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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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74話「山の神様の生贄」

「い、急げっ…。急いでゲンショウノコを見つけるんだっ…。早くしないと、し、死んでしまうっ」

「あわわわわわっ!こ、これはタンポポっ、これはドクダミっ、これはナツメノ草っ!ないよ~!お願いもう少し我慢して!」


 あわあわしながら必死に首を振りゲンショウノコを探す白銀。


「だ、ダメだ、俺はもうダメだ。俺はここで死ぬ…。あっ」

「あって言った⁉なに今の⁉漏らしたの⁉嘘でしょ⁉」

「の次いっ」

「こんな時にふざけるの止めてもらっていいかな⁉ていうか余裕あるってことでいいかな!」


 隣で怒る白銀。


「こうでもして気を逸らしていないとやっていられないんだ……」

「もーほんとに君ってやつはっ」

「悪いとは思っているが、そもそもお前がミラクルどじをかまさなければこんなことにはなっていないんだからな」

「僕だって好きでこんな体質なわけじゃないもん」


 俺たちは今、遭難していた。公園の中で。そして最中、案の定途中でお腹を下した俺のために、二人で死ぬ気で下痢に効く薬草、ゲンショウノコを探して歩いていた。ここは一体どこなんだ。


 どうしてこんなことになったのか。さかのぼること数時間前。









 九月一日。夏休みが終わり、新学期が始まる。また退屈な授業の日々。それが普通の高校生だ。


 しかし。我が校はそこにおいて他の学校と違っていた。楽大高校は、夏終わりやらぬ九月上旬。残暑漂う中、新学期スタートとともに林間学校が始まる。もちろん授業の一環であるため、課外理科活動や、野外活動などもある。


 俺たち生徒は、夏休みの熱も冷めやらぬうちに、一泊二日の宿泊研修に赴くのだった。



 バスに揺られること一時間。高速をぬけ、市街地から大分離れた北部の自然公園に俺たちは来ていた。ここで宿泊するというわけではなく、初日は大きな自然公園で課外理科活動も兼ね、探索・観察、スケッチがプログラムに盛り込まれている。


 


 事前に決められていた班に分かれて、コースを選択し舗装された道を歩く。自然公園なだけあって、いろんな植物や、生物が自生していた。また、自然の枝や葉が日の光を遮り、涼しい影を落とし、小川の水や土の湿り気がどこか冷たく気持ちいい。


 それなのに居心地の悪さを感じるのは、班決めの時屋上でさぼっていたため余り物のグループに入れられたためだろうか。誰も知らない横で親し気に会話が続くのは苦痛だ。


 つまらない林間学校になりそうだと考えいていると、ぶりゅっとした何かの感触が靴を通して足に届いた。


「……」


 ゆっくりと足の裏を確認するとでっかいうんこがついていた。


「はあっ。うんこはトイレでしなさいよほんとにもう」


 俺はしゃがみこむと、そこらの木の枝でこびりついたうんこをほじくりだす。


「ほんとに。この大きさからするとたぬきとかか?サッカーで鍛え上げられた俺の視野の広さをくぐりぬけ死角をつくとはやるじゃねえか」


 ふと顔を上げると班員は誰もいなくなっていた。


「冷たいやつらめ。一言くらい声を掛ける優しさはないのか」


 ひとりぶつぶつつぶやきながら掃除する。


「よし。こんなもんだろ」


 一通り綺麗にし、一人公園の中を歩く。寂しい課外活動だ。


「だけど、俺はこれも悪くない」






 しばらく一人気ままに自然の中を歩いていると、横の茂みの中から声が聞こえてきた。


「うん!これはちょっとすっぱいけど甘酸っぱくて果物みたいだ。さっきのよりは全然おいしいかもっ!みずみずしくて水分も取れるしいいもの見つけたかも。これであと一時間は持つかなあん?」


 俺が道を塞いでいた草を払う音が聞こえたのか、その声の主は、というかあいつは、こちらに気づいたようだ。


「あっ!あああああああ!人だああああああああ!やっと誰かに会えたあああああああ!すいませーーーーーーん!あのっ!出口知りませんか⁉僕遭難してもう一時間くらい一人でサバイバルしてて、水もこぼしちゃってほんとにどうしようかと思っt―――」


