104_押し売り夫婦。
昔は、かなり強い訪問販売の方がおられたそうで。曰く先日法的な問題で労務していたとある施設から出所してきたばかりで、これからは誠実に真面目に生きようと思いますので、こちらの商品を私を助けると思ってご購入いただけませんか?と言う態度と文句で熱心にご商売をされていた方々でございます。
こう書くとなんとなく高潔なお方とか、立ち直ろうと心を入れかえた立派な御仁に見えてしまうところが表現とは面白いものですね、と言えるのかもしれません。
売り物が需要を満たすものであれば購入もやむなしとか思うのですけれども、だいたいにおいて、別に今必要でもないですよね、と言う商品が多かったようです。だいたいにおいて、犯罪行為とか迷惑行為とかにカテゴライズされる商売方法であったらしく、最近ではあまりそれとしては目につかなくなったようではあります。
もしかすると伝統芸能的に子々孫々へと受け継がれているのかもしれませんが。こう、目線の切り方、声の抑揚、セリフまわしから、ドスンと玄関先へ座り込む仕草とか、事細かに口伝とか、もしくは指南書とかでこう、伝授していくわけです。板ばりの道場などがあって、流派に北壁流とか、戦場流とか道場がありまして、凄みを増すためのエピソードなどに深みを与えるにはどうするのかとか、昨今のそれら、圧力を与えるためのトレンドとかはどうかとか。
地域密着型なのもあるわけで、ご近所にそういう塀に囲まれた施設がありまして、それに由来するようなリアリティのある、演出やら仕草やらをこう享受されると。言い回しも、その地域の方言をふんだんに取り入れた、ちょっと愛嬌があるようなものにして、決して脅しているんではないんですよ、受け取り方は人それぞれですよね、と言う雰囲気をまとわせるような。
段位認定とかもありまして、空手とか柔道みたいなものは帯ですが、こちらは、商品を持ち運ぶ風呂敷の色が段位によって変わるわけです。基本唐草模様ですが、段位が低いと白っぽいこれが初級、それが、だんだんと級数が上がると色が濃くなっていって、初段位を取得すると晴れて、黒い風呂敷が授与されるわけです。もちろん段位認定には登録料とか審査料とか銘打って、ご商売で儲かった分をいくらか巻き上げる、違いました、組織運営の資金や、段位の権威づけのために徴収するわけです。
最近の問題は、若者の押し売り離れなどで後継者が先細っているという、どこにでもありそうな、状況であったりしまして、押し売りをもっとメジャーにするためにエンターテイメントに走るべきではないか?などと、上層部の若手を中心に発言があるものの、そもそも我々はお天道様の下で堂々とできるような体質ではないんですよ、と言う、最もな長老がたの意見で事なきを得ているような。
それならば、新しい風を起こすために、いろいろと新流派を立ち上げてみようではないか、と、模索した結果、夫婦漫才ならぬ、夫婦押し売りでございまして。男女がペアになりまして、こう女の方は美人さんでございますよ、それが、良いお話がありますよ、ちょっと扉を開けてくんなましと、甘い言葉をかけて、気弱そうな一人暮らしの青年とか、婚期を逃した、中年のお部屋を訪問するのです、扉が開けばしめたもの、ガスっと、強面の旦那が隙間に四角くて大きな革靴を差し込んで、華麗に商談をスタートするわけでございます。
もしくは、色仕掛けでたらし込んでいる最中に、その旦那がダイナミックエントリーですね。そして、私の女房に何を不埒なことをしようとしていたんですか?などと、やんわりと追及していって、自身の愛する妻に行おうとしたセクハラに対するお詫びのしるしやら、旦那としての精神的衝撃を補填するための、優しい心遣いなどを、こう、そのお客さんからいただくという、なかなかドラマティックなご商売でございますね。
何か、昔に同じようなご商売がございましたね。そこの、伝統的な商売団体が利権を荒らすなと、クレームを入れてくるところまでがセットでございましょうか?
表題の単語を思いついた瞬間にここまで連想した、今日のゴブリンでございました。
「恋はね、押していく方が勝つのですよ」
「押し売りは犯罪だと思うのですが”ご主人様”」




