第二十二話 すれ違い………
俺が奴隷となり売られ『ラッセル』建設の為、採石場から大きな石を運びながら壁を積み上げていた頃……
セルビアはアーツハンター支部長室で、ルーク達の消息が掴めなくなった事を知らされていた。
「……なんですって?私の聞き間違えかしら?
もう一度報告をお願いしますわ………」
報告に上がった秘書は、再度読み上げた。
「先日ロールライトを出発したルーク、及び副支部長のアルディス両名はガーゼベルトに到着せず、現在行方不明……との事です」
「!!!」
その知らせを聞いたセルビアは、椅子から立ち上がり外へと飛び出そうとしたが、秘書がドアの前に立ち塞がったのである。
「どきなさい!」
「どきません!セルビア支部長どちらに行かれるおつもりですか?」
「しれた事!二人を探し出しますわ!」
「いけません!副支部長が不在の今、支部長まで何かあってはロールライトのアーツハンターギルド支部は機能しなくなります」
「!!」
秘書の言う事は最もだった。
セルビアは支部長として、理解する事は出来た。
理解は出来たが、セルビア一個人としては到底納得はする事は出来なかった。
「アルディスちゃん……ルークちゃん……」
ドカーン!
突然ドアを壊して破片が飛び散る中、ギレット爺さんが入ってきた。
「しっ……師匠?
ドアは壊さず……普通に入ってきて下さい」
秘書はあまりにも突然の事で、腰が抜けその場で倒れこんでしまっていた。
「セルビア………」
ギレット爺さんは、セルビアを見下ろしながら拳を握りしめていた。
「ルーク達の件、今さっき聞いた……
お前はすぐにでも捜索に出たいと思っているんだろう?」
「はい………」
「しかし……支部長として色々な手続きが終わってからじゃないと、捜索に出る事は出来ない。
間違っているか?」
「いえ、間違ってはいません。
その通りですわ、師匠………」
ギレット爺さんはセルビアが座っている机に両手を置き、上半身を前に出しながら、
「儂が探し出してくる」
「えっ!?」
「お前がルークを息子にしたように、儂もお前の事を娘と思っている」
「師匠……」
「娘が困っている時は父親の出番だろ?
セルビアの息子は儂にとって孫も同然じゃ…」
既に泣き出しそうになり、必死に耐えているセルビアにギレット爺さんはー、
「必ず見つけ出す」
とだけ言って、ロールライトから出発したのである。
「さて、高齢な儂にはちと身体的に厳しいが、可愛い娘と孫の為だ。
気合を入れるかの……おっとアルディスも忘れちゃいかんな」
等と独り言を言っていたギレット爺さんは【衝のアーツ】を発動。
そして衝撃波を足に集中させ高速移動を繰り返しながら、ルークたちが襲われた場所に僅か1日程で辿り着く事が出来た。
馬車は溝にはまったまま、そしてすぐ近くには干からびて死んでいる馬と、御者を発見したのである。
「ここか………」
少し息切れ気味なギレット爺さんは、辺りを見渡す…
“ふむ……アルディスが油断していたとは、儂には思えんな……
となると……ルークが油断して、捕まったか……
ちっ、もっと叩き込んでおくべきじゃったかの………”
後悔しながらも山で囲まれた街道周辺を探るか、怪しい所を発見する事は出来なかった。
馬はその場に放置する事にしたが、溝にはまっている馬車をギレット爺さんは元に戻し、そして御者を布で全身を包み込み、荷台の方に乗せた後に馬車を引っ張りながら、そこから更に街道を進み始めたのであった。
【衝のアーツ】を一日中使っていた為、流石のギレット爺さんも少し疲れが見えはじめたが、夕日が沈む前に小さな街『シン』にたどり着く事が出来た。
「ふぅ…流石に疲れたわい……さてと……」
ギレット爺さんはまず先に、教会におもむき事情を説明し御者を引き渡した。
その時にルークたちの足取りを聞いたが知らないとの返答だった。
酒場へと向かい情報収集を行うが、有力な手がかりは一向に掴むことはできなかったのである。
次の日の朝になれば、街の住民たち一人ずつルークたちの事を聞いてまわったが、やはり何も情報は掴めなかった。
腕を組みながら考えていた。
“ここから後、一日程進めばガーゼベルトに到着する
しかし、ルークたちはガーゼベルトに到着していない……”
