悪魔の心境
グラスの頭の中は、フルールのことでいっぱいだった。
彼はこの世界に取り残されてから、密かに魅かれていた天使の家系を長年見守り続けてきた。彼にとって彼女の家系を見守ることにしたのは、ほんの気まぐれであり暇つぶしだった。決して振られた天使に未練があったからとか、そういうことではないとグラスは否定する。そしていつしか花嫁を欲するようになった。
人間界で悪魔のまま残ってしまった彼は身を隠しながら生きていくしかなく、誰ともコミュニケーションを取ることがなかった。そんな彼が花嫁を欲し、天使の家系と契約を結ぶことにした。それは一大決心であった。もちろん脅迫紛いな契約の仕方で、グラスは恐れられていた。
しかしようやっと生まれた女の子、フルールの両親はグラスを恐れ嫌うことはなかった。たまに様子を見に来たグラスを興味津々で迎え入れて会話を楽しんでいた。待望の女の子を腹に宿した時も、二人は快くグラスの花嫁にすることを承諾した。
ただし、一つの条件を出された。
それはフルールを幸せにすること。もちろんフルールが花嫁を嫌がれば、契約は破棄してほしいと言ってきた。グラスは彼女を幸せにすることも自分を好きにさせることにも自信があったから、軽くその条件を飲んだ。それからというもの、彼はストーカーのように彼女を見守り続けてきたのである。
そのため現状のこのような状態に多少なりともパニックに陥っていた。
大体、グラスは人を殺すつもりはなかった。この世界に残ってしまった時、彼はそう決めたのだ。人間を自分と同じ世界の住人だということを認め、うまく生きていくために。
だからこそ、悪魔によって生まれてしまった人魚や不老不死を絶やすことにした。放っておけば、その存在は人間に大きな影響を及ぼすと考えたからだ。グラスがその存在を知ったのはだいぶ後だったがために、人魚と不老不死を探し出すのには苦労した。特に不老不死は普通の人間の中で暮らしているため、非常に見つけにくい。一目見れば不老不死かそうでないかの区別がグラスにはできるのだが、とはいえである。
そんな中で、彼はある一つの噂を聞きつけた。とあるヤクザの集団が不老不死の研究を行っているという不確かな情報。それが千石組だった。
グラスは今回の旅で不老不死の研究をしている証拠を掴み、組ごと潰す計画を立てていたのだが、まさかフルールを連れての旅になるとは思ってもいなかった。彼女の強い願いをグラスは断れなかった。だから今回は証拠を掴むことだけに留まろうとしていた。
もちろんこの町に連れてくることも危険だと思っていたが、グラスは彼女を守る自信があった。しかしその自信は物の見事に打ち破られてしまっている。
原因はクルトにあるとグラスは思っている。彼が現れて以降、調子を狂わされている気がしてならなかったのだ。フルールの両親とは、また別の種類の珍しい人間だと思う。グラスを悪魔だと知っている人間ならば一睨みで怯むのだが、クルトは怯むことなく、寧ろ突っかかってくるような人間だった。そしてつい、言い返してしまう。そしてその勢いで無駄に他の人間にも関わってしまう。千石組がそのいい例である。
クルトに対しては気を遣う必要性がないからなのかもしれない。そのためにいらないことまで彼に話してしまっている自分に、グラスは少し呆れていた。決して本人に言わないが、彼のことは嫌いではないのだろうと思う。
しかし今、彼は自分を恐れているに違いないだろうと思っている。感情に流されたとはいえ、人間を殺した瞬間を見られたのだ。どうでもいい――そう思う彼ではあったが、どこか心にしこりが残っていた。
また、フルールが自分のことを恐れているのではないかという不安もある。一年ほど前に、フルールを婚約者にした経緯を話した時には彼女は楽しそうにグラスの話を聞いていたのだが、今回の〈不老不死〉と〈人魚〉の件に関しては事情が違う。しかしいつかは話すべきことだったし、知られてしまうことだったのだろう。
