集結の時
千石組組長――千石儀丹は、先祖代々に語り継がれていた不老不死という存在に深く執着していた。膨大な不老不死に関する研究資料を全て暗記するほどに読み込み、その研究の対象になっていた青蓮や、他にもいるであろう不老不死の人間を長年探して続けていたのである。
もちろん彼の望みは不老不死になること。すでに老いを感じ始める年になってしまった千石は焦っていた。そこでようやっと青蓮を見つけることができたのだ。彼女の情報は詳細に資料に記載されていたから、他の曖昧な情報しかない不老不死の人間よりも効率よく探すことができた。それでも数十年かかったのだが。
しかし彼女を攫ってきた後は、千石の誤算な出来事ばかり起きている。
U2の裏切り。
育て上げた暗殺者達の殺害と逃走。
謎の侵入者達。
すでに千石組は窮地に追い込まれていた。
だが彼にとってそれは痛手ではあるものの、些細なことだと認識している。自身が不老不死になってしまえば、またそこからやり直せばいいのだと。すでに数々の同業者は力ずくで捻じ伏せてきていた。バラキン家の人間を一人取り逃してしまったが、それも些細なことに過ぎない。
問題は、今をどう乗り切るかだった。侵入者は全部で五人。
千石の手勢は下っ端の組員が数十人。暗殺者達はもう当てにならないだろうと千石は考える。幹部の者達も侵入者を探しに行ってから連絡が取れない。やられた可能性が高かった。一番の曲者だと思っていたB5も、まさか暗殺業から足を洗った人間に殺されるとは思いもしなかった。さすがはバラキン家の元弟子ということなのだろうと、千石は苛立ちが隠せない。
千石は自分の部屋に連れてきた青蓮と、組員の人間が勝手に攫ってきたもう一人の人質であるフルールを縄で縛り上げ、床に座らせていた。使えるものは使おうという理由でフルールも連れてきたのだ。また、残りの組員を全てこの部屋へと集めていた。机の上には大量の試験管と注射器が乱雑に置かれている。
千石は青蓮に近づき、腕を乱暴に掴んだ。彼女は千石を睨み付ける。そのまま彼女を机の上に叩きつけた。
青蓮の呻き声が微かに漏れる。
「青蓮さん!」
フルールの悲痛の叫び声。
千石は青蓮の長い髪を掴み取って、頭を無理矢理上げさせた。
そして、組員全員に告げた。
「これからお前達に、この女の血を飲んでもらう」
千石組本拠地の最上階。組長の部屋だと思われる扉の前に、小田島は佇んでいた。
「……先に行くべきか」
「小田島!」
逡巡している様子の小田島だったが、名前を呼ばれて後ろを振り向く。
「アキ! クルト! 無事だったか!」
ほっとした表情で、アキとクルトの二人を迎える。
「当然。そっちもB5は……倒したんでしょ」
アキの言葉に力強く頷く小田島。
「あ、小田島さん。こっちは悪魔のグラスと、青蓮っていう人を助けに来たディノだ」
クルトの簡単な紹介に小田島は少し反応に困る。ディノは軽く会釈をするが、グラスはお構いなしに扉に手をかけた。
「紹介なんぞどうでもいい。早く入るぞ」
「おいおい、心の準備ってもんが!」
「あんたにそんな時間取るだけ無駄でしょ」
クルトの言葉に冷たく返すアキ。クルトは何か言い返そうとするが、小田島に口を押さえられた。
部屋と呼ぶには広すぎる場所だった。パーティー会場とでもいうような広さである。
「青蓮!」
ディノは床に倒れ伏した青蓮を見つける。全身、血で汚れていた。駆け寄ろうとするが、組員に道を塞がれる。腰の剣を引き抜いて構えるディノ。
部屋の中央奥には、フルールに刃物を突きつけた千石が佇んでいた。グラスはそれを見て忌々しそうに舌打ちをする。
アキは早速、投げナイフで数人の心臓を的確に狙っていき、小田島もそれに続いて攻撃を仕掛けていった。
ディノは道を塞ぐ数人を倒し、青蓮のもとへと走り寄る。
「青蓮!」
叫んで彼女の体を抱き起こす。
見ると体中に注射針の痕が残っていた。
「ぅ……」
閉じられていた瞳がわずかに開く。