考え事をしているギレット爺さんに、一人の女性が話しかけてきた。
「あの………ここに来る途中に小さな漁村があるのですが、お立ち寄りになられましたか?」
「馬車を引っ張るのに夢中になっていたようだ。
なにか手がかりが掴めるかもしれないな、早速行って見ることにしよう」
結論を出したギレット爺さんは女性に礼を言い『シン』の街を出て、海岸沿いにある小さな漁村を目指し歩き始めた。
『シン』の街を出てから三十分程歩くと、波打ち際で子供たちが遊んでいる所を発見する事が出来た。
「以外と近いのじゃな……」
ギレット爺さんは子供たちの近くにまで、歩いて行き話しかけてみた。
「三日ぐらい前にみたよ。なぁっ?」
「うん!確か今、村長さんの家にいるはずだよ」
「おぉっそうか!悪いんだが村長さんの家に案内してもらえるじゃろか?」
「うん、いいよ」
子供達に案内されるままギレット爺さんは後に続いて歩いた。
その子供達の無邪気な後ろ姿は、ルークの姿とダブってみえていた。
村長の家へと案内されたギレット爺さんは、子供たちにお礼を言い村長と対面したのである。
詳しい事情を聞いた村長は、ギレット爺さんをアルディスの元へと案内してくれた。
ベットの上には、全身包帯だらけのアルディスが眠っていた。
「……」
その姿を見たギレット爺さんは怒りがこみ上げてくるのを必死に押さえ込んでいた。
「三日程前です。
海岸線に倒れている所を子供たちが発見しました。
そして……我々にできる限りの手当をしたのですが、全身打撲で多数骨折しています。
正直言って、まだ生きているのが不思議なぐらいです……」
「…そうか………」
ギレット爺さんはアルディスの側に近寄り、頭を優しく撫でている。
「アルディス……心配するな………すぐにセルビアの所に連れて帰ってやるからな……」
しかしルークの姿はそこにはなかった。
「もう一人いなかったか?
十歳ぐらいの男の子なんだが?」
「いえ、そのような話は聞いてはいません……見つけてもいません……」
「………」
「あの……アーツハンターさんもう一人お探しなのですか?」
「あぁ連れなんだが……」
「ここから更に北の山道を行きますと、今は使っていない山の砦がありまして……
最近山賊まがいな者が出没して、街道を歩く者を無差別に襲っている所を多数目撃しております」
「そこにいるかもしれないと?」
「はい………」
「ふむ、手がかりもないし……そこに行ってみるかの……」
ギレット爺さんは村長にアルディスがここにいる事を書いた書面を『シン』に届けるよう頼み、その山の砦へと向かうのであった。
山の険しい獣道をひたすら登っていると、山頂付近で大きな砦を発見したのである。
「ふむ、ここか……確かに漁村からここからは、近いの……
村長の言うとおりビンゴかもな……」
門番が一人暇そうに立っていた。
ギレット爺さんは全身【衝のアーツ】で覆うように発動し、右手で衝撃波を作り出し門番目掛けて、
「はぁっ!!!」
衝撃波を放ち門番を軽々と砦の中の中央付近にまで、吹き飛ばし転がり周りながら気絶させた。
その姿を見ていた他の山賊達が、ゆっくりと歩いて来るギレット爺さんの存在に気がつく。
「てめぇ何者だ?」
「ルークはどこにやった?」
「あん?」
「ルークはどこだぁぁぁぁ!!!」
ギレット爺さんの怒りは覆っていた衝撃波を全て解放し大爆発を起こし、全ての山賊を吹き飛ばし更には屋根まで壊したのであった。
「つぅ………」
頭のオルルベイトだけが瓦礫の中から身を乗り出し助かっていたが、ギレット爺さんに胸ぐらを掴まれていた。
「ルークはどこだ?」
「しっしらねぇよ……ルークって誰だよ?」
「アーツハンターと共にいた子供だ?」
「あぁそのガキならスピュキュレという奴隷商人が連れて行ったよ。
どこかは知らんがな」
「いつ?」
「もう五日前の話だ」
「そうか………」
ギレット爺さんはそれ以上なにも聞かず、怒りで我を忘れていた。
衝撃波をまとった拳を思いっきり地面に叩きつけ、山賊もろとも山の砦を破壊したのである。
ルークを探す旅はまだ、はじまったばかりだった。
◆◇◆◇◆
『ラッセル』に来てから、一ヶ月ぐらい経ったのだろうか?
