第三十二話 お茶会
私はお茶会に来ていた。
休日の昼下がり。久しぶりにマモルとは会わない休日だ。
時間があればマモルと散歩をしているから、こういう時間は珍しい。
マモルも気を遣って「どうか遊びに行ってきて」と言ってくれているのだけれども、私は彼といるのが一番楽しいから、いつも断ってしまっていた。
でも、学校で孤立するわけにもいかないし、少し気分転換をしたいという気持ちもあったから、今日は招待してくれたクラスメイトの屋敷を訪ねている。
「それで、この前とても素敵なドレスがあって……」
みんなはファッションの話題で持ちきりだ。
私はそれを楽しそうに眺めていた。
あまりファッションに興味はないけれども、みんなが楽しそうにきゃっきゃと話をしているのを見ているだけでも楽しい。
それに、もしかしたらマモルにドレスを見せる機会があるかもしれない。
学校でもたまにパーティーが開催されるという。そんなときに私も少しはおしゃれをしないといけないとは思っている。
みんなは一流の男性たちとダンスをしたりして楽しむのだろうが、マモルの状況では難しいだろう。
それでも彼をひとりぼっちにはしたくないし、私も彼に美しい姿を見てもらいたい。
だから、こういうファッションの話も少しはきちんと勉強しようと思った。
「それで、ミランダさんはマモルさんとはどうなんですか?」
級友がとても楽しそうに聞いてくる。
「どうって?」
私は苦笑しながらぼかした。
「もう、ちゃんと言ってくださいよ。みんなわかってるんですよ。二人がとても仲がいいってことは」
他の人から見れば、私たちはほとんど婚約していてもおかしくない仲だと思われている。
政治的な理由で、まだ公式に発表できないだけだと考える人も多いらしい。
それもそのはずだ。
私の家とマモルの養父であるグリーンベルク様が親戚関係となれば、国のパワーバランスを大きく崩しかねない。
それだけに警戒している貴族も多いのだろう。
だから私たちも、むやみに婚約を正式発表できないのだろうと陰で囁かれている。
まったく、とんだ偶然が重なったものだと思う。
私たちは婚約どころか、恋人同士でもないのに。
でも、そんなことを公にすることもできない。
だから私は、あえてみんなの誤解を促進させるように笑った。
本当にずるい方法だと思うけれど、それでも自分の中の恋心を止めることはできなかった。
「もう、まあいいです。それにしても、いいなあ。あんなにすごく優しい人が伴侶になるなんて、憧れますね」
「そうですよね。足は不自由かもしれませんが、あの優しさは魅力的です」
「それに、この前のシルバさんとの戦いもすごかった。みんなはたまたまだって言いますけど、私たちはそうは思いません。マモルさんは今でもすごい才能を持っていたんですね」
私の手前、たぶんお世辞を言ってくれているのだろうと思うのだけれど。
マモルをみんなが褒めてくれる。
そこに誇らしさがあるとともに、一種の独占欲のようなものが心の中できらめいている。
もしかしたら、マモルは違う人を好きになってしまうのかもしれない。
いや、その方がいいのかもしれないとは思っている。
でも、自分の浅はかな独占欲がそれを邪魔する。
シルバさんとの戦いで、マモルの評価は少しずつ変わってきている。
今までは親の七光りだとか、過去の人だとかいう評価が多かったにもかかわらず、正面からシルバさんと戦って、彼を打ち負かしたのだ。
まだ認めたくない人も多いようだが、認めざるを得なくなっていると言えるだろう。
その状況で、マモルに興味を持つ女子も増えているように感じた。
みんなは私の婚約者だからということで、遠慮している。
でも、秘密裏にアプローチをしようとしてくる人がいるかもしれない。
実際、マモルの養父でもあるグリーンベルク様のことも考えれば、彼はとても魅力的な婚約者になるはずだ。
本当に、貴族の頭でしか物事を考えられない自分がどこか浅ましく、そして嫌になる。
「ミランダさんとマモルさんが一緒にいるところを見ているだけで、なんだか幸せな気分になります。これが純愛というんですかね」
「二人はずっと仲がよかったんでしょ? マモルさんがミランダさんを助けたというのが始まりですよね?」
「ああ、知ってる。ケルベロスの件でしょ? 本当におとぎ話のような素敵な出会いだわ」
みんなは私たちの出会いに対して、そんなふうに思っていたんだと思う。
確かに、感情を抜きにすれば、あの出会いはまるで物語のようだ。
でも、私はそれで彼を苦しめてしまっている。
そのことを改めて思い知らされた。
「ええ、ありがとう」
私はかろうじてみんなにお礼を言って、また笑顔を作る。
自分はどうしても中途半端なのだということに、自己嫌悪すら覚えながら、紅茶を一口飲んだ。
なんだか、とっても渋い味がした。




