しんたいそくてい
§7 初めての組合
ここは賢者のお城のリサの部屋。
ルリ達は一旦学校の建物を出た後、リサに話をする為に集まっていました。
さて、ベッドに座っているリサはルリの話を聞き終えるとこくりと頷きます。
「……ふーん。要するにジェシちゃんと仲良くなれば良いんだよね?」
すると、隣に座っているミルはリサをじっと見つめます。
「……リサ。話聞いてたの? アイツには近づくなって事だよ。」
……ミルが睨んでくる。……でもね。
リサはミルと目を合わせます。
「ジェシーちゃん、さっきの時間、前の机で一人ぼっちだったよ? それにグループには誰か付いてくれるんだから大丈夫だよ。」
……多分。
リサは内心そう付け加えます。
そして、リサの言葉を聞いたルリとラクアは顔を見合わせます。
「ルリ様。リサと彼女を2人きりにしてはダメですね。」
「そうですね。リサさん。もしかしたら対応しづらい事をされるかも知れません。必ず、頼って下さい。」
リサはルリに言われて少し悩みます。
……“対応しづらい事”って何だろう。
……うーん、お菓子を取られるとか? もう、口に入ってると取り返せないよね。よくミルにやられて困ったよ。
うーんと唸りながら悩んでいるリサを見て、ミルは肩を竦めます。
「この後は組合に行くんだよね。そろそろ戻った方が良いよ。……リサもほら。」
ミルはベッドから立ち上がって、リサの手を引っ張ります。
……組合って初めてだから、楽しみだよ。
リサはミルに手を引かれながらラクアとルリと一緒に部屋を出ました。
……
中庭に戻ると、学校の建物の入り口にアミとジェシーの姿がありました。
リサ達を待っているようです。
……アミお姉ちゃん。そう言えば、朝、中庭に集まった時以来だね。今まで何してたんだろう?
リサが首を傾げていると、ラクアがアミに話し掛けます。
「アミお姉様が私達の監督者ですか。」
「そうだよ。リサちゃん達よろしくね。」
……アミお姉ちゃんが監督者なのは良いけど。シラちゃんが何か言ってた気がする。
リサが更に首を傾げていると、ミルの目が合います。
「ねぇ、リサ。もしかして、気付いてなかった?」
「……ミル。何の話?」
「……何でも無い。やっぱり、リサの頭には妖精が住んでるんだね。」
……本当、何なんだろう?
さて、そんなリサの耳にアミの声が聞こえてきます。
「……今から組合に向かうけど、何か質問あるかな?」
周りを見渡すと他のグループにもユアとシラが付いています。
周りをきょろきょろと見回しているリサを横目にミルがアミに顔を向けます。
「アミお姉ちゃん。これってみんなで行くの?」
「ミルちゃん。そうだよ。しかも、今日は全員私が瞬間移動させるよ。」
学生の女の子が15人に、そして付き添いのユアとシラ、アミ本人を含めばこの場には合わせて18人も人がいます。
ラクアがつい言葉を漏らします。
「……アミお姉様。大丈夫なんですか。」
「平気だよ。これでも、闇系統の魔法はマリエルさんの次位には上手だから。」
「……闇の賢者様が水の賢者に劣るなんて賢者は辞めるべきね。」
ジェシーが口にしたその言葉で一気にその場が凍ってしまいます。他のグループの子達まで固まってしまいました。
……ジェシーちゃん、そういう事は小声で言ってよ。
リサは苦笑いをしながら少し暗い顔になっているアミのローブの裾をぎゅっと引きます。
「アミお姉ちゃんって賢者様だったの?」
