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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
1・愛と憎悪
8/37

2-4


 ふと千尋が「ちょっと2人でラブラブしてな」と厨房に引っ込み、しばらくするとお盆を2つ持った千尋が「40秒で食事しな!」と厨房の隅にそれを置いた。飲食店で働く大きなメリット、まかないの時間のようだ。


「わーい、ちーせんぱいが作ったヤツですか?」

「もちろんだぜ。愛情と身長が低くなる呪いがたっぷり入ってるんだぜ」

「わけ分かんないけどやったー。ちーせんぱい料理は上手ですもんね」

「おやおや? そこはかとなく悪意を感じるよ?」

「ちーせんぱい、料理だけは上手ですもんね」

「おやおや? 悪意たっぷり言い直されたよ?」

「ちーせんぱい、料理以外はポンコツですもんね」

「うっせ、はよ食え。3分間だけ待ってやる」


 ユイと陸瀬は並んで厨房の隅に座り、いただきますと食事を開始する。


「んー、美味ーい! ちーせんぱいのまかない、味付けも焼き具合も絶妙なんだよねー。料理専門でウチで飼いたいなー」

「あたしゃ雇ってすらもらえんのかね?」

「だってちーせんぱいは愛玩用ですもん。首輪付けてないとダメだけど」

「てめーマジでバカにしてやがんな。もうあきにゃんではなく、あきにゃそと呼んでやる」

「ね、水波くん。ちーせんぱいのまかない美味しいよね」

「んー、そうかも」


 が、ユイの感想はやはり淡白だ。やや肩透かしを食らいながらも、陸瀬はめげずに会話を続ける。


「水波くんってあんまり食事にこだわらないタイプ?」

「うん。こだわらないっていうか、そこまで興味ないっていうか」

「みなみんらしい返答だね。それに引き換え、あきにゃそは食いしん坊だねえ」

「あんたのメシが美味いって言ってるんですよ。つべこべ言わずに毎朝わたしの為に味噌汁を作ってくれ」

「あっ‥‥今ちょっとときめいた」

「それより水波くんは家で料理しないの? コンビニ弁当とか?」

「いや、いつも作ってるよ。あまり贅沢はできないから」


 マナと一緒住んでいることも、贅沢ができない理由も、あえて伏せておいた。ユイとマナが同棲していることを知っている人はいない。


「まー、確かにね。わたしもちょっと遊んだらすぐお金なくなっちゃうから大変だよ」


 期待通り、陸瀬は学生としてのお金のなさだと勘違いしてくれたようだ。1人暮らしの学生であれば、生活費のやりくりで苦労している人は多い。


 ユイは出来るだけマナとの同棲生活を他人には伏せていたいと思っていた。知られると、今後色々とやりにくくなることもあるだろうから。

 別に今のところ、何がという具体的なものがあるわけではないのだけれど。


「陸瀬さんは? 料理するの?」


 聞きながらその声音に興味の色が薄い自覚はあったが、それがユイの仕様だ。


「え? あははー、まあしないこともないけど、大抵は買って済ませちゃうかなー」

「だっはっは。んじゃ自炊してるあたしより、あきにゃその方がポンコツってことだな。どうだい、安くて美味い簡単レシピ、教えてほしい? てめーがポンコツだと仰ったちー様に、教えを乞いたい? ほれ、思う存分頭をお下げ?」


 やや恥じらい気味の陸瀬を、千尋がここぞとばかりにいじっていた。


「あれ、ちーせんぱい次のテストの時ノートいらないんですか?」

「謝ります申し訳ありません」


 が、即座に言い返されていた。その隣でユイは黙々とまかないを食べている。


「ていうかみなみんもちょっとは突っ込めよー。あたしのメシが美味いのは分かるけど、そんな無心で食われてると寂しいじゃねーか」


 ぎゅうー、と背中から千尋に抱きつかれる。無言でしばらく千尋を見つめたあと、一度頭を撫でてから食事に戻った。


「おお‥‥まるでめんどくさい妹の相手をしてやる兄のようだ。ちーせんぱいがいつも以上に情けなく見える」

「目覚める‥‥お兄ちゃん萌えに目覚めてしまいそうだ‥‥。ぐうっ、右腕が疼く‥‥っ、ヤツの封印が解かれる‥‥っ」


 背中に張り付いたままの千尋も気に留めず早々に食べ終えると、千尋に「ごちそうさまです」と告げ、席を立った。


「じゃあ俺は他の人と交代してくるから」

「あ、待って待って。わたしも行くよ」

「いいよ。ゆっくりしてれば」


 言葉ほど温かみの少ない口調で告げ、ホールに残っていた他の店員とまかない休憩を交代する。

 客の少なくなったホールで淡々と仕事を再開しながら、考えるのは帰ってからのマナのこと。いつものことながら、マナはまかないを食べて帰ると少しだけ不機嫌になる。マナの料理以外を食べることが気に入らないらしい。


 それで冷たくなったり剣呑になったりするかというとしかしそんなことはなく、むしろいつも以上に甘えてきたり求めてきたりするだけなのだが。

 とはいえその不機嫌をどう解消しようかをぼんやりと考えながら、ユイはその日の残りの時間を潰していた。


 ××× ×××

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