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学校もバイトも休みの日、マナとユイはスーパーへ買い物に出かけていた。
こうしてユイと2人でのんびりできる日がマナは大好きだった。なぜなら隣にずっとユイがいてくれるから。どこで何をするにしても、隣にユイがいてくれるというだけでマナは全てに大満足である。
マナは今もユイの腕にしっかりとしがみついて、バカップルであることを周囲に主張していた。もちろん、ユイ以外の人間は軒並みマナの意識から排除されているが。
「今日のご飯は何がいいかなー」
「何かリクエストはある?」
「んふー、ユイくんが作ってくれるなら何でも食べるよ」
「キャベツの千切りでもいい?」
「うふふ、ユイくんが食べさせてくれるなら」
そんなやりとりをしながら、必要なものを吟味を重ねた上でカゴに入れてゆく。贅沢はできないので、おやつ等の嗜好品は控え目だ。
もっとも、マナの嗜好品であり必需品はユイだけなので、別に我慢するというほどのものではない。
「ふふ、なんだかこうしてると私たち、夫婦みたいだね」
「そーだな」
受け答えは雑だが、ユイは呆れているわけでもバカにしているわけでもないことはマナには分かっていた。そもそも、近い将来そうなるのだからその認識も間違ってはいないはずだ。
実のところもうすでに、マナはユイが18歳になったと同時に結婚を申し込んでいた。しかし学生結婚は面倒事のほうが多いから、という理由であっさりと断られてしまっている。
それでもマナはその言葉の裏に、卒業したらすぐ結婚しようと言う意図が隠れているであろうということは、ユイが何も言わなくても分かっていた。ユイの考えていることは全部、マナには分かる。分かっているはずだと、信じきっている。
「結婚式はね、ユイくんと2人っきりでしたいな」
急なマナの言葉に、ユイはさして反応も見せないまま聞き返す。
「教会とかじゃなくて?」
「場所なんてどこでもいいの。ユイくんさえいてくれれば、他には何もいらない。大勢の祝福とか、鬱陶しいだけだもん」
くすくすと笑いながら、マナはユイの腕にうっとりとすがった。
そうして2人で腕を組んで歩いていると、正面からこちらに歩いてきている男女2人組の姿があった。マナは当然そんなもの意識の端にすら留めておらず、ユイも商品を見ていて気づいていない。そして正面の2人もまた同じ。
そのまま2組のカップルはすれ違い、ユイの肩とその男の肩がぶつかった。一瞬だけ視線が交差し、男は軽くユイを睨み、何も言わずにそのまま通り過ぎていく。そしてユイも、気にした風もなくやり過ごす。
――が、その瞬間、男の睨みなど比でないほどに鋭い視線で、マナはぎろりと男の背を射殺すように睨みつけた。
「わ」たしのユイくんに触れるな!
という言葉は、ユイに手で口を塞がれ続けることはできなかった。勢い余った指がマナの口内に入り込み、噛みつくような言葉は実際にユイの指に噛みつくことで留められることになる。
塞ぐならキスで塞いでほしかったな、という不満を漏らすのは取り敢えず保留して、マナは膨れ面でユイを見上げた。
ユイのその動きは非常に手慣れたものであり、そしてユイは焦っているわけでも慌てているわけでもなかった。その証拠にと言うべきか、ユイはマナに呆れたような視線を送っているだけで、不思議そうにマナを振り返る男には見向きもしていない。
マナはそのままユイの指をがじがじと噛んで言葉の自由を取り戻すと、抑えきれない不満を抱きつくことでぶつけた。
「なんでー」
「こっちの台詞。そんな怒んなくていいだろ」
「だって、ユイくんに触ったもん」
マナが憤っているのは、ぶつかったことでも謝らなかったことでもなく、ユイに触れたという、そのことだった。
ユイに触れてもいいのはマナだけだ。見ていいのも、話していいのも、愛していいのも、全てマナだけにしか許されないべきなのだ。
なのにユイは、それを認めてしまう。愛してくれるのはもちろんマナ1人だけだけど、ユイはマナ以外の誰かと話をするし、触れることもある。それだけが唯一、ユイとはどうしても意見が合わない部分だ。
「何でイヤじゃないの? 私はユイくん以外に触られるなんて、絶対イヤ。許せない。気持ち悪くてぞわぞわしちゃう」
「マナは極端なんだってば。そういうのやりすぎたら、面倒くさいだろ。少々触られたって気にしないよ。俺は」
言いながら、マナの頭をよしよしと撫でてくれる。
ユイは基本的に事なかれ主義だ。といっても、別にやたら下手に出たり中途半端に媚びたりするわけではなく、相手の気に触れない程度に受け流すのが上手いということ。
適度に会話をし、適度に交流し、適度に距離を置く。ユイの他人との接し方はいつもそんな風に見える。
それがユイのやり方なのだろうけれど、少し納得いかないしマナには絶対真似できないやり方だった。ユイ以外と会話するのは気分が悪いし、触れるとそれだけで鳥肌が立つのだから。
それに加え、ユイは驚くほど温厚だ。マナはまだ一度としてユイが怒ったところを見たことが無い。マナに何か注意をする時だって決して怒るのではなく、諫めるとか諭すと言う方がよほど近い。
怒っても無駄だし面倒くさいから、とユイは言うが、こちらもマナには真似できそうにない。他人には当然、ユイにすら時々拗ねたり嫉妬したりという不満をぶつけてしまうことがあるくらいだから。
別に、マナはユイのことを縛り付けているわけではない。ユイの行動を制限しているつもりはないし、誰かと会話したりするのを咎めて怒ったり閉じ込めたりしているわけでもない。もちろん、ユイが許してくれるならそうしたいとは思ってはいるけれど。
それでもマナがユイに求めているものは、たったひとつ。マナだけを求めていてほしいという、それだけだった。マナだけを愛してマナだけを見てマナだけと居てくれる。そんなユイでいてほしいというだけのことだった。
だからマナにはやはり、ユイがマナ以外の人間に触れることは許容しがたかった。
「なあマナ、そんなに怒ったりしてたら疲れない?」
ユイはマナの頭を撫でてくれながら、気遣うようにそう尋ねた。しかしマナはぶんぶんと首を振って答える。
「ううん。だって、ユイくんのためって思ってやってるから、甲斐甲斐しく尽してるって感じがして、すごく幸せだよ? 気の利く奥さんって感じかなあ」
笑顔でそう答えると、ユイは呆れたように息を吐いてから、マナのほっぺたを揉みしだいた。マナは笑顔でそれを受け入れる。
「その服はすぐ洗濯だね。もう、帰るまでは私以外見ちゃダメだよ?」
ユイは呆れ混じりに「分かった分かった」と頷いてくれた。
そうして買い物を終えると、マナは迷わずセルフレジへと向かう。理由は無論、店員と会話をしなくて済むからだ。
マナも、そしてユイも。
店を出ると、ユイが自転車に乗ってマナは荷台に座りユイの腰に抱きついた。行って帰るだけなのだから、2台で来る必要はない。可能な限りユイとの触れ合いを求めるのは、恋人としてそれが当然の在り方だろう。
マナは自分だけに許されたユイに触れる権利を満喫しながら、うっとりと帰路の移動をユイに任せるのだった。
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