

「あぁ」

「確かにやっかいですね……うーん」

 ローラは暫く目を閉じながら考え、

「あっお二人共、ちょっと私の部屋までお越し下さい」

 なにかを思い出したかのようにローラは、自分部屋に戻り書類を探し始めた。


「えーっとどこだったかな……これでもない……違うこれじゃない………」

 セルビアとギレット爺さんは呆然と立ち尽くしながら、書類の山からなにかを探しているローラを黙って見守っていた。



「あった!これだわ!!」

 ローラは一通の書類を見せてくれた。

 その書類には……


『メシュガゴロス奪還作戦』

 概要:人員〜A級以上のアーツハンター500人

 目的:完全制圧


 そして不許可と印鑑が押されていた。

「ローラこれ不許可になっているぞ」

「はい、今のアーツハンターにA級以上の者500人なんていませんもの……」

「では、どうするのですか?」

「えっとですね、書類の概要をこんな風に変えます」


『メシュガゴロス奪還作戦その壱』

 概要:奪還する為にメシュガゴロスに少人数での侵入

 目的:メシュガゴロスの今の情勢


「!!」

「ローラ!?これ大丈夫なのか?」

「私の認め印があれば、実行できますわ」

「ローラ会長………お願いいたしますわ」

「えっとまず、私は印を押す人なので、私以外の方で申告書を作成しなければなりません」

「そうか、では儂が申請書を書こう」

「あっ後作成して、すぐ許可をしてしまいますと、後から怪しまれる可能性があるので、緊急申請と書いておいて下さいね」

「ふっ……お前にも敵が多そうだな」

 そんなギレット爺さんの質問にローラは、はにかみながら誤魔化していた。

「これでいいか?」

「はい、緊急申請の書類に回します。

 でも2ヶ月ぐらいかかりますので、その間に準備をお願いいたしますわ」

「そんなにか!?普通に申請したら、どれくらいかかるんだ?」

「一年ぐらいかしら?」

「そんなにですか!?」


 “ローラは書類整理の日々に追われているんだのぉ〜

 儂には絶対無理じゃ”


 等と考えギレット爺さんはローラに関心していた。

「ローラ、忙しいのに儂たちの為に、時間を作ってくれて助かったぞ」

「いえいえ、楽しかったですわ。師匠またきて下さいね」

「あぁ」


 こうして、セルビアとギレット爺さんは会長室から出て、ローリンアウェイが待つ丘の上へと向かったのである。

「ルークには可哀想だが、それまでの間なんとか生き延びている事を祈ろう………」

「はい……」



 セルビアとギレット爺さんは、一度ロールライトに戻り『メシュガゴロス奪還作戦その壱』が正式に許可が降りるのを待っていたのである。

 しかし、四ヶ月たってもその通知が届く事はなかった。


「遅いですわね……二ヶ月なんてとっくの等にすぎていますけど……」

「あぁ……なにかあったのかな?」

 そんな話を支部長室で話をしていると、戦闘隊総司令官マーシャル・フォン・フライムが現れたのであった。

「マーシャル!?どうしてここに!?」

「ローラ会長から、話しは聞きましたわ」

「では、許可が降りたのだな?」

「いえ、まだですわ……」

「なにか、問題でも起きたのですか?」


 マーシャルは頷きながら説明を始めた…

『メシュガゴロス奪還作戦その壱』申請書自体は二ヶ月前に許可が降りたのだが、少人数での侵入のする為の人員を誰にするかで幹部達はもめていたのである。

 ローラは個人的には、セルビアとギレット爺さんに行かせてあげたかった。

 しかし、ローラの立場上それを決める事は、反感を買う事になってしまう為、ローラはマーシャルに相談を持ちかけたのである。

 相談に乗ったマーシャルは、自らが『メシュガゴロス』に赴き、人員は自分が決めると幹部会議で話をしたのであった。

 しかし、当然の如く幹部たちは反対をしたのである。

「この申請書は壱と書いてあります。

 ならば弐、参、そして奪還作戦が敢行されるはずですわ。

 その時に戦闘に立ち指揮をするのは、戦闘隊総司令官である私ですわ!

