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めぐりメグル  作者: Jiru-man


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1/2

終りの始まり

海原から立ち上る水蒸気はやがて雲となり、雨となって大地に注ぐ。

そして、大河から再び海に戻る。


あなたが吐き出した吐息も、草花が吸収し酸素を作る。


生物は産まれ、やがては土に還り、また次の生命へと受け継がれる。


この世のすべては巡り巡っている。


過去から続く悠久な時の流れに、砂粒のように翻弄される人々の想い。


その想いもまた、輪廻の渦となって巡り、巡ってゆく。

時して叶わぬ想い。残酷なる今生の別れ。


繰り返される悲しみも、消えることのない胸の痛みも・・・

いつの日にか成就することを信じ、人の命も巡り巡る。

そう、人は夢を見る───

何かの記憶なのか? 夢は経験の上に成り立つそうだ。

ということは、これは経験した過去?


── 視線だ。


そうなんだ誰かが見ている。

白い獣? いや、違う。

最初に見えたのは、鳶色の瞳だった。

炎のようで土のようで、どこか懐かしい色。

まあ、どうでもいい。


俺はどうやら灼熱の砂漠にいるようだ。

まるで灼熱色の海原のように、砂の山々がうねり、果てしなく続いている。


吐いた吐息も焼けつくほどに、俺の身体も熱っていた。

砂の匂いと、どこか懐かしい風の気配が混ざり合う。

ここは近くにオアシスもあり、かなり厳しくはあるが食糧もあり生きていける。


── 生きていける?


なぜそう思うんだろう?

俺は誰なんだ?

ここは何処なんだ?


何もわからないと同時に、全てを知っているという相反する意識がある。

まるで、何度もここに立ったことがあるような──そんな錯覚。

遠くで悲鳴が聞こえた?

何か唸る声がする?


そして静かにまとわりつく視線。

鳶色の矢が俺の胸に突き立った、そんな錯覚。

だが、なぜかその感覚は懐かしく、刹那くて、悲しかった。

一体なんだというのだ?


朦朧とした意識を振り払うように頭を振った。


──そうだった。今日は漁に来ていたのだ。


河の名前という概念は無いが、「漁をするところ」と皆が認識している。

使っている言葉? よくわからない。

ただ、夢の中の俺にはちゃんと理解できる。ちょっと不思議な夢。

今日は大漁だった。


名前は当然わからんが、いつも食ってるやつらしい。

エラから蔓を通し、担いで帰る。重い。

もうすぐ我が家だった。

大河の近くで、部族の皆で苦労して積んだ大石が見えてきた。


── もう少しだ。


その時、大岩のてっぺんに何かがある。

白いなにか。

ようやくそれがはっきりと見える距離になった。

馬ほどもありそうな、精悍な白い犬だ。いや、狼だと思う。


── ウォーウォーン。


挿絵(By みてみん)


何かを告げるように吠えた。俺には泣いているようにも聞こえる。

そして、疾風のように走り去ってしまった。

なんだったのだろう?

胸の奥がざわつく。理由はわからないが、嫌な予感だけが残った。

自然と足が速くなる。


アイツが家の前で立っていた。笑っている。

いつもの笑顔に、先程の不安も忘れ安心が蘇る。

大切な妻だとわかっているが、当然名前もよくわからない。

まあ、一緒にいて生活を分担する、それでいいんだ。


俺は手を振った。

その時、アイツの血しぶきが飛んだ。

俺の愛した笑顔を張り付けたまま。

槍が首に刺さっている。

俺は魚を放り出して走った。


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だから待ってくれ、行かないでくれ。

打ち震え、跪き、声にならない声が漏れた。

この世にこれ以上の悲痛な叫びはあるだろうか?


