024 伯爵令嬢の焦燥
皆さまに思い出して頂かねばならないご令嬢です。
エーレンフリートの元婚約者、ブラウン伯爵令嬢です!
<フランチェスカ・ブラウン伯爵令嬢視点>
何で!私が謹慎を受けなくてはならないの!私はフランチェスカ・ブラウン伯爵令嬢なのよ!ジェラルドとかいう男が紛らわしいのがいけないんじゃ無い!伯爵家なんて眼中に無いわ!殿下のはとこなんて知らないわよ!私は悪くないわ!
ミルクティー色のふわふわとした髪を振り見出し、亜麻色の優しい色彩の瞳には怒りの色を露にしていた。私室の年齢にそぐわない可愛らしいフリフリのデザインのカバーを付けたクッションを抱きしめ足は地団太を踏んでいる。
貴族の令嬢として許されない行為だが、今は私室にいる。謹慎中の今は、家族どころか侍女や下働きさえ必要な時間にしか入ってこない。
お母様もお母様よ!未婚の女性が行くところでは無いと何で教えてくださらなかったの!私をあの仮面舞踏会に連れ出したのはお母様よ!何故、先に謹慎がとけているのよ!謹慎が明けて、最初はお茶にもいらしていたけど最近めっきりこなくなったわ!
あぁ暇だわ!お母様には私の謹慎につきあう義務があると思うわ!なんで、いらっしゃらないのよ!はぁ。ナルチェルが学園から返ってくるまで本当に暇!あの子は学校の話をしにきてくれるもの。でも、ベアトリクス嬢を見舞いに誘えって言ってるのに一向に連れて来ないのは愚鈍だわ。
ニコラスはダメね。たまに庭にいるのを見かけて目があっても冷めた目で睨んで来るなんて、本当に可愛げがない!お兄様は元々交流は無いけど、ニコラスなんてリート様が来訪の時は必ずと言っていいほど顔を出していた癖に、謹慎してからは一切顔を見せないのはどうゆうことなの!?まったく可愛げがないわ!私達に似ていない貴方なんて私たちも嫌いよ!
全く本当にいい事ないわ!しかも、ナルチェルが言うにクレメンス様がベアトリクス様と婚約したなんて!見目もいい侯爵子息がまた奪われたわ!
でも、待って!長男のアーデルベルト様にはまだ婚約者がいらっしゃらないのよね!爵位も継げない方より継げる方よね!
でも、ベアトリクス様とクレメンス様は結婚されたらエーレンフリート様と縁戚になりますのよねぇ。私と結ばれなくて可哀想なリート様が義理の兄弟のアーデルベルト様に嫁いだ私を見て胸を痛めないかしら?
でも、婚約を白紙にしたのはあちらだわ!私が幸せを逃すなんてありえないですわ。そんな事で、私からの愛を失うなんてアーデルベルト様がお可哀想だもの!リート様を気にするのはやめましょう。ふふっ今度、お父様との面会の際には婚約の打診をするようにお願いしましよう。
コンコンコン
「メルヴァンだ」
珍しい時間にノックの音が響き、聞きなれない声が兄を名乗った。メルヴァンの声はほとんど聞いたことがないの上に、メルヴァンはフランチェスカの部屋を訪れたことが無かった。亜麻色の目を見開き、口も開くほど吃驚しすぎ返事を出来ないでいた。扉の向こうから再度、今度は少し困惑した色を含む声がかけられた。
「フランチェスカ?いないのか?入るぞ?」
「いますわ!少しお待ちになってから入ってくださいませ!」
フランチェスカは、慌てて入室の許可を出すと佇まいを直す。間を開けて入室してきたメルヴァンは母親と同一の紫紺色の目を顰め、眉間にはくっきりと刻まれる。祖母に似た、明るい夕日色の短く揃えた癖のある髪は後方へ撫でつけられている。
「髪を整える事もしないのか?侍女が朝来ただろう?」
「来ましたけど、今はもうお昼前ではないですか。私室から出られませんので暇ですので、また寝ましたの」
「はぁ。やるべきことはあるだろう」
謹慎の不満をぶつけたが、メルヴァンは深い溜息をつきながら、執務机の上の重ねられた手つかずの本と、孤児院などのバザーで売るために寄付するこれもまた手つかず刺繍の素材に目を向けた。
「そんなことより、何の用ですの?私にはやらなければいけない事があるのでしょ!」
「あぁ。話がある。君の婚約者についてだ」
「まぁ!私の婚約者候補ですか?エヴァンス侯爵家のアーデルベルト様でしょうか?」
今まさに、考えていた思考がつるっと口に出るフランチェスカに両方のこめかみを左手の親指と小指で抑えたメルヴァンは大きな溜息をつく。
「エヴァンス侯爵家など、優良な条件の婚約者が見つかるわけなかろう。
イーヴォイェレミアス殿下の温情でジェラルド・ハリス殿が娶る事も可能だそうだ」
「まぁまぁ。ジェラルド様は私を忘れられないのでございますね!」
「否。軽率な行動を取った罰で王子の命だ。だが、君に拒否権は与えるそうだ。ジェラルド殿はハリス家の次男だが、母方の爵位を貰い受け婚姻の際にスミス男爵位を継ぐ。貴族で居ることは叶う」
「はぁ~お兄様。私、伯爵令嬢でしてよ。男爵夫人にはなれませんわ!」
「・・・・・そうか。では、ジェラルド殿との婚約は断ろう。侯爵以上が条件だったか?後1人は、ウィルソン公爵だ。彼の方は、ハリス伯爵家の本流で、ジェラルドの失態を引き受ける事を了承した」
「ウィルソン公爵?あの方、30歳くらいで奥様がいらっしゃったじゃない?第二夫人ってこと?あんな年上の!」
「否。それは、次期公爵で、現公爵はその父君だ。奥方が亡くなっているので後添えとして迎えるそうだ。君との婚姻を期に爵位を息子に継承し領地へ住まいを移すそうだ」
「はぁ?え?その方おいくつですの・・・?」
「50歳ほどではないか?」
「何をいってらっしゃいますの!お父様より年上の方に17歳の美しい私が嫁ぐわけ無いじゃないですか!?」
「では、平民として一人で生きるのだな。あい分かった」
「は?平民?え?どっ・・・何?」
フランチェスカが何を言われているのか理解出来ず狼狽している間に、メルヴァンは話を続ける。
「ジェラルド殿と婚姻して男爵夫人になるのも否。
現ウィルソン公爵と婚姻して、元公爵夫人になるのも否。
私は、未婚の妹をこの家で見続ける気はない。
未婚のまま家をでるのであれば平民になるしかないだろう?
あぁちなみに、ジェラルド殿と婚姻しても行儀見習いとして城へ出仕してほしいとの事だ。彼はイーヴォイェレミアス殿下の傍を離れない。城の一角を賜り夫婦で生活するようにとの事だ。しかし、城に居住するのだから城で働かなくてはならない。
君は、学校の成績が余り良くないね。教養の必要な女官や侍女は無理だろうからメイドとなるだろう」
「はぁ?何を言っているのよ!こんなに美しい私を娶りたい殿方なんて数多くいらっしゃいますわ!他の方へ打診をなさらないなんて、ただの虐めですわ!」
「いないな。君は誰と婚約を白紙にした方を分かっているのか?」
「エーレンフリート様でしょう!それが何よ!」
「名前ではない。
筆頭侯爵家嫡男 次期判官 小都市テイラー領次期当主 王子殿下方の仲が良好な従兄弟
肩書だけでなく、ウォーカー辺境伯の美姫の美しさと由緒正しいテイラー家の色を受けついだ容姿。下位の者にも心配りが出来る人当たりの良い性格。
肩書が良すぎたのだ。
君の醜聞は口止めされているので広まってはいないが、君たちの婚約が白紙になった際に殿下の助力があった事を知っている高位の貴族がどちらに瑕疵があるのか知らないわけがないだろう。
テイラー家とウォーカー辺境伯、更には王家と軋轢のある君を迎え入れたい家など子爵家でもいるか怪しいものだ。良くて男爵家かと思っていたが、それでは不服なようだしな。
父上は、君を擁護すると殿下に申し訳が立たないのでもう君を擁護することは出来ない。
母上は、失態を起こした君に興味を失った。あの人はもともと自分至上主義だ。利用価値が無くなった君の為に何かしてくれることは期待しない方がいい。
何故、謹慎しているのか。もう少し考え、身の振り方も自身で考えなさい」
メルヴァンは、長々とした現状を言い終わると放心状態のフランチェスカを一瞥する。一瞬悲し気な顔になり、すぐに元の無表情に戻る。席を立つとそのまま退室した。
◇◇◇◇
<メルヴァン・ブラウン伯爵子息>
「兄上!ここにいらっしゃったのですね!」
メルヴァンが廊下に出ると、少し離れたところからニコラスがニコッと微笑み足早に近づいてきた。フランチェスカに話しかける声より幾分か柔らかい声色で末の弟に声をかける。
「どうかしたのかい?ニコラス」
「はい!少し、お話したい事があります。でも・・・」
ニコラスは周囲を気にするようにキョロキョロと目を動かし口ごもる。
「あぁ。私の部屋で昼食をとらないかい?」
「はい!兄上!」
メルヴァンは自身の執事見習いに、目配せをすると執事見習いはコクリと頷き調理場へ向かう。ニコラスとゆっくり私室へ向かいながら近況を尋ねる。
「最近、学校はどうだい?」
「はい!最近は仲の良い友人が出来ました!」
「仲のいい友人?最近かい?」
「はい。お恥ずかしながら私は同じ歳と話が合わないと驕っていたのです」
「ふふっ君は賢いからね。周りの子たちは子供っぽく感じていたかい?」
「はい・・・ですが、それは私の驕りだと気が付いたのです!」
「偉いね」
「兄上、私は小さな子供ではないのですよ」
メルヴァンは目を細めながらニコラスの艶やかな銀の頭をクシャりと優しく撫でる。ニコラスは口では抗議をしているものの顔は照れてほんのり赤く笑みを抑える事が出来ていない。そんな弟を可愛いなと思い。私室へ入りながら、一抹の不安の為、探ってしまう自分は腹黒いなと苦笑しつつも、弟の友人について聞く。
「友人とは?」
「はい!テイラー家のルードリッヒとエヴァンス家のコンラーディンです。エーレンフリート様へのお目通りの為にルードリッヒに近づいたのですが、彼は私の意図を知りながら自然にその場を整えて下さいました。そこで、クレメンス様ともお話しまして、弟君をご紹介頂いたのです」
メルヴァンは、紫紺色の目を見開き驚く。フランチェスカの失態で失ったテイラー侯爵家との縁を末の弟が結んでいる上に、さらにエヴァンス侯爵家の縁まで結んでいる事に感嘆の声が出る。
「それは、また・・・」
「良くなかったですか?」
ニコラスが唯一同じ紫紺色の瞳を揺らしながら不安そうにメルヴァンの様子を伺ってる。彼のやってしまったという顔を見て、にっこりと微笑むと悪い事では無いと伝える。
「いやっ高位の方々ばかりなのに驚いたんだ。仲は良いのかい?」
「そうですね。ルードリッヒはエーレンフリート様に似て少し腹黒いのですが頭の回転がいいので話が面白いです!コンラーディンは普段ニコニコおっとりとして我々の話しを聞いてくれますが、武術が強いのです!」
「そうか。君が楽しそうで何よりだ。学園時代の友人は大切にしなさい。それで、話しとは?」
ニコラスが学園を楽しんでいることに胸を撫でおろし、ニコラスの本題を促す。
「はい。昨日、母親に服の採寸へ連れて行かれました」
「あぁ。ニコラスの衣装を作る話をしていたな。自分のお小遣いからするから良いかと聞かれたな」
「母親のお小遣いですか?報告の理由なんですが、伯爵家では利用できないような高級店でした。嫌な予感がします。半年後に使うと言っていました・・・・・エーレンフリート様に報告してもかまいませんか?」
「嫌な予感か。何やら不穏な動きがあるな」
メルヴァンは左手で唇の右下を掻きながら目線を落とす。これは、ニコラスが知っている兄の数少ない深く考える時の癖だった。
「ニコラス。私がエーレンフリート様に会うことは可能か?」
「・・・・・どうでしょう。エーレンフリート様に変わったことはあまりしないようにと言われています。
私が会うのは学友の家に遊びに伺うのは目立ちませんが、兄上が向かう理由が簡単には思いつきません。忍んで僕の馬車に乗っても誰かに見られますから、何か堂々とした理由で向かう方が怪しまれないかと・・・・・」
「そうだな。・・・・あるかもしれない。ニコラス、少し向かうのを待ってくれないか?父上に相談してから答えたい」
「はい!兄上!」
拝読ありがとうございます。
~登場人物~
メルヴァン・ブラウン伯爵令息(22)
ブラウン伯爵令嬢一子(長男)*髪:オレンジ色、ストレート、ボブ*瞳:紫紺色
【愛称:フラン】フランチェスカ・ブラウン伯爵令嬢(17)
ブラウン伯爵令嬢二子(長女)女児一人*髪:ミルクティ色、ロング、ゆるウェーブ*瞳:亜麻色
【愛称:ラス】ニコラス・ブラウン伯爵令嬢(13)
ブラウン伯爵令嬢四子(三男)*髪:銀、ストレート、ボブ*瞳:紫紺色




