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エリュシオン・オンライン  作者: 神城 奏翔
第2章 喜びの感情
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Chapter16 価値より大切なもの

「そういえば、さ。明日、開催される『子竜の舞(ドラグナードダンス)』って知ってるか?」

「確か一対一で戦闘する対戦方式で、優勝賞品が『暴竜の延髄』だっけな」

「おぉ、そこまで知ってたのか。さすがだな」


 情報屋をやってるプレイヤーから聞いた話ばかりなんだけどな。個人的に調べた内容は何一つないよ。情報屋を使って探したのは、紛れもない事実だが。


「その大会、参加しようと思ってるんだ」

「……参加するのか?」

「あぁ、明日はフリーだし良いかなって。勿論、あの二人は応援に来てくれるらしい」


 つーことは、会場で全員と会うことになるのか。

 フリーの日まで離れることのないって、どんだけだよ。


「お前は応援に来てくれるか?」

「悪い……。無理だ。明日は既に用事が入ってる」

「そっか。そうだよな。急に言っても無理だよな。キリュウは人気者だし」


(そういうわけではないんだけどな)


「何か言ったか?」

「いや、何も?」


 あっぶねー。内心で思ってたことを口遊んでしまった。こんな緊張はもうしたくないから、気を付けないと。


『キャーっ!!』

「っ!?」


 違う……っ!!


 アーサーが聞いたのは俺の声ではなく、悲鳴を上げた人の声だ。


「キリュウ!」

「わかってるさ」


 背負っている鞘に手を掛けながら、悲鳴の発声源に近づく。

 悲鳴を聞き、駆け付けたであろうプレイヤーは影からコッソリと様子を伺っていた。


(それなら最初から動くなっての。動くなら助けろよ)


 様子見の状態って考え方もあるが……。

 相手が武器を取り出し、女の子に向けている時点で、あいつは“敵"だ。


「ファルっ!!」


 敵によって傷付いた人がいるのか、女の子はしゃがみ込み、隙を晒しまくっていた。

 ……敵ならこの隙を逃す意味はない、よな。


 武器ーー棍棒を振り下ろす敵を視界に入れ、一息にその武器と女の子の間に入り込む。

 鞘から少し出した刃に棍棒は当たっており、誰一人としつ怪我はしていない。とはいえ、俺が来る以前の怪我人ならいるが。


「な、なんだテメェは!?」

「大丈夫か?」

「は、はい。私は大丈夫、です」


 良かった……。

 彼女が抱えている男も死に掛け、ということもなさそうだな。

 メニュー画面を片手で開き、アイテム欄から回復薬を取り出して女の子に譲渡する。


「これを使ってやりな」

「えっ? でも、これはお高いんじゃ!」


 今しがた彼女に渡したのは滅多に手に入らない『ハイポーション』だ。後半なら簡単に手にいれられる回復薬だけどな。


「気にしないで。価値よりも大切なものがあるから」

「……あ、ありがとうございます!」

「テメェ……。いつまで無視してやがるっ!」

「危ないっ!?」


 ったくよ。早く回復薬を使わせてあげないといけないってのに。態々、手を焼かせるなよ。鬱陶しい。

 棍棒を振り下ろす敵の攻撃を被害のない方へ受け流す。


「手を貸そうか? キリュウ」

「いや、この程度問題はない」

「な、舐めやがって!」


 舐めやがってっていうか、ここまで良く生き残れたなと思うよ。攻撃が弱過ぎるし、雑魚モンスターすら倒せるか……。


「あ、ひょっとしてお前、寄生プレイヤーか」

「バカにするなーっ!!」


 怒りの感情に飲み込まれた敵は、一心不乱に棍棒を振り回すが一撃足りとも攻撃が当たっていない。


「……面倒だな」


 半抜きしていた剣を抜き、棍棒を真っ二つに切り裂く。

 役目を終えた棍棒は結晶化され、虚空へと消え去る。本当に酷い役目しか出来なかったな。


「はい、終了」


 武器を壊され、敵うはずのはい絶対的存在を見るかのように俺を恐れていた。


「ば、バカな……」

「黒獅子、舐めてんじゃねぇぞ。殺すぞ」


 戦意を喪失し、やっと俺が黒獅子だということに気付いたのだろう。

 そうだと思ってはいたので、殺すぞの辺りは笑顔で言っておいた。


「……で、何のために武器を使ったんだ」


 街中での戦闘は禁じられている。しかし、決闘(デュエル)システムはどこでも許されているので、これを使用したのだろうが、命の駆け引きはやり過ぎだ。


「こいつが……俺の人生をぐちゃぐちゃにしやがったから……」

「仕返しをしようとしたわけか」


 ガヤガヤとした雰囲気がここら一帯を埋め尽くしていた。

 ーー野次馬共が、鬱陶しいな。

 野次馬に一度視線を動かしてから、チラリとアーサーを見る。それで意味はわかったのか、武器を取り出し……。


「うるさい奴は俺が切るぞ? 黒獅子程ではないが、アーサーという名前を聞かなかった奴はいないだろ?」


 軽い脅迫をしやがった、あいつーー!

 確かにそれで黙るだろうが、仮にも騎士団が邪道に走って良いものなのか?


「仕返しって……。それはあなたのお姉さんが!!」

「とにかく、場所を移すか。じっくり話せる場所に行こう」


 この場所でヒートアップしても意味がない。別の場所でゆっくりと話すべきだ。

 アーサーに合図を送ると快く首を縦に振る。

 そして次の瞬間には、問題を起こしていたプレイヤー達とアーサーの姿は消えていた。


「……お前が行くのね」


 まぁ、解決してくれたらそれだけでいいが。あいつは二重人格みたいな所があるからなー。俺とか僕とか、一人称が安定しない不安定なときがあるから怖いな。




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