前世の縁
「先輩。お願い一人で泣かないでください。僕が一緒にいますから。」
「やめて。勘違いさせないで。離して。」
「勘違い?」
しまった。口がすべってしまった。だけど心とは裏腹に堰を切ったようにしゃべり出してしまう。
「成田君が好きなの、今優しくされたらあなたも私を好きだと勘違いしてしまう。」
ああ、終わった。せっかく先輩、後輩の友情だけは築けていたのに。それさえも私がこの手で壊してしまった。
「先輩?」
「だから離して!」
どれ程強く胸を押しても成田君は離れてくれなかった。そればかりかもっと強い力で私を抱きしめた。
「板谷先輩に言いました。好きだって。好きな理由も伝えました。そしたら板谷先輩が言ったんです。それって憧れの好きね、ありがとう。って僕びっくりして。でも、ああそうかと思いました。なんとなく腑に落ちたんです。」
「成田君?」
「あーあせっかく僕が先に言おうと思っていたのに。」
成田君が抱きしめるのをやめて私の肩に手を置く、そして目をじっと見つめて、
「先輩好きです。信じてもらえるか分かりませんが、好きなんです。先輩のことが女性として。」
「へっ?」
「これ受け取ってください。今日、誕生日だったんですよね。」
そしてあの板谷先輩と一緒にいた宝石屋さんの紙袋を差し出した。
「開けてください先輩。」
中にはネックレスが入っていた。星座の形の誕生石の入った。
「先輩。付き合ってください。」
「でも。」
「先輩。好きです。愛してます。」
「でも、私。」
「先輩、好きなんです。優しいところも、少し子供っぽいところも。あわてん坊なところも。」
「わかったから、もうやめて。」
私は恥ずかしくて顔をふせた。
「先輩キスしたい。だめですか?」
「そんなこと聞かないで。」
成田君が私の頬を両手で挟んで無理矢理、顔をあげさせたので観念して目をとじた。
唇が触れるとそこから熱を帯びていくように全身が熱くなるのを感じた。実際は数秒だったと思う永遠に似た時間が過ぎた。
「そういえば板谷先輩は結婚しているそうです。学生結婚したらしくて、だからもう結婚十年目らしいですよ。」
「へー知らなかった。でも結婚してるって知ってても成田君が板谷先輩を好きなら私は応援したよ。」
「えー先輩。何故ですか?」
「だって相談される前からもう成田君が好きだったから。」
「先輩、かわいいです。もう一度してもいいですか?」
「だめです、私仕事に戻ります。」
「じゃあ手伝います。もう遅いですから。大事な彼女を帰り送りたいですし。」
成田君ってこんな子だったかしら、首をかしげながら私はデスクに戻った。
その後、広告を作り変えるのは無理だけど、その商品をつかってインテリアをした写真を撮って、営業の方に頭を下げて配った。そのおかげか売り上げ目標は達成できたようだ。勿論営業の方が有能だったのだろうが、心底安心した。
板谷先輩はなんとなく私の気持ちも成田君の気持ちも分かっていたようで、
「あなたは自分を殺し過ぎ、私、旦那を振り向かせる為に何でも犠牲にしたわよ!」
板谷先輩は力強く私に言った。
「先輩。旦那さんが好きなんですね。」
「ええ。とっても。」
笑顔でいう板谷先輩は、前世のお嬢様より幸せに見えた。
今日は成田君と初めてのデートあのネックレスをつけていこう。
「水族館なんて久しぶり。楽しみ。」
口に出して幸せをかみしめる。さあ出かけよう。もう何があっても私は成田君を諦めない。