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エリュシオン・オンライン  作者: 神城 奏翔
第2章 喜びの感情
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Chapter15 現実との違い

 キリュウ君が店を出てから数時間後、キリュウ君は笑顔で私達の前に姿を現した。


 今までキリュウ君の笑顔をあまり見る機会がなかった私は少しドキッとしたけど、かっこいい男の子の笑顔を見たことがなかったからびっくりしただけだろうと高を括ることにした。


「……妙に嬉しそうですね。キリュウ」

「うん? そっか?」

「ええ、とても嬉しそうですよ」


 何か良いことでも? と付け加えるアーサー君。彼の言葉を聞いた後に、キリュウ君の表情から笑みが消えた。指摘されたから笑顔を浮かべることをやめたのだろうか。

 内心でアーサー君に文句を言いながら、キリュウ君の笑顔を長く見れなかったことを残念に思った。


「別に何にもないが……。そんなことよりも、明日もフリーで良いか?」

「構いませんよ。何か用事でも出来たの?」

「ああ、ちょっとな。旧友からの呼び出しを受けて」


 旧友ーー。


 キリュウ君の口からその言葉が出た途端、胸にズキっとした痛みが走った。


 キリュウ君は、旧友に対してさっきの笑顔を見せるのだろうか。そう思うと更に胸が痛くなる。

 この痛みは、エリュシオン・オンラインのシステムによって齎された痛みなのか。それとも……。


「っ!?」

「……ティナ? どうしたんだ?」


 逸早く私の異変に気付いたキリュウ君は、私を気遣うように声を掛けてくれた。それに釣られて、話をしていたアーサー君とジュリアちゃんもこちらを向き、心配の声を掛けてくれた。


「なんでもないよ……。ちょっと眩暈がしただけだと思う」


 ここでも現実世界(リアル)と同じように、眩暈や頭痛ってするんだな。と妙な所で感慨深い感想を述べるキリュウ君。

 確かに現実世界(リアル)と違うけども、そこは気にする場所じゃないでしょ。


「アンタはそんなことしか考えないの? とりあえずティナ、先に帰って宿屋で休もう?」

「う、うん」


 ジュリアちゃんの手を握り、宿屋までの道程をゆっくりと歩む始める。


 胸が痛くなった理由から目を背けてーー。


 ◆


「さてと、俺達はこれからどうするかな」


 ティナ達が宿屋へ向かった同時刻、俺達は暇を持て余していた。


「とりあえず宿屋に帰るのはなし、な。煩い奴がいるし」


 煩い奴というのは、十中八九ジュリアのことだと推測するが、喧嘩する程仲が良いと言うし、いいじゃないか。


 ジュリアもなんだかんだ言いつつも、アーサーと同じ気持ちだろうよ。本当に嫌なら無視するし、何より関わりを持とうとしないからな。

 それと比べたらグチグチ言われるぐらい苦ではないだろう。


「そんだけ気に掛けられてるってことだろ?」

「……それなら良いが。あいつ、思い込みが激しいから」


 やっぱりリアルでの知り合いだったんだ。と心の中で納得しながら、アーサーの言葉に疑問が生じた。


「あいつ、思い込みが激しいのか? そうは見えないが」

「かなり激しいよ。……こちとら、お前を護るために暴力を振るい、好きで退学されてやったのに。あいつは俺の一生をぶち壊してしまったと後悔してるんだ」

「そんな過去があったのか」


 思った以上に深い関係な二人だったんだな。俺らが思ってた仲の良さとは百八十度違うまったく別の関係。

 好きな女子を護るために暴力を振るった男子と、その責任を一身に背負う女子、か。


「だから俺は、あいつを元の世界に返してやりたい。幸せに人生を送って欲しいんだ。そのためになら俺は命を賭けても……」

「ダメだ!!」


 周囲の人間が揃いも揃って、こちらを向く程大きな声を出してしまった。

 彼の自己犠牲な精神が嫌いなわけではない。だが、彼には死ねない理由があるからだ。だからこそ、彼には生きて幸せにしたいと願っている女の子を幸せにする義務がある。


「命を賭ける。なんてこと、しないでくれ」

「キリュウ……」

「残された人はどう思うか考えたことはあるか? 本当に幸せにしたいなら、相手を一人でいさせたらダメだ」

「ああ、それはわかってる! だけどっ!!」

「大丈夫だって。俺を信じろ」


 黒獅子と呼ばれ、恐れられてた男の言葉だぞ? 信憑性がありありだろ。

 俺の言葉を聞いたアーサーは、黒獅子ーーキリュウなら本当に何とかしてくれる。そう思えたのだろう。安心した表情をしていた。


 安心しろよ。いざという時、命を賭けるのはお前じゃないーー。



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