何をどう繕ったとしても、グラスは悪魔なのである。これだけは決して覆ることのない事実。
「……オレは、悪魔なんだ」
グラスは自分でも気付かずにそう呟いていた。
「え……グラスさんって、悪魔なんですか!?」
しかも、その小さな呟きをディノに聞かれてしまった。
グラスは千石組の本拠地前で出会ったこの少年と行動を共にすることにした。少年のもの凄い気迫に断るのも面倒だと思ったからである。また、少し落ち着きを取り戻すためにも誰かいたほうがいいかもしれないという理由も含んでいた。
ディノからの提案もあり、二人は夜を待って適当な窓からグラスの翼でひっそりと千石組の本拠地に乗り込んでいた。
しかし全く以て建物の構造がわからないため、未だ彷徨っている状態である。
「……かなり重症だな」
無意識に自分の正体を呟いたことに心底溜息を吐く。
「そっかあ、だから翼があるんですね、グラスさん。おれ、鳥人間かと思ってましたよ」
気の抜けるような反応にグラスは頭を抱え、またも溜息を吐く。
この人間もどこかおかしい――
ディノも自分と同じく誰かを人質に取られたという話を上の空で聞いていたのだが、彼からは緊張感があまり感じられなかった。
しかし熱意が凄いことはグラス自身、身を以て知っているので、ディノという少年の性格上、そう見えるだけだろうかとも思う。
「お前、信じるのか?」
何気なく聞いてみた質問だった。
「え? はい。……もしかして嘘ですか?」
純粋な瞳で見つめられて少したじろぐ。しかしすでに翼を見られているし、鳥人間だと思われても癪に障る。
だからグラスは、嘘ではない――と一言呟いた。
ディノはそれに満足したような笑みを浮かべた。
「あの、グラスさんも誰かを助けに来たんじゃないですか?」
彼にはフルールのことを話していない。顔をしかめてディノを見た。
「いや、千石組をぶっ潰すって言ってた割に動きは慎重だし、何か心配そうな表情もしてたので」
「……お前、嫌な奴だな」
そう呟きながらも、グラスは内心動揺していた。
動きが慎重だということは確かに見ればわかるのだろう。実際、組員と鉢合わせることのないように警戒している。
しかし、グラスは感情を表に出しているつもりは全くなかった。もちろん、それだけ自分が狼狽えているという可能性もないとは言い切れなかったが、それでもさっき出会ったばかりの少年に見透かされるとは思わなかったのである。
「あ、あの……何かすみません」
地雷を踏んでしまったとでもいうようにディノは謝る。
「別に構わん」
グラスはそう言いつつ、何となくいたたまれずに足取りを早めた。
その時、大きなベルの音が建物全体に鳴り響く。
「これは……警報機っ?」
ディノは耳を両手で塞ぎながら辺りを見渡す。
「他にも誰か侵入者がいるらしいな」
グラスは面倒だと思いながら、構わず歩みを進める。ディノも追いかけるように後に続いた。
警報機が鳴り終えてからも暫く彷徨い続け、二人は大きな広間に辿り着いた。ここに来るまでに組員の誰にも出会わなかったことに疑問を持ったが、とりあえず広間に足を踏み入れる。床には質素なカーペットが敷かれているだけで、置物も何もないだだっ広い空間だった。
その奥にぽつんと一つの扉があった。
「何か、変なところにある扉ですね」
ディノもその扉を見つけ、不思議そうに首を傾げた。
こういう所には何か秘密が隠されているものだとグラスは思う。組員に一人にも出会わないのも、立ち入り禁止の場所だからかもしれない。
まっすぐ扉に向かう。
鍵が掛かっていたが、少し力を入れただけで簡単に扉が開く。
中は薄暗かった。
「ひどい匂いだな……」
部屋の中は鼻を突くような異臭が充満していた。
「拷問部屋……ではないですね。研究室、かな?」
辺りを見回しながら、ディノは鼻を押さえて独り言のように呟く。
彼の言う通り、まるで拷問部屋のようなおどろおどろしい雰囲気が漂ってはいるが、それとは様子が違った。石の壁には血の跡のような物もあるし拘束具もあるのだが、長方形の机がいくつか並べられており、その上には試験管やビーカー、病院で使うようなメスなどの刃物がいくつも揃えられていた。
グラスは部屋の隅にある棚の前へと向かう。多くの資料が乱雑に収納されていた。その一冊を手に取り、パラパラとページをめくる。随分古いだろうと思われる手書きの資料をコピーしたものだった。
「何が書いてあるんですか?」
ディノの質問にグラスは呆れたように答えた。
「不老不死についてだ。ここでの研究がびっしりと細かく記載されている」
さらっと〈不老不死〉という単語を口にする。
別にディノに何か反応を求めたわけでもないし、伝えたからといってどうなるものでもないと思ったからだ。
千石組が黒だったということが判明し、余計、千石組に敵意を持つ。
「不老不死って……本当ですか!? おれにも見せて下さい!」
するとディノは、グラスの予想を上回る反応を返してきた。
手に持っていた資料を奪い取られる。
「お前、まさか不老不死になりたいわけじゃ……」
驚くグラスに彼は首を思いきり横に振る。
「違います! その逆です! 不老不死から元の人間に戻る方法を知りたいんです!」
「……人間に戻る方法?」
意表を突かれる。不老不死でもない人間が何故そんなことを知りたがるのか疑問だった。
ディノはすぐに資料へ目を通すと、
「これは……」
目を見開いて唖然とする。
その反応は当然だろうとグラスは思う。
「残念ながらここにある資料は、不老不死は本当に死ぬことがないかの実験結果ばかりのようだ。反吐が出る」
他の資料を棚から取り出し、ページを忌々しそうにめくる。首を切ったら死ぬのか、失血死することはあるのか、心臓や脳を突かれたら死ぬのか、そこからどう回復していくのか。そんなことばかりが詳細に記載されていた。
ディノはそれでも一生懸命、資料を読み続ける。
二人が資料に目を通し、長いような短いような時間が経つ。
「このオレでも知らない知識を得た努力は、賞賛してやってもいいが」
不意に発したグラスの言葉に、ディノは資料から視線を離した。
「……グラスさんは、不老不死が存在することを知っていたんですか?」
彼の瞳に浮かぶのが怒りなのか憔悴なのか、グラスは測り兼ねる。
「……もとを正せば、オレ達悪魔に起因するからな」
ディノはそれを聞いて目を大きく見開き、
「じゃあ、グラスさんは元の体に戻る方法を知りませんか!?」
両腕を掴まれ、勢いよく迫られる。
その方法をグラスは知っていた。
けれど、今まで出会った不老不死の人間にその方法を使ったことは、ただの一度もない。
ある者は、不老不死に醜いほど執着していた。
ある者は、生きることに疲れ精神が壊れていた。
ある者は、人間の頂点に立とうと躍起になっていた。
そんな人間ばかりだったために、普通の人間に戻したところで碌な生き方もしないだろうと、その命を刈り取ってきたのだ。
「お前は不老不死の人間を知っているのか?」
グラスは質問には答えず、質問で返した。
「知ってます。ここに連れ去られた人がそうなんです。おれはその人を助けたいんです!」
ディノは必死に訴えるが、グラスは彼の手を振り払って部屋を出ようとする。
ここの奴らごと、その人質も殺してやろう――
そう思いながらドアノブに手をかけた途端、白い光が目の前に広がる。
グラスは素早く扉から離れ、ディノの腕を掴んで床に押し倒す。
爆発が起きた。
「な、爆発!?」
ディノの驚きの声が部屋に響く。
扉が粉々に砕け散っていた。しかし、それほど大きな威力ではなかったようで扉以外は壊れていない。
白い煙が舞う向こう側に、三つの影が揺らいで見えた。
二人は体を起こし、その影を見据える。
体格の大きい男が三人。三十代くらいで黒のスーツを着込んでいる。しかし、明らかに組の一味であろう雰囲気が漂っていた。
「そこらの雑魚よりは強そうだが」
グラスはつまらなそうに言う。ディノは腰の剣に手を添えた。
「この部屋は狭い。出るぞ」