 私が最初の現場に侵入する事に、なにが文句あるの!!!」

 と怒鳴り散らし無理矢理押に、正式に決定させたのである。



 マーシャルは、人員にセルビアを……

 と考えていたのだが、もしかしたら何ヶ月間もかかるかもしれないこの状況下で、ロールライトの支部長が留守になるのはいつか問題視にされるのでは?と考えていた……

 そして考えた末にマーシャルは、セルビアの参加を認めなかったのである。

「セルビア、あなたはロールライトを守るという責任があります……

 辛いとは思いますが、今回は諦めて下さい……」

「…………」

「マーシャル、では儂か?」

 マーシャルはギレット爺さんを見ながら頷いたのである。

「はい、ギレットさんよろしくお願いいたしますわ」


「師匠……マーシャル………ルークちゃんを……お願いします………」

 歯がゆい思いをしながらセルビアは、ギレット爺さんとマーシャルを見送ったのである。


 こうして『メシュガゴロス奪還作戦その壱』は予想外に時間がかかり申請してから六ヶ月後に正式に受理され、マーシャルとギレット爺さんは『メシュガゴロス』に目指したのである。




 ◆◇◆◇◆



 俺が無理矢理奴隷にされてから、一年が経とうとしていた。

 本来なら、『ラグナロク』に行ってアーツハンターになる為の訓練を受けているはずだったのだが……

 現在俺は『メシュガゴロス』という街の、直径4m四方の屋根のない部屋でバスター候補生の攻撃を手枷と足枷をされたまま、永遠と避けていた。


 “バスター候補生は弱い……

 なんというか攻撃が単調過ぎて、次の攻撃が予測しやすかった”


 “そういえば、ギレット爺さんにもよく言われていたな………

 はぁ〜みんなどうしているんだろう…………”


 そんな事を考えていると、ドアが開き一人の男が現れたのである。


 “確かこの人は、バスター訓練教官のスノッサ……なぜここに……?”


「君が来て数ヶ月経ったのだが、実に優秀な訓練奴隷と評判だよ……」

 スノッサは自分のメガネをくいっと上げながら、

「しかし、候補生にとって君は優秀過ぎて、実は訓練にならんと苦情が来ているんだよね……」

 そう言ってスノッサは俺の手枷を外し……

「立ち膝になりたまえ………」

 言われた通りに立ち膝になると、スノッサは俺の腕を後ろに回し再度手枷をし、紐で手枷と足枷を結びつけ、余っていた紐を足枷から首に結びつけたのである。

「あっあの……これは………?」

「んっ?優秀な君への更なる試練だよ……フフフフッ健闘を祈る」

 そう言ってスノッサは部屋から出て行ったのである。


 “ちょ……ちょっと待て!!!

 これでは前に避けようと思ったら首が締まるし、避けられる範囲が限られるよ!

 一体、どうしろと!!”


 そんな事を考えていると、ドアが開く……

 訓練生は、一瞬俺の姿に戸惑い後ろに引きぎみになっていたが、すかさず俺の顔目掛けて、拳を繰り出してきた。


 その攻撃は頭を横に動かす事で回避できた。

 しかし今度は、俺のお腹目掛けて蹴り上げてきたのである。


 ドカッ


「つぅ……」


 “避けきれるはずがないよ”