「そうだよ。一応ね。」
「本当!! ねぇねぇ、なんか凄い魔法使ってよ! アミお姉ちゃんって闇の賢者様なんだよね?」
「えっと、今から魔法を使うから……。」
リサがアミに魔法のおねだりをしていると、それまで固まっていたミルがつかつか寄って来ます。
そして、アミの手をがしっと掴みます。
「嘘でしょ!! え? アミお姉ちゃんって闇の賢者様なの? ポンコツアミお姉ちゃんが?」
……あっ、ミルが爆発してる。しかも、どさくさに紛れて凄い酷い事言ってる。
リサは少し呆れながら、隣のミルに声を掛けます。
「……ミル。さっき凄く意味深な事言ってたけどなんだったの?」
すると、ミルはリサに目を向けます。
「え!? 監督者は賢者の血縁って言ってたじゃん。だから、アミお姉ちゃんもって思っただけ。……まさか、賢者様なんて聞いてない!」
手を離したミルはそう言うと、アミをじっと見つめます。
「……えっと、ミルちゃん。……黙ってた訳じゃないんだけどね。」
アミがミルから少し目を逸らしていると、ラクアの声が割り込みます。
「……ミル。アミお姉様が闇の賢者だと知らなかったのですか?」
ミルは首を横に振ります。
「全然。」
そして、ミルとラクアのやり取りに目を瞬かせていたアミにルリが声を掛けます。
「アミ様、そろそろ移動をされた方が良いと思います。」
アミはこくりと頷きます。
「そうだね。……リサちゃんも。」
「うん。魔法見せてね。」
リサはローブを掴んでいた手を放します。
そして、その様子を離れたところから見ていたジェシーはぽつりと言葉を漏らします。
「……馬鹿しかいないわね。」
……ジェシーちゃんが言う事じゃないと思う。
さて、リサ達から離れたアミは他の子たちを呼び寄せます。
「……みんな集まったかな? 移動するね。」
すると、次の瞬間、周りの風景ががらりと変わります。
周りからは、わっと歓声が上がります。
「……えっと、みんな少しここで待っていてね。」
そして、アミはシラをこの場に残して、ユアと一緒に正面の建物に入ってしまいます。
さて、残された子達は少し興奮気味です。
アミの魔法に幾らから慣れていたリサ達も周りの様子に釣られて、きょろきょろと見回します。
リサ達が居るのは十字路。
道の奥を見れば広い石畳の道の脇には石造りの建物がずらっと並んでいます。
そして、正面には一際背の高い建物が目に映ります。
さて、角地にあるその建物には看板が掛けられています。
“エルリル武力組合”
「……ここが、エルリルの組合なのですね。」
ルリがそう言葉を漏らし、ゆっくり建物を見上げます。
リサはそんなルリに声を掛けます。
「ルリちゃん。面白いの?」
すると、ミルの声が聞こえてきます。
「……リサは知らないと思うけど、ルリは初めて来た時も賢者の城をこんな風に観察してたよ。」
「ミルさん。見ていたのでしょうか。」
ルリは少し顔を赤くながら、ミルに振り返ります。
ふーん。ルリちゃんって建物に興味あるのかな?
リサはふと、二人から目を離して周りを見回します。
……あっ! ジェシーちゃんが一人ぼっちでベンチに座ってる。
ジェシーの姿を見掛けたリサはてくてくと近寄ります。
「ジェシーちゃん! 横いい?」
ジェシは一瞬だけリサに顔を向けるとツンとしながら目を逸らします。
……これは別に良いって事だよね。
リサが横に座ろうとした次の瞬間、リサはジェシーに突き飛ばされてしまいます。。
……へぇ?