そう言って一気に走り抜ける。ディノもすぐそれに反応し、部屋を抜け出す。
「侵入者はお前らか?」
「よりにもよって、その部屋に忍び込むとは」
「即刻、殺す」
スーツの男三人がそれぞれ言葉を発し、ナイフや長剣を構える。
ディノが一歩前へと踏み出す。
「あんた達、酒場に来た奴らだな!? 青蓮はどこにいる!」
「答える義務はない」
男の一人がディノに向かって走り出す。ディノは腰の剣を引き抜いて、男の長剣を受け止める。
その間に、他二人の男達はグラスに切りかかった。
グラスは一歩も動かないまま、二人のナイフの攻撃を最小限の動きで躱していく。
しかし、男達のスピードはグラスの予測よりも速かった。
服が二か所ほど切り裂かれる。
普段ならば面白がるところではあったが、精神的に余裕のない今の状況では、ただグラスを苛立たせるだけだった。
「チッ、この愚者が!」
男達の頭をそれぞれ片手で掴み取る。
あまりの速さに男達は自分の状態が理解できず、動きが止まる。
グラスは男の頭同士を思いきりぶつけ合わした。
鈍い大きな音が響き渡る。
どさりと音を立てて、男二人が床に倒れ込んだ。
ディノに視線を移す。
長剣同士、切り合いをしていた。ディノが少し押されている。スピード、力が共にスーツの男よりも劣っているのだ。
しかしそれを気にする様子もなく、倒れた二人の男達に再び視線を戻す。
まだ息の根がある。グラスはこの二人を殺したい衝動に駆られていた。
自分の邪魔をする人間を全て殺してやる――
グラスは男達に手を伸ばし、
「こんのロリコン爺があああー!!」
遠くから響く叫び声と共に、グラスの後頭部に何かが直撃する。
「っだぁ!?」
後頭部を押さえて膝をつく。
床に転がった物体を見ると、拳くらいの大きさの石だった。普通の人間ならば打ちどころによっては死んでいる。
グラスはすでにこの石の投手に気付いていた。
「クルトっ! 貴様このオレに石を投げるとはいい度胸だな!」
広間の奥の廊下に佇む一人の影。
フルールの従者として行動を共にしていたクルトだった。走ってきたのか、肩を上下させて息を切らしている。
「……へっ、知るか、んなもん!」
そう言って、こちらに駆け寄ってくる。
「……お前、何しに来た」
思いっきり見下すようにクルトを見るが、内心では驚いていた。てっきり宿屋で呆けているとばかり思っていたからである。
「フルール嬢を助けに来たんだよ。命の恩人なんだから当たり前だろ? ちなみにさっきの爆発音はお前が関係してそうだと思ってちょっぱやで走ってきたが、ビンゴだったな」
踏ん反りがえって彼は自慢気に言う。
「一人でか?」
「それは置いといて」
誰かに頼ったというところだろうか。素手の喧嘩しかしたことのないクルトが、千石組に一人で乗り込む勇気などあるはずもない。
「あと、ついでにお前も止めに来たんだよ」
「オレを止める?」
クルトは大きく頷いて、真っ直ぐ視線を向けてくる。
「これ以上、人を殺すな」
「っ!」
グラスは言葉を失くす。まさか彼にそんなことを言われるとは微塵も思っていなかった。
「……何を言っている」
グラスの低い小さな呟きに、クルトは頭を掻きながら視線を空中に漂わせる。
「まあ、なんだ。お前がこれ以上暴走して人を殺したらフルール嬢が泣くだろ。だからだよ」
「……お前はオレが怖くないのか?」
その質問に驚いたのか、クルトは目を瞬かせる。
だがすぐにニッと笑みを浮かべた。
「怖いというよりムカつくな。しかもロリコンだし、ドン引きするっつーか」
「おい」
文句を言おうとするグラスを遮るように、素早く手のひらをかざすクルト。
「まあでも。お前がフルール嬢のために動いてるってことだけはよくわかる。お前の行動は行き過ぎちゃいるが、人間と何ら変わりねえ。だから止めに来たんだ」
人間と何ら変わりない。そう言われて悪い気がしなかった自分は、本当に重症だとグラスは思う。
「……オレもお前がムカつくし、どうしようもない馬鹿だと思うが」
