Chapter16 価値より大切なもの
「そういえば、さ。明日、開催される『子竜の舞』って知ってるか?」
「確か一対一で戦闘する対戦方式で、優勝賞品が『暴竜の延髄』だっけな」
「おぉ、そこまで知ってたのか。さすがだな」
情報屋をやってるプレイヤーから聞いた話ばかりなんだけどな。個人的に調べた内容は何一つないよ。情報屋を使って探したのは、紛れもない事実だが。
「その大会、参加しようと思ってるんだ」
「……参加するのか?」
「あぁ、明日はフリーだし良いかなって。勿論、あの二人は応援に来てくれるらしい」
つーことは、会場で全員と会うことになるのか。
フリーの日まで離れることのないって、どんだけだよ。
「お前は応援に来てくれるか?」
「悪い……。無理だ。明日は既に用事が入ってる」
「そっか。そうだよな。急に言っても無理だよな。キリュウは人気者だし」
(そういうわけではないんだけどな)
「何か言ったか?」
「いや、何も?」
あっぶねー。内心で思ってたことを口遊んでしまった。こんな緊張はもうしたくないから、気を付けないと。
『キャーっ!!』
「っ!?」
違う……っ!!
アーサーが聞いたのは俺の声ではなく、悲鳴を上げた人の声だ。
「キリュウ!」
「わかってるさ」
背負っている鞘に手を掛けながら、悲鳴の発声源に近づく。
悲鳴を聞き、駆け付けたであろうプレイヤーは影からコッソリと様子を伺っていた。
(それなら最初から動くなっての。動くなら助けろよ)
様子見の状態って考え方もあるが……。
相手が武器を取り出し、女の子に向けている時点で、あいつは“敵"だ。
「ファルっ!!」
敵によって傷付いた人がいるのか、女の子はしゃがみ込み、隙を晒しまくっていた。
……敵ならこの隙を逃す意味はない、よな。
武器ーー棍棒を振り下ろす敵を視界に入れ、一息にその武器と女の子の間に入り込む。
鞘から少し出した刃に棍棒は当たっており、誰一人としつ怪我はしていない。とはいえ、俺が来る以前の怪我人ならいるが。
「な、なんだテメェは!?」
「大丈夫か?」
「は、はい。私は大丈夫、です」
良かった……。
彼女が抱えている男も死に掛け、ということもなさそうだな。
メニュー画面を片手で開き、アイテム欄から回復薬を取り出して女の子に譲渡する。
「これを使ってやりな」
「えっ? でも、これはお高いんじゃ!」
今しがた彼女に渡したのは滅多に手に入らない『ハイポーション』だ。後半なら簡単に手にいれられる回復薬だけどな。
「気にしないで。価値よりも大切なものがあるから」
「……あ、ありがとうございます!」
「テメェ……。いつまで無視してやがるっ!」
「危ないっ!?」
ったくよ。早く回復薬を使わせてあげないといけないってのに。態々、手を焼かせるなよ。鬱陶しい。
棍棒を振り下ろす敵の攻撃を被害のない方へ受け流す。
「手を貸そうか? キリュウ」
「いや、この程度問題はない」
「な、舐めやがって!」
舐めやがってっていうか、ここまで良く生き残れたなと思うよ。攻撃が弱過ぎるし、雑魚モンスターすら倒せるか……。
「あ、ひょっとしてお前、寄生プレイヤーか」
「バカにするなーっ!!」
怒りの感情に飲み込まれた敵は、一心不乱に棍棒を振り回すが一撃足りとも攻撃が当たっていない。
「……面倒だな」
半抜きしていた剣を抜き、棍棒を真っ二つに切り裂く。
役目を終えた棍棒は結晶化され、虚空へと消え去る。本当に酷い役目しか出来なかったな。
「はい、終了」
武器を壊され、敵うはずのはい絶対的存在を見るかのように俺を恐れていた。
「ば、バカな……」
「黒獅子、舐めてんじゃねぇぞ。殺すぞ」
戦意を喪失し、やっと俺が黒獅子だということに気付いたのだろう。
そうだと思ってはいたので、殺すぞの辺りは笑顔で言っておいた。
「……で、何のために武器を使ったんだ」
街中での戦闘は禁じられている。しかし、決闘システムはどこでも許されているので、これを使用したのだろうが、命の駆け引きはやり過ぎだ。
「こいつが……俺の人生をぐちゃぐちゃにしやがったから……」
「仕返しをしようとしたわけか」
ガヤガヤとした雰囲気がここら一帯を埋め尽くしていた。
ーー野次馬共が、鬱陶しいな。
野次馬に一度視線を動かしてから、チラリとアーサーを見る。それで意味はわかったのか、武器を取り出し……。
「うるさい奴は俺が切るぞ? 黒獅子程ではないが、アーサーという名前を聞かなかった奴はいないだろ?」
軽い脅迫をしやがった、あいつーー!
確かにそれで黙るだろうが、仮にも騎士団が邪道に走って良いものなのか?
「仕返しって……。それはあなたのお姉さんが!!」
「とにかく、場所を移すか。じっくり話せる場所に行こう」
この場所でヒートアップしても意味がない。別の場所でゆっくりと話すべきだ。
アーサーに合図を送ると快く首を縦に振る。
そして次の瞬間には、問題を起こしていたプレイヤー達とアーサーの姿は消えていた。
「……お前が行くのね」
まぁ、解決してくれたらそれだけでいいが。あいつは二重人格みたいな所があるからなー。俺とか僕とか、一人称が安定しない不安定なときがあるから怖いな。




