表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

我が名は魔王ミア・クランツベルン!!!

「ふはははは!ついにこの時が来た!」


 夜の城に、やけに通る声が響き渡った。


 高い天井に反響し、重厚な石壁に跳ね返り、やたらと壮大に聞こえるそれは——内容さえ気にしなければ、まさに魔王の演説そのものだった。


「我が力をもって、この世界を恐怖に染め上げ——」


「お嬢様」


 すっと、一歩前に出た老執事が静かに口を挟む。


「声量を、もう少しお控えくださいませ」


「……え?」


 ミアはきょとんと目を瞬かせた。


「外に漏れております」


「えっ、ちょ、ちょっと待って!? 今めちゃくちゃいいとこだったんだけど!?」


「存じております」


 老執事であるデゼヌは微動だにしない。


「ですが“恐怖に染め上げる”前に、近隣住民に通報される可能性がございます」


「それは困る!」


 そう言って、ミア・クランツベルンは、びしっとマントを翻して向き直る。


 ——一応、威厳はある。見た目だけなら…ね?


「……こほん。では、気を取り直して」


 小さく咳払いを一つ。


 今度は声量を少し抑え、しかしそれでも無駄に格好つけながら、ミアは両手を掲げた。


「我が名はミア! この地を支配する者にして——」


「名乗りは既に周知されております」


「なんでさっきから全部止めるの!?」


 思わず素に戻る。


 その様子を、少し離れた位置からくすくすと笑う影があった。


「いいじゃないか、ミア。せっかくの“魔王ごっこ”なんだろ?」


 長身の青年——キュリルが、壁にもたれながら楽しそうに言う。


「ごっこじゃないし! 本気だし!」


「本気でそれなら、なおさら問題ですね」


 淡々とした声でそう言ったのは、メイド服の少女——ルシナだった。


「計画性が皆無です」


「うっ……」


 ぐさりと刺さる。


 ミアは一瞬言葉に詰まり、しかしすぐに顔を上げた。


「で、でも! 世界征服ってロマンじゃない!?」


「否定はいたしませんが」


 老執事であるデゼヌが静かに目を細める。


「まずは足元から固めるべきかと」


「うぅ……」


 完全に正論だった。


 しばしの沈黙が流れる。


 そして——


「……じゃあ、今日は魔法の実験にする」


 不貞腐れた顔でぼそっと呟く。


「それは賢明です」


 即座に頷くメイドのルシナ。


「破壊規模は?」


「小さめで!」


「前回も同じことをおっしゃっておりましたが」


「今回はほんとに小さめだから!」


 ミアはそう言いながら、片手を掲げ、くるりと回す。


 空気が、わずかに震える。


 次の瞬間——


「——いくよ!」


 ぱあっと光が弾けた。


 眩い魔力が渦を巻き、圧縮され、そして一気に解き放たれる。


 轟音。


 爆ぜる衝撃。


 夜の空に、派手すぎる光が咲いた。


 ——その威力は、とても“練習”とは呼べないものだった。


「……規模が大きすぎます」


 デゼヌが、いつの間にか背後に立っていた。


「うっ」


「制御が甘いのです。威力に対して精度が伴っておりません」


「ロマン優先した結果です……」


「知っております」


 容赦がない。


 ミアは肩を落とし、しかしどこか満足そうに夜空を見上げた。


「でもさ、綺麗じゃない?」


 ぽつりと呟く。


 静寂の中、消えゆく光の余韻だけが残る。


 デゼヌは一瞬だけ目を細め、そして小さく息をついた。


「……ええ、美しいですな」


 その言葉に、ミアは少しだけ嬉しそうに笑った。


翌朝。


「ミア様、本日も素晴らしい出来でございます」


「ありがとうございます」


 優雅に微笑みながら、紅茶を口に運ぶ少女がいた。


 背筋は真っ直ぐ、所作は完璧。


 昨日の“魔王”と同一人物とは…とても思えない。


「本日の講義も頑張るように」


「ええ、もちろん」


 穏やかに頷く。


 誰も知らない。


 このお上品な令嬢が——


 昨夜、世界征服を宣言していたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