 そいつは。というか白銀は、草をかきわけて、見つけた声の主の姿を見るやいなや。


「はああああっ」


 大きなため息を吐いた。


「なんで君なのかなあ。ほんとに神様はなんでいつも僕に意地悪ばっかりするんだろう」


 などと頭を押さえる。


「おいずいぶんなご挨拶だな。公園の中でサバイバルとかお前どこの大学のサバゲーサークルだよ。どうやったらこんなすぐ遭難できるんだよ。しかも全然コースの範囲だし」

「う、うるさいなあ。珍しい雑草がたくさんあったからはしゃいでたら置いて行かれたの」


 恥ずかしそうに頬を染めている。


「どこの草食動物だよ。こんな時くらい他のこと楽しめよ」

「みんな話したことなかったから気まずかったの!君だって一人じゃないか!こんなところで一人でなにしてるのさ!」

「うんこ踏んで掃除してたら置いて行かれた」

「可哀想」


 同情されて可哀想な人を見る目で見られた。


「おいやめろ。そんな目で見んな」

「あははっ。でも僕たち似た者同士みたいじゃないか」


 楽しそうに笑う白銀。


「どうせだから一緒に行こうよ」

「そうするか」

「うん!ねえところで水分けてくれないかな?こぼしちゃって喉渇いて渇いてしょうがないんだよ」

「悪い。靴についたうんこがなかなか取れなくて落とすのに使った」

「ねえ。なんで君なのかな?今すぐ代わりの人呼んできてもらっていい?チェンジでお願いします」


 そう言って頭を下げてくる。


「いいのかいそんな口をきいて。俺はこのルートのゴールまでの道を知っているんだよ?俺なしでこの公園の中から抜け出せるのかな?」

「もう一ノ瀬君ったら冗談ばっかり。あっ!なんか今日髪の毛ふさふさだね!あそこにね、食べたらもっと髪の毛増えそうな藻があったよ。ほら食べてみて!」


 などと茂みの中から、じめじめしたところに生えているぬめぬめしたわかめみたいなのを持ってくる。


「俺で毒見させようとするんじゃねえ!いつもは髪薄いみたいに言いやがって!ほんとに置いていってやろうかお前は」

「このろくでなし!女の子が森の中で遭難してるのになんてこと言うのさ!君には人の心が無いの⁉」

「うるせえ!どうせお前に関わるととんでもない目に遭うんだよ!最終的にはお前を山の神の生贄に捧げねえとどうせ出れねえんだよ!腹くくっとけ!」

「僕は絶対君を差し出すからね!僕が死ぬときは君も一緒に死なせてやるんだから!」

「なら今のうちから逃げてやるっ!」


 走り出そうとした俺に飛びついて、足にしがみつく。


「放さないからね!道が分かっていてもどうせ簡単にはここから出られないことは分かっているんだ!君は道ずれだよ!逃げたら今までのトレハラも僕にかんちょうしたことも警察に全部話すから!」

「ええい放せこいつっ!俺が危惧していたことを開き直りやがって!泥棒のくせに警察に頼ろうとするんじゃねえ!」

「絶対離さない!」

「あ、そこうんこ踏んだ方の靴だわ」

「きゃあああああああ!」


 俺を突き飛ばしてしりもちをついた拍子に、リュックが倒れ、飛び出た鉛筆が林の中につっこみ、枝にはじかれ、飛んでいく。するとその先に合ったオレンジ色の穴だらけの何かにぶつかって、その塊は地面に落ちた。


「ブブブブブブブブッ!」


 そしてそこから出てきたのは大量のスズメバチだった。


「「うわああああああああああ!」」


 二人して全力で走る。


「お前またなにやってくれてんだ!どうやったら倒れた拍子に出た鉛筆がハチの巣にささるんだよ!どんなミラクル起こしてんだ!」

「僕のせいじゃないよ!君が汚い足にしがみつかせるからでしょ!」

「言い争ってる場合じゃねえええええ!追いかけて来てるぞおおおお!」

「いやあああああああああ!」


 二人で必死に逃げること数分。なんとかスズメバチからは逃げおおせた。


「はあ、はあ。まじで死ぬかと思った」

「はあ。はあ。ほんとに。怖かったあ」

「よかったな俺がいて」

「君のせいでもあるんだけどね。でも確かに最終手段の身代わりの術を使わずにすんでよかったよ」


 などと軽口をたたきあっていると、ここがさっきまでとはまったく違う場所だと気づく。


 さっきよりも大きく生い茂った葉や木。人の歩くところなど一切ない舗装されていない足場。見渡す限りの大自然。そう。俺たちは、正常なコースから外れ、完全に遭難してしまった。


