72話 宰相閣下 ⑥
「サイロはどうしてる?」
騎士の一人に尋ねると、少し視線を逸らしながら「牢の中で静かにしております」と返事をした。
「そうか……ブロアがアリーゼ国に着くのはそろそろだな……屋敷に閉じ込めておくように伝えてある。わたしもそろそろここでの仕事も終わりだ……早めに終わらせて帰るとするか」
騎士達は顔を引き攣らせていた。
「……了解いたしました。準備をします」
「頼む……サイロは、白状したか?」
「いえ、盗みではないようです」
「ほお、盗んでいないという証拠は見つかったのか?誰か証言をしたのか?」
するわけがない。ブロアはあんな状態ではなにも言えないだろう。
わたしが何も知らないと思っているのか。
ブロアが体調が悪いことくらいは見ていたらわかった。だから何だと言うんだ。
死ぬわけではあるまいし。腹を刺されて無理してこの国まで来たんだ。
無理すれば体調が悪くなるのは当たり前だ。
それに、ブロアがまだこのバルン国にいることはわかっている。
調べさていた報告書を読んだらこの国の別荘に騎士達が連れて行っていることもわかった。
ただ別荘の所有者の名前は不明のままだ。エイリヒ商会の当主が動いているのだから、この国の上位貴族の誰かが動いているのだろう。
何故ブロアがエイリヒ殿と親しくなったのか……
セフィルも仕事でこちらに来ていると言ったが、出鱈目なこともわかっている。あの男はブロアに好意を持っている。
だからバルン国にいることを知って追ってきたのだろう。
サイロの様子を知りたくて態々わたしに会いに来た。だから、セフィルにはブロアとの婚姻を早くするように勧めた。
ブロアが嫌がろうと関係ない。婚姻さえして仕舞えばセフィルはわたしの駒として好きに操れる。離縁などさせない。一生二人とも飼い殺しにして我が公爵家のために使い続けてやる。
ーーああ、いいことを思いついた。
わたしに逆らってまだこの国にいるブロアへの罰だ。
わたしの言うことを聞かなければ、『こうなる』と徹底的に教え込んでおこう。
「閣下……あの、どう致しました?突然黙り込まれましたが?あの……先ほどサイロの無実を一人のメイドが証言致しました」
「メイド?」
「はい、ウエラという公爵家に勤めているメイドです。歳は16歳だと言っておりました」
「うちで勤めている?そんなメイドは知らないな。まず、一人で屋敷を出たはずのブロアなのに、何故うちの屋敷の使用人がそばにいるんだ?サイロは罪人だから、屋敷から逃げ出したのだろうが……もしかしてそのメイドも罪人?まだこの城内にいるのならわたしが事情を聞こうか?」
「あ……あの……」
「どうした?はっきりと返事をしろ」
「騎士団の取調室にまだいるかもしれません」
「そうか……ならば帰る前にうちの使用人か、わたしが確認してやろう」
取調室に入ると少女らしき子が青い顔をしてビクビクしながらわたしを見ていた。
ブロアを見つけた時にそばにいた女だとすぐにわかった。ブロアのメイドの顔なんて覚えてもいないが、まだ見かけたばかりの子だ。
「お前はブロア付きのメイドなのか?」
「は、はい……」
小さい声で震えながら答えた。
「あのネックレスはサイロが盗んだものだろう?そうだな?」
「…………います」
あまりにも小さな声にわたしはわざと
「お前も一緒に盗んだのか?だからうちの屋敷から逃げてきたんだな?おい、誰か鞭をもってこい!」と叫んだ。
バルン国の騎士達は一瞬、戸惑ったものの素直に鞭を持ってきた。
「…………や、やめてください」
涙をいっぱいためて真っ青に震える娘の背中に数回鞭を打ちつけた。
「盗人は牢にでも入れておけ」
ぐったりした娘をそのまま後にしてサイロのいる牢へと向かった。
「サイロ、お前が罪を認めなければあのウエラという娘は毎回事情を聞かないといけなくなる。よく考えろ」
わたしは、恐怖という種をウエラに蒔いた。
ブロアは、二人のこれからをどうするだろうか。
そのまま放って国へ戻るか。二人を助けに来るか。
サイロはどうするのか。
退屈凌ぎになりそうだ。




