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エリュシオン・オンライン  作者: 神城 奏翔
第2章 喜びの感情
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Chapter18 チートと粛清

 宿までの帰路を歩いていると、またしてもいざこざに巻き込まれている人達が目に入った。

 何が原因となったのかはまったく検討も付かないが、ただならない問題であることは間違いない。


「また、問題かよ……」


 この街は問題しかないんじゃないの。賑やかな代わりに問題も多いのなら良い街と呟いた俺の言葉を撤回しなければならないな。


「そのお金はきちんと払ったでしょっ!」

「残念ながら支払われてないんだなぁ。これが」

「嘘……」


 何の騒ぎかと思えば、お金関係の騒動かよ。

 また面倒な騒ぎを街中でやるな。さっきのように野次馬が多いし、通行の邪魔だしで本当にうざいんだけど。

 状況を完全に把握は出来ていないが、要するに何らかの条件の代わりにゲーム内で使用出来るお金を借りたのだろうな。それを確かに返したのに、相手側は返して貰っていないと。

 よくある()り……詐欺の一種だな。


「……大人気ねぇな。さすが屑の集まり」

「あァ? なんつった、そこのガキ」


 野次馬の一人と化していた俺の小さな呟きを聞き逃すことなく、律儀に反応してきた詐欺師達。

 ここまで小さな呟きを聞き取れるのであれば、野次馬のがやがやした声の方が聞こえるだろうが。どうして目立っていることに気付かないのだか。本当にバカなのか。


「屑の集まりは耳の方も遠くなったのですかね」

「こいつ……っ!」


 俺の高圧的な物言いに対して、怒りが頂天に達した詐欺師の一人が額に青筋を浮かべ武器を取り出した。


「おい、やめておけ。俺達の目的を忘れたのか?」

「でもよ……」

「ま、そうだぞ。弱い者を甚振る糞野郎共のくせに頭が回るじゃねぇか」


 バカは死んでも治らないというが、アホは死なずとも治るみたいだな。相手を挑発することが目的だったので、作戦は上手くいっているみたいだ。仲間を引き止めていたリーダー的存在の男までもが怒りに身を任せそうになっていた。


「てめぇ、よくもっ!!」

「もういい。お前ら、サクッと殺っちまえ!」


 簡単な挑発になんて乗らないと思っていたのだが、案外、チョロい奴らだった。侮蔑されただけでこの怒り様、もっと攻めたような台詞使いの方が面白かったかもな。


「……無駄だよ」


 敵が無謀にも振るった剣を手に取り敵の行動を防ぐと共に、その剣を持ち主に投げ返す。

 上手く敵に剣が刺さったことを確認した後、周りの敵がどう動くか自然にわかるよう気配を察知する。

 一人が刺されたのにも関わらずバカ共は果敢にも飛びかかってきた。


(めんどくせー)


「ぜりゃぁーーっ!」


 バカの一つ覚えの如く猪のように突っ込んで来る敵に対して、一々相手をしていたら面倒くさいことになるなと思い。背負っている剣を握りスキルが立ち上がるのを感じ取る。

 相手に決して隙を見せてはいけない。次の手を悟らせてはいけない。予想外な方法を使って、まったく防御出来ないところから攻撃をしかけなければ。

 とは思いつつも、実際は力押しで決めちゃうんだけどね。

 スキルが発動すると理解した直後、鞘から剣を取り出し周囲を取り囲む敵の群れを一掃する。


「な、なんだっ!?」

「いきなり、攻撃が……」


 これすらも見破れないとか、本当にここまで来た奴らかよ。

 スピードが早く、攻撃力も高いという初心者殺しのモンスターが、この街までにいたはずなんだが、そいつらすらも倒せなかったってことか。

 よく生き残れたな。おにーさんびっくりだよ。


(ま、俺よりも彼らのがおにーさんに当たるかな。バカだが)


 俺が賢いと言うつもりはさらさらないが、バカ過ぎるってのは罪だな。

 俺自身がバカなので、相手のことを悪く言うことはあまりないのだけども、ここまで行くと……うん、酷いね。

 人を陥れようとする奴が無様にも堕ちていく姿。自信過剰な奴の自信の源となるものを木っ端微塵に砕き、自分を支え続けていてくれた無駄なプライドがなくなれば、人はどうなるかを見届けるというのも面白いんだよな。

 勿論、俺は善を行う者を追い込むようなことはしない。ただ、自己満足な善ならば、問答無用で俺は精神的に追い込むがな。


「引くなら引きなよ? 今なら逃がしてやる」

 このまま残ればどうなるか、わかるよね。攻撃したとき以上の殺気を放出させながら、そう伝えると、気絶していない彼らは本気で逃げ出した。俺の攻撃をまともに受け、気絶してしまった男達を見捨てた集団。全然、渋る様子なく仲間を見捨てた彼らを薄情者だと言うだろう。しかし、俺はそうは思わない。

 自分の立場を良く考えて、力の差を感じ取って逃げることが出来たんだ。弱い奴を甚振る精神は見損なったが、獣のように無謀にも突っ込むバカではなかったこと、ただそこだけは称賛に価するな。