毎日毎日、朝から晩まで五キロぐらい離れた採石場から大きな石を運び、『ラッセル』に持って来て指定された場所に石を積み上げていく。
晩になればその作業は一旦終わるが、パン一切れの食事、そして百人ぐらい収容される場所に百五十人ほど詰め込まれ、なにも考えずに眠る。
明日の為に、体力を少しでも回復しなければならなかった…
そんな毎日を繰り返していた
「非効率的だよな………」
などと思いながら、俺は身体を小さくして眠りにつく。
夜中になると、冷え込む為なのかコホンコホンと咳き込む声が聞こえてくる……
「うるせーぞ!じじい!」
と若い男に怒鳴られていた。
朝早くから鞭を持った監視人が現れ、炎天下の中休む暇もなく俺たちを働かせる。
「おらおら!俺の担当区域だけ遅れているんだ!キリキリ働け!」
地面に鞭は叩きつけながらいつもイライラしていた。
石で出来ている車輪の台車に、採石場で拾った大きな石を乗せロープで引っ張って移動する。
おじいさんも、若い大人も……みんな黙々と動いていた。
日々過酷な労働は体力を消耗させて行く、ご老人に耐えられる事は少なくすぐに栄養失調や過労死で倒れ、そのまま放置され泣きながら死んで行く所を何度もみてきた。
俺が知っているだけで、もう二十人は死んでいる……
最初は、なんとかしたいと思い助けに入ったが、仕事量が二倍に増やされた後、鞭で朝まで叩きつけられた事があった。
しかし、その人も次の日には死んでしまった……
そして、皆の目は死んでいた……
生きてはいるけど、未来も希望もいつしか諦めたそんな目をしていた。
俺もいつかそうなるんだろうか……
確かに何度もくじけそうな時はあった。
でも俺は信じている…いつかきっと助けに来てくれる事を………
山賊の砦で出会った年上の少年
彼は、ヴェイグ・ノルン 俺より二つ年上の十二歳だった。
「ルークは凄いね」
「えっ?」
収容されている場所で皆が寝静まった頃、ヴェイグはたまに話しかけてくる事があった。
「諦めてないでしょ?」
「うん、いつかはわかんないけどきっと助けがくるよ。
だからそれまでは絶対死ねない。
ヴェイグも一緒にその機会を待とう!」
「でも……所詮僕たちは奴隷だよ……ここを出た所で……」
「奴隷だって、人間だよ!絶対諦めたらダメだよ」
「俺はルークみたいに体力もないし、強くもない……毎日が一杯一杯だよ……」
「うん、このままじゃいけないよね」
「ルークなに考えているの?」
「……」
「余計な事すると、殺されるよ……」
「………」
「もう寝よう、ルーク。明日も暑そうだ……」
「うん………」
こうして夜は明け朝日が登る……
そして、また同じ作業をくり返す日々を過ごしていた………
◆◇◆◇◆
ギレット爺さんから『アルディス発見』の報告を受けたセルビアは、アーツハンター数名にアルディスをロールライトに運ぶように依頼し、五日後アルディスはロールライトへと戻ってきた。
すぐさま病院に運び込まれた、アルディスは数名の【回復のアーツ】を持つ医療班の人たちの治療を受けていた。
病室前で待機していたセルビアは、落ち着かなかった。
“アルディスちゃん……顔真っ青で今にも死にそうだったわ……
ルークちゃんは無事なのかしら……”
ウロウロと歩き回るセルビアは、出てきた一人の医療班に聞いたのであった。
「アルディスちゃんの容体は?」