「誰が座って良いって言ったの。目障り。」
そして、リサはそのまま地面に倒れてしまいました。
「リサ! 大丈夫ですか?」
側に居たラクアが駆け寄ってきて、リサを助け起こします。
でも、ジェシーの笑い声が聞こえてきました。
「なにその顔、良く似合ってるわよ。」
……えっ。
リサが顔に手を当てると血が付いてしまいます。
そして、今度は騒ぎに気付いたルリがハンカチでリサの顔を拭います。
……凄い柔らかい。
「リサさん、鼻から出てるようですね。……ジェシエル、貴女がやったのでは。」
ルリはジェシーを睨み付けると一段と低い声を出しました。
ジェシーもびくっと肩を跳ねさせます。
さて、ジェシーとルリの様子におろおろとしていたリサの手が誰かに握られます。
「……リサ。言ったよね?アイツに近づいても碌な事にならないよ。」
「ミル。」
そして、ラクアの言葉が続きます。
「ミルの言う通りです。……シラ様の所に行きましょう。」
リサはミルに手を強く引かれて、ベンチを後にします。
そして、リサが後ろを見るとジェシーとルリがまだ睨み合っています。
……大丈夫かな。
……
その後、シラの所に連れて行かれたリサは鼻に詰め物されます。
そして、帰ってきたアミとユアに案内されて、他の子達と一緒に組合の建物に入る事になりました。
組合の中では身長や体重の測定に走る速さや握力、そして、使える魔法の種類など、色々な測定が待っていました。
さて、リサ達の次の測定は魔力量です。
机に置かれた白い球の前にアミに案内されてリサ達が順番に並んでいます。
リサは机に目を向けながら言葉を漏らします。
「へー。あれで魔力量が測れるんだ。」
「……あーあ。ライ爺様の研究成果ですね。」
リサの言葉に、机の上の白い球を見ながらラクアが答えます。
「……ミルさんは、大体26ですね。」
ミルの測定が終わったようで、係のおじさんから数字が告げられます。
すると、ミルの側にルリが寄ってきます。
「凄いですね。私は23だったので少し羨ましいです。」
「ルリ、それでも十分だよ。」
さて、そんな二人にラクアも寄ってきます。
「私も終わりました。……25でした。ミルに負けてしまいました。」
……なんか、ミルの所でみんなワイワイ騒いでる。
リサはまだ測定が終わっていないので、話に入れません。
なので、アミが隣に引っ付いているジェシーに話し掛けます。
「ジェシーちゃんは、魔力量はどうだったの。」
ジェシーはリサをキーっと睨み付けますが、すぐに目線を床に伏せます。
「……1よ。」
「……ごめん。良く聞こえなかった。」
リサがジェシーに聞き返すと、ジェシーはぱっと顔を上げてリサを睨み付けます。
「21よ!! なんなの。馬鹿にしたいの?」
そして、ジェシーはリサに飛び掛かろうとします。
でも、側に居たアミに止められます。
「ジェシーちゃん、さっきも言ったよね。手を出したら駄目だよ。……リサちゃんも次で最後だから測定してきてね。」
……あっ。
見ると自分の前に人は並んでいません。
リサはてくてくとテーブルに向かいます。
「この丸い球に手を触れて下さい。」
係員のおじさんに言われて、リサは手を球にペタと引っ付けます。
……何にも起きないね。
暫くそうしていると、アミがリサの所にやって来ます。
そして、係のおじさんに声を掛けます。
「測定器が反応してないよ。」
「……アミエル様。これは。」
「そうだね。別の測定器と無極性測定器を準備して。」
「はい。直ちに。」
係員のおじさんはアミに頷くと、慌てて奥の部屋に飛んでいきます。
そして、先程と同じ白い球と別な透明な球をお盆に載せて持ってきます。
さて、アミは何処からか取り出した手袋を嵌めて、二つの球を手に取ります。
「……壊れては無いよね。……リサちゃん。先ずこっちに触れて。」
アミは手袋をはめたまま、白い球をリサに手渡します。
でも、リサが触れてもやはり反応しません。
「……駄目だね。今度はこっちだよ。」
そして、今度は透明な球を手渡します。
リサが触れると、今度は白い球とは違って魔力が吸い取られます。
……!!
でも、今回もそれ以上の事は起こりません。
アミはリサに確認します。
「リサちゃん。さっき魔力吸い取られていたよね?」
「……うん。」
リサが頷くとアミはため息を吐きます。
「はぁー。どうしよう。……すぐに組合理事を召集して。」
アミにそう言われた係のおじさんは慌てた様子で、部屋を飛び出します。
そして、それを見届けるとアミはマリエルに魔法で連絡を取ります。
「マリエルさん、緊急の連絡です。リサちゃんの魔力量が異常値を示しています。」
すると、部屋にマリエルの声が響きます。
「アミ。異常値とは。」
「おそらく、“ノイア”です。」
「笑えない冗談だ。直ぐに向かう。」
さて、当のリサは一体何の事かさっぱり分からずに首を傾げるしかありませんでした。