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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
1・愛と憎悪
10/37

4-1


 今日も今日とて2人で布団に横になりながら、マナはユイの温もりの余韻に浸っていた。休日の、昼前のことである。


 マナはごろごろとネコのようにユイに体を擦り寄せてユイの体温を堪能しながら、じっと眼を見つめる。しかしユイとなかなか目を合わせることができず無理やり覗き込むと、ユイは何かを考えながら、虚空に視線を向けていた。


 マナではない何かを見ているので、きっとマナ以外のことを考えている。それはとても嫌なことだった。だからユイにこちらを向いてもらうために声をかける。


「どうしたの? ユイくん」

「‥‥うん、考え事してた」

「何を考えてるの?」

「どーでもいいこと」

「ダメ、ちゃんと言って」


 そこでようやく、ユイはマナを見た。すごく嬉しくて、すごく安心した。

 ユイはマナの髪の毛を手で梳きながら「この前ちょっと思ったんだけど」と前置いてからそれを語り始める。


「死んでもいいヤツって、いるじゃん」

「うん」


 突拍子もない話題だったが、マナはユイの言葉に思ったままに同意を示す。


「ユイくん以外全部」

「相変わらず極端だな」

「だってホントのことだもん」

「まあ、色々いるじゃん。死んでも誰も気にしない奴とか、むしろ喜ぶ人の方が多い奴とか」

「うん」


 マナとしてはユイ以外という点ではどれも変わらなかったが、言いたいことは分かるのでとりあえず頷く。


「それでさ、人を殺すって、それ自体はすごく簡単だと思ったんだ」


 ユイはいつもと変わらない表情でマナを見ている。マナも微笑んだままじっとユイを見つめ返した。話の内容にかかわらず、それだけで幸せだった。


「だって、それ自体は別に難しいことじゃないだろ。例えば、通りすがりに首とか胸を刺してやったり、鈍器で後頭部を何回も殴ってやったり、高いところにいるヤツを突き落としたり、場所と相手を選ばなければ、可能か不可能かっていえば、十分可能だと思うんだ。人は案外丈夫っていうけど、頭や体を叩き潰すくらいしてやれば、絶対死ぬだろ。だから確実にそうできる手段でやってやれば、案外簡単なことだと思うんだよ」


 ユイは慈しむようにマナの首筋に手を添えた。


「今、思いっきりマナの首を絞めちゃえば、殺せるかもな」

「いいよ。でも、私を殺した後はちゃんとユイくんも死んでね?」


 マナもユイの首に手を添え、そのまま唇を重ねる。もちろん、そんな言葉は冗談でしかないけれど。

 ユイは首から手を離し、頭を撫でてくれながら言葉を続けた。


「でも、実行に移す人は多くないだろ。なんでかって言ったら、リスクに見合った見返りが無いからだと思うんだよ」


 ユイは特に声に感情を乗せないまま、漠然とした口調で語る。


「殺人はいけないことだって言われてるから、してしまえば相当なリスクを負うことになる。それに見合った見返りなんて滅多にないから、よっぽどの理由がなければできないと思うんだよ。で、そのよっぽどの理由ってのがあれば犯人の見当がつけやすくなって、バレやすくもなる。衝動的にやっちゃえば、明らかな証拠が残りやすい。だから完全犯罪って難しいのかな」


 死んでもいいヤツ。やろうと思えばできる殺人。

 そう考えると、特に大嫌いな2人の客の顔が‥‥上手く思い出せないが、そういうヤツがいることが思い起こされる。


 何度も考えていたことだが、本当に殺してやろうかなと思った。けれど、確かに見返りに対してリスクが大きすぎると思った。

 どういうリスクかというともちろん、捕まった場合ユイに会えなくなってしまうということだ。何年もユイに会えないなんて、自分はきっと気が狂ってしまうだろうと思う。

 それに殺す際にあの男に近寄らなければならないというのも、かなりのストレスが伴う。そうして得られるものはバイト中の安寧だけというのだから、あまりに釣り合わない。それにその2人が消えた所で、嫌いな客は他にいくらでもいる。


 それ以外で言うなら、ユイに近づいてくるあの女、陸瀬秋奈。あれも殺せるものなら殺してやりたい。ユイとの時間を今以上に満喫するためには、あの女は是非とも死ぬべきだ。むしろ、死ななければならない。


「でもさ、逆に動機も関係も無かったら、一気に分かりづらくなるんじゃないかって思ったんだよ」


 そう考えていると、ユイがさらに言葉を続けた。


「だって理由がなければ、目撃証言とよほどの物的証拠を残さなきゃ、そもそも容疑者として浮かび上がることすらないだろ? だから全然自分と関係ないよく知らない奴を殺して、罪悪感も何もなく当然のような顔してれば、けっこう分からないんじゃないかな。通り魔って犯人特定しづらいって言うし。ま、それこそ殺しが趣味でもない限り、見返りがほぼゼロになるんだけどな」


 ユイは最後にそう言って話を締めたようだった。

 ユイが再びマナの首に手を伸ばし、ネコのようにあごの下をくすぐってきた。にゃー、と鳴き声を上げながらマナはユイの胸元に顔をうずめる。


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