最終話 卒業の日
春。
学園の中庭に、柔らかな風が吹いていた。
桜に似た白花樹が、静かに揺れる。
今日は、卒業式だ。
◆
講堂には、整列した卒業生たち。
魔法の才能に恵まれた者。
戦闘に秀でた者。
研究へ進む者。
そして――。
戦えない“解析”を持った者もいる。
◆
学園長の祝辞は、例年より短かった。
「強さとは、力の大きさだけではない」
「止める判断を持つ者こそ、真に信頼できる」
ざわめきはない。
その言葉は、もうこの学園では特別ではなかった。
◆
アルトは、証書を受け取る。
拍手は、派手ではない。
だが、確かに温かい。
最優秀でもない。
主席でもない。
それでいい。
◆
式が終わり、中庭に出る。
「……終わったな」
ガルドが、伸びをする。
「ええ。あっさりと」
セリアが笑う。
ミナは、少し涙ぐんでいる。
「最初は、落ちこぼれでしたのに」
「今も大して変わってない」
アルトは、肩をすくめた。
◆
リィナが、近づいてくる。
「軍から、また声がかかったわ」
「行くのか」
「行く」
迷いはない。
「でも、あのやり方はしない」
アルトは、頷く。
「お互い、自分の線は守ろう」
「ええ」
短い握手。
それで十分だった。
◆
中庭の端では、在校生が実習の準備をしている。
「循環、重いな」
「一回止める?」
「いや、もう少し様子見る」
誰かが言う。
「兆候は?」
「自分で見る」
自然なやり取り。
解析端末は、腰にある。
だが、誰もそれに頼りきっていない。
◆
アルトは、その光景を見ていた。
最強にはならなかった。
世界も変えていない。
軍は、軍のやり方を続けている。
戦場は、変わらない。
それでも。
この学園では、
止める判断が残った。
迷う時間が、守られた。
◆
ポケットの中の小型端末。
解析は、相変わらず静かだ。
正解は出さない。
未来も保証しない。
ただ、
歪みを知らせるだけ。
◆
アルトは、空を見上げた。
戦えない力でも、
支えることはできる。
止められる場所で、
止め続ける。
それが、自分の選んだ道だ。
◆
風が吹く。
白い花弁が、舞い上がる。
誰かの選択が、
今日もどこかで、守られる。
正解を出せなくても、
事故を減らすことはできる。
それで、十分だ。
――完
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、最強になる話ではありません。
主人公は戦えませんし、世界を変えるほどの力も持っていません。
それでも「止められるかもしれない未来」を諦めずに選び続ける、そんな物語を書きたいと思って始めました。
魔法や戦闘の派手さよりも、
・判断を奪わないこと
・責任を切り離さないこと
・効率と人の間で揺れること
そういった部分を、物語として積み上げてきました。
正直に言えば、なろう的な爽快感とは少し違う方向だったと思います。
それでも最後まで読んでくださった皆さんがいることが、この物語のいちばんの救いです。
アルトは世界を変えませんでした。
でも、学園という小さな場所に「立ち止まる余地」を残しました。
それで十分だと、作者は思っています。
もしこの物語のどこかが、
あなたの中の「急ぎすぎる何か」を少しだけ止められたなら、
これ以上の結末はありません。
ここまで、本当にありがとうございました。
またどこかで。