「コノヤロウ」
「フルールのためにここまで来た度胸だけは、褒めてやる」
そう言って、グラスは初めてクルトに笑みを見せた。
「そりゃ、ありがとよ」
クルトは苦笑して礼を言う。
「それじゃあ、早く……」
言いかけてクルトはグラスの後ろに目をやると、その目を大きく見開いて驚きの声を上げる。倒れた男の一人がグラスに向かってナイフを振り上げていた。
グラスは咄嗟に右側へと飛んで、それを躱す。
空振ったナイフは虚空を切り裂いた。男の標的が目の前にいるクルトに変更する。
「ちょ、ちょっと待っ……!」
腰を抜かす彼に、グラスが体勢を整えてフォローしようとした瞬間。
「はあっ!」
大きな気合の言葉と共に、男が白目を剥いて床へと倒れ伏す。
クルトの目の前に手が差し出される。ディノだった。
「大丈夫ですか?」
「お、おう。どこの誰だか知らないが助かったぜ、ありがとな」
素直にディノの手を取り、立ち上がる。
「いえ、こっちこそあなたのおかげで敵を倒せたから」
にこりと微笑む。
いつの間にかスーツの男とは勝負がついていたようで、その男も床に倒れていた。グラスはその様子を見て、クルトに注意がいった男の隙をついて倒したのだろうと推測した。
二人はお互い何やら自己紹介を始めている。それを興味なさそうに上の空で聞いていたのだが、
「そうか、お前も人質を……ってそうだ、グラス!」
急に矛先がこちらに向く。
「フルール嬢は組長の部屋に連れて行かれたらしい! 牢屋の見張りみたいなのをボコボコにして聞いたんだ!」
「何!? それを先に言え! 場所はどこだ!?」
グラスは一気に詰め寄る。
「お、落ち着け! それならもうすぐ……」
クルトが言い終える前に、廊下から誰かの走ってくる足音が聞こえた。
「クルト、こっちの組員は片づけた! 早く組長の部屋に!」
若い女が一人、姿を現す。
ただ者ではない――しかしこの様子からして敵ではない。つまりは彼女がクルトの協力者なのだろうと、グラスは瞬時に判断する。
「あの女が道案内してくれるというわけか」
「さすが悪魔さま。話が早いぜ。あいつはアキっていうんだ。おい、ディノだっけか? お前の人質も多分、そこにいる」
ディノは目を見開いて驚いた。
「本当ですか!?」
「同じく見張りをボコボコにした結果、得られた情報だ。二人しか人質はいないらしいから多分、そうだろ」
クルトはそう言って、じゃあ行こうぜ――と気合を入れて走り出そうとするが、ディノの素っ頓狂な声に出鼻を挫かれた。
「ああー! グラスさん! さっきの話が途中です!」
グラスは面倒臭そうに彼を見やる。
「不老不死から元の人間に戻る方法を教えて下さい!」
「その話は後にしろ」
クルトは会話についていけないのか、二人の会話を黙って聞いている。女――アキに至っては、動こうとしない彼らに苛立っているようだった。
「おれにとっては凄く重要なことなんです! 知らないって言わないってことは知ってるんですよね? 今は教えてくれるっていう返事だけでいいんです! お願いします!」
グラスは適当に返事でもしてやろうかと思案する。
「方法があるなら教えてやれよ、グラス」
二人の会話に見兼ねてか、クルトが口を挟んでくる。
「勝手なことを言うな」
「フルール嬢なら俺と同じ意見だと思うけど」
「っ……!」
――結果、グラスはフルールという単語に早くも折れたのだった。
「……わかった。ただしその不老不死を実際に見てから、オレが元に戻すかどうかの判断をする」
「……どういう判断かわかりませんけど、ありがとうございます! 絶対、元に戻すって言わせて見せます!」
ディノは拳をギュッと握りしめて熱意を示す。
「話が終わったなら、わたしはもう行く! ついてくるなら勝手について来い!」
待つことに耐え兼ねた様子のアキは廊下を走り出す。
「行くぞ」
「はい!」
「お、お前ら、俺を置いてくなっての!」
そして三人も、それに続いて走り出したのだった。