「なあここどこ?」

「へ?君道分かるって言って―――あ」


 白銀がここで初めて周囲を見渡す。


「「……」」


「ぼ、僕のせいじゃないよ!途中でコースが三つに分かれてて、二人でそこに入ってったんだよ!」

「よし。じゃあ白銀。今からお前を山の神に捧げるから横になれ」

「じょ、冗談だよね?」

「うんこぶりぶりどっこいしょお♪お腹ぐるぐるヨーグルトお♪あっそれえ♪」

「それ山の神じゃなくてトイレの神様だよね⁉変な神様の供物にしようとするの止めてもらえるかな⁉」

「大丈夫だ。お前は俺の血肉となりこれで俺の腹痛は治まる手はずだ」

「しかもしょうもないことのために僕を生贄にしようとしないで!」

「まあ冗談はさておきだ。とりあえずこれから二人で協力してここから出る必要がある。まずはお互いの持ち物を共有してなにか使えるものがないか探そう」

「そ、そうだね。じゃあバッグの中出してみる」


 二人とも鞄から使えそうなものを取り出していく。


「僕は、トランプ、UNO、カメラ、ピッキング道具くらいかなあ」

「俺は、トイレットペーパー、靴磨きセット、トイレットペーパー、トランクス、トイレットペーパー、ブラシ、トイレットペーパー」

「ゴミしかないじゃないか!ほとんどトイレットペーパーだし!」

「よし。じゃあとりあえず神経衰弱しようぜ。終わったらUNOだな。俺は神経衰弱強いぞお!」

「諦めないでよ!現実逃避が早すぎるよ!」

「うるせえ!なんでお前そんなのしか持ってねえんだよ!もっと自分を疑えよ!」

「君にだけは言われたくないよ!」


 何気に楽しむ気満々なのが泣けてくる。




 整備されていない道は、自然に侵食され、非常に通り抜けづらく、この道が普段誰にも使われていないことを示していた。


 かろうじてコースの体裁を保ってはいるものの、あまりにも自然に飲み込まれていた。


 二人で岩の階段を上る。かなり急な段差が続いており、手すりもないため相当危険だ。しかも横から大きい葉や鋭い枝が飛び出してきている所も多々あり、薙ぎ払いながら進む。白銀はピッキング用のドライバーで払っていた。


「気をつけろ。ここだけコケ生えてるからすべるぞ」

「うんわかttきゃあああああっ⁉」


 注意した横からコケで足を滑らし悲鳴を上げる白銀。


「今言ったよな⁉」


 そして俺の腰にしがみつき、ズボンが足元まで下がり、パンツが露になる。


「うおおおおっとっとっと!」


 白銀に引っ張られ二人まとめて転落しそうになるがとっさに左上の太い木の枝につかまり事なきを得る。


「あっぶねえな!大丈夫かお前⁉怪我とかしてないか?」

「う、うん大丈夫。あ、ありがとう。はあびっくりしいやああああああ!」


 立ち上がろうとして目の前に俺のパンツがあったためか悲鳴を上げてピッキング用のドライバーをつきさす。


「うぎゃあああああああああっ⁉ひ、ひいいいいいい⁉」


 俺はその場にうずくまって悶絶する。


「あっ⁉ご、ごご、ごめんなさいっ⁉驚いてついっ⁉だ、大丈夫⁉」


 しばらく悶絶してなんとか立ち上がる。


「お、お前殺す気か⁉痔になったらどうしてくれんだ⁉俺のけつ筋が硬かったから奥まで刺さらなかったものの、あと少しで死ぬとこだったぞ⁉」

「ご、 ごめんなさい!死んだと思って目をつむったら落ちずにすんでて、不思議に思って目を開けたら君の足にしがみついてたみたいで、立ち上がったら目の前に汚いパンツがあったからついっ」

「ついですむか!謝る気ねえだろ!汚いっつったかお前⁉お前実はサイコパスだろ⁉普通どんだけ汚いものに遭遇してもドライバーでぶっさすやつなかなかいねえよ!しかも正確に割れ目にな!しかもズボン下げたのお前だしよ!」

