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18話 勇者カリム

 カリムによって負傷したサイガを相手に、彼女はもちろん手を緩めずに、完全に殺す気でとどめを狙っていた。


「しぶといね、さっさと死んでくれない? 新しい力を手に入れたから、あんたはもう用済みなの」


 得た力に酔うカリムことテムズは剣を振り、背中の傷に追い討ちをかける。

 振り向いて剣で防いでも、みなぎる力を止めることなど不可能だ。

 そのまま壁を食い破り、サイガを跳ね除ける。

 勝てもしないのに抵抗を続けるとは、よほど死にたくないようだ。

 未練たらしいったらありはしないと言いたいようばかりに眉をひそめていた。


「ふふ、あたしをもっと恐れなさい。抵抗するくらいなら、俺が味わった苦しみを貴様にも味わってもらうかな」


 彼が呼吸をしなくなり、心臓の脈動も途絶えるまで、彼女たちが踏みつけている土の奥にまで根を張っているかのごとき、血が塗り付けられた剣に宿る執着は無くならない。


「さてと、安心しなさい。最期にはこのあたしの手でしっかり殺してあげるから」


 カリムの剣がサイガの背後にある木を突き刺す。サイガには刺さっておらず、彼の脇を抜け、木に風穴を空けているのが彼女には見えた。

 負傷しているサイガががむしゃらに突撃を敢行、油断していたカリムを勢い任せに蹴り飛ばす。


「痛っ。あはっ、酷いなぁ。散々あたしをこき使って、こき下ろしておいてお礼の一つも無いなんてね」


 左目に魔術を宿すようになったカリムは、一人逃げ出したサイガを緩慢な足取りで追う。いつでも殺せる。

 そんな余裕が垣間見られる彼女は足取りをそのままに、手に持った剣を遊ばせながら、傷だらけの彼を追い立てる。


「行かせんぞテムズ。あいつはこの世界に必要。均衡のためにも殺させるわけにはいかんのだ」


 カリムの遊びを妨げる奇襲。楽しい気分に水を差されたものだから、溜まったものではない。

 とにかく早く始末してしまおうと、投げたり振り回したり、持ち方が安定しない剣を今度こそ手にしかと収める。


「均衡か、その均衡を保つためなら、弱き者を排斥しても良いのか」


 彼を逃がそうと、暴走するカリムの前に立ちはだかるダルク。

 エリアルの毒で麻痺してしまい、動かない身体でありながら、世界を守る重要な存在である彼のための砦となっていた。

 勇者サイガは合理的なあまり、常にパーティメンバーを取っ替え引っ替えしていた。

 最初の被害者はテムズではなく、前にも彼の犠牲となった連中が山程いる。

 いずれもテムズと同じく、国の運営には邪魔だとされ、サイガに秘密裏に始末されていた。


「死に損ないはそのまま眠っていてよ」


 痺れる身体に鞭を打ち、扱い慣れていないかのように一心不乱に木槌を振るう彼を、カリムはあまりにも雑な剣の一振りで斬る。


「がはっ、強過ぎる」


 麻痺している身体を無理を承知で操り人形として使役するカリムと、それができていないダルクとでは、先に見える勝敗は分かっているも同然。

 胸から血を噴き出し、倒れていくダルクへ振り返ろうともせず、彼は森の奥へ消えていた。


「ダルク、確かにあたしはいやテムズはもう死んでいる。でもこうして地に足を着けているんだ。新しいこの肉体に定着してね。あはっ」


 肉体の使役である。このカリムはカリムであって、カリムではない。

 カリムの名と身体、そして力を持った別人となっている。中身は先程名乗ったように、テムズの概念を取り入れていた。


「ケホ、ケホ! テムズさん。こんなことはもう止めて下さい」


 下の立場に沈んでいる女が口で何やら捲し立ててくる。


「どんな口でそんなことを言っているんだか。あたしには理解が及ばないよ、デニス」


 カリムに背中を疲れたデニスは武器を構え、対抗する意思表示をしていた。

 もう彼女に抗う力は無く、カリムには周りを飛び交ううざったい羽虫と同列にしか映らなかった。


「ご主人様のローブ、良い匂い。病み付きになっちゃうよ!」

「あたしにも寄越せ。独り占めは許さん」


 それよりも彼女が気になるのは血の色を帯びた、テムズが着ていたローブ。

 これを奴隷であるエリアルとベルカが仲悪そうに取り合っていた。

 カリムの背中で鬩ぎ合う騒音が耳で震える。彼女は剣を一旦仕舞い、彼女たちの方へ足を運ぶ。


「やはりご主人様! ご主人様ですよね」


 到底分からないであろうと決め付けていたカリムだが、彼女たちの鼻を侮っていたようだった。


「あたし女になったんだけど、そうやって擦り寄られると、まるで恋人みたいで、ムズムズする」

「貴女が例え何者となろうと、あたしたちの目はごまかせません」

「わん! あたしはご主人様の匂いが貴女から感じられるので気づきました」


 彼女たちはこの通り、テムズの匂いには鋭敏であり、それを頼りに現在のカリムの正体を即座に看破する。

 いくらなんでも別人の器であろうが判別してくることは、テムズにも想定不能な珍事であり、性的な意味で身の危険を覚えた彼は思わず彼女たちから飛び退く。


「ご主人様、怖がらなくて良いですよ。この快楽に、一緒に溺れていきましょう」

「あたしたちは貴女の一生の味方。貴女のためなら、この身体をすぐに壊しても良いんですよ?」


 彼女のためなら死をも恐れない従順な兵となる奴隷たちの目は、死んでいながらも本気を匂わせる。

 そんな彼女たちの憧れの存在にならずして、誰が人形同然の連中を可愛がれるのだろうか。

 眠るように優しく寄ってくる二人を抱きしめ、生きている触感を久しく味わう。

 死にかけからの二度目の生還。奇跡に奇跡を重ねて、ここにいる。


「後はサイガだけね」


 復讐するべき残る相手は逃げ出したサイガのみだ。

 勇者としての保身に走り、使える仲間をも見捨てた彼の末路は醜いものでなければならない。

 手負いのサイガを再び追い詰めるには、特別な力も何も要らない。地を抉るような大胆不敵な足運びで丁度良いまである。

 惨めな男を散々狂わせてから、最後に惨殺する。

 復讐としてはおあつらえ向けなシチュエーションであろう。


「ぐぅ、はぁ、はぁ……」


 逃げ出した彼は手負いであり、そう遠くまで逃げられるはずもない。

 加えてこちらには仲間を自ら捨てたあちらとは違い、捜索を手助けしてくれる駒がいる。

 ここまで追い詰めてしまえば、勝敗はもう決まったようなものであった。


「エリアル、ベルカ、敵を見つけたよ」


 カリムのその安直な考えは見据えた先に適合している。

 数多の傷を帯びた彼が、傷つけられた内臓から溢れ出し、口に溜まった血を飲んでも彼女から逃げようとしているのが肉眼に捉えられたのだ。

 剣を携える彼女の足は、速さを何段か引き上げる。

 気持ちがはやる。

 早く殺したい。

 無論、ただ殺すだけでは飽き足らない。

 サイガを殺したとて、テムズの復讐は幕を閉じない。それが始まりの鐘。カリムの身に宿った魂の行く先は、これから殺す彼に代わり、世界のバランスを担うことである。


「助けてくれ……」


 ダルクが死に際に宣った事はごもっとも。彼は有力な勇者。倒れでもしたら魔族と人間が互いに保っていた均衡が崩れ去る。自らの命を捨ててでも、一人さっさと敗走していった勇者をダルクが庇う理由はカリムには納得がいく。彼女も後先考えずに暴挙に出たのとは訳が違っていた。

 それでも彼女は命乞いに聞く耳を持たず、剣を死にかけのサイガへ向ける。


「俺を殺したら、人間の世界が、秩序が崩壊する」


 この世界において冒険者の中核をなす存在である勇者は、一人いなくなるだけでも国の力が衰退し、その崩壊を招く。遠からぬうちに、世界の均衡に影響が波及し、弱くなった国が干渉を受けて押し潰されるのが宿命となる。


「こいつの言うことなんて自分が助かりたいからに決まっている。お国のためにあろうとすることしか考えていない奴よ」


 勇者パーティを潰すようなこの悪魔に掛ける言葉としては、あまりにも生温くて抱腹絶倒してしまう。自分が助かりたいという下心が見え透いていて、同情の余地すら見出せない。

 あまりに面白おかしくてカリムは抜ける筋力から剣を落としそうになる。

 脱力した彼を支えるのは、笑みをも狂気へ変える殺意。心中で織り成す獄炎が支柱となり、彼の胸に刃を食い込ませる。


「がはっ……げほっ」


 追い詰めておいて、即死はさせない。あえて回復魔法をかけてまで存分に苦しませる。


「ぐあっ!」


 カリムの嗜虐主義を助長するように、血の海が草木を侵食し、腐海を生み落とす。


「楽しいな、楽しいな。憎い奴が苦しみに喘ぐ姿を見るのは楽しいなぁ」

「俺の命運も、ここまでなのか」

「そうね、だから安心して死んで行きなさい」


 命を強欲にも欲する彼へまたとない好機が訪れる。

 デニスが増長する彼女の背後から忍び寄っていた。

 目を丸くする彼と同様、カリムにもそれは見えていたが、彼女を彼から突き放すには効果的であることには疑いの余地は無い。


「デニス、今だ!」

「任せてください、サイガさん」


 彼女はサイガの叫びに呼応し、魔術を発動する。カリムとサイガの足元にまでそれは拡大し、小賢しい魔物すらも逃がさない結界が展開される。

 それが何になるというのだろう、彼を助けるという結末へは結び付き難いこの結界。確かにカリムは出られないが、サイガも同じ空間へ幽閉させられている。

 そこに疑問を投げ掛けるように、彼はデニスを睨み付ける。


「どうかなさいましたか? 私はちゃんと手助けしましたよ。貴方が死ぬ手助けをね」


 頰を歪んだ笑みで引きつらせるデニスの目にも魔法陣が浮かんでいる。彼女もすでに、カリムの軍門に下っており、勇者の敵に与していた。そんなデニスがカリムの手伝いをすることがあれ、サイガの命を救う道理は無くなっていた。

 そこにはさらに、ベルカとエリアルが肩を連ねる。彼を取り巻く結界が仮に無くなったとしても、包囲網が解かれるという道は消え去っている。

 つまり、彼はどう転がっていっても、死に行く運命。

 先が分かれば、悪戯に弄ぶのは時間をドブに捨てているようなものだ。


「がっ」


 苦しんでもらった分、とどめは一瞬で終わる。

 心臓部を一突きすると、彼の目は虚になった。彼の言った、勇者として保ってきた均衡が静かに崩壊を迎える。

 まだひび割れ、しかし日が経てば海溝のような深い溝へ変遷する、避けられない戦乱が控えている未来がカリムの目に浮かぶ。


「これはあたし自身が腐った世界の秩序にとって代わるための幕開け。さあベルカ、やっちゃって」

「ご主人様の命令ならば、喜んで」


 それから誰にも有無を言わさず、獣人特有の鋭い爪にカリムの胴体を斬り裂かせる。

 血飛沫に隠れようとする瞳が最後に見たのは、これより彼女が大きな足跡を残す、この大陸を覗き込んでいた夜空の星々であった。


「あはっ、カリム様を急いでギルドへ輸送しなければ」


 傷ついた彼女をデニスが背負い込み、アルマ王国までの道を歩いていく。

 激痛に苛まれ、薄れ行く意識の中で、次なる野望に胸を躍らせていた。

 勇者ここにあり、サイガを祭り上げていたアルマの街に訃報が拡がる。

 サイガの一行が強大な魔物に二度も襲われた。一回目に一人。二回目には二人。

 二回目には世界にいなくてはならないバランサーでもある勇者とその仲間が死亡した。

 デニスとカリムは重傷。

 回復術師デニスの方は命に別条が無く、彼女たちが所属しているギルドのベッドにて快方に向かっているが、もう一人、魔法剣士カリムは回復術の効果も虚しく、生死の境を彷徨っている。


「カリムは大丈夫ですか?」

 

 デニスは弱々しい声色で、カリムを助けようと魔術を行使している魔術師に尋ねる。彼は汗を掻きながら、血が未だに止まっていない彼女の回復に魔力を注ぎ込んでいる。


「なんて深い傷だ。生命を保っているのが奇跡だぞ」


 カリムの出血は甚だしく、いつ死を迎えても不思議ではない、そういった旨の宣告を涙を飲むデニスに突きつけた。

 もちろん死なない瀬戸際の程度をベルカにお願いしているため、誤って死に至る心配は無用である。


「そんな! テムズ、ダルク、サイガに続いて仲間をまた失うなんて、私はもう耐えられません!」


 泣き崩れる彼女から目を背けるように、手を尽くした彼は部屋を後にしようとする。

 カリムの左目や胴体には包帯が巻かれ、仰々しいその姿はとても痛々しい。

 血が滲んでいればなおさらであり、彼女の惨状にデニスの口からは言葉が一切出ない。


「おそらく今夜が山場だ。それ相応の覚悟はしておけ」


 気が重くなるような忠告を置き去りに、彼は下の階へと降りて行く。せめてもの計らい。彼女の最期を、仲間であったデニスに見届けさせる。残酷、それでありながら粋な計らいを彼はデニスにもたらしたのだ。


「ぅぅぅぅ! ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……要らぬ心配ですよ。カリム様は死にません」

「ふふっ、痛いけど、その分すっきりしたね。こうしてカリムとして潜り込めたんだから」


 眠っていたはずのカリムが一転して元気に目覚めた。

 あの時受けた重傷で一旦は本当に意識が飛んだ。

 王国兵たちを欺くには偽物で謀る手は通用しないと考えたからこそ至った奥の手だ。

 だがカリムの身体とテムズの精神は普通の人間と違って僅かに離れており、その分身体から精神へ及ぶ影響を抑制できていた。

 傷だらけの身体を無理やり起こし、血を床に垂らしながら、カリムが立ち上がる。


「デニス、傷治して」


 命令口調でカリムからデニスへと出される指示。奴隷となり、テムズに屈した彼女には断る理由は皆無で、更には優秀な魔術師ですら匙を投げたこの傷を治せる自信もあるようだ。


「はっ、お任せください」


 膝を着き、頭を下げた彼女は魔力の感知を妨げる魔術と、それを使う名目である回復魔術の発動を同時並行で行う。

 デニスは対象が死んでいなければ、即座に傷を治せる魔力をテムズから授けられた。

 テムズが繋ぎ止めていた、命を落とすようなカリムの重傷を、デニスは怪我を嘲笑うように修復する。

 魔術の行使が終わり、カリムに安寧が訪れた。胸の部分を除き、包帯を剥ぎ取る彼女が刮目するは、眉目秀麗が際立つ美少女の身体。


「あたしの新しい身体。元気になって何よりだよ」

「それでも、当分活動は自粛された方が。誤魔化すためにかなりの深手を負ったので」

「分かってるよもちろん。あたしはテムズだよ。ちょっと彼女の性格に引っ張られた感じだけど、根っ子は“俺"の頭脳が支配しているから」


 デニスの提案を反映し、しばらくは静養しながら次にやろうとしていることを綿密に練り上げる。

 こうしてしばらく経ち、巷で騒がれたカリムの奇跡、という話になって広まっていた彼女の復活劇が落ち着いた頃、アルマの国王から勅命が下る。


「勇者サイガの死亡から魔獣、そして魔物の動きが活発化……その元凶、あたしだけどね」


 左目に魔力の放出を妨げる眼帯を装着し、胸元を露出した鎧でむさい男の注目を集めるようになっているカリム(テムズ)はあたかも支えるべき勇者を失った哀れな被害者、そして彼の代行者として、二律背反の役割を一手に引き受けようと欲を張る。


「デニス、そして新たなる勇者カリムよ。西に蠢く魔王軍の統括する魔物の、今後の動向を含めた調査を命ずる」

「王よ。必ずや前任であるサイガの意思を引き継ぎ、彼の死によって崩れた均衡を立て直してみせます」


 気高い騎士でもあるアルマ王をも、隠れた邪悪なる意思は欺き、嗤う。


「その心意気や良し。存分に使命へ励むが良い」

「ふふっ、あたし、強ち嘘は吐いていないからね」

「そうですね、カリム様」


 アルマの門を出ると、ローブを被った元盗賊と、首輪を着けた獣人が彼女たちを出迎えてくれていた。

 お尋ね者のエリアルにローブを授け、引っ込んでもらっていたのは、カリムは勇者になるまでのこの数ヶ月間となる。

 その間にエリアルはともかく、ベルカも大分染まり切っていて歯止めが効かない。

 なまじ嗅覚が飛び抜けていたのが原因だろう。

 それゆえに定期的に、互いにローブを鼻腔に押し付けて匂いを嗅ぎまくる始末だ。


「待たせたね」

「問題ありません。ご主人様の匂いに囲まれていたので、我慢において苦労は無かったので」

「あたしもエリアルと同意見です。エリアルの臭いが混ざって若干不快ではありますが」

「喧嘩売ってるの?」

「あれ? あたしというご主人様の所有物に手を出そうというの? エリアルって短気だね。それで果たして、ご主人様への務めが為せるのかな」


 その一言でエリアルの反撃の手が止まる。


「チッ……後で覚えていろよ。あたしの後追いでしかない勘違い女」


 あまりに大きな舌打ちと、後々への反撃宣言と引き換えに、どうにかこの場だけは終息した。


「ご主人様、えへへ、好きぃ」


 エリアルが怒ったままだと思ったら大間違い。

 彼女は主人とその他で態度をころころ変える、ギガマンティス顔負けの策略家。

 主人に取り入ろうと、歩いている途中でも腕を絡めてくる。

 好感度はその辺りの嫁よりも重く、カリムですら手に余るほどだとしている。

 溜め込んだ怒りは一悶着あったベルカへ向けられている。


「あたしのご主人様はワタサナイ。ベルカにも、デニスにも」

「カリム様はエリアルちゃんに本当に好かれているのですね。私より年下の子供だからって甘えて……妬ましい」

「ご主人様の心はあんな狐たちに盗まれない……あたしはそう信じている」


 奴隷たちの仲は嫉妬に満ちている事から険悪の一色。殺し合いがどうたら、と主人のいる側でも争う感情を隠さない。

 カリムは彼女たちを放任していて、特に注意したりはしない。

 別に怠慢とは違う。

 彼女たちは本当の殺し合いをする。デニスも、エリアルも、ベルカであってもだ。

 強さが拮抗しているお陰で確実に勝負は決まらない。

 吐き出し終えたら次は今度こそと、まだ至らぬ自分を高めようとする。

 つまり放っておくことこそ、彼女たちの強さの上昇に寄与していると解釈し、下手な真似はしない。


「ご主人様、なでなで、あぅぅ」


 背後から舌打ちが聞こえる中で、エリアルの頭を撫でるカリムが行く先は、魔王の一人が構える魔都パルテコアであった。一週間の道のりを経て、馬車で向かう。


「貴様、何者!」

「そう身構えないで下さい。あたしも貴方たちと同じ、魔族です」


 門番に見せびらかすように、彼女は眼帯に隠した魔眼を開くのだった。

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