 気絶している男達をどうしようかと手持ち無沙汰になっていると、一人の女性が話しかけて来た。


「あ、ありがとうございました」

「……気にするな。通行の邪魔だっただけだから」


 ほとんど使うことのなかった剣を鞘に仕舞い、一歩ずつゆっくりと歩みを進める。

 本当に彼らを初め、野次馬も含めて邪魔だったから、ちょうど良かった。問題を解決したことで通行の邪魔をされずに済んだし。


「ま、待てよ」


 さきほどお礼を言ってきた女性とは違う、野太い声が聞こえたので、不意に立ち止まって声の発信源を探る。

 女性がいた場所の近くに傷だらけで倒れている男性がいた。彼女とは付き合っているのか、親しい関係であることは間違いない。一目で俺はそう思った。

 この世界でも、恋愛至上主義な思想の奴らがうじゃうじゃと蔓延っているのかよ。


「ん? 俺に何か用か」

「アンタ、黒獅子だろ」


 やっぱりこの地域でも黒獅子の名は轟いているんだな。どんな噂が流れているのかは聞きたくもないけどさ。

 人は誰しも自分より上に他人がいることを嫌がる。認めない。決して自分より強者はいない。たとえいたとしてもそいつは裏技を使っているせこい奴だと、そう思うのが人間だ。しかし、自分より上の人がいる、その人に近づきたい。追い越したい。そう思えるのも人間。

 そんな自由奔放な人間の流す噂なんて、良いにしろ悪いにしろ面倒な結果が付いて回ってくるだろう。


「ああ、そうだが。それが何か?」

「へへっ、知ってんぜ。お前、チート使ってるんだろ」


 ――ほれ、見ろ。


 どうせ、こんな与太話が流れているんだろうなと思ってはいたさ。

 どいつが発信源なのかすら特定は不可能だが、このネットゲームをやる時点でこういう輩が出てくることは既に予想済みだ。更に、自身の命が賭かったデスゲームと変貌したんだ。その中でもトップレベルの実力を持ち、ボスとも互角の戦いを繰り広げられる。そんなことを知ったプレイヤー達は、そいつのことをチートを使った姑息な奴だと思うだろう。

 重度のネットゲームプレイヤーの考えることなんて、簡単にわかってしまう。自分もかつてはそうだったから。


「想像はご勝手に」


 野次馬がぎゃーぎゃーと煩くなってきたので、俺はこの騒がしいエリアを抜け出そうとした。


「チートがバレたからって逃げるのか、この卑怯者!」


 ……が、俺が瞬殺した奴らにフルボッコにされていただけのサンドバッグが苦し紛れに放った一言が俺を完全にキレさせた。


 誰が卑怯者だって?

 それもお前らが勝手に認知して、負け犬の如く吼えているだけじゃないか。ふざけるんじゃない。


「良いことを教えてやろう。メニュー画面を開いたまま、とある文章を唱えると『コマンド画面』が出てくる。そこで特殊なコマンドを打つと帰れるぞ」


 これも一種のチートだとゲームのシステムは認識し、俺が目の当たりにしたあいつの末路みたくなるだろうがな。

 俺の思惑も知らずに野次馬を含めた彼らのテンションのボルテージがぐんぐんと鰻登りに上がっていく。


「……だが、殺される」


 この世界でチートを使うとゲームの管理者によって正当に処理されてしまう。俺はそれを目前で見ていた。チートを使った正真正銘、卑怯者の末路はしっかりと見た。そう事実のみを彼らに話し、俺は歩みを進めた。


「本当に帰りたいなら、卑怯な真似をせずに自分の足で歩け。俺はそうやって強くなった」


 エリュシオン・オンラインのシステムの一部、チートなどの不正行為を行った場合について話をすると、彼らは呆然と立ち竦んでいた。

 今まで使ってもバレないと思っていた可能性が粉々に壊されてしまったんだ。頼るものがなくなった彼らはどうするのか。そんなものに興味もない。俺は事実だけを伝えた。これ以上、同じ被害を受けるプレイヤーが出没しないように、と。


「……それをお前らが肯定しようと、否定しようと俺の知ったことではないからな」


 宿屋への帰路をゆっくりと歩きながら、俺はうわごとのように呟いた。

 


「で、どうしてこんな時間まで外出してたのかな? 遅くなる場合、連絡を入れるようにと言いましたよね?」


 宿屋へ帰った俺を待ち受けていたのは、鬼神の如く凄まじき殺気を放つジュリアとティナの二人だった。

 ここへ戻ってくる道中、強力なモンスターを狩りに行ったのではないかと心配して俺らを待っていたらしいが、アーサーだけ帰ってきた瞬間に悪い予感が走っていても立ってもいられない不安定な状態にアルティナがなったみたい。とアーサーから聞いたのだけども、目の前で絶賛激怒中のティナを見る限りそうは思えない。


「あ、あははは……。す、すまん」

「すまんで済んだら、警察はいらないよね」

「いや、この世界に警察はいないと……」

「何か言った?」

「……いえ、何でもありません」


 俺に対してだけだった説教は、何故か飛び火しアーサーにまで巻き込んで数時間に渡って行われた。

 明日の『子竜の舞(ドラグナードダンス)』。五体満足で挑むことが出来るのかなと他人事のように思い、同時に女ってどの世界にいても怖いな。騒々しい宿屋の一室にて俺は胸の奥底に刻むことにした。



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