 その後も俺は倒れる事も出来ず、ボコボコに殴られたが訓練生の攻撃力は思っていたほど強くなく、かすり傷程度でその日は終わるのであった。




 アブラパンダは、俺の今の状態をみながら、唖然としていた……

「うわぁ……このやり方はスノッサさんか?」

「うん………」

「やはり、面白くないんだな〜」

「えっ?」

「訓練奴隷ってのはさっ……大抵一ヶ月ぐらいで死ぬんだよ……

 殴られすぎて……でもさっお前は見事に生き延びているから……

 それが気に食わなかったんだろうなぁ…………」

「………」

「なぁ今からでも遅くない、ドランゴさんにバスターの件話せよ」

「それだけは絶対にないです」

「即答だな」

「バスターになんて、死んでもなりません!」

「あぁ!そうかい!じゃ勝手に死んじまぇ!!」。

 アブラパンダはそう言って出て行ったのである


 次の日もまた次の日も俺はただサンドバックのように、殴られる日々を過ごしていた。


 “くっくそ……見えているのに………”


 そんなある日体格のいい男が現れた……


 “やばいかも………”


 と思った瞬間、その男は俺の右肩目掛けて思いっきり踵落としをしてきた。


 ボキン!


「ぐあっ!!」

 右肩に激痛が走る…

 力が抜けたかのように、ブランッと垂れ下がっている。

 折れたようだ……

 その男は、攻撃の手を辞める事はなく肋骨二.三本ぐらい折った所で、満足したのか帰って行ったのである。


 アブラパンダはあれ以来、来る事はなかった……


 次第に訓練生は俺への攻撃が当たり、満足して帰る事が多くなると、今度は奴隷のうめき声が耳障りで不快だと言い、スノッサが俺の口を塞ぎに来た。



 更に半年が過ぎると……

 ロールライトではあまり見られない雪が降る事が多くなってきた。


 “冬は凍死しそうだな?”

 と思いながらも俺はそれでも、なんとか生き延びていた……


 しかし、俺にはもう指一本動かす力も残ってはいなく、訓練生も俺を殺す最初の一人になりたくないらしく、ここ最近は来なくなってきていた。

 アブラパンダもたまに、俺の部屋の前で止まってはいたが中に入って来る事はなく、引き返していた。

 あぁスノッサも来て、俺の首元を締めて殺そうとしたけど、俺と目があった瞬間怖くなって逃げ出していた。


 今日は特に雪が降りが激しかった……

 残っている体力がドンドンとなくなっていくのがわかる。

 今までなんとか生き延びて来たけど、流石にもう駄目かも……と少しずつ諦めがでてきた。

 それと同時に枯れていたと思っていた涙が、少しずつ流れてくる。

 だんだん眠くなってきた……

 このまま寝ようかな………


 ギイィィィィ


 ドアが開く音がした。

 落ちかけていた俺はその音に反応し、重たい瞼を懸命に開けたのである。

 そしてそこには、ドランゴが俺を見下ろしていた 。

 ドランゴは、俺の胸をそっと触る。

 その衝撃だけで意識が飛びそうな痛みが全身を駆け巡るのだが、もう俺には声を出す気力さえ残ってはいなかった。

「一年………お前はこの場所で耐え続けてきた……

 正直言ってもう俺には、お前を見ていられない」


 横になって微動だにしない俺を見ながら、ドランゴはそう話しかけてくる。


 “トドメでも刺しに来たのかな………”


「俺は生まれた時、両親に捨てられ拾われた所の家で奴隷の焼印を押された……

 そして物心がついた時には鉱山や軍事物資の輸送等、強制労働をかせられてきた。

 しかし、アーツバスターに出会ってから、俺の人生は変わった。

 彼らの世界は力が全てなんだ!

 力さえあれば、奴隷だろうが貴族だろうが関係ないんだ……

 話がそれたな………」


 ドランゴは一呼吸置き、

「最後通告だ…」

 力強く俺の方を向いてドランゴはそう投げかけてきた。

「バスターになれ!」


 俺は最後の力を、振り絞るかのように口を動かす……

 その言葉にドランゴはしゃがみ込み、俺の口元に耳を寄せてきた。

「ロー……ラ……ト……に、帰り……い………」

「!!」


 ドランゴは俺の受け入れられない返答に対して、何も言わず剣を俺に向けていた。


 そして、その剣はゆっくりと俺めがけて振り下ろされたのである………






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