「ほんとにごめんなさいっ!でも君も僕に一度かんちょうしたしこれでウィンウィンとかにならない?ね?あはは」


 などと笑ってごまかそうとする。


「あははじゃねえよ!なるかバカが!ドライバーでかんちょうしたら死ぬだろうが!百倍返しか⁉まだ落ちてた方が痛くなかったよ!」

「本当にごめんなさいっ!あ、あの、髪の毛あげるから許してくれたりとか……?」


 二本ほど髪の毛を抜いて見せてくる。


「お前しばきまわすぞ⁉ハゲならこれで許してくれると思ったか⁉ハゲ舐めてんのか⁉三本だっ!」

「いや似たようものじゃないか。ハゲちょろすぎるよ。君それでいいの?」


  お尻をさすりながらしばらく石の階段を上り続けると、ようやく石の足場が終わった。


「ふう」


 しかし、さらにしばらく進んでいくと、地面が途切れ、大きな川が広がっていた。


 向こう岸に渡るために橋があるが、それがひどく古く、ところどころ底が抜けている。


「お、おいこれ渡るのか?」

「い、今にも朽ちそうな見た目なんだけど。ていうかすでに腐ってない?」


 下を覗き込むと、かなりの高さで、十メートルくらいはある。落ちたらただじゃすまないだろう。


「よしじゃあこの前は俺が足場になったから今回はお前が足場になる番だな」

「間違いなく死ぬよね⁉床抜けてるから足場になる=死ぬなんだけど⁉僕こう見えてか弱い女の子だよ⁉」

「うるせえ!か弱い女の子はドライバーをケツの穴にぶっ刺したりしねえんだよ!それが嫌ならお前が先に渡れ!」

「嫌だ!せめて一緒に渡ろうよ!今なら手繋いであげるから!」

「怖いから手繋いでほしいだけだろうが!お前と一緒に渡った方がはるかに危険度上がるんだよ!」

「絶対一緒に行くからね!大体君さっきのこと怒ってるけど、女の子にかんちょうするのはこのくらいのことなんだから!だからこれでおあいこだし!」


 ぎゃあぎゃあ言い合ってもらちが明かない。俺たちは仕方なく一緒に渡ることにした。


  試しに板でできた橋の床を踏んでみると、ギシギシ音を立てて軋む。しかしここを渡らないと先に進めない。覚悟を決めて橋を渡る。


 俺が一歩先を歩き、白銀が俺の服を掴みながらすぐ後ろをついてくる。


「ギシッギシッ」


 横の柵のようになっている紐を掴み、慎重に一歩を踏み出す。


「気をつけろ。そこかなり軋んでる」


 三歩ほど進み後ろの白銀に声を掛ける。


「わ、わかった」


 白銀は俺の服を掴みながら、すぐ後ろにくっついている。


「気をつけろ。そこ腐って変色してる」


「は、はい」


 強張った声で返事が返ってくる。


「気をつけろ。そこ茶色いのこびりついて変色してる」

「わかっtt―――それ君の靴についてたうんこだよね⁉それっぽく言って誤魔化そうとしても分かるから!こんなときに何してるのかな⁉」

「おい!なんかこの橋やたらとうんこが落ちるぞ!どういうことだ⁉うんこ落とし放題だぞ!」

「君余裕だね⁉よくこのタイミングでそんなこと言えたよね⁉ていうか汚いからやめてもらっていいかな⁉君も一緒に落ちたら⁉」


 などと罵られる。そんな調子で真ん中あたりまで進んだところで、橋が腐り落ちたのか、二メートルほどの大きな穴があいているところに突き当たった。


「俺はジャンプで行けそうだが、お前行けるか?」

「うー、ちょっと難しいかも。どうしよう」


 と言って困り顔を浮かべる。


「じゃあドライバーお尻に刺してその勢いで跳んでみようか」

「そんなことしたら死ぬでしょ⁉こんなときにまで根にもたないでよ!」

「分かった。ならトイレットペーパーで足場を作る。それならいけるな?」

「いけるわけないでしょそんな薄い紙で!即死だよ!」

「しょうがない。なら七ロールのトイレットペーパーで足場を作る。持ってけ泥棒!」

「そんな紙切れ何ロールあっても意味ないって言ってるの!うるさいんだよ君はほんとに!」

「おいおいこの聖なる紙は清い心の持ち主が乗ったら絶対に落ちないんだぞ」

「そんな筋斗雲みたいに言っても騙されないからね!」


 とキレ気味だ。


「じゃあどうするんだよ」

「うっ。それは……」


 しばらく沈黙が流れる。そして、ふと意を決したかのように、切なげな表情を浮かべ、俺に目を向けた。


「僕は、橋の入り口で待ってるよ。君だけでもここをぬけて。助けを呼んできてくれるまで頑張るから」


 「あはは」と、いつもみたいに作り笑いを浮かべる。そう言った白銀の足は震えていた。


「ったく怖いくせに無理しやがって。お前一人だけ置いていくわけねえだろうが。この先何があっても絶対置いて行かねえよ。必ず二人でここを出るぞ」

「で、でも、僕跳べないし、迷惑かけちゃうし……」

「俺がお前を抱えて跳ぶ」

「え⁉」


 俺の発言に口を開けて驚いている。


「こう見えて中学までサッカーしててね。運動神経には自信がある。グラウンドのすべてのうんこを片したこの運動能力でお前を抱えて跳ぶ!そう!西中の片づけ屋とは俺のことだ!」

「それベンチですらないよね⁉サッカーで培われた運動能力っていうか、うんこ掃除押し付けられすぎて獲得したただの特殊能力だよね⁉点取り屋みたいに言わないでくれるかな⁉全然安心できないんだけど⁉」

「大丈夫だ!俺が失敗した時はすべてお前の体重に責任がある」

「最低!全然かっこよくないうえにただのクズだよ!」


 などと目を見開いてツッコんでくる。


「まあ冗談はさておきだ。これしかない。やるか?それとも諦めて二人で助けを待つか?どうする?」

「……うう」


 しばらく迷ったあと、口をぎゅっと引き締めて、真っ直ぐな瞳で俺を見る。


「やる。ううん。お願いします」

「よし来た。お前の命が懸かっている以上、俺も死ぬ気だ。最悪お前だけでも放り投げるから大丈夫だ」

「自分のこともちゃんと案じてよ?心配だよ」


 切なそうな顔をこちらに向けてくる。


「ああ。よしじゃあ、その、うん。あー、いいか?」

「うん?……あっ」


 俺の言いたいことを察した白銀が顔を真っ赤にして俯く。


「えーっと、その、ど、どうぞ」


 恥ずかしそうに膝を立てて体育座りした白銀にゆっくりと近づく。


 お、おいこれめちゃくちゃ恥ずいんだが?なんでそんなに顔真っ赤にしてんだよ。逆に意識しちゃうだろ⁉



 俺はそっと白銀の太ももの裏から右腕をそっと回し、左腕は背中に回す。


「じゃ、じゃあ、さ、触るぞ?」

「は、はい」


 耳まで真っ赤にして目を閉じる。なんかそれやめてくんない⁉俺はそのまま白銀を持ち上げた。


「お、重いとか言わないでよ?」

「軽すぎだ。もっと食わないとまずいくらいだ」

「……あはは。なんか恥ずかしいな」


 いつも以上にぎこちなく笑い、顔を真っ赤にしている。


「すうーっ。じゃあ跳ぶぞ。絶対落ちないようにつかまった方がいいかもしれない」

「わ、分かった」


 そう言って俺の首に腕を回してくる。白銀の石鹸みたいな柔らかくて甘い匂いにくらっとくる。


 だーっ!雑念を消せ!失敗したら死ぬんだぞ⁉集中しろ!


 俺は心を無にして、ただ全身の力を抜き、跳ぶことのみに集中する。


「いくぞ」

「う、うん」


 思いっきり助走をつけて走りたいところだが、それに耐えられるほどの橋ではないため、一メートルくらいの助走で、俺は思いっきり跳んだ。白銀がぎゅうっとしがみついてくる。柔らかい感触に体が強張りそうになるが心を無にただ前に前に思いを向ける。


「ダンッ」


 かかとが一センチほど穴にはみ出ていた。かろうじて着地に成功したことに安堵する。のもつかの間。着地の衝撃で橋が大きく揺れ、後ろに体重が傾く。俺は瞬時に白銀を放り投げた。


 柵の紐を掴もうとするも、間に合わない。そのまま後ろに倒れていく。死んだ。足まで離れかけそう思った時、白銀がすぐに起き上がり、落ちるすんでのところで俺の足を掴んだ。


