Chapter13 一つの決着
「じゃ、おっさきに」
一度失った戦意を再び取り戻した俺は、剣を手にギガントス付近まで走る。
まったく別の方を見ていたギガントスは反応出来ずにいた。これを好機だと思い、俺は『狂戦士の乱舞』を発動させて攻撃を開始する。
完全に刺客から潜り込み、ひたすら弱点部位を攻撃するも、まったく効果はない。
怯む気配はないし、それに何よりビクともせずの状態だ。
「……マジ?」
少しぐらいなら喰らってもおかしくないだろと考えていた俺は、目の前でピンピンしているギガントスに恐れを感じていた。
「ただの化け物じゃねぇか」
「キリュウっ!? 危ない」
「なっ!?」
俺の名を呼び注意を促す少女の声が聴こえた瞬間、呆然としていた俺の意識を現実に戻した。
しかし、時既に遅しーー。
大きく振り上げたギガントスの足は俺の真上にあった。
「……間に、合え!!」
重しとなっていた剣を攻撃の範囲外へ投げ捨てると同時に、全力を振り絞って走り始める。
最初からトップスピードを出す走り込みなど、一度もしたことはなかったが自然と体が動いた。
生命の危機を察知した体が底力を引き出してくれたのだろうか。キッカケはわからないが、この調子ならギリギリ間に合う……か。
「……アンタの相手はこっちもいるわよ」
「ジュリア任せた!」
「ええ。『水と風の精霊よ。我に力を与え、我が敵を撃ち滅ぼせ。氷の連射』」
ジュリアの詠唱が終わると、彼女の目前に大きな魔法陣が現れ、そこから無数に氷によって生成された氷の銃弾がギガントスに直撃する。
一つ一つは小さなダメージで、まったく効いていないようだが、追加ダメージの方は効いているらしい。
『氷の連射』を受けた場所が氷によって侵食されていた。
「キリュウから離れろ!」
ジュリアの魔法スキルに唖然としていると遠くから物凄く速い何かが飛来し、ギガントスの背中からパリンという音が響く。
その音の正体を探ろうとしたが、ギガントスが怒り狂い、ダメージを受けたらしいのでそれが弱点だと把握した。
アーサーによって行われた槍術スキルの一つか。『エリュシオン・オンライン』の中で、槍はあまり使わなかったんだよな。
なんだかんだ言って槍はすべてアーサーに譲渡したし、スキルもポイント振ったことは振ったが使用したことがない。
ジュリアとアーサーの攻撃に怯んだギガントスは敵意をアーサーに向け、振り上げ氷の影響で動かせなかった足を降ろしアーサーの元へ歩き始める。
「マジかよ。おい、逃げるぞ」
「『水と風の精霊よ。水は流が如し……』」
「詠唱中なら事前に言ってくれー!」
詠唱中で動くことが出来ないジュリアの体を抱き寄せ、自分が動くにしても差し支えないお姫様抱っこをして逃げ始めるアーサー。
彼処だけバトルじゃなくって、ラブコメしてる気がするのは俺が非リア充だからなのだろうか。
ちゃんと戦っていることも、必死なことも伝わっているのに何故だろうか。
「キリュウ君、大丈夫?」
「……あ、ああ。あいつらのお陰で奇跡的に無傷だ」
「一人で突っ走るのは、もうやめてね。さっきのも冷や冷やものだよ」
確かに怯むと思い込んでいた結果があれだからな。周りが冷や冷やし、俺は俺で命の危険を感じ取ったよ。
「じゃあ、協力して貰っていいか? あいつの二つ目の弱点を叩きたいんだ」
「二つ目の弱点……?」
「ああ。とりあえずあいつの背中を見てみろ」
アルティナの体を固定し、視線をギガントス背中に向けてやる。
そこには弱点である結晶が合った跡地……みたいなものがあり、アーサーの投げた槍が突き刺さっていたが、次第に槍が抜け、結晶が再生する。
「さ、再生した……」
「そっ。ここからは俺の仮説だけど、あいつの弱点二つを一度に突かないと死なないんじゃないかなって」
「そんなモンスターいるの?」
「目の前に、な」
体力ゲージは既に0近くまで減少しており、トドメの一撃を喰らっても平然としている規格外モンスター。
ギガントスの体力ゲージを見たアルティナは納得したようだ。「こんなモンスターを生み出したエリュシオンスタッフを殴りたい」と言っていたが、同感だ。