聞く者を不安にさせる。

恐れおののかせる。

悲しみが奔流となりあふれ出る。


妻の槍を投げ捨てると、行かないでくれと揺さぶった。

なぜ起きないんだと、また強く揺さぶる。

だが、鳶色の瞳は蒸発するように、薄れていくように見えた。


そして───


俺は光に放り込まれた。今まで感じたこともない眩しい光。

そう、人工的な光って表現が近いのかもしれない。

言うなれば真っ白な闇。


俺は気が遠くなっていくのを感じる。

ゆらゆら揺れている。


落ちてゆく──


気が付いたら、今度は火がチラチラと燃えている。

何だろう。さっきの砂漠よりは、かなり寒い。


そして、もっと原始的な感じがする。

うは、俺・・・体中に毛が生えまくり。


そして、洞窟の火の反対には女が座っている。

すごく悲しんでいる。

そうだよな、そうなんだよ。すごく悲しいんだよ。

俺も色んなものが同期した感じがする。


女は毛むくじゃらで文字通り猿の子供? みたいのを抱いていた。

その子供は眠っているわけではない。

呼吸の動きもしないし、もちろん泣きもしない。


俺は女に何か慰めをしたようだ。

だが、女は悲しみの宿った目を俺に向けるだけだ。

そう、子供は俺たちの子供だった。

理由はわからないが、息絶えている。


この洞窟は崖の中腹にある、小高い場所で眺めが気に入っていた。

だが、それが裏目に出たのかもしれない。

女は立ち上がると、洞窟の入り口からダイブした。

子供もろとも。


咄嗟のことで、俺は動けなかった。

そして、ようやく理解した。


俺も急いで走り出す。何かを叫ぶ──

多分女の名前らしきもの、なんだろう。


そして、洞窟からダイブしたのか?

よくわからない。


また気が遠くなってきた。


白い闇がまた俺を満たしていく。

ユラユラ、ユラユラ。

ひどく心地が良い。

適温の温泉にでも入っている感じがする。


突然、現実に引き戻される。

といっても、現実とは夢の中の現実なのだが。


今度は極寒だ。

脱脂していない獣の皮を何枚か着ていた。

俺は大きくはあるが、粗末な船を一生懸命漕いでいる。


そう、早くしなければならないのだ。

この先には、「風の仕事場」と呼ばれる強風地帯があり、このほんのわずかな時間だけ風が止むのだった。


俺の後ろには、ナヤがいた。

多分女の名前なんだろう。


急げ、ここを抜けないと、この冬は向こうへ渡れないぞ。

俺はナヤに言った。ナヤもコクリと頷く。


俺の後ろには、同じような船がちらほら見える。

みんな俺の部族だ。


狩りが上手い者、家を作るのが上手い者、絵を描くのが上手い者、みな何か得意なことがあり、それぞれ分担して生きている。

そして、この先にあると言われている、新天地へ行くのだ。


ヒュッと、前髪を(なぶ)る風。

俺はとてつもなく嫌な予感がしている。

間に合わなかったのか。


風が仕事を始める、古老はそう言っていた。

風が仕事を始めたら、もう止まらないよ。

その時はすぐに戻るんだよ、と。


古老に聞いたことがある、風の仕事場の先には凄く暖かく、豊かな土地が広がっているのだという。

俺たちは、そこに向かう計画を立て、そして実行したのだ。


先に見える波に、白波が混じり出している。

だが、おそらくここは風の仕事場のど真ん中付近と思う。


感覚でしかないが。

もう戻れないし、行くしかないのだ。


俺は叫ぶ、みんな新天地に行くんだ。

という意味のよくわからない言葉で。


後ろに続く船からも、思い思いの雄叫びが上がる。

みな覚悟を決めたようだった。


しばらく進むと、風と波が恐ろしいくらい襲い掛かる。

酷くせり上がったかと思うと、急転直下に落下。


そして突き刺すような突風。

それでも、俺は漕いだ。


諦めない。

そして、一際どでかい波が迫っている。


挿絵(By みてみん)


手を伸ばした。

一瞬、ナヤに触れた気がした。


──目が覚めた。


超特大の波が来たところまでは覚えているが、その後全く記憶がない。

しかし、何だろうか。すごく全身が疲労して重く動かないが、ひどく心地がいい。


いつの間にか獣の皮はなくなり、裸で倒れこんでいるのにだ。

ぽかぽかと温かい。

波の音が聞こえ、足に波が当たる感覚がある。


砂浜に倒れているようだった。


──新天地なのか?


俺は体を起こそうとした。

(動くなよ、じっとしてろ。治してやる)


確かにそう聞こえた。

かろうじて動く眼球で、辺りを見回すが何も見えない。

そうナヤも、他の部族の者も・・・


誰なんだ、俺は声にならない声を上げた。

だが、先ほどの声は聞こえない。


そして、光の闇に放り込まれた。


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