その男はセルビアの顔を一瞬見て、すぐに目線を逸らすのであった。
「セルビア様、はっきりと申し上げますが非常に危険な状態です。
現在【回復のアーツ】を交代しながら発動しておりますので、なんとか持ちこたえております。
ですが、我々の力では回復ではなく死なない為に【回復のアーツ】を発動して現状維持をするので精一杯です……」
「何か方法はないのですか?」
男はセルビアの質問に答える事なく、目を合わせてくれる事もなかった。
「そうですか………中に入っても?」
「はい……どうぞ」
セルビアはアルディスと久しぶりに対面をしたのである。
「アルディスちゃん…………」
全身包帯だらけで動かないアルディスは、静かに眠っていた。
泣きながら、セルビアはアルディスの手を掴み、
「生きて………私を一人にしないで………」
【回復のアーツ】を発動している女の人に一礼し、セルビアは涙を拭き病室を後にしたのである。
支部長に戻ったセルビアは以前ルークの目を治してくれた、『水の街ヴァル』にいるペリア・ヒーンにロールライトへ来てもらうよう書面を書いた。
書面が届くまでに、二週間……そこから出発して三週間……多く見積もって約六週間……
「それまで、持つかしら………」
一方、ギレット爺さんは唯一の手ががりである『奴隷商人スピュキュレ』を探し歩いていた。
しかし手がかりを掴む事は出来ず、途方にくれていた……
“山賊の頭を生かしておいて、もう少し情報を聞けば良かったかな?”
と一度は考えもしたが、あの状況下で正常心を保つ事はギレッド爺さんには出きなかった。
「儂もまだまだ甘いのぉ……」
そして無闇に探すのではなく、崩壊した山賊のアジトに戻りギレット爺さんはスピュキュレが戻って来るのを何日も待つ事にした。
「必ずくる…………」
◆◇◆◇◆
今日も熱い…!
汗だくのまま非効率的な作業を、永遠と繰り返していた。
最初は、足腰の鍛錬にいいなと思っていたが、流石にこの炎天下は堪えてきた……
「あの……」
監視人に俺は話しかける。
「動きを止めるな!」
鞭が俺の頬に当たる。
「三分だけでいいので話を聞いて下さい」
「黙れ!動け!!」
鞭は再度俺の背中に、ビシビシと当たる。
「非効率的なんですよ!」
「なに?」
振り上げられた鞭は一瞬止まり、俺は話を続ける。
「毎日毎日五キロの距離を重たい石運ぶ事、それ事態が非効率的なんです」
「なにが言いたい?」
「半分に分けるんですよ、二.五キロずつに!
そしてリレーみたいにして、移動距離を短くすれば効率は上がると思います」
監視人は暫く考え、
「ほぉ〜よかろう、それで効率が上がらなければお前には責任をとってもらおう………」
監視人は早速二班に俺たちを分け、二.五キロ地点に中間地点を作り出し採石場から中間地点へ……
中間地点から『ラッセル』へと作業するように指示を出した。
そしてその結果、いつもの倍以上の石を運ぶ事が出来、上機嫌で監視人は帰って行った。
“ふぅ〜危なかった………”
それから暫くこの方法で作業を進めていくと、見る見る内に監視人の担当区域は完成間近になった。
そんなある日の作業中の事だった。
監視人の目の前を運んでいた俺は、呼び止められたのである。
「おい……ちょっと着いて来い」
返答をする暇もなく俺は、監視人に無理矢理連れて行かれた。
広場から地下へと降りると冷んやりとして涼しかった。