「い、一ノ瀬くんっ!」

「白銀!放せ!お前まで落ちるぞ!」

「絶対離さない!うううっ」


 座り込みながら、顔を歪めて必死に俺を掴む白銀。


「おい!危ないぞ!もういい!」

「君は僕のことを見捨てなかったのに、僕が君を見捨てるわけないじゃないか!死ぬときは一緒だよ!そうでしょ⁉」

「っ!わかった!だがな、一つだけ言わせてくれ!その足はうんこ踏んだ方の足だ!」

「いやあああああああああ!」


 そのまま俺を橋の上まで放り投げる。


「おい。お前の愛はその程度か?」


 なんとか助かったが、ひどく複雑な気持ちの俺は穴の向こう側にいる白銀に問いかける。


「け、結果的に助かったんだから、い、いいじゃないか!手は離さなかったんだから許してよ。ね?」


 などと可愛らしく首を傾げてお願いしてくる。


「まったく」

「でもありがとね。僕だけでも助けようとしてくれて。かっこよかったよ」

「あと少しお前が痩せていればかっこよく決まっていたんだがなあ」

「この人手放しとけばよかったかな」


 むくれ顔でぼやく。


「でも、かっこよかったけど、次はこんなことしないでよ?僕のせいで死にそうになって、僕だけ助けるなんて、悲しいよ」

「俺は二度と誰かが死ぬなんてごめんなんだよ」

「えっと、どうかしたの?」


 俺の空気が変わったことを察したのか、おどおどと探るような目をこちらに向けてくる。


「いや、別になんでもない。いつまでもここにいるのも危ない。さっさとこの橋をぬけよう」

「そうだね」


 再び穴を飛び越え、二人で慎重に渡っていると、なにやら後方から「ブブブブブブッ」と羽音が聞こえてくる。どんどん大きくなり、近づいてくるその音に振り返ると、大量の白アリの群れがこちらに向かって飛んでくるではないか。


「はああああああああああ⁉」

「えええええええええええ⁉」


 揃って大声で叫ぶ。


「何だありゃあ⁉お前またなんかしたな⁉」

「僕じゃないよ!僕なにもしてないもん!」


 両手を前に出し、全力で否定する白銀。


「とにかく走れ!一刻も早くこの橋をぬけるぞ!」

「そ、そうだね!」


 しかし走って渡るにはあまりに危なく、俺たちは急ぎながらも一歩ずつしか進めない。


「ね、ねえ!来てるよ!急がないと!」


 焦らすように俺の袖をくいくい引っ張る。


「わ、分かってるよ!けどなんで俺たちに向かってくるんだ⁉お前ほんとに知らないのか⁉」

「ええっ、知らないよ!」

「ちくしょう!まずいまずい!考えろ!何かないか⁉そうだとにかく鞄の中に使えそうなものはないか⁉」

「僕も見てみるよ!」


 俺たちは鞄を漁り出す。まじでトイレットペーパーしかねえねおい!隣はUNOとかトランプだしよ!白銀が取り出したものが目についた。


「それはなんだ?」


 取り出したものは、虫かごで、中には幼虫が入っていた。


「ああこれはさっき森で拾ったカブトムシの幼虫で、育てて高値で売ろうかと思って」


 よく見てみる。


「おいいいいい!それカブトムシの幼虫じゃねえよ!これ白アリの女王アリだよ!こいつ持ってるから追いかけてくるんだろうが!」

「ええええええええ⁉たしかに大きくて気持ち悪いなとは思ってたけど、そうなの⁉」

「もうそこまで来てる!早く投げろ!返したら追いかけるのもやめるだろ!」


 振り返ってみると、もうすぐ目の前に大量の白アリの群れがいた。


「「ぎゃあああああああああああ!」」


 叫びながらも白銀が女王アリを群れに向かって投げる。すると、一度群れは止まったかと思ったが、今度はそのまま橋に降り、みんなで一斉に橋を食べ始める。


「「なにいいいいいいいいい⁉」」


 すごい勢いで腐り落ちていく橋。どんどん迫って来る。


「走れえええええ!」


 なりふり構ってられなくなった俺たちは死ぬ気でゴールに向かって走る。


「うおおおおおおおおおおおおお!」

「いやああああああああああああ!」


 二人が橋を抜けきった瞬間、橋は腐りきって谷底に落ちて行った。 


 二人してその場にへたりこむ。


「はあはあっ。し、死ぬかと思った」


 青ざめた表情でそう漏らす白銀。


「お前のせいでな!毎度毎度よくもこうトラブルを引き起こせるもんだお前はほんとに!」

「僕も悪かったけど、流石にこの公園もおかしいよね⁉なんでこんな腐った橋が普通にルートにあるのさ!」



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