「アルティナ、お前はどうする? 俺を信じてくれるか?」
「……はぁ。選択肢が一つしかないことをわざわざ聞かないでよ」
一拍置いて口にした言葉は、俺が期待した言葉。
「信じるよ。私はキリュウ君を信じる」
「ありがとう」
小さく感謝の気持ちを呟いた後、ギガントスはどこにいるかなどを確認し始める。
「作戦は?」
「その場その場で考えて指示を送るよ」
「……適当ね」
「うるせーよ。勝てば官軍って言うだろ」
「負ければ賊軍だけどね」
俺の台詞が一々、アルティナのツボに入ったのだろう。クスリとした笑みから、噴き出すぐらいになった。
命が危ない戦場なのに、笑うことがおかしいとは思う。が、自然と安心出来た。
(こいつらとなら、絶対に成功する)
「アルティナ、あのさ……」
「ティナ」
「え?」
「ティナでいいわ」
アルティナが言っている意味が解らずあたふたしていた俺だが、二度目の言葉で意味を把握した。
要は呼び方の話で、今まで律儀にアルティナと呼んでいたからだろう。
「いいのか? 仲良い奴しか呼ばないんじゃ」
「命を賭ける戦場を何度も共にした戦友は、仲が良いに入らないの?」
「……ですね。わかったよ」
アルティナ……いや、ティナの言い分が正論過ぎたため、すぐに引き下がることにしたが。女の子の愛称を呼ぶのって、なんか緊張するんだよね。
「で、何かな?」
「戦いの際、もしかしたら剣を貸してくれって言うかも知れない。そしたら……」
「迷わず剣を投げて渡してくれ、でしょ?」
「そ、その通りだが」
「場合によっては許可するけど、却下ね」
ティナの言葉を聴いて、ホッとしたのに、後の部分で転けてしまった。
許可するけどの部分で既に喜んでしまったが、後で落とすという古典的な落とし穴に引っかかった俺はどうしたらいいんだ。
「何故にっ!?」
「あなたが一人でケリ付けようとしてるから」
「っ!?」
考えていたことをズバリと言い当てられてしまい、ぐぅの音も出なかった。
こいつらが来なければ一人でやっていたし、来た後も隙を突いては一人でやろうとしたからバレるか。
「背中の弱点は私にやらせて」
決意の込もった真っ直ぐな目を向けられて却下出来る人間はいるのだろうか、俺は無理だ。
最初から無理だと逃げる奴や他人に任せっきりな人間は嫌いだが、自分も可能な限り手伝いたい、あわよくば自分が仕留めてやるって人は好きだから。
「わかった。背中は任せたぞ」
「任せて」
話が纏まった直後にすることはこの場では一つしかない。
ティナはセオリー通りにアーサー達の手助け。俺は自分の投げ捨てた武器とアーサーの武器を取りに向かう。
その場で転がっていた槍を拾い上げ、体を捻りながら全力で槍を投げる。
「アーサー!!」
ティナが助けてくれた安心より、ジュリアをその場に降ろし乱れていた息を整えていた。
突然飛んで来た槍にびっくりするも、危なげなくアーサーはキャッチする。
さすが槍を使い込んだ男だ。
「あっぶねぇな」
「作戦はティナから聴いてくれ!」
俺らの前に化け物と戦っていた奴がいたのだろう。血が付着している剣が雑に置かれていた。
恐れて逃げたのか、殺されたのか知らないが、使える物は使わせて貰うぜ。
落ちていた剣の柄を踏み、剣を真上に飛ばす。
その間に自分の剣を右手に持ち、落ちて来た剣を左手に持つ。
「さ、行きますか」
まだ完全に崩壊していない街の方へ逃げて行くティナ達を別ルートより追い掛ける。
背中に攻撃するにはよじ登るか、武器を投げるかしかない。が、俺はどちらも無理だ。
「……この辺りの屋根上から跳べばギリギリ届くかな」
視界にギガントスの姿を入れながら屋根上へ跳び移り、進んで行くギガントスと併走する。
ギガントスが腕を振り下ろした際に出来る隙を狙い、強く屋根を踏み大きく跳ぶ。
「はぁああっ!!」
二振りの剣を合わせて結晶を貫くが、攻撃したという実感は湧かない。弱点をすべて突いていないからか。
(それなら……)
自分が愛用していた剣を抜き、後ろへ跳ぶ。
「ティナー!!」
「はいっ!」
即座に双剣を取り出し、片方の剣を俺目掛けて投げて来る。
それを何の躊躇いもなく手を切る覚悟でキャッチしようとするが傷一つ付かずに受け取ることが出来た。
キャッチすること優先で、周囲に気がいかなかった俺の隙を狙いギガントスは既に攻撃体勢に移行していた。
「キリュウ!!」
「そう何度も喰らいますかっての」
剣を裏手に持ち、攻撃をガードする。
空中という状況のせいで上手く踏ん張れないが、やるしかない。そうでないと吹っ飛ばされるだけだ。
「『狂戦士の乱舞』」
地雷スキルを発動させたため、体力ゲージがじわじわと削られていくが、このチャンス手放すわけにはいかないんだ。
「うおぉぉぉっ!!」
全身に漲る力をすべて一点に集中させ、押し返すことだけを考える。
ただ、それだけを考えていると足下に何か物体があった。
「溶ける前に決めちゃいなさい!」
「ジュリアか。助かる」
氷の足場を上手く使い、ギガントスに向かって強く踏み出す。
いきなり威力の上がった俺に驚きの表情を浮かべるギガントス。だが、このままでは終わらない。
「今よ!」
「おうっ!!」
ギガントス足下へ移動していたアーサーが『鏡の迷宮』で使用した回転して威力を付け攻撃する技。大した威力ではないが、それを膝の裏側へ受けるとどうだろうか。
「グオオオオォォ……」
計算通りと威張るわけじゃないが、ギガントスは後ろへ倒れた。
今、この隙を付けば……。
「ティナ! ギガントスの弱点は右足裏だ」
「了解よ!」
俺の指示を聴いたティナは剣を大きく振るい、結晶を破壊する。それに合わせて体力ゲージは0になる。今度こそ死んだと思い安心する俺達。
「やった、のか?」
「さぁな、ここで起き上がればただの化け物だ」
地面に降り立つ俺を暖かく迎える仲間達。彼らがまず無事だったことに安心する。
「……グ、グオオ」
体が結晶化されていき、消えて行くにも関わらずギガントスの動きは止まらない。
「無駄だ。お前はもう死んだんだよ」
仲間に攻撃が向かないように近づく。
死に損ないの死ぬ気の一撃は、バカにならない。それを心に刻みながら。
死にかけのギガントスは俺に向かって、拳を振るった。
「キリュウ!?」
「……誓おう。お前の分まで、世界を元に戻すと」
『ソノコトバニウソイツワリハナイナ?』
「ああ、ない」
『ナラバ、ワタソウ。セカイノカギダ』
ギガントスの拳が開き、中にあったのは小さなほんの小さな結晶。
しかし、受け取った際の重みは尋常ではなかった。ギガントスの生きた証を渡された気分だ。
「いいのか?」
『アァ、ワレヲスクッテクレタレイダ』
「ありがとう」
最後の最期で、ギガントスは口角を上げ笑った気がした。
“コレヲモッテ、シュウマツノホコラヘイケ。スベテガワカル”
「……ああ、わかったよ」
俺は絶対に救ってみせる。
結晶を強く握り締め、決意を新たにする。
「終わったの?」
「終わったよ。そして、わかったよ」
「何がわかったのよ」
「もしかして、この世界についてですか?」
「ま、そんなところだ」
「勿体ぶらずに教えなさいよ」
こうして変わらずに接してくれる仲間達がいる。だからこそ、俺は強くなれる。
「これを持って、ある場所へ行かなけりゃならないんだ。これはただの鍵だから」
「そういうことか……。場所は?」
「終末の祠。エリュシオン・オンライン、隠しダンジョンだ」
「……長い道程になりそうね」
思い切り長い道程になるな。終末の祠へ行くには、だいぶ時間がかかるし面倒だ。
『エリュシオン・オンライン』でも、かなりの時間がかかったのに、今回はスタミナ要素や精神的な要素が関わってるからな。
「それでも来るのか?」
「ええ、ついて行くために聴いたのだから」
まったく頼もしい奴らだよ。
本当の仲間って、こういう奴らのことを言うんだよな。
「それじゃあ、行こうか。世界の秘密を知りに」
結晶を片手に、俺達は歩き始める。
いつになるかわからないけど、絶対にクリアして帰してやる。
……俺自身を犠牲にしてでも。
第一章が完結しましたので、一度完結済にさせていただきます。
続きは絶賛執筆中ですので、よろしくお願いします。