石で出来た地下は、落盤しないように強固な作りになっている。
そして、日が当たらない為なのか比較的涼しく梯子に登った、若い男達がなにやら模様を刻んでいた。
間違えると監視人が現れ、梯子から落とされその場で痛めつけられる……
そんな姿をみながら更に奥へと進み部屋の中にはいると、綺麗な服を来て汚れ一つない部屋の中に一人の男が立っていた。
ジルベッタ・トレント『ラッセル』の最高責任者である。
ジルベッタは、椅子に座り俺を見てくる。
しかし、その椅子は四つん這いになった上半身裸の男の背中にジルベッタ座り、苦痛の顔もせずその重さに賢明に耐えていた。
「ふむ、お前か……」
監視人を指差しながらジルベッタは、
「こいつの区域だけ急に作業効率が上がったからおかしいと思い、問い詰めたら奴隷であるお前の案だと聞かされた……
奴隷の話など聞くなんて、恥知らずも言い所だ!!っと本来ならお前もこいつも殺す所なんだが……
実に効率が良かった……殺す前に人目会いたいと思ったんだが………」
「…………」
「さて、更なる効率重視の案はあるかな?」
ジルベッタは俺に【アーツ】を向けながら聞いて来た。
「………」
「それともなにも話さず、今ここで死ぬか?」
「……まず、地下で動いていた大人の男の人たちを上に戻して、採石場作業に回して下さい。
そして、お年寄りの方たちを地下での作業にしてあげて下さい」
「その意味は?」
「大人の男の人たちの方が体力もありますし、ご老人たちは俺たちよりも人生経験が豊富です。
手先も器用だと思いますので、丁寧で綺麗な物ができるあがると思います」
「他には?」
「他は……もう少し食事の量を増やして下さい。
この炎天下の中であれだけでは、体力は続きません……
そして、たまにでいいので水浴びをしたいです………」
「その意味は?」
「水は疲れた身体を少しだけ回復させてくれます……」
「ほぉ〜後は?」
「後は……俺たちも人間です、人間らしい生活をさせて下さい」
「ふははははははっ!!最初はいい案だと思ったぞ、小僧!!
だが最後のはなんだ?人間らしい生活だと?!」
「奴隷のお前達はもう人間じゃないんだよ!生きるも殺すのも俺たちの自由だなんだよ!
そう……こんなふうにな………」
ジルベッタは立ち上がり四つん這いになっていた男に【水流のアーツ】を発動し、男の頭に水の塊を作り出しジタバタと動き回りながら男は次第に動かなくなり窒息死させたのである。
「変えはいくらでもある……
ふっ……次はお前が俺の椅子になれ!」
その話を聞いていた監視人は俺を押し、その場で四つん這いにさせ俺の背中にジルベッタは座ったのであった。
ズシン………
“おっ重い………”
「ふむ、中々いい筋肉をしているな、実に座りやすい……
小僧、倒れるなよ……倒れた時、俺はお前を殺す……」
ジルベッタは監視人の方を向き、
「おい……先程いったこいつの案、実行してみろ」
監視人は黙ったまま頷き部屋から出て行ったのである。
ジルベッタは俺の背中に座り、時折上下に動き振動をかけてくる。
なんとかそれに耐える事は出来たが、段々と両腕は痺れて来てこの体制を維持するのが、辛くなって来た。
スッ
とジルベッタは立ち上がり、少し楽になった。
両腕を交互に触りながら俺も立ち上がる。
「おい……誰が動いていいと命令した?」
「えっ?…」
その直後待ってました!
