幽幻ゆうなは引き続き怪奇を語りき(終)
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夜の十時近くになった。
動画サイトの幽幻ゆうな公式チャンネルには彼女のファンが集っていた。
先日の配信で座敷童こけしを救出して以来、幽幻ゆうなは音信不通となった。それも当然、彼女は既に生を終えて霊界の住人となっていたのだから。現世との繋がりが途絶えた以上、向こうからこちらへ配信を届けることなど不可能なのだ。
……その筈だったが、チャンネル登録をしていた視聴者に通知が届けられた。それは幽幻ゆうなによる配信予約についてだった。アカウントの乗っ取りを疑う声もあったが、ともあれ何が起こるか見極めるため、一同は集った次第だ。
深夜の部屋の中で時計が秒を刻む音が響き渡る。
何が起こるか、徘徊者と呼ばれたファン達は固唾を呑んで見守る。
そして、生配信は待機画面から変わり、幽幻ゆうなが映し出された。
「悪鬼彷徨う怪奇の世界からおこんばんは~。幽幻ゆうな、です! 今晩も徘徊者のみんなを霊界に引きずり込んじゃうぞ♪」
いつも通りだった。
彼女の姿、彼女の様子、彼女の声、彼女の挨拶。
その全てがこれまでの配信のままだった。
帰還を祝うコメントが相次ぐ一方、疑惑の声を上げる視聴者も少なからず見られた。果たしてこの幽幻ゆうなは本物なのか、何かしらの怪奇が幽幻ゆうなに化けて自分達を誘おうとしているのか、そんな不安が書き込みから感じられた。
賛否両論な反応に幽幻ゆうなは納得し、うんうんと頷く。
「あー、次回の配信は無いと約束したな。アレは嘘だ。……という冗談はここまでにして、やっぱネットがそっちに繋がってるんだー。アレからずっと駄目だったのに今日になって突然使えるようになってたから、びっくりしちゃった」
配信画面は今までと同じく幽幻ゆうなの自室から。音声も映像も乱れることなく皆に届けられている。そして、幽幻ゆうなの発言から察するに、彼女が配信できていることが意味するのは……、
“\5,000 @冥道めい:やはり、現世と冥界が再び繋がっていますか”
冥道めいのスパチャの通り、またどこかでこの世とあの世が近くなっているということなのだろう。それも、幽幻ゆうなの部屋が圏内となり、再びこの世に配信できるほどまでに。
「あれ、めいさんもこの時間帯は配信中じゃなかったっけ?」
“@冥道めい:本日は妹による絵描き配信回です。わたくしは手持ち無沙汰なのでこちらをチェックしてます”
“\1,000 @宵闇よいち:厄介だなぁ。まさかまたうちのマンションが祟られたのかな?”
「あ、大家さんも今晩は。すみません、こけしちゃんを受け入れてくれたみたいで」
“@宵闇よいち:それはいいから、どうなってるのかそっちの見解を教えてくれ”
「マンションじゃないよ。エレベーターからは依然として一階とかには行けないもの。一応エレベーター使って色々な場所行ってるけど、どこが繋がってるのかはまだ分からないや」
“@冥道めい:なるほど。マンションの時と同じようにこちら側からも起点を探すほかありませんか”
三人のVdolが会話の花を咲かせている中、視聴者は恐怖に襲われた。また再び多くのUdol達が怪奇の中に飛び込み、そして消えていったことを思い出したからだ。その衝撃は夢にまで出てくる場合もあり、視聴者の脳裏にこびりついている。
「こっちは裏作業で探索を進めるから、そっちも何か進展あったら教えて」
“@冥道めい:かしこまりました。情報を集め、怪しい所には足を運びましょう”
“@宵闇よいち:私も乗りかかった船だ。別口で情報収集しておこうか”
「じゃあ方針が決まったところでこの話はおしまい!」
そんな恐れを吹き飛ばすように、幽幻ゆうなは明るく笑った。
そうだ、そうして日々の癒やしとなり、明日また頑張ろうと思えるようになる、そんな彼女だからこそ自分達は彼女のファン、徘徊者となったのだ。
視聴者一同はそう改めて感じた。
そして、配信はいつものように戻る。
「それじゃあまず最初に山口彩(仮名)さんからのお便りを紹介するよ。「幽幻ゆうなさん、おこんばんは^^」、はい、おこんばんは~。「これは大学の同級生だった友人から聞いた話なんですけれど――」」
配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき。
現世と霊界が繋がる限り、悪鬼彷徨う怪奇の世界から。