「青蓮! よかった! すぐ手当を……」
言いかけたディノの唇に、彼女の人差し指がそっと触れる。
「私は……不老不死、よ。暫くすればすぐ治る。それに、血を抜かれただけだから……」
それでもディノは心配そうな表情で見つめる。彼女も彼の顔を見つめた。
「本当に来てくれるなんて……思わなかった」
青蓮の頬を一筋の涙が伝う。
「ありがとう、ディノ」
そう言って微笑み、ディノの頬に手を添えた。彼はその手を優しく握る。
「当たり前だろ。おれが青蓮を幸せにするんだから。それに普通の人間にだって戻れるよ、必ず。方法はあるんだ」
青蓮はその言葉に眉をひそめる。疑っているのかもしれない。
「おい、アキ! お前が刺したナイフが心臓から勝手に抜けたぞ! っつーか、起き上がってるし! 死んでねーぞ!?」
突然、クルトの驚きの声が部屋中に響く。
青蓮はその言葉に大きく反応し、ディノの腕を思いきり掴んだ。何事かと彼女の顔を見る。
「ここの奴らは全員、私の血を飲んでいるのっ。だから、全員不老不死になってる……!」
「え……な!?」
一拍遅れて、言葉の意味を理解する。
「み、みんな! そいつらは全員不老不死だ! えーっと……とにかく気を付けて!」
「マジで不老不死!? っつーか何に気を付ければいいんだ、ディノ!?」
ディノの中途半端な忠告に、クルトは叫び返す。
「いや、それは……青蓮どうしようっ?」
返事に困ったディノは、青蓮に振る。
「……奴らを殺すには、普通の人間の血を飲ませれば……」
「そうか……!」
そこでディノは辺りを見回す。床にはたくさんの注射器と試験管が散らばっていた。
「これだ!」
そして、何かを閃いたように叫んだのだった。
「まさか、本当に不老不死が……!」
小田島は驚きを隠せなかった。目の前で死んだはずの人間が動き出したのだから、信じないわけにはいかない。
「わたしも、お偉方の馬鹿な幻想だと思ってたけど」
アキはそう言いながら、組員の急所を狙いながら攻撃する。小田島と違って全く驚いている様子はないが、性格上、感情を表に出さないだけなのだろう。
小田島も組員を捻じ伏せていくが、次々と起き上がって襲ってくるので切りがない。
「この様子じゃ、千石も不老不死になってるんだろうな……!」
組員の一人に蹴りを入れながら小田島は言う。
「クルト! フルールって子は助けたか!?」
「いや、まだッス! 組長がフルール嬢に刃物を突き付けやがってて動けない!」
小田島の質問に、クルトも襲い掛かってくる組員を殴りつけながら答える。
グラスは組員に襲われない位置から、真っ直ぐにフルールを見て佇むだけだった。
「お、お前もちょっとは手伝え、グラス!」
クルトの呼びかけにも、彼は全く反応しない。
「だー! どうしろってんだよー!」
「さて、ここらが潮時だな。嬢ちゃん、悪いが俺に付き合ってもらうぞ」
千石はそう言って、フルールを腕に抱えたままゆっくりと移動し始める。
「……あなたは、不老不死になって何をするつもりなのですか?」
フルールが悲しそうな面持ちで千石に問い掛ける。
「嬢ちゃんにはまだ、年老いて死んでいく虚しさはわからないだろうな」
千石は周りを警戒しながら壁際に移動していく。
「不老不死の体を辛く思っている方もいます……!」
「それは生き方が悪い」
千石は冷たく言い放つ。しかしフルールは怯まない。
「あなたが老いて死ぬことを虚しく思うのも、あなたの生き方が悪いからではありませんか?」
凛とした声で言葉を放つ。
千石の瞳が暗く沈む。
「……悪いな、嬢ちゃん。今の俺は、気が短い」
「きゃっ!?」
フルールが床に叩きつけられる。千石は刃物をフルールに向けて振り上げる。
刃物の切っ先がフルールに届く直前、千石は吹っ飛ばされた。
壁にぶつかる激しい音が部屋全体に響き渡る。
「グ……グラス……?」
痛みを堪えて起き上がるフルールの頭上には、漆黒の翼を羽ばたかせたグラスの姿があった。
彼は地に降り立った途端、フルールを思いきり抱きしめる。
「フルール! すまない、こんな危険な目に遭わせて!」
「グラス……わたくしは大丈夫です。助けに来て下さってありがとうございます」
フルールも小さな手を精一杯広げて、グラスを抱きしめる。
「グ、グラスお前、どんだけ飛ぶの速いんだよ! しかも翼で風の攻撃とか、反則技もいいとこだぜ……」
いつの間にか、息を切らしたクルトの姿もそこにあった。
「……貴様、少しは空気を読めっ」
「知るか、ロリコン爺っ」
二人のやり取りに、フルールがクスクスと笑い出す。
「クルトも助けに来て下さったんですね。ありがとうございます」
「ああ、いや。原因は俺らみたいだしな」
クルトは頭を掻いて、申し訳なさそうに苦笑する。
「あーっと、それでとにかく組長は……」
三人は千石が吹き飛ばされた壁に目をやる。
しかし、そこに千石の姿はなかった。
「しまった、逃げられた!」
「ディノ! それ以上は死ぬわよ!」
青蓮が慌てて止めようとする。
ディノは自分の腕に注射器を刺して血を大量に抜いていた。抜いた血は試験管に入れて蓋をして置いてある。
「う、確かにクラクラしてきたかも……と、とりあえずこれくらいで」
注射器を腕から抜いて、手早く中の血を試験管に入れていく。
「で、できた!」
真っ赤な血が入った大量の試験管を両腕に抱え、ディノは小田島のもとへと駆け寄った。
「あ、あの小田島さん! これを不老不死の人達に飲ませて下さい……!」
組員が失神している間に、ディノから試験管を数本受け取る小田島。
「これは?」
「おれの血です。普通の人間の血を飲めば、奴らは……死にます」
小田島はそうか――と驚きながら呟き、
「アキ!」
試験管を数本、アキにも投げ渡した。彼女はしっかりとそれを受け止め、訝しみながら眺める。
「こんなので殺せるの?」
そう言ってすぐに手近の組員の口にその試験管を突っ込んだ。
「が、ごぼっ……!」
口に血が流れ込み、組員は苦しみ出して倒れ込む。甲高い雄叫びと共に、組員の体が見る見るうちに痩せこけ干からび、ミイラのような姿へと変貌した。
「へえ、凄い威力」
冷めた口調でアキはその組員を見下ろす。
「こんな……死に方なんですね」
茫然と呟くディノに、ああ――と小田島も茫然と呟き、ふと気付いたように彼の顔を覗き込む。
「ディノ、顔色が悪い。こんなに血を抜いたんだ。君は休んでいたほうがいい」
心配する小田島に、ディノは大きく首を横に振り、
「だ、大丈夫です! あ、グラスさん、クルトさん!」
フルールを連れてこちらに戻ってきた二人にも試験管を手渡した。
クルトはミイラ化した組員を見て、気分を害したのか吐きそうな仕草をする。フルールはその背中を慌ててさすってあげていた。
「お前の血か?」
グラスが試験管を眺めて問うた。ディノは黙って頷いた。
「……さっさとここを片づけるか」
青蓮は回復してきたのか、体中にあった注射針の痕がすっかりとなくなっていた。
「血も足りてるみたいね……」
体には多量の血痕が残っていたが、体内の血もすでに不老不死の力によって回復したようである。
「私も何か力に……」
立ち上がり、開いたままの扉に目が留まる。廊下の奥に遠ざかっていく人影を見つけた。
「あれは……!」
青蓮はそれを追いかけようと走り出す。
「!」
組員の口に試験管を突っ込みながら、アキがその様子に気付く。
「小田島、ここを頼む!」
そう言って、小田島に残りの試験管を投げ渡した。
「どうした?」
小田島は試験管を受け取り、組員と取っ組み合いをしながらアキを見る。
「多分、組長が部屋を出た!」
アキはそれだけ言い残し、そのまま廊下へと走り出す。
小田島が追いかけようか逡巡している時。
「オレも行こう」
グラスがいつの間にか、小田島のすぐ近くに佇んでいた。その傍にはフルールもいる。
「青蓮さんも追いかけに行ったみたいですね。グラス、わたくしも行きます」
グラスは一瞬躊躇いながらも、わかった――と呟き、フルールを抱きかかえて漆黒の翼を広げると、そのまま廊下の向こうへと飛び出して行った。
「……大丈夫、かな」
小田島はその様子を見て若干の不安を抱くが、すぐに自分のすべきことに集中する。
「おいおい、いつの間にかこっちの戦力が減ってるじゃねーか!?」
クルトは組員の攻撃を躱すのに精一杯で、なかなか血を相手に飲ますことができていない。
「でも、奴らの人数もだいぶ減ってます!」
ディノは貧血のせいで多少ふらつきながらも、数人に血を飲ますことができていた。
組員の数はディノの言う通り、半数以下になっている。主にアキとグラスと小田島による功績が大きかった。
「この数なら、僕ら三人で何とかなる!」
小田島も素早い動きで、次々と不老不死のヤクザの口に試験管を突っ込んでいく。
その度に甲高い雄叫びが響いていく。ミイラも相当な数になっていた。
異様な光景である。
「小田島さんっ、俺を頭数に入れないでくれぇ!」
クルトの情けない叫び声が、不老不死達の雄叫びに負けず劣らず木霊した。
青蓮は息を切らして懸命に走りながら、千石を追いかけていた。
千石は先程のダメージが残っているのか足取りが遅く、彼の姿を確認できる位置まで追いついていた。しかし、それ以上の差を縮めることができない。
青蓮は右手に持った一本の試験管を握りしめて、悔しそうに表情を歪める。ディノから護身用として渡されたものだった。
「わたしが奴を取り押さえる」
急に耳元に声が掛かり、青蓮は驚き振り向く。
彼女の隣には、いつの間にか追いついてきたアキが走っていた。
「あなたは……」
青蓮は一瞬返事を躊躇うが、すぐに頷いてみせた。
アキはそれを見て、一気に速度を上げていく。
あっという間に千石に追いついていた。
「っ! U2か……! この俺を裏切って、ただで済むと思っているのか!?」
千石はアキの姿を確認し、一喝する。しかしそれはもう誰の目から見ても、ただの虚勢にしか映らない。
アキは躊躇うことなく千石の腕を掴み取り、足払いをする。
バランスを崩して千石は前へ倒れ込んだ。
「くっ……!」
アキはうつ伏せになった千石の背中に跨り、彼の両腕を押さえる。
追いついた青蓮は、千石の目の前で立ち止まって彼を見下ろした。そしてゆっくりと屈んで、床に頬をつけている千石の顎に手を伸ばす。
アキはその様子を、ただ黙って見守っている。
千石の顎を掴み、上を向かす青蓮。お互い視線を交わす。
「……せっかくあんたを、見つけたってのにな……」
どこか愁いを含んだ表情の千石。
青蓮は試験管の蓋を片手でゆっくりと外した。
「――もう、あなた達に振り回されるのは懲り懲りよ……!」
怒りなのか悲しみなのか、どちらともつかない青蓮の掠れた声が廊下に響く。
そして、真っ赤な血を千石の口へと流し込んだ。それを飲み込んだ千石は、呻き声を上げながら暴れ出す。
アキは立ち上がり、千石から離れる。
「ぐあああ……! ぁ……はあ……お、お前らも! 道連れに……!」
言葉が途切れ、一際甲高い雄叫びが響き渡る。
千石の全身が見る見るうちに痩せこけ、干からびていく。別人になった千石の体は、床に倒れ込んでそのまま動かなくなった。
「さよなら――組長」
アキは冷淡に、そう一言呟いた。
「死んだか」
後ろから掛けられた声に二人が振り向くと、そこには漆黒の翼を広げたグラスとフルールの姿があった。
「だ、大丈夫ですか、二人とも!」
心配そうなフルールに、青蓮はええ――と優しい笑顔で答えた。
「その人がフルールの婚約者の悪魔……かしら?」
グラスを真っ直ぐに見つめて、青蓮は問う。
「お前がディノの言っていた不老不死か」
見下すようにグラスは青蓮に視線を送る。
フルールは慌ててグラスの腕に縋り付いた。
「グラスっ、青蓮さんを殺さないで! 元の体に……!」
その言葉を遮るように、グラスはフルールの手を優しく握って彼女を見る。
そしてすぐに青蓮に視線を戻した。
「オレの代わりにその男を殺してくれた礼として、元の人間に戻してやってもいい」
素っ気なく言い放つグラスに、青蓮はキョトンとする。フルールは目を輝かせて喜んだ。
「面倒臭い男」
アキがその様子を見て、ポツリと呟く。
「何か言ったか貴様」
「別に」
睨み付けるグラスに、アキはそっぽを向き、
「それより、最後の組長の言葉が気になるんだけど……」
千石に視線を向ける。
「道連れに……っていう言葉?」
青蓮の質問に頷くアキ。
「ただの負け惜しみだろう」
「一応、組長を知ってる身としては、そうは思えないんだけどね」
グラスの言葉にも、彼女は何か納得できないでいた。
その時、派手な音が遠くから聞こえた。
爆発音である。
「さっきのより、でかい音だな」
不老不死の研究室での爆発のことを思い出しているのか、グラスが呟く。
そして、また爆発音が響き渡る。
先程よりも大きく聞こえ、建物全体が揺れ動く。
「下の階からよね……」
青蓮の声に少し不安が混じる。
そしてまた爆発音。
「一階から連鎖的にこの階まで爆発するって感じかもね」
「そ、それは大変ではありませんか!」
相変わらず淡々と言うアキに、フルールは慌て始める。
「安心しろ、フルール。お前だけは絶対にオレが守ってやる!」
「それは嬉しいですが、わたくしだけでは困ります!」
グラスの言葉にフルールは強く言い返す。
彼は小さく呻き、青蓮とアキを交互に見る。
そしてフルールを抱きかかえ、
「チッ、お前達もオレに掴まれ。飛んで逃げる」
と言った。
「何か有難みに欠けるけど、わかった」
アキは戸惑う青蓮の腕を取って、一緒にグラスの腕に掴まった。
その間にも爆発音は続いている。
「一体、どういう仕掛けなんだか……」
アキはその爆発音を聞きながら、独り言のように呟いた。
「グラス! まずはクルト達のところに!」
フルールの言葉に明らかに不満な表情のグラスだったが、素直に頷いて飛び立った。
「ほ、本当に飛んでる……」
青蓮は驚いた声を出し、怖いのか、アキとグラスに掴まる手に少し力が入る。
組長の部屋まで戻ると、扉の向こうから小田島とディノとクルトの三人が飛び出してきた。
「小田島! 組長は倒した! そっちは!?」
「あ、ああ! こっちも終わった!」
小田島は飛んでいるグラス達を見て驚き、どもりながらもアキの言葉に答える。
「おい、どうやって逃げるんだ!? 下から爆発してるんじゃ降りられないぜ!?」
もはやパニック状態のクルトである。
「全員、オレに掴まれ!」
グラスは一旦降り立ち、小田島達に向けてそう言い放つ。
「まさか翼で外に出るつもりですかっ? いくら何でもこの人数は……!」
「オレを誰だと思っている。いいから早くしろ!」
ディノの心配もグラスの一喝で消し去られ、三人はグラスに駆け寄った。
グラスは右手にフルールを抱え、左腕をアキと青蓮に掴まれている。ディノはグラスの左足に掴まり、小田島とクルトは右足に掴まった。
「何か俺達、アホっぽいな」
クルトの言葉に、全員は無言。
近づく爆発音だけが響き渡る。
「……行くぞ!」
気合を入れたグラスの言葉と同時に、翼が羽ばたく。
ゆっくりと宙に浮き、廊下の手近な大きい窓に向けて飛んでいく。
「グラス、頑張って下さい!」
フルールの応援に、グラスは余裕の笑みを浮かべる。
そして、一気に窓の外へと飛び出した。
「ひゃっほーい! 飛んでやがるぜ!」
「クルト、あんまり動くなっ」
「凄いや、グラスさん!」
グラスの足に引っ付く男三人が、それぞれ言葉を発する。
その時、一際大きく爆発音が鳴り響く。
見れば、建物の最上階は盛大に煙を吹いて炎が舞っていた。
「間一髪ってところかしらね」
「本当に」
お互い顔を見合わせて笑みを浮かべる青蓮とアキ。
「しかし……さすがに重いな」
「グラス、もう少しです!」
こうして。
夜明けの光を受けながら飛び立った奇妙な七人組は、全員無事に脱出したのだった。