と言わんばかりにジルベッタは【水流のアーツ】を発動し、水の球が俺の目掛けて飛んで来たのだが、あまりにも遅かったので思わず避けてしまった。
当然その行為は、ジルベッタの癇に障り怒らせてしまった。
五人ぐらいの男達が現れ、殴る蹴るの攻撃をしてきたがそれも俺は、反撃しないで全て避けてみた。
「こっこいつは……面白い……」
ジルベッタは俺に手枷と足枷をし別部屋へと連れて行くように指示を出し、独房へと閉じ込められてしまったのである。
俺を部屋から追い出した後、監視人はジルベッタと話をしていた。
「ジルベッタさん、なぜあいつを殺さないのですか?」
「あれはいい奴隷だ、久しぶりにみた……」
「えっ?」
「アーツバスターに連絡しろ!いい訓練素材を引き渡すとな……」
閉じ込められた独房の中は、小さな小さな部屋で鉄の扉と小さな鉄格子の窓からの光が射しこむそんな部屋だった…
死にたくないなぁ〜と思いながら独房の生活が始まった。
しかし次の日も、また次の日も何事もなく、只々閉じ込められているだけだった。
◆◇◆◇◆
その頃ギレット爺さんは、山賊のアジト前でスピュキュレがくるのをひたすら待っていた。
「なっ一体何が起きたんだ!!」
崩壊しているアジトに、スピュキュレは立ちすくんでいた。
「ようやく現れたか……お主がスピュキュレだな?」
「あんたは誰だ?」
「俺の事はどうでもいい……ルークを何処へやった?」
ギレット爺さんはゆっくりとスピュキュレに近づいて行く、
「ルーク………?誰だそいつは?」
「ここにアーツハンターと共に連れてこられた子供だ」
スピュキュレは少しずつ後ろに下がりながら距離を取る。
「あぁその小僧なら、奴隷の焼印を押してローリンアウェイに売りつけた。
何処に連れて行ったかは知らないけどな……」
「焼印を押しただと……?」
「あぁ……ギャアギャアうるさかったな……」
ギレット爺さんはスピュキュレを睨みつけながら、ノーモーションで【衝のアーツ】を発動し、スピュキュレの左腕を粉々に砕いた。
「ぐあっ!」
転げ回るスピュキュレにギレット爺さんは左腕を踏みつけながら見下ろしていた。
「でっ、そのローリンアウェイというのは何処にいる?」
「どっ……奴隷商人の街、『テイックス』に……いると思う」
「そうか……」
そういいギレット爺さんはスピュキュレの左腕を掴み、
「!!」
声も出せない程、絶句しているスピュキュレに対して衝撃波で海の方まで飛ばしたのであった。
「奴隷商人の街、『テイックス』か……無事でいろ、ルーク」
“くそっ儂はセルビアになんと言えばいいんじゃ……”
ギレット爺さんは様々な思いを胸に『テイックス』へと向かったのであった。
セルビアは毎日のようにアルディスの見舞いに時間を見つけては、豆に足を運んでいた。
しかし回復するわけでもなく、現状維持のままの【回復のアーツ】を受けていた。
アルディスの額を当てながらセルビアは悲しい目をしながら、深いため息をつく…
《水の街ヴァル》にいるペリア・ヒーンにロールライトへ来てもらうよう書面を数日前に書いた。
しかし、ペリアが到着するはまだまだ先の事だとわかってはいるが、セルビアは速く到着して欲しいと願っていた。
そんなある日、アルディスはうっすらと意識を取り戻した。
「アルディスちゃん!!!」
セルビアの声に反応したのか、アルディスはそっとセルビアの頬を触りまた意識を失ってしまうのであった。
「アルディス!!」
セルビアの声にアルディスは反応する事なかった。
◆◇◆◇◆
独房に閉じ込められてから三日程立った頃、独房のドアが開きジルベッタと一人の男が俺を見ていた。
「こいつです」
「ふむ……ずいぶん若いな………というより子供だな?」
「えぇしかし、いい訓練素材ですよ………」
「よかろう……わざわざ連絡を寄こしたのだ、連れて帰ろう………」
その男は無言で俺の目の前に立ち、手刀を一発。
その一撃は、早くそして重い一撃で俺の首を正確に貫き、あっさりと気絶させられた。
奴隷商人の街『テイックス』に到着したギレット爺さんは、ローリンアウェイの事を他の奴隷商人に話を聞いてみるた。
どうやら『ラッセル』という所に連れて行っているという事がすぐにわかった。
鼻歌交じり歩いているローリンアウェイを、見つけたギレット爺さんは路地裏に連れ出したのである。
「儂を、『ラッセル』とかいう所に連れて行け」
「なっ何を!いきなり!!」
ドカン!!
ギレット爺さんの拳がローリンアウェイの顔をかすめて壁にめり込んでいる。
「わっ……わかった……」
こうしてギレット爺さんはルークの所へと着実に近づいていたのだが……
「旦那……『ラッセル』が見えてきましたよ。
これから最高責任者に会いますが、絶対に暴れないで下さいよ」
「わかった……」
しかし俺は、ギレット爺さんと会う事はなかった。
俺が『ラッセル』から運び出されたのは一時間程前の出来事で、すれ違いでギレット爺さんは『ラッセル』に辿り着いていた………




