Chapter17 恋する乙女
「マジで、これからどうしようか」
アーサーが問題を解決するために一人で向かった後、俺は暇を持て余していた。
俺の脳内では、二人でレベル上げがてら、新しいダンジョンに偵察に向かおうと思ったのだが。一人で行こうと思えばいけるよ? けど、行ったら行ったで煩く言われそうだからな。
ソロで行くのは禁止となる。
すると、出来ることというのは限りなく少なくなってしまう。
今の段階で考えているのは、街中を散策する。或いは、周辺のモンスターを倒しつつ散歩しておくか、だ。
フィールドには出るが、ダンジョンには向かってないからね。セーフだろ。
「さてと、どうするか」
中央広場にある大時計を見ると、まだ後半日も残っていることに気付いた。
「……両方するか」
あの二人みたいにショッピングを楽しめないし、アーサーみたいに相手に合わせることも俺には出来ないからな。
俺に出来るのは、本能を頼りにした戦闘だけだから。
「いらっしゃい、いらっしゃい。良い武器売ってるよー!!」
「お兄さん、こちらの防具はどうだい? 絶対に似合うよ!」
中央広場からすぐの場所にあるフリースペース。そこではプレイヤー達が自分達が使わない武器や防具、アイテムを売り捌こうとしていた。
エリュシオン・オンラインがゲームとしてあったときも存在していたプライベートショップ、店主が自分で使えない武器などを自分が設定したお金で売れるという活気的なシステムだ。
ただし高過ぎたら買ってもらえないので注意が必要だ。
更に現実となった今では、あまり必要のないシステムへと変わり果てたがな。大々的に店も自分で出せるようになったし、プライベートショップはあまり存在しなくなったが……。
「ここでは存在してるんだな。懐かしい」
ゲーム時代では本当に世話になったものだ。
その武器の性能を駆使して、ラストダンジョンまで行ったのだからな。
「ちょっと良いですか?」
「……はい?」
いきなり肩を突かれ、声を掛けられて少しだけ驚く。
声の方を肩越しに覗くと、一人の少女が肩を震わしながら突っ立っていた。
「も、もしかして、黒獅子……キリュウさんですか!?」
「あ……あー。そうだけど」
何故か興奮しているのか、鼻息荒く彼女は俺に迫って来ていた。
何を見て黒獅子と仮定したのかは理解不能だが。実際に黒獅子と呼ばれていたのだから否定はしない。黒服だけでなら、何人ものプレイヤーは着ているもんな。
「やっぱり!! 盾無しの片手剣を使う人はキリュウさんぐらいですし、そうだとは思ってました」
「あー、そういうことね」
片手剣といえば、盾もセットと定められており、裏技的なスキルを使わなければ実現しないからな。『エネルギー換算』というスキルがある俺しか出来ないってわけだ。
確かに俺を探し出すには最適だな。
「でも、俺が双剣にしてたらどうするんだ? わかったのか?」
「いいえ。でも、攻撃力を二つに別けるより盾の分も力が上乗せされている片手剣のが強いでしょ?」
ーーこいつ、頭が良いな。無駄に興奮するだけの変人かと思いきや、頭がキレてやがる。おそらく、俺のスキルについても予想が付いてるっぽいな。
「お前、名前は?」
「アリサっていいます」
「……アリサねぇ。なんで俺に声を掛けたんだ?」
「やだな〜。黒獅子のファンだからに決まってるじゃないですか〜♪」
何も言わずにアリサの目を見つめ続ける。人は嘘をつくとき、解りやすいミスをするからだ。大抵の人は顔に出やすい。
それが彼女からは感じ取れなかった。何も考えていないのか、はたまた、悟らせないようにしているのか。
「本当か?」
「ええ、本当と書いてマジ、ですよ」
手のひらにマジとカタカナ表記で書きながら見せ付けてくる。
口ではそう言ってるが、俺はまだ信じられない。ファンというのが付くようなことを何一つした覚えがないからだ。
「……まぁ、声を掛けた理由はもう一つありますがね」
「もう一つの理由?」
「是非とも、私が製作した武器を使用してください。っていう宣伝です」
俺にそう頼むということは、ウチの武器はとても使い易くて、黒獅子も利用する強い武器だって周りに伝えて貰うためか。
鏡のなんとかっていうダンジョンで一躍有名人の仲間入りをしてしまったからな。その黒獅子がある店の武器を使っていたら有名になるわな。
「そんじゃ、武器を見せて貰っても?」
「どうぞどうぞ〜。ちなみにオススメはこの剣です」
「ありがとう」
適度に重い剣を手にした俺は、あまりのフィット感に驚く。
周囲に被害が及ばないように気を使いながら、何度も剣を振るう。今までの剣と比べものにならないぐらい使い易いな。
「……妙にしっくり来るな」
「当然です! あなたに合わせて作りましたから」
「俺に合わせて?」
「ええ。新聞に載ったあなたの写真を見て、筋肉の付き方などを想定して最も使える重さにね」
その分、時間と素材でかなりの時間が掛かりましたけど。と付け加えるアリサ。
当たり前だ。こんな丈夫な剣を作るためには立派な素材を使うしかない。どれを使って製作したかはわからないが、業物であることには違いない。
「中々やるな。……これ、買わせて貰う。いくらだ?」
「毎度ありがとうございます。代金なら入りませんよ」
「何故?」
これほどの物を作るためにはかなりの材料費がいっただろうに。それが貰えなければ赤字決定だぞ。自分でダンジョン行くならば、ある程度のお金は稼げるだろうがな。
「良いのか?」
「ええ、持って行って下さい」
「ありがとう」
背負っていた剣をインベントリに仕舞い、新しく手に入れた剣ーー『ツェーレメイデン』を鞘に直す。
「……代わりに、これからも『アリーシャ武具店』をよろしくね」
「ああ、パーティーメンバーにも話しておこう」
「ありがとうございました!」
こうして俺は新たな力を手に入れた。初お披露目は明日の大会になるだろうなと考えながら、宿に戻ることにした。
SIDE アリサ
「まさか、こんな所で黒獅子さんと会うことになるなんてね」
エリュシオン・オンライン初まりの頃からずっと憧れて、何度かお会いして、また会えるだろうかと密かに期待していた人。
彼と肩を並べて戦うのは私には無理。それならせめて、彼に自分が作った武器を使って欲しい。そう思い初めて、一途に武器を作り続けた。
私が作る武器が彼の助けになれば良いな、と。
「……夢は叶ったけど。悔しいな」
ゲーム当初からキリュウさんの表情はいつも似たようなもので、決して表情豊かではなかった。しかし、再会したキリュウさんは表情豊かで話し掛け易かった。
誰かはわからないけど、感謝半分、嫉妬半分という心境。キリュウさんを変えてくれたから話せた。けれども、出来るなら私が彼の負を取り除きたかった。
「ねぇ、キリュウさん。……あなたの目に私は映ってますか?」
ーー今、あなたは何を見てますか。
「……あれ? こんな物、置いてあったっけ?」
去って行くキリュウさんの後ろ姿が見えなくなった頃、視線を落とすとカウンターの上に見覚えのない袋が置かれていた。
慎重に袋を開き、中を見れば、貴重な鉱石などが揃って入っていた。
『それを使って、腕を磨き続けてくれ。また来る』
そんなキリュウさんの声が聞こえた気がした。
「ええ、待ってます。いつまでも」




