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76話  対峙。

「わたくし……サインはできません。宰相閣下、お願いです、どうぞそれだけはおやめください」


「ならばサイロは罪人のままだ」


 そう言うとサイロをわたくしの前に連れてきた。


 サイロの顔は殴られたあとだとわかった。

 腫れ上がり唇は切れていた。


 体も鞭に打たれていてまともに立つことができない状態だった。


 騎士二人に抱えられるようにやってきたサイロに言葉が出てこない。


 ーーどうして?こんなことができるの?


 生まれて初めて殺意が湧いた。


 この人は、父親なんかじゃない。人でもない。


 何故?何故わたくしだけを苦しめないの?


 わたくしが嫌いなら憎いならわたくしにすればいい。何故、わたくしの大切な人を傷つけるの?苦しめるの?


 セフィルはサイロを見て驚いていた。ここまで酷いことをされているとは知らなかったようだ。


「セフィル、迷惑をかけてごめんなさい。あなたとの婚約は以前話したとおり解消するつもり……あなたはあなたの愛する人と幸せになって欲しいの」


「違う!俺はブロアと結婚したい。愛する人は君なんだ!」


「ふふふ、サイロのためにありがとう。でも、知っているの。ずっと我慢していたのよね?リリアンナ様がわたくしを訪ねてきて教えてくれたの。お二人はずっと仲睦まじく過ごされていたもの……ごめんなさい……わたくしとの婚約のせいで我慢をさせてしまったわね。今回のことも気にしないでくださいな」


 ーーセフィルとの久しぶりの対面なのに、今は、サイロのことが気になった。彼のことまで気持ちがいかない。今はサイロを助けたい。


 だからセフィルがどんな表情でわたくしを見ていたかなんて全く気が付かなかった。


 サイロは大怪我をしているのに全く治療を施されていない。


 血が滲んでいるのがわかる。


 サイロはぐったりして言葉を発しない。


「宰相閣下、流石にこれは酷いと思いますわ。サイロが無実なのはご存知でしょう?やり過ぎですわ。わたくしを脅してセフィルと結婚させて何を得ると言うのですか?」


「お前とセフィルの結婚は元々政略結婚だ。そんなことわかっているだろう。我が公爵家の騎士団の安定と強化、セフィルならそれを叶えてくれる」


「セフィルが優秀なのは理解できます。でもわたくしの気持ちは?セフィルの気持ちは?そこを考えてはくれないのですか?

 サイロは関係ないのに巻き込まれて……こんな酷い状態になっているわ!宰相閣下の言葉なんて絶対受け入れられません」


 自分でも抑えられなかった。


 だけど、それが悪かった。



「ふざけるな!お前がわたしに意見するなどあってはならないのだ」


 車椅子に向かって鞭を振るう。


「バシッ!!」


 わたくしの体をかすめ車椅子に当たったおかげで痛みはなかった。


「宰相、おやめください!」

 周りの騎士たちが必死で止めてくれた。


 すぐに動いてわたくしの前に立ちはだかり、宰相と対峙したのはサイロだった。


 話すこともできなくてボロボロの状態のサイロ。


 セフィルもわたくしの横で「大丈夫?」と声をかけてくれているのにわたくしの目にはサイロしか見